保育士の声が枯れる。子どもに届く高めの声で喉を守る

朝の会からお昼寝まで声の高さが何度も入れ替わる保育士へ。子どもに届く明るいトーンと、喉を締めない声の出し方を解説します。

奥津ユキ

0〜2歳児クラスではオムツ替えのたびにゆっくり静かな声を作り、3〜5歳児クラスの朝の会では号令のように声を張り、リトミックではピアノの音に負けじと歌い、園庭では走り回る子どもに向かって呼びかけ、お昼寝の時間になると一転してささやくように話す。一日のうちにこれだけ声の高さと大きさが入れ替わる仕事は、他にはあまりないと感じています。保育士さんのご相談で多いのは「大きい声を出しすぎているから枯れるんですよね」という受け止め方ですが、私が実際に見ているのは声量そのものよりも、高い声を張ろうとするときに喉を締めてしまう癖のほうです。

一日の中で、声の高さが何度も切り替わる仕事です

登園の受け入れであいさつを交わし、朝の会で「おはようございます」の号令をかけ、絵本を読み聞かせ、リトミックで歌い、園庭で駆け回る子どもの名前を呼び、給食では席に着くよう声をかけ、午睡の時間には耳元でささやき、夕方の降園ではまた保護者へ向けて声のトーンを切り替える。この振れ幅の大きさが、他の職種にはない喉の消耗につながっています。

高い声を出そうとするとき、多くの人は声帯を平行に保ったまま締めて音を高くしようとします。締めれば締めるほど声は震えやすくなり、結果として枯れやすくなる。これは性格や体力の問題ではなく、閉じ方の向きの問題だと私は捉えています。締めるのではなく、声帯を斜めに伸ばすようなつもりで出すと、同じ高さでも喉への負担がかなり違ってきます。

「せんせーい」と呼ばれるたび、喉から声を出していませんか

一日に何十回と「せんせい、せんせい」と呼ばれ、そのたびに振り返って返事をする。保育士さんの声の消耗は、この応答の積み重ねで進んでいくことが多いです。呼ばれるたびに慌てて喉から声を押し出していると、一つ一つは小さな負担でも、夕方には確実に喉が重くなっています。

長時間話し続けて枯れる人のほとんどは、実は喉の締めすぎが原因だと私は見ています。声を出す前後に、横隔膜のあたりをやわらかくつまむような感覚を保っておくと、返事を繰り返しても喉だけに負担が集中しにくくなります。呼ばれた瞬間にいきなり喉で声を作るのではなく、息をわずかに前へ流してから返事をする。この一手間だけで、一日の終わりの喉の重さが変わってきます。

大声より、明るいトーンのほうが子どもには届きます

園庭やホールで声が届きにくいと感じると、多くの保育士さんはまず声量を上げようとします。ですが声量だけを足すと喉で押した声になり、遠くまでは届かないのに喉だけが疲れるという結果になりがちです。

私が提案しているのは、声のトーンを気持ち悪くならない程度に少しだけ明るく寄せることです。別人になるくらい高くする必要はありません。ほんの少し明るい方向へ寄せるだけで、子どもの耳には驚くほど通りやすくなります。声の大きさで押すのではなく、高さのレンジを少し動かして届かせる感覚です。

声が小さい人ほど「もっと大きな声で」と言われがちですが、力任せに声を張ると喉で押し込んだ、いわゆるがなり声になりやすいです。むしろ息を吐き切るつもりで話すと、力まなくても声量は自然に上がってきます。園庭で声を張るときも、喉で押すのではなく息のスピードを上げる意識に切り替えてみてください。

園庭の端まで届かせる声は、口先でなく息で運びます

園庭は風の音や遊具の音、他のクラスの声も混ざる環境です。この中で子どもに届かせようとして口先だけで叫ぶと、喉にまっすぐ負担がかかります。口角を少し上げる、それだけで声は自然に鼻腔側へ乗りやすくなり、こもらずに前へ抜けていきます。意図して鼻にかけようとする必要はなく、口角を上げる意識だけで十分です。

呼びかけの言葉も、長い文である必要はありません。「まっててー」「こっちだよー」のような短い呼びかけこそ、語尾まで息が保たれているかどうかで届き方が変わります。走っている子どもを追いかけながら声を出すと息が乱れがちですが、呼びかける前に一度短く息を整えるだけで、同じ声量でも通り方が変わってきます。

発表会シーズンは、喉の消耗がいちばん激しい時期です

運動会やお遊戯会が近づく時期は、朝の会からリトミック、通し練習、当日の司会進行まで、声を出す回数が普段の何倍にも増えます。この時期に「行事だから仕方ない」と我慢して声を張り続けると、本番前に声が枯れてしまうということも起こります。

長時間話しても枯れにくくするために私がよくお伝えしているのは、横隔膜のあたりを前にそっとつまみ出すような感覚を、声を出している間もつねに保っておくことです。吐くときだけでなく、次の一言を吸うときにもこの感覚を抜かないでおくと、練習が続く一日でも喉だけで支えようとする負担が減ります。行事の準備期間ほど、声を出す前の準備を丁寧にしておく価値があります。

絵本の読み聞かせは、抑揚を高さで作ります

絵本の読み聞かせで登場人物を演じ分けるとき、声を大きく変えようとして喉に力を込めてしまう方がいます。ですが抑揚は声の大きさで作るものではなく、高さの上下で作るものです。同じ声量のまま、少し高いところと少し落ち着いたところを行き来するだけで、子どもたちには十分に違いが伝わります。

たとえば「だるまさんが、ころんだ」という一節を読むときも、全体を張り上げるのではなく、言葉の途中で少しトーンを上げてから、最後の「ころんだ」で落ち着かせる。この高さの上下だけで、声量を上げなくても物語に立体感が出ます。園庭で使う呼びかけの声も、読み聞かせの抑揚も、根っこにあるのは同じ「高さで作る」という考え方です。

隣のクラスの先生に声を飛ばすときも、同じ喉を使っています

保育の現場では、子どもに向けた声だけでなく、離れた場所にいる同僚に「先生、ちょっとこっち来られますか」と声を飛ばす場面も多くあります。子ども向けの高いトーンのまま同僚を呼ぼうとすると、必要以上に張り上げてしまい、逆に大人には聞き取りにくくなることがあります。相手が大人か子どもかで、トーンを完全に作り変える必要はありません。息を先に流してから声を乗せるという基本の順番さえ守れば、相手が誰であっても喉への負担は変わらず抑えられます。

一日を通して意識したいのは、相手によって声の高さを大きく振り回しすぎないことです。子どもへの呼びかけ、同僚への声かけ、保護者への受け答え。場面ごとに完全に別人のような声を作ろうとすると、その切り替え自体が喉の負担になります。土台になる息の流し方は共通にしておき、そのうえで高さを少しだけ調整する、という考え方のほうが一日を通して喉が持ちやすいです。

降園時の保護者対応で、声の落ち着きを取り戻します

夕方の降園の時間になると、一日中張ってきた声から一転して、保護者へ向けた落ち着いた声に切り替える必要が出てきます。ここで声がまだ子ども向けの高さのまま抜けきらないと、伝えたい連絡事項が軽く聞こえてしまうことがあります。

かといって、無理に低く沈めた声を作る必要もありません。私が見ているのは、声の高さそのものより、語尾まで息が残っているかどうかです。「今日は園庭でたくさん体を動かしました」というような一言の語尾が息切れで消えてしまうと、内容が同じでも伝わり方が軽くなります。一日の終わりの疲れが出やすい時間帯だからこそ、最後の一音まで息を残す意識を、あえて持っておく価値があります。

今日、スマホ一つでできる点検

練習に使うのは、実際によく口にする「せんせーい」への返事の一言で十分です。「はーい、待っててね」という短い一文を録音してみてください。一回目は普段どおりに、二回目は返事の前に短く息を流してから、三回目は語尾の「ね」まで息を残す意識で読みます。

聞き返すときは、上手に言えたかどうかを判定しないでください。見るのは、最初の音が喉から急に飛び出していないか、途中で息が止まっていないか、語尾がしぼんでいないか、この三点だけです。三つを聞き比べると、声量を上げなくても届き方が変わるポイントが見えてきます。喉に痛みや強い違和感が続くようなら、練習量を増やすより先に、耳鼻咽喉科など専門家への相談も選択肢に入れてください。

まとめ

保育士の声が枯れるのは、大きな声を出しすぎているからというより、高い声を張ろうとして喉を締めてしまうことが大きく関わっています。声量で押すのではなく、明るいトーンへ少し寄せる、息のスピードで声を運ぶ、横隔膜のあたりをつまむ感覚を保つ。この三つを意識するだけで、朝の会から発表会シーズンまで、同じように声を使い続けても喉に残る負担は変わってきます。特別な発声練習より、今日の「せんせーい」への返事一言を録音して聞き比べることのほうが、確かな一歩になります。

よくある質問

Q. 保育士の声が枯れるのは大きな声を出しすぎているからですか
声量そのものより、高い声を張ろうとして喉を締めてしまうことのほうが枯れに直結していると感じています。声の大きさより締め方を先に見直してください。
Q. 子どもに届く声は高ければ高いほどよいのですか
そうとは限りません。気持ち悪くならない程度に少し明るいトーンへ寄せるだけで十分で、無理に高くし続けると喉の負担がかえって増えます。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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