·歌の声

喉を開く発声とは。力で広げず声を楽に通す考え方

喉を開こうとして力む人へ。喉を形で作らず、息と体で声が通る状態を作ります。

奥津ユキ

鏡の前で、口を閉じたまま一度だけあくびの動きを小さく始めてみてください。一度目はあくびの途中で止め、二度目は同じ姿勢のまま、下あごを一センチだけ落として止めてください。首の前の皮膚が二度目だけ強く引っぱられるかを比べます。あごを落とした二度目だけ首が張るなら、広げようとする動作が狭める力を増やしています。差が出なければ、あごの開きよりも後で扱う舌や息の押し方を別の原因として確かめてください。

喉を開くとは広げる競技ではない

「喉を開く」という言葉は、声を楽に出す助けになる一方で、喉の中に大きな空間を作る動作だと受け取られがちです。その解釈では、あくびの形を強く再現する、あごを下へ引く、舌の奥を押し下げる、喉仏を低く固定するといった操作が起こります。しかし、広げるために周囲を強く引けば、結果として首、あご、舌の根元に新しい力が入ります。声が通らないからとさらに空間を作ろうとすると、通路を広げる操作そのものが通路を固くするという矛盾が起こります。

ここでいう「開く」は、何かを積極的に押し広げることではなく、狭めるために加えている力を減らすことです。たとえば高い音の直前にあごを前へ出す、舌の奥を固める、首を反らす、息を大量に押し込むと、内側の感覚としては詰まりを感じやすくなります。そこへさらに大きなあくびの形を足すのではなく、先に増えた外側の動きを小さくします。鏡で見える首の張り、あご先の位置、口角の引き方は、狭める力を外から追う手がかりになります。

私がこの場面でまず確認したいのは、空間がどれだけ広いかではなく、音を出す前後でどの動きが急に増えたかです。大きく開いたように見えても首が張らず、あごが静かで、息を押し込まなければ、必要な余地は残っています。反対に口を大きく開けていても、舌や首を力で固定していれば、楽な状態とは言えません。開くことを形の完成ではなく、余計な狭めを減らした結果として扱うと、声の練習は力比べから離れます。

狭める力が出る場所を外から見る

喉の内側は直接見えませんが、狭める力は体の外側に現れることがあります。短い「オー」を出す前後で、首の前の筋が浮くか、あご先が前へ押し出されるか、肩が上がるかを鏡で確認してください。音の高さを変えたときにだけ現れる動きがあれば、その変化が狭める力と連動している可能性があります。声の通りを耳で判定する前に、見える動きを比較すると、何を減らすべきかを具体化できます。外側の動きが少ないから必ずよい声になるとは限りませんが、余計な力を足さない条件にはなります。

あごを下げると首が張る場合は、口の開きを半分にし、歯と歯の間に小さな隙間だけを作ります。そのまま「オー」を一秒だけ出してください。大きく開いた形より小さくても、首の張りが減るなら、広さが足りなかったのではなく、開け方が大きすぎたと考えられます。舌を下げようとして苦しくなる場合も、舌先を下の前歯の裏に軽く触れさせ、舌全体を押しつけない状態を作ります。操作は、何かを下げることではなく、押していた場所を離すことです。

首を反らすと喉が開いたように感じる人もいますが、頭の位置を変えたことで前側の筋肉を引っぱっていることがあります。鏡で耳の位置が肩より大きく後ろへ行かないようにし、首の後ろを長く保ちます。あごだけを上げず、目線を正面へ戻したまま短く発声します。反らしたときと正面のときで、首の前に出る線を比べてください。正面で動きが減るなら、反ることで作っていた「開き」は、実際には引っぱりによる感覚だった可能性があります。形より連動を見ます。

あくびの形を強く作りすぎない

あくびの感覚は、口の中に余地を作る例として使われます。ただし本物のあくびは、顎、舌、喉、呼吸をまとめて大きく動かす反応です。それを歌う直前に大きく再現すると、体が「広げる形」を維持しようとして固定しやすくなります。あくびを使うなら、口を大きく開けるためではなく、上あごの奥が少し持ち上がるような感覚を一瞬確かめたら、形を残そうとせず普通の口元へ戻します。その後で短い母音を出し、首やあごに新しい動きが出ないかを見ます。

あくびの途中で「ハー」と強く息を出すと、広がった感覚と大量の呼気が結びつきます。すると、喉を開くには息を強く吐く必要があると学習しやすくなります。練習では、あくびの動作を小さく止めた後、無音で鼻から吸い、声を一秒だけ出します。息の音を大きくしないこと、肩を動かさないことを先に確認します。声を出した瞬間に形が崩れるなら、形を保とうと力を増やすのではなく、あくびの動きをさらに小さくしてから試します。

上あごの奥を上げようとしすぎると、眉、額、首まで固まる人もいます。顔の上部に力が入るなら、あくびのイメージを使わず、唇を閉じて鼻から静かに吸い、口の中に何も作らないまま「オー」を短く出してください。何もしない形で首が静かなら、その状態のほうが必要な余地を残せています。差が出なければ、あくびの感覚を原因に固定せず、次に扱う息の強さや母音の大きさを確かめます。開くための補助が、必ずしも全員に同じように働くわけではありません。

息を押すほど通路は固まりやすい

声が通らないとき、息を増やせば喉が開くように感じることがあります。実際には、強い空気が先に来ると、その圧を受け止めるために首やあごが固まりやすくなります。手のひらを口の前に十センチほど置き、同じ高さで小さな「オー」を二回出してください。一度目は普段の大きさで、二度目は手に当たる風を半分程度にするつもりで小さく出します。二度目で首の張りが減るなら、通路を広げる必要より、息の圧を減らす必要が先にありました。

息を少なくすると声が出にくいと感じる場合は、声量を保とうとせず、長さを一秒へ短くします。長い音を小さな圧で保つのが難しい段階なら、短い音で首とあごが静かな条件を先に作ります。息を止めるのではありません。口からの風が急に強くならないよう、開始から終了まで同じ程度に流すことが目的です。胸を押し出したり腹を硬く突き出したりすると、手に当たる風が増えやすいので、鏡で胸元の上下も確認します。

呼気圧を減らすと、声が細く聞こえるかもしれません。しかし細さを補うために力を足せば、狭める力を減らす練習にはなりません。まずは小さくても、首の前が急に浮かず、あごが前へ出ず、手に当たる風が跳ねない声を探します。その条件を保ったまま、後から長さを少しずつ増やします。私がこの場面でまず確認したいのは、響きの大きさではなく、息を増やした瞬間にどこが固まるかです。通る声は、強い空気で通路を押し広げた結果ではなく、余計な圧を加えない状態から作れます。

母音の形を大きくしすぎない

喉を開こうとすると、母音を大きく、はっきり作ろうとすることがあります。特に「ア」は口を縦へ大きく開きやすく、あごを下へ引っ張る動作と結びつきます。鏡で見ながら「アー」を一秒出し、次に口の縦幅を少し小さくして同じ高さを出してください。二度目で首の前が静かになるなら、大きな母音が響きを助けていたのではなく、狭める力を増やしていた可能性があります。発音を不明瞭にする必要はありません。必要な大きさを超えないことが要点です。

「イ」や「エ」では口角が横へ引かれ、首の前やあご下が固まりやすいことがあります。笑顔の形を作るためではなく、言葉を届けるために必要な幅だけを残します。高い音になるほど口角をさらに横へ引く癖があるなら、幅を固定し、音程だけを少し変えてください。口の形と音程を同時に大きく動かすと、どちらが力みを生んだか分からなくなります。母音は響きを作る道具ですが、力で喉を開くための取っ手ではありません。

歌詞に戻るときは、難しい一語を母音だけにして短く出し、首の動きが少ない形を見つけます。その後、前後の子音を足し、最後にフレーズへ戻します。言葉どおりの母音を変える必要がある場合でも、極端に別の音へ移さず、開きすぎを少し抑える程度から始めます。差が出なければ、母音だけに原因を求めず、音量や呼気圧を別に確かめます。声を楽に通す形は、最大の形ではなく、余計な動きが増えない形です。

高音で首とあごを固定しない

高い音が近づくと、あごを下げた位置で固める、首を動かないようにする、頭を後ろへ引くといった準備が出ることがあります。安定させているつもりでも、固定は音程の変化に対して調整する余地を減らします。高い音の前後二音を小さく出し、音程が変わるときにあご先が同じ位置にあるかを鏡で確認してください。ここで求めるのは石のように不動であることではなく、前へ突き出す、急に下へ落とすといった大きな動きがないことです。

あごが固まりやすい場合は、音を出す前に口を閉じ、指先であご先に軽く触れます。触れたまま一秒の「ウー」を出し、指へ押しつける力が増えないかを感じます。高い音で強く押すなら、音程を一段下げ、同じ触れ方で出せる位置へ戻ります。指であごを押さえつけるのではなく、動きを知るために置くだけです。外からの接触を小さくすると、固定を隠して声を出すことが難しくなります。

首についても、前を縮めず、後ろを伸ばそうとして強く引かないことが大切です。頭を真上へ引っぱるより、耳と肩の位置を正面から見て大きくずれない状態にします。高音で首の後ろが詰まるなら、音程の幅を狭め、音量を下げてから再開します。開くために固定を足すのではなく、固定が始まる前の小さな声を使います。首とあごが静かなら、内側に余地を作ろうとする作業の多くは不要になります。

楽に通る状態をフレーズへ移す

短い母音で首とあごが静かな状態を作れたら、その母音を含む短いフレーズへ移ります。いきなり歌詞全体を大きく歌わず、最初の一語だけを小さく出し、その後で口を閉じて戻ります。次に二語へ伸ばし、音をつなげても首の前に張りが出ないかを確認します。フレーズが長くなるほど、後半で息を押し込み、喉を開こうとする反応が出やすくなります。長さを増やす前に、文頭から文末まであごの位置が急変しないことを見ます。

声量を増やすのは、短いフレーズで余分な動きが増えないことを確認した後です。大きくした瞬間に首が張るなら、喉を開く形が足りないのではなく、息や音量が今の通路を越えています。声量を一段戻し、息の風が跳ねない状態へ戻ります。音量と響きを分けて考えると、響きを求めて空間を力で広げる必要がなくなります。響きは、狭める力を減らし、無理のない母音と圧で声が通った結果として変化します。

喉に痛みがある、または声枯れが続く場合は、形の調整を続けず耳鼻咽喉科へ相談してください。喉を開くとは、あくびの形を競うことでも、あごを下げ続けることでもありません。首を張らせる、舌を押す、息を押し込む、あごを固定するといった狭める力を一つずつ減らすことです。鏡と手のひらで外側の動きを確かめながら、必要な余地を残す。この順番なら、「開く」という曖昧な感覚を、力を増やさない具体的な操作へ置き換えられます。

よくある質問

Q. 喉を開く発声とは、喉を力で広げることですか?
私は、「喉を開く」は喉そのものを力で広げる意味ではないと考えます。喉ぼとけを下げるより、口の奥の上側にある軟口蓋をふわりと上げると、声の通り道を作りやすいです。
Q. あくびのように喉を開こうとすると、声が重くなるのはなぜですか?
私は、あくびの形を保とうとして喉が重くなるなら、その動きが強すぎると見ます。顎や舌を下へ引かず、上あごの奥だけを意識して声を前方へ伸ばす方が、楽に響きやすいです。
Q. 喉を開こうとすると息だけが漏れます。何を見直せばよいですか?
私は、息だけが増える場合は、声帯の閉じ方がゆるみ過ぎている可能性を考えます。息を増やす前に閉鎖の加減を整え、息と声が一緒に前へ進む感覚を探してみてください。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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