イベント司会の声。会場を盛り上げつつ聞き取りやすく

結婚式や式典の司会で声が枯れる、盛り上げと聞き取りやすさを両立できないと悩む人へ。煽りの声と案内の声を分けて整える方法を解説します。

奥津ユキ

「乾杯のご発声を頂戴いたします」という開会の一言から、「皆様、盛大な拍手をお願いいたします」という煽りの一言、避難経路や次第の案内まで、一日の司会には性質の異なる声が次々と求められます。ご相談で多いのは「盛り上げようとするたびに喉が張ってしまう」というものですが、私が見ているのは声の大きさより、盛り上げる声と案内する声を同じ出し方で処理してしまっていることのほうです。

司会は、常に明るく元気である必要はありません

司会というと、終始テンションの高い声を保ち続けるものだと思われがちですが、私はそうは考えていません。落ち着いた場面があったほうが式典全体は締まりますし、常に元気であろうとするほうが、かえって声に無理が出ます。開会の挨拶や新郎新婦の紹介のように丁寧に伝えたい場面では、あえてトーンを落ち着かせてよいのです。盛り上げる場面と、聞き取ってもらう場面を分けて考えるところから始めてください。

アナウンサーのような声でなくても、司会は務まります

司会を任されると、アナウンサーのような通る声、耳あたりのよい声質を目指さなければならないと思い込む方が多くいます。ですが声質そのもの、つまり声帯の形や長さは、練習で大きく変えられるものではありません。私が見ている限り、聞き手の印象を左右しているのは声の密度、声色の変え方、そして滑舌の三つで、これらは知っているかどうかで差が埋まる部分です。

生まれ持った声を作り変えようとするより、この三つのどこが弱いのかを一つずつ確かめるほうが、司会としての伝わり方は早く変わっていきます。

「乾杯のご発声を頂戴いたします」で、第一声を張り上げない

開会や乾杯前の第一声は、会場の空気を一気に引き締める場面です。ここで喉に力を込めて張り上げると、後に続く言葉まで喉で押した状態を引きずってしまいます。

大きく出そうとするより先に、口を閉じたまま短く息を吐き切ってから声を出してみてください。「乾杯のご発声を頂戴いたします」というこの一言も、声量を上げなくても、出だしの一音が息の流れに乗っていれば、会場の隅々まで硬さのない声で届きます。第一声は場を取る入口であり、大きさよりも息が流れた状態で置けているかどうかが効いてきます。

拍手を煽る声は、大きさでなく息のスピードで作ります

「皆様、盛大な拍手をお願いいたします」という煽りの声を、多くの人はとにかく大きな声を張ることで作ろうとします。ですが声量だけを足すと喉に力が集まり、続く言葉がかえって出しにくくなります。

自転車を思い浮かべてください。ゆっくり漕ぐと不安定になりますが、ある程度スピードが乗ると自然に安定して進みます。声も同じで、息をゆっくり吐いた声は勢いが乗らず、息を速く吐いた声は自然と前へ抜けていきます。煽りの一言を出す前に、息を少し強めに吐き切ってから声に乗せてみてください。声を張り上げなくても、会場の反応が変わってくる感覚があります。

次第の読み上げは、抑揚を声の高さで作ります

式次第や進行の案内を読み上げる場面は、声が単調になりやすいところです。抑揚をつけようとして声を大きくしたり小さくしたりする方がいますが、抑揚は声の大きさではなく高さの上下で作るものだと私は考えています。

「続きまして、余興に移らせていただきます」というような一文も、全体を張り上げるのではなく、伝えたい言葉の手前で少しトーンを上げ、区切りで落ち着かせるだけで立体感が出ます。物語を音読するときのように、抑揚を意識して声の高さを上下させる練習を、案内文の読み上げにもそのまま応用できます。

来賓のお名前を呼ぶ場面は、口の開け方より舌の動きが効きます

主賓や来賓のお名前をお呼びする場面では、一文字も間違えられないという緊張から、口を大きく開けてはっきり発音しようとする方が多くいます。ですが聞き取りやすさを左右しているのは、口の開け方の大きさよりも舌の動きのほうです。口を動かしていても舌が動いていなければ、名前の輪郭はぼやけたまま会場に届きます。

日頃から舌を上あごに軽くつけておく、口を閉じておくといった習慣が、本番でのお名前の発音にもそのまま影響してきます。本番直前に口を大きく開ける練習を増やすよりも、舌先の動きを意識して名前をゆっくり口にしてみるほうが、聞き取りやすさにつながります。

マイクとの距離で、割れない声量を保ちます

会場が大きくなるほど、マイクに向かって声を張り上げたくなりますが、近づけすぎると音が割れ、かえって聞き取りにくくなることがあります。声を張るよりも、少しゆっくりめに話し、マイクとの距離を一定に保つほうが、会場全体には安定して届きます。

盛り上げたい場面でつい前のめりになり、マイクに口を近づけたまま大きな声を出すと、音割れと喉への負担が同時に起こります。距離を保ったまま息のスピードで声を運ぶという意識に切り替えると、同じ盛り上がりを作りながらも喉に残る負担が変わってきます。

何本も式が続く一日、声の負担は積み重なっていきます

結婚式場やホールでの司会は、一日に何本もの式や催しが続くことがあります。毎回同じテンションで声を張り続けると、最後の一本を迎える頃には確実に声が重くなっています。

一日を通して声を酷使すると必ず枯れるかというと、私はそうとも思っていません。摩耗を進めているのは回数そのものより、喉だけで支え続けている状態が続くことです。横隔膜のあたりを、前方へ細くスライムのように押し出し続けるイメージを、一本目の開会から最後の一本まで保っておくと、本数が重なる日でも喉に集中する負担が減っていきます。休憩のたびに大きな声で発声練習を重ねるより、このイメージを保ったまま本番に臨むほうが、一日を通して声が持ちやすくなります。

台本を読みながらでも、その場で話している感覚を保ちます

進行台本を読み上げる場面が多い司会ほど、声が台本を読む調子のまま流れてしまうことがあります。同じ言葉を何度も口にしているうちに、抑揚も語尾もどんどん平坦になっていくのです。

私が気をつけていただきたいのは、読んでいるという意識を声に出さないことです。何度目の進行であっても、その場にいる出席者にとっては初めて聞く言葉です。語尾まで息を残して言い切れているか、抑揚が平坦になっていないかを、進行の合間に一度だけ確かめる時間を作ってみてください。

今日、スマホ一つでできる点検

練習に使うのは、実際の進行で使う一言で十分です。「皆様、盛大な拍手をお願いいたします」という一文を録音してみてください。一回目は普段どおりに、二回目は声を出す前に息を強めに吐き切ってから、三回目は語尾まで息を残す意識で読みます。

聞き比べるときは、うまく盛り上がったかどうかは判定しません。出だしの音が喉から急に飛び出していないか、途中で息が止まっていないか、語尾がしぼんでいないか。この三点だけを聞き分けてください。喉に痛みや強い違和感が続く場合は、練習を重ねる前に専門家への相談も選択肢に入れてください。

反応が薄い瞬間ほど、声で押し切ろうとしないでください

拍手や歓声を煽っても会場の反応が思ったほど大きくならない瞬間があります。ここで焦ってさらに声を張り上げると、喉に力が集まるばかりで、かえって空気が硬くなることがあります。

反応が薄い場面では、声量で押し切ろうとするより、一拍だけ間を置いて次の言葉に移るほうが会場は落ち着いて受け止めやすくなります。すべての瞬間を全力で盛り上げようとしなくても、司会という役割は十分に成立します。強く出すべき場面と、力を抜いてよい場面を、あらかじめ自分の中で分けておくだけで、一日を通した喉の負担はかなり変わってきます。

まとめ

司会の声が枯れるのは、盛り上げようとする気持ちの強さのせいというより、盛り上げる声と案内する声を同じ張り方で処理してしまっていることが大きく関わっています。司会は常に明るく元気である必要はなく、落ち着いた場面があってよいものです。第一声は息の流れに乗せる、煽りは息のスピードで作る、抑揚は高さで作る。この三つを意識するだけで、開会から何本も続く式のあいだ、同じように声を使い続けても喉に残る負担は変わってきます。

第一声、煽りの声、次第の読み上げ、来賓のお名前、マイクとの距離。司会の一日には性質の異なる声が次々と現れますが、確かめる場所そのものは多くありません。息が先に流れているか、喉に力が集まっていないか、語尾まで届いているか。特別な発声練習より、今日実際に使う進行の一言を録音して聞き比べることのほうが、確かな一歩になります。

よくある質問

Q. 司会は常に明るく元気な声を保つべきですか
必要はないと考えています。落ち着いた場面もあったほうがよく、式典や結婚式でも終始テンションを張り続ける必要はありません。
Q. 拍手を煽る声はどう作ればいいですか
声の大きさより息のスピードを上げることで作ります。声を張り上げるより、息を速く流したほうが会場の反応は動きやすくなります。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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