発車間際のバス車内、混雑した館内、次の到着駅を告げる直前。案内を読み上げると、こもる、早口になる、聞き返される。
情報語に下線を引いたとき、案内の要点が平板にならないか確かめる
紙に「本日、東棟二階の研修室で、防災訓練を実施します」と書き、読み上げてみてください。一度目は、文字に印を付けずに話します。二度目だけは、「東棟二階」と「防災訓練」にだけ鉛筆で細い下線を引いてから、同じ文を読みます。声量、速さ、高さ、言葉、姿勢、口の動かし方は揃え、変えるのは二つの情報語に下線を加えることだけです。下線部分を大きく言おうとはしません。線の太さを変えたり、ほかの語へ印を足したりしないでください。線は文字に重ねるだけにしてください。
二度目に、場所と行事名が文の中で埋もれず、全体を同じ調子で読んでも案内の骨組みが自分の中で見えるなら、聞き取りやすさの土台ができています。成功の目印は、強調した感じを作ることではなく、聞き手が必要とする情報を自分が取り違えずに運べる感覚です。差が出なければ、下線の有無とは別に、一文へ入れる情報の量が多すぎるという別の原因から整えてください。
大声にする前に、抜けている場所を探す
聞き取りにくいと言われると、まず声を大きくしようとする人が多いです。ですが原因は音量不足だけではありません。言葉の頭、母音、息の通り道、語尾のどこか一箇所が抜け落ちると、内容が正しくても相手は聞き返します。
読み上げる前に息が止まっていないか、最初の一音を喉で押していないか、数字や場所名の前で余計に息を吸い直していないか、語尾の手前で息が先に切れていないか。このどれかが崩れていると、声量を上げても聞き取りやすさは戻りません。まずは自分がどこで崩れているかを、体の使い方として分けて確認してください。
たとえば発車が近づいていて焦っているとき、多くの人は息を止めたまま話し始めます。息が止まった状態で声を出すと、最初の一音がわずかに遅れて出るため、聞き手には案内の頭を聞き逃したように感じられます。焦っているときほど、読み始める前に一度だけ短く息を通すことが効きます。
息のスピードは自転車の走り方に似ています。ゆっくり漕ぐほど車体はふらつき、少し速く漕いだ方がかえって安定して自走します。声も同じで、息をゆっくり出そうとするほど声量は不安定になり、むしろ少し速く吐き切るつもりで読み始めた方が、大きく張らなくても声はまっすぐ通ります。次の停車駅や到着番号など、数字を含む部分ほどこの差がはっきり出ます。
マイクの前では、口を横に保ったまま話します
館内や車内のアナウンスは、聞こえないなら声を張り上げるしかないと思われがちです。ですが私の実感では、張り上げるほど声は喉にかかって硬くなり、かえって隅々まで届きにくくなります。
はっきり読もうとして口を縦に大きく開け閉めすると、母音の形がそのたびに崩れてマイクに音がのりにくくなります。私が現場で伝えているのは、口を大きく上下させず、横方向の形を保ったまま読むことです。開け閉めの動きを減らすだけで、同じ声量でも音の輪郭がマイクに乗りやすくなり、通りが変わります。
数字や場所名で聞き返されやすいのも、この開け閉めが原因であることが多いです。「3番出口」「4番のりば」のように似た音が並ぶ言葉ほど、口を縦に動かすたびに輪郭がぼやけます。横の形を保ったまま、一音ずつ短く区切って読むと、似た音同士でも聞き分けやすくなります。上手な読み上げほど一音一音が長く伸びておらず、短く切れて次へ渡っています。
声を別物に作り変えるのは遠回りです
低く作る、無理に明るくする、ひたすら大きく張る、ゆっくり読もうと意識しすぎる。どれも読んだ直後は変わった気がしますが、体の準備が変わらないまま本番を迎えると元に戻ります。喉で押して作った声ほど、語尾の手前から先に崩れていきます。
必要なのは新しい声を作ることではなく、伝えるべき情報を順番どおりに置くことです。最初の一文を短くする、重要語の前に一拍置く、最後の音まで息を残す。この三つだけで聞き取りやすさはかなり変わります。
作り込んだ声が続かないのは、体の準備が変わっていないからです。声の高さや大きさは表面の結果にすぎず、その手前で息がどう流れているかが決まらないうちに声色だけ変えても、長くは保ちません。表面を作る前に、まず読む前の一拍を整える方が近道です。
本番の30秒前は、これだけ整えます
読み上げの直前に長く発声練習をすると、かえって力みます。口を閉じたまま一度だけ息を吐き、肩を上げずに短く息を入れ、声を出さずに案内文を口だけで一度なぞる。最後に小さな声で一度だけ言ってみます。
確認するのは大きさではなく、最初の音が欠けていないか、喉で押していないか、語尾まで息が残っているかの三点です。ここまでできていれば、あとは普段どおりの声で十分届きます。
到着案内と迷子放送では、間の置き方を変えます
同じ「ただいまより」でも、発車の合図と到着の案内では急ぎ方が変わります。発車直前は時間に追われて早口になりやすく、到着案内は次の動作を促す情報が多く、聞き手が実際に動くための間が必要です。迷子や忘れ物の呼び出しはさらに落ち着きが要ります。慌てて読むと固有名詞が埋もれ、聞き手はかえって聞き返しに来ます。
場面が変わっても、直す場所は同じです。出だしの音、重要語の手前の間、語尾。この三か所さえ保てれば、急ぐ場面でも、落ち着かせたい場面でも、同じ体の使い方で対応できます。読む内容ごとに声を作り替える必要はありません。
姿勢が崩れると、喉だけ直しても戻りません
聞き取りにくいと感じると、多くの人はまず喉に力を入れます。ですが喉に力を入れるほど、声はかえって不安定になります。
足の裏が床についているか、原稿や周囲に気を取られて胸が閉じていないか、顎が前に出たり首の前側が固まったりしていないか。この三点を見てください。体が浮くと息も浮き、胸が閉じると声が前に出にくくなり、顎が固まると最初の一音を喉で押しやすくなります。立ったまま読む人はかかとに体重が寄りがちで、座って読む人は前かがみになって胸が閉じがちです。姿勢は場面によって崩れ方が違うので、まず自分がどちらの癖に寄っているかを知っておくと直しが早くなります。
読み上げ中に声が崩れても、すべてを一度に立て直そうとしないでください。一文を短くする、語尾まで言い切る、それでも崩れるなら次の文の前に一拍置く。この一拍は沈黙ではなく、聞き手に情報を渡す時間です。焦って次の文を重ねるほど、声はさらに浅くなります。次に読む一文の最初の音さえ思い出せれば、そこから立て直せます。
型を二つ決めておけば、言葉に迷いません
本番中に声が崩れる人の多くは、読みながらその場で言葉を選んでいます。選びながら読むと息が止まり、声は喉のあたりに詰まります。
アナウンスは言い方の種類を増やす必要はありません。案内を切り出す型は「ただいまより、ご案内いたします」。締めくくる型は「ご協力のほど、よろしくお願いいたします」。この二つを決めておけば、読みながら言葉を探さずに済み、息の流れも途切れにくくなります。
大切なのは立派な言い回しを増やすことではなく、短く、言いやすく、語尾まで届く一文を選ぶことです。長い言葉は緊張すると崩れますが、短い言葉は本番でも立て直しやすくなります。原稿に長い一文が来たときも、そのまま読もうとせず、意味の切れ目で自分の中で区切ってしまって構いません。区切った分だけ、語尾まで息を残す機会が増えます。
案内の内容が毎回違っても、直す場所は変わりません。最初の音、重要語の手前の間、語尾。この三か所を体に覚えさせておけば、原稿が変わるたびに読み方を作り直す必要はなくなります。
次にマイクの前に立つときは、うまく読もうとしなくて構いません。最初の音と語尾、この二か所さえ思い出せれば、案内は今日から聞き取りやすくなります。
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よくある質問
- Q. 時刻や固有名詞が聞き取りにくいアナウンスは、何が原因ですか?
- 音量不足より、子音の立ち上がりが曖昧なことがあります。私は、読み始めに息を先行させ、特に語頭の子音を喉で叩かず、聞き手の前方へ置くようにして読み上げます。
- Q. アナウンスで句点ごとに息を吸い切ると、どうなりますか?
- 句点ごとに息を吸い切ると、次の文頭が急ぎ足で硬くなります。私は、意味のまとまりごとに浅く補い、吸う時にも腹圧を抜かないことで、一定の落ち着いた流れを作ります。
- Q. 重要語は大きな声で強調するほど伝わりますか?
- 重要語だけを強くすると、宣伝調に聞こえたり、後半の息が続かなかったりします。私は、前後の語を均一に急がず、重要語の前に短い間を置いて意味の輪郭を示します。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →滑舌を良くする方法。仕事で聞き返されない話し方の整え方
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