·電話の声

コールセンターで声が疲れる人へ。一日中話しても枯れない話し方

コールセンターで一日100件を超える対応を続けると声が枯れる人へ。話し続ける量ではなく、抑揚と息の使い方から枯れない声の作り方を解説します。

奥津ユキ

「お電話ありがとうございます。担当の田中が承ります」と二度言ってみてください。一度目は普段の応対で使う高さ、二度目は友人に話すときの高さで言います。声量・速さ・言葉は揃え、変えるのは声の高さだけです。二度目のほうが首の前を楽に感じるなら、応対用につくった高さが負担になっています。差がなければ、高さではなく息の止め方や声の出だしを別の原因として確認します。

声量より高さの固定が負担を蓄積させる

コールセンターの声が枯れる原因として、大きな声を出し続けることが注目されやすいものの、ヘッドセットを使う環境では極端な声量が必要になる場面ばかりではありません。それでも業務の後半に声が重くなるなら、応対用の高さを長時間固定していないかを見る必要があります。

人の会話の高さは、本来ずっと同じではありません。話題、相手との距離、文の役割に応じて少しずつ上下します。ところが「明るく丁寧に話そう」とすると、自分の自然な会話より高い位置へ声を持ち上げ、その高さを一件の通話中だけでなく何時間も保つことがあります。

同じ高さを固定するには、首の前側や喉の周囲が声帯の状態を保ち続けなければなりません。一回の発話では小さな努力でも、解除されないまま積み重なると、声の出だしが硬い、低い音へ戻りにくい、唾を飲むと首の前が気になる、といった変化につながります。

私がこの場面でまず確認したいのは、声が大きすぎるかどうかより、応対中の高さが普段の会話からどれほど離れ、どのくらい固定されているかです。声量を下げても高さを保つ力が残っていれば、負担は十分に減りません。枯れにくい話し方は、自然な高さを土台にし、必要な範囲で高さを動かすことから始まります。

友人に話す高さを応対の土台にする

自然な高さとは、最も低く出せる声でも、脱力を演出した暗い声でもありません。身近な友人へ落ち着いて用件を伝えるとき、特別に声をつくらなくても出てくる高さが一つの目安です。その位置なら、首の前を持ち上げ続ける努力が比較的少なくなります。

応対の丁寧さは、高さだけで決まるものではありません。言葉遣い、発音の明瞭さ、話す速さ、相手の発言を待つ間によっても十分に示せます。高い声を丁寧さの必須条件にすると、親切な印象を維持するために身体へ持続的な負担を負わせることになります。

自然な高さを探すときは、短い日常語を友人に渡すつもりで言い、その直後に応対文を同じ高さから始めます。明るさを足したくなっても、首の前を引き上げず、母音をはっきり保つことや、言葉の終わりまで息を流すことで調整します。高さを上げずに明瞭さを出せると、声の印象は暗くなりません。

ただし、すべての人に共通する基準音があるわけではありません。低くしすぎて声がざらつく、胸へ押し込む感じがする、発音が不明瞭になるなら、その位置は自然な土台ではなく、下げてつくった声です。首の前が楽で、言葉が無理なく続き、少し上下へ動ける位置を選ぶことが重要です。

一つの通話の中で高さを小さく動かす

枯れにくくするには、高さを一つ決めて守るのではなく、一件の通話の中に小さな動きを残します。大きな抑揚をつける必要はありません。冒頭の挨拶、用件の確認、説明、謝意といった役割に合わせ、自然な高さの周辺を狭い範囲で行き来させます。

冒頭では、明瞭さを出すために土台よりわずかに高く始めることができます。ただし、その高さを説明全体へ持ち越しません。名乗りが終わったら自然な位置へ戻り、用件を確認するときは相手へ問いを渡す範囲で少し動かします。この戻りが、固定を解除する操作になります。

説明が長い場面では、文ごとに高さを変えるのではなく、意味のまとまりの中で自然な起伏を許します。重要語を高くして目立たせる方法だけに頼ると、再び上側へ固定されます。速さを少し落とす、重要語の前に短い間を置くなど、高さ以外の手段も分担させます。

相手の発言を受ける相づちでも、毎回同じ高音を再現しないことが大切です。理解を示す相づち、確認を求める相づち、話の続きを促す相づちには役割の違いがあります。その違いに応じた小さな上下が生まれれば、応対の印象を保ちながら、特定の高さを維持し続ける時間を減らせます。

冒頭の高い声を説明まで持ち越さない

電話応対では、最初の数秒で明るい印象をつくろうとして、冒頭を高く始めることがあります。問題は高く始めること自体ではなく、その高さを基準にして通話の最後まで下りられなくなることです。開始時の演出が、その後の声を拘束する形になります。

挨拶と名乗りは、いわば相手との接点をつくる区間です。ここで少し高い声を選んだとしても、用件へ移る境目で自然な高さへ戻します。息を吸い直して急に低くするのではなく、名乗りの終わりで力をほどき、次の文を友人へ事実を伝える程度の高さから始めます。

戻した声が無愛想に感じられる場合は、高さを再び上げる前に、発音と速度を確認します。言葉の始まりが曖昧だったり、説明が速すぎたりすると、低さではなく不明瞭さが冷たい印象をつくることがあります。子音を潰さず、相手が理解できる間を確保すれば、自然な高さでも丁寧さを保てます。

終話時には、感謝を示すために再びわずかな動きを加えられます。このときも、冒頭と同じ高さを正確に再現する必要はありません。自然な土台から届く範囲で変化をつけ、言葉が終わったら力を残さないようにします。開始、説明、終了を異なる役割として扱うことが、高さの連続固定を防ぎます。

相づちと確認語の定型化をほどく

通話時間の多くは、長い説明だけでなく、「はい」「さようでございますか」「承知いたしました」といった短い応答の反復で構成されます。短い言葉は負担が少ないように見えますが、毎回まったく同じ高い位置から出すと、そのたびに首の前を同じ形へ戻すことになります。

とくに注意したいのは、相づちを明るくしようとして、音の出だしを上へ跳ねさせる癖です。相手が話している間も次の高い相づちを準備するため、喉周辺の構えが解けにくくなります。理解を示すだけの相づちなら、自然な高さの近くで短く返しても役割を果たせます。

確認語では、丁寧さを高さではなく言葉の長さと間で示します。すべてを平坦に低くするのではなく、問いの焦点に合わせて小さく動かします。毎回同じ抑揚を貼り付けるのではなく、相手の発言内容に応じて動きが変われば、声が一つの型に固定される時間も短くなります。

相づちの種類を増やすことが目的ではありません。同じ言葉でも、理解、保留、再確認という役割を区別し、それぞれに必要な高さの動きだけを使うことが目的です。必要以上に上げない、上げたら自然な位置へ戻る、次の発話まで高い構えを保持しない。この三点で短い応答の積み重ねによる負担を抑えられます。

首の前に出る変化を早めに捉える

高さの固定による負担は、突然の声枯れだけで現れるとは限りません。首の前が固い、自然な低さへ戻りにくい、声の出だしに余分な勢いが必要になる、通話後に普段の話し声が高いまま残る、といった小さな変化が先に起こります。

こうした変化に気づいたら、声量だけを下げて様子を見るのではなく、現在の高さから自然な位置へ戻れるかを確かめます。短い説明文の途中で一度だけ普段の会話の高さへ移り、首の前が楽になるなら、固定していた位置との距離が負担に関係している可能性があります。

反対に、低くすると喉を押し下げる感覚が強い場合は、下げ幅が大きすぎます。高音を避けるために人工的な低音を固定すれば、形が違うだけで同じ問題が起こります。必要なのは低い声を維持することではなく、無理の少ない範囲で高さが動き、どこか一か所に留まり続けない状態です。

痛みや明らかな声の変化がある日は、楽な高さを探す練習で押し切らず、発声の負荷を増やさないでください。喉の痛みや声枯れが続く場合は、耳鼻咽喉科を受診してください。身体の異常を話し方だけで処理せず、必要な診察と、業務中の高さの使い方を分けて考えることが大切です。

高さを動かす設計を応対の型にする

一日中持つ声をつくるには、休ませる時間の話だけでなく、話している最中の物理条件を変える必要があります。応対用の高い声を連続して使い、合間だけ黙る形では、次の通話が始まるたびに同じ固定へ戻ります。通話そのものに高さの動きを組み込みます。

短い応対文を、挨拶、用件確認、説明、終話の四区間に分けます。挨拶は自然な土台よりわずかに上でも構いません。用件確認と説明では土台へ戻り、重要箇所は高さ以外の速さや間でも示します。終話では届く範囲の変化を加え、終了後に構えを残しません。

この設計を使うと、「明るい声を保つ」という曖昧な目標が、「どこで上がり、どこで戻るか」という具体的な操作に変わります。通話の内容が変わっても、開始時の高さを全区間へ持ち越さないという原則は共通です。長い説明ほど、自然な土台へ戻る区間を広く取ります。

枯れにくい声は、低い声でも、小さい声でもなく、動ける声です。自然な高さを中心にし、役割に応じて小さく上がり、必ず戻る。相づちや確認語でも同じ位置を再現し続けない。この動きが残っていれば、丁寧さや明るさを失わず、何時間も同じ高さを支える負担を減らせます。

よくある質問

Q. コールセンターで声が枯れるのは話し続けているからですか
話す時間の長さだけが原因ではありません。電話越しに抑揚を大きくつけすぎていることも大きく関わっています。
Q. コールとコールの間はささやき声で喉を休めたほうがいいですか
ささやき声も実は喉を使います。短い間なら、声を出さずに黙る方が喉は休まります。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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