イベント司会の声。会場を盛り上げつつ聞き取りやすく
結婚式や式典の司会で声が枯れる、盛り上げと聞き取りやすさを両立できないと悩む人へ。煽りの声と案内の声を分けて整える方法を解説します。
奥津ユキ
足をそろえて立ち、「皆さま、まもなく開始します」と言ってみてください。次に、両足の幅だけを肩幅ほどに広げる以外は変えず、同じ文を一度だけ言ってみてください。一度目と二度目で、口の開き方や息が足元へ抜ける感覚に違いがあれば、その変化を覚えておきます。差が出なければ、足幅ではなく、案内文が長過ぎることが別の原因です。
盛り上げる声と案内する声は役割が違う
イベント司会の声には、会場の注意を集める役割と、必要な情報を迷いなく届ける役割があります。この二つを同じ熱量、同じ速度、同じ語尾で兼ねようとすると、どちらも弱くなります。盛り上げる声は、人の反応を待ち、少し広い音の動きで空気を上向かせるための声です。案内する声は、時刻、場所、順序、注意点を取り違えずに渡すため、余計な揺れを減らして文を閉じる声です。歓声を受けた直後に、そのまま早い速度で次の集合場所を告げると、前方にいる人だけが拾い、会場の後ろには情報が残りません。反対に、案内と同じ平らな声で盛り上げを続ければ、会場は反応するタイミングをつかみにくくなります。私がこの場面でまず確認したいのは、拍手や歓声のあとに話し始めるとき、声をさらに大きくすることだけを選んでいないかです。役割を切り替える合図は音量ではなく、文の長さと口の止め方で作れます。盛り上げの文を短く投げ、反応を待ち、案内の文では最後を静かに収める。この往復があると、会場の熱を落とさず、聞き取りやすさも保てます。
役割が変わるたびに、声質を極端に変える必要はありません。文を閉じる位置を変えるだけで、会場は反応と理解を切り替えやすくなります。
開始の呼びかけは反応を待つ
「皆さま、こんばんは。今日は最後まで楽しんでいきましょう」と呼びかけたあと、すぐに次の説明へ入ると、会場の返答や拍手が案内に重なります。盛り上げの一文は、聞かせて終えるためではなく、会場が反応する入口を作るためにあります。最初の呼びかけでは、語尾を少し前へ出しても構いません。ただし、言葉を伸ばし続けて反応を催促しないでください。文を短く閉じ、顔を会場へ向けたまま一拍待ちます。待つ間に「もっと声をください」と重ねると、反応の量だけが目的になり、次の案内へ移るタイミングを失います。反応が小さいときも、声の圧を強くする必要はありません。「それでは、始めます」と、役割の異なる案内文を一度静かに置いてください。ここで語尾を下げて終えると、会場には次に聞くべき情報が来ると伝わります。盛り上げと案内の切り替えは、テンションを落とすことではありません。会場が声を出す番と、耳を向ける番を分けることです。拍手の最中に案内を重ねない、反応を待つ文では説明を足さない。この二つだけでも、司会の言葉は整理されます。会場を動かすとは、常に熱を上げることではなく、反応と理解の順番を整えることです。
反応が起きる量を評価しながら話す必要はありません。司会者が待つ姿勢を保つと、会場は自分たちの反応を安心して置けます。
案内は一文一情報で届ける
案内が聞き取りにくくなる最大の理由は、話す声が小さいことだけではありません。「休憩は十五時から十分間で、再開後は左側の扉からお入りいただき、次の企画は二階です」と情報をつなげると、聞き手は途中の一つを落とした時点で後半も追いにくくなります。音量を上げても、一文に重ねた情報は分かれません。案内では一文につき一情報を置きます。「休憩は十五時からです。十分後に再開します。再開後は左側の扉をご利用ください。次の企画は二階です」と分けてください。各文の最後で口を閉じ、次の情報の前に鼻から短く息を入れます。終わりを明瞭にするために、最後の語だけを強く叩く必要はありません。時刻、方向、階数といった核になる語を、文の前半か中央で普段の大きさで言い、語尾は短く収めます。早く伝えたいときほど、情報量を一文に増やしがちです。しかし、会場には雑音があり、立っている人も移動中の人もいます。私がこの場面でまず確認したいのは、案内の途中で次の台本を目で追い、口だけが先へ急いでいないかです。目線と口の速度がずれると、子音が薄くなります。一情報ごとに声を閉じることが、会場全体に届く案内の基本になります。
案内文を短くすることは情報を削ることではありません。必要な情報を順番に渡し、落とした人が次の文から戻れるようにする工夫です。
歓声の後は声量を上げ足さない
大きな拍手や歓声のあとには、会場の音に負けないようさらに大きな声を出したくなります。しかし、すでに耳が高い刺激を受けているところへ強い声を重ねると、案内の言葉は音の塊になりやすくなります。必要なのは大きさを足すことではなく、会場の反応が落ち着くまでの一拍を取り、最初の子音をはっきり出すことです。拍手が続いているなら、口を閉じて会場を見渡し、手の動きが落ち着くのを待ちます。その後に「ありがとうございます」と短く返し、もう一拍置いてから案内に入ります。この感謝の一文は盛り上げの役割を持ちます。次の「お席にお戻りください」は案内の役割なので、声を広げようとせず、語尾を静かに閉じます。二つを一息につなげると、感謝の熱量が案内に残り、聞くべき指示がぼやけます。声量を下げることと、聞こえなくすることは違います。口を開く幅を保ち、子音を前に出し、文の長さを短くすれば、通常の声量でも輪郭ができます。拍手に勝とうとする声ではなく、拍手の後に会場の耳を戻す声を使ってください。盛り上がりを作る人ほど、次の案内を静かに始める技術が必要になります。
感謝を伝える文と行動を促す文の間には、短い停止を入れます。その停止が、会場の耳に次の役割を知らせる切り替えになります。
名前と数字は前後を空けて言う
出演者の名前、開始時刻、席番号、場所の名称は、会場が聞き落とすと困る情報です。こうした語を強く叫ぶより、前後に短い空白を作って言うほうが、聞き手は拾いやすくなります。「次のご登壇は、山田花子さんです」の場合、「次のご登壇は」で一度口を閉じ、「山田花子さんです」を一文として出します。名前の各音を過度に区切る必要はありませんが、名前の直前に別の情報を詰め込まないことが大切です。数字も同様です。「集合は十四時二十分です」と一息で言ったあと、説明を続けるより、口を閉じて一拍置きます。会場で聞き返しが起きるのは、名前や数字の声量が小さいからとは限りません。前後の語と同じ速さで流れ、聞き手が重要語へ意識を向ける前に通り過ぎるからです。私がこの場面でまず確認したいのは、名前を読む直前にだけ下あごが固まり、音を一つずつ押し出していないかです。力むと音は太くなっても、つながりが消えます。案内の声では、名前と数字を短い独立した文にして、前後の沈黙で輪郭を作ります。情報の重要度を叫びで示さず、置き方で示すことが、会場に残る声になります。
固有名詞を言う前に口を整えると、急いで読んだときの音の崩れを減らせます。強調する代わりに、独立した一文として置いてください。
会場の広さで速度を変える
広い会場では、遠くまで届かせようとして一語ごとに力を入れたくなります。しかし、力を足すと語尾で息が切れ、後半の情報ほど聞き取りにくくなります。会場が広いほど必要なのは、声量だけでなく、語と語のあいだの速度を少し落とすことです。ゆっくり話すとは、母音を引き延ばすことではありません。名詞の後、文の終わり、役割を切り替える前に短い停止を置くことです。「次の企画は」「二階ホールで」「十五時から始まります」と、情報の単位を分けます。このとき、盛り上げの文まで同じ遅さにする必要はありません。呼びかけは短く、案内は区切って運ぶ。役割に応じて速度を変えるから、会場は飽きずに情報も受け取れます。会場の反応が弱いときに、案内まで勢いで押すと、遠い位置の人ほど内容を失います。逆に、案内を整え過ぎてすべてを同じ間で読むと、盛り上がりの入口が消えます。速度を変える場所を、文の意味で決めてください。反応を待つ文のあとには待つ。移動や時刻を伝える文のあとには閉じる。司会の声は、一つの高さで会場を支配する声ではなく、聞く行動と反応する行動を交互に導く声です。
会場の反応を見て速度を変えるときも、重要語だけを急がせないでください。意味の単位の前後で止まることで、遠い位置にも情報が残ります。
開演前に役割を切り替える練習
開演前には、盛り上げ用と案内用の短い文を一つずつ用意し、交互に言ってみます。「皆さま、準備はよろしいですか」と「開演は十四時です」を選び、どちらも二回ずつ発します。盛り上げ用では、文を短く言ってから口を閉じ、会場の反応を待つ姿勢で一拍止まります。案内用では、時刻を言ったあとに語尾を持ち上げず、下あごの動きを止めて終えます。二つの声を別人のように変える必要はありません。息の量を増やしたり、無理に高くしたりしないでください。違いを作るのは、反応を待つか、情報を閉じるかという役割です。一度目は足をそろえ、二度目は肩幅に立つ以外は変えずに行います。二度目にだけ声が硬くなるなら、足元で踏ん張り過ぎています。その場合は声を押し出すのではなく、案内文をさらに短くして別の原因を確認します。本番でも、拍手を受けているときは盛り上げの役割を終えるまで案内を足さず、案内へ移るときは一文目を落ち着いて置きます。役割を分けることは、熱量を失うことではありません。会場が今なにをすればよいかを、音の働きで見分けられるようにすることです。
長時間の進行で声枯れや喉の痛みが続く場合は、発声の練習だけに頼らず耳鼻咽喉科を受診してください。会場で無理に押し通す必要はありません。
よくある質問
- Q. 司会は常に明るく元気な声を保つべきですか
- 必要はないと考えています。落ち着いた場面もあったほうがよく、式典や結婚式でも終始テンションを張り続ける必要はありません。
- Q. 拍手を煽る声はどう作ればいいですか
- 声の大きさより息のスピードを上げることで作ります。声を張り上げるより、息を速く流したほうが会場の反応は動きやすくなります。
声が変わると、人生が変わる。
通る声、落ち着いた声、人を惹きつける声は、生まれつきだけで決まるものではありません。第一声・息・喉・体の使い方を整えることで、人前で話すたびに「この人は違う」と伝わる声はつくれます。無料動画講座では、声量に頼らず、印象・説得力・存在感が変わる声の整え方をお送りします。
登録後、無料動画講座をメールでお送りします。配信停止はいつでも可能です。

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →ビジネスボイトレとは。声で印象の主導権を握るために鍛えること
ビジネスボイトレで変えるべきものは、話し方の型だけではありません。会議・プレゼン・商談で選ばれる声を、息・喉・体の使い方から整える考え方を解説します。
交流会・懇親会で声が通らない人へ。ざわつく場所で名乗りを届ける
交流会や懇親会のざわつきで名乗りが埋もれる人へ。声を張らずに、息のスピードと語尾を整えて、BGMや人混みの中でも届く声にする方法を解説します。
アナウンスの声。聞き取りやすく信頼される読み上げ方
仕事のアナウンスで声がこもる、早口、聞き取りにくい人へ。案内文を分かりやすく届ける声の整え方を解説します。