ナ行の滑舌トレーニング。鼻に抜けず聞き取りやすく話す

ナ行が抜ける、鼻にかかる、言葉が曖昧になる人へ。舌だけでなく息と母音で整える練習を紹介します。

奥津ユキ

業務連絡や引き継ぎの一文には、ナ行の言葉がよく混ざります。「内容」「連絡」「本日」のように連続すると鼻にこもった響きになりやすく、輪郭がぼやけがちです。ただ、これを声質の問題として片づける前に、その場で一分あれば確かめられることがあります。

舌先を離す速さだけを変えて、二回録音してみてください

スマホのボイスメモを起動して、次の一文を二回録音します。

「内容を確認して、必要な連絡を本日中に行います。」

一度目は、ナ行の音のたびに舌先を上の前歯の裏の歯茎へゆっくり長めに押し当てるつもりで読みます。二度目は、同じ場所に一瞬だけ触れて、すぐ離すつもりで読みます。再生して並べると、一度目は鼻にこもった重い響きが増え、二度目は同じ声のまま輪郭だけが立って聞こえるはずです。

声質は何も変えていません。変えたのは、舌先が触れている時間だけです。ナ行のこもりは生まれつきの鼻声ではなく、この一瞬の長さで大きく動きます。まずそれを自分の耳で確かめてから、先へ進んでください。

ナ行は、舌で止めた息を鼻へ逃がしている音です

ナ行を出している瞬間、舌先は上の歯茎で口の通り道を一度ふさぎ、息は鼻へ抜けています。だから触れている時間が長いほど鼻へ抜ける区間が長くなり、あとに続く母音まで鼻にかかった響きを引きずります。逆に触れる時間が短ければ、鼻に抜けるのは一瞬で、母音は口からまっすぐ出ます。

滑舌を良くするには口を縦にも横にも大きく動かすべきだと言われがちですが、私が見ている限りそれは半分だけ正しいです。縦方向はそこまで大きく開ける必要はなく、必要なのはむしろ横方向の動きです。ナ行が連続する一文であれば、口全体を大きく動かそうとするより、舌先だけを一瞬触れてすぐ離す、という小さな動きを意識してください。触れる時間を長くしないことが、鼻にこもった響きを重くしない一番の近道です。

鼻の通りが悪い朝や、花粉の季節にナ行のこもりが強く感じられるのも、同じ理屈で説明がつきます。鼻へ抜ける通り道が狭くなっているぶん、触れる時間が長いといつも以上に重たく響くからです。体調で声質を嘆く必要はなく、そういう日ほど舌先を早めに離すことを思い出せば、こもりの増え幅は小さく抑えられます。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

声は生まれつきの性質だけで決まるものではありません。息、喉、体、語尾、そして間の取り方によって、相手への届き方は変わります。

ナニヌネノの連呼と、声色づくりを先にやらないこと

ナ行が鼻に抜ける癖に気づくと、多くの人はナニヌネノを速く連呼する練習に手を伸ばします。自然な発想ではありますが、そこだけを繰り返し強めると喉に力が集まり、声の出だしがかえって硬くなってしまいます。

声を意識的に低くする、明るくする、大きく出す。どれも場面によっては役立ちますが、土台となる息が止まったまま、語尾も消えている状態では、声色をいくら変えても安定しません。まず確かめたいのは、息そのものが動いているかどうかです。話す直前に息を止めてしまうと、最初の音を喉で押し出すことになります。反対に、短く吐いた息が先に流れていれば、声の立ち上がり方そのものが変わります。

もう一つ、手放したいのは、もっと美しい声にしたいという方向の努力です。本番で求められているのは美しさではなく、相手が受け取りやすいかどうかです。声を整えようとするほど喉に力が入り、強く印象づけようとすると最初の音だけが硬くなり、丁寧に話そうとすると語尾が引っ込みます。どれも悪気のない工夫ですが、結果として声は崩れやすい方向へ向かいます。整えるのは入り、間、語尾の三か所だけで構いません。この三つに絞ることで、練習は現実的になります。

息、出だし、間、語尾。四つの通過点を録音で順に確かめます

ひとつ目は息です。話す直前に大きく吸い込むのではなく、いったん短く吐いてから言葉に入ります。吸って準備するよりも、吐く流れに声を乗せるほうが、喉に頼らずに済みます。吸いすぎるとかえって体がこわばり、喉で押しやすくなります。

ふたつ目は言葉の出だしです。先ほどの一文なら最初のひとまとまりを、強く叩くのではなく、そっと置きます。小さく縮こまって入るのではなく、聞き手が耳を向けやすい位置に置く感覚です。

みっつ目は伝えたい語です。文の中でいちばん届けたい言葉の手前で、ほんのわずかに間を作ります。長い沈黙ではなく、聞き手が言葉を受け取るための一拍です。

よっつ目は語尾です。締めの言い回しを最後まで届けます。押し込む必要はなく、最後の一音まで息を残すだけで十分です。声が安定して聞こえる人は、必ずしも声量が大きいわけではなく、この語尾まで息が残っています。反対に弱く聞こえる人は、最初の数語で息を使い切ってしまっていることがあります。

録音で聞き返すときは、声の好き嫌いで判断せず、次の順番で耳を向けます。

通過点聞くポイント
内容を確認して最初の音が埋もれていないか
必要な連絡を手前でひと呼吸分の間があるか
本日中に行います最後の音まで息が続いているか

一巡目はそのまま声にします。二巡目は文の前に短い息を置いてから声にします。三巡目は語尾を最後まで置く意識で声にします。録音を聞いて違和感があっても、声そのものを嫌う必要はありません。録音は責める道具ではなく、次に直す場所を見つけるための地図です。

つまずく場所が分かったら、練習はそこ一点に絞ります

声が崩れる原因はひとつとは限りません。だからこそ、自分がどこでつまずきやすいかによって、練習する場所を変えます。

出だしで弱くなる人は、一文の最初のひとまとまりだけを繰り返します。全体を通して練習すると、途中でまた意識が散ってしまいます。最初の一音を相手に向けて置けるかどうかだけに集中してください。途中で急いでしまう人は、伝えたい語の手前だけを練習します。間を取るのが怖ければ、一拍でなく半拍でも構いません。締めが弱くなる人は、最後の言い回しだけを練習します。語尾を大げさにする必要はなく、最後の音に息が残っているかどうかだけを聞きます。

話している最中に声が乱れても、最初からやり直す必要はありません。立て直す場所をひとつだけ選びます。入りが弱かったなら次の一文の出だしだけを置き直し、伝えたい語を流してしまったなら次の大事な言葉の手前で少しだけ間を取り、語尾が消えたなら次の一文の締めだけに息を残します。声は一文ごとに立て直せます。

そして練習の終わりには、できたことをひとつだけ覚えておいてください。今日は出だしが少し入った。今日は語尾が消えなかった。そのひとつで十分です。声の練習は、完璧な録音を作るためのものではなく、本番で戻れる場所をひとつ用意しておくためのものです。

練習台の一文は、業務連絡に限らず、自分が仕事で毎日のように口にするナ行入りの言い回しに差し替えて構いません。電話の取り次ぎ、朝の申し送り、日程の案内。よく使う一文ほど、録音との差が本番にそのまま返ってきます。

迷ったら、声より先に文を短くします

本番で声が乱れそうなときは、声を頑張るより先に一文を短くしてください。長い一文ほど息は足りなくなり、伝えたい語が流れ、語尾は弱まります。短く区切ることは逃げではなく、相手に届く形へ整えるための技術です。

言いたいことをひとつの文に詰め込まず、最初に結論を置き、次に理由をひとつだけ添え、最後に相手にしてほしい行動を置きます。この順番にするだけで、声も自然と乱れにくくなります。声の練習は、声だけをいじる作業ではありません。文の長さ、間の置き場所、語尾の残し方まで含めて整えるものです。

引き継ぎの一文は、舌先の一瞬から変わります

最後に確かめたいのは、自分がうまく話せたかどうかではなく、相手が聞き返さずに受け取れたかどうかです。出だしが弱いと最初を聞き返され、伝えたい語が流れると内容を確認され、語尾が消えると結論があいまいなまま残ります。録音を聞くときは、声の印象よりも、聞き返されそうな場所を探してください。そこが次に手を入れる場所です。

仕上げに、もう一度だけ録音してみてください。

「内容を確認して、必要な連絡を本日中に行います。」

舌先は一瞬で離す。話す前に短く吐く。締めの一音まで息を残す。最初に録ったものと並べて、鼻のこもりが軽くなっていれば、それがあなたの引き継ぎの声の直し方です。すべてを一度に直す必要はなく、一文の中の一か所を整えるだけで、次の本番では声を戻しやすくなります。

よくある質問

Q. ナ行を含む説明で声が弱く聞こえる原因は何ですか
ナ行が鼻に抜ける、母音が残らない、早口で曖昧になるなどで、息・喉・体・語尾・間のどこかが崩れていることが多いです。
Q. 声量を上げれば解決しますか
声量だけでは安定しません。最初の音、重要語の前の間、語尾まで息を残すことを先に整えます。
Q. 本番前に何を練習すればいいですか
本番で使う一文を録音し、入り、間、語尾の三点だけを確認してください。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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