始発当番の改札で声がこもる人へ。ハミングで起こす朝のウォームアップ

始発当番で誰とも話さないまま窓口に立つ人へ。放送室や休憩室でできるハミングウォームアップで、喉を締めずに最初の一声を起こす方法をまとめます。

奥津ユキ

始発当番の朝は、家を出てから駅に着き、制服に着替えて窓口に立つまで、誰とも一言も話さないことが珍しくありません。その状態で迎えた最初のお客様への一言が、自分でも驚くほどこもって聞こえる。声が出ていないのではなく、声を出す前の準備がまだできていないだけのことが多いです。まず、勤務前の休憩室で、その差を自分の耳で確かめてみてください。

窓口に立つ前に、最初の一声を録り比べてみてください

スマホのボイスメモを出し、その日ひとことも話していない状態のまま、窓口で実際に使う一文を録音します。

「おはようございます。改札にご用件でしょうか」

録れたら、次の30秒だけウォームアップを挟みます。口を閉じたまま、肺にある息をゆっくり吐き切る。肩を動かさず、自然に入ってくる息を受け取る。そのまま小さく「んー」とハミングして、喉に力が入っていないか、音が鼻の奥で止まらず流れているかを確かめる。それだけです。終わったら、同じ一文をもう一度録音して、一回目と聞き比べてください。

ほとんどの方が、二回目は出だしが軽く、語尾まで息が届いていることに気づきます。一回目の声が悪かったわけではありません。朝いちばんの声は、通り道がまだ開いていないだけなのだと、耳で納得できるはずです。泊まり勤務で仮眠から起きた直後なら、なおさら差がはっきり出ます。起きてすぐの一回目と、30秒後の二回目の違いを一度聞いてしまえば、この習慣を続ける理由の説明は要らなくなります。音量は要りません。周りに人がいても気づかれない程度の小ささで、この録り比べは成立します。

始発当番は、声より先に喉が眠ったままです

前日の勤務が夜遅くまでだった日は、なおさら声を使わないまま朝を迎えます。そのまま最初のお客様に声をかけると、喉が眠ったまま声だけを働かせる形になり、出だしが重く、語尾が細くなります。声量の問題ではなく、声を出す前の通り道がまだ開いていないだけです。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

声がこもるのは、その人の声質のせいとは限りません。声を出す前に息の通り道を確認しておくかどうかで、最初の一言の印象は変わります。

日勤で人と話してから窓口に入る日と、始発当番の日とで、同じ一文の届き方が違うと感じたことがあるなら、それが何よりの証拠です。違うのは声ではなく、声を出すまでに口と喉を動かした回数のほうです。

ハミングは、鳴らす練習ではなく通り道の点検です

ハミングというと、鼻を大きく鳴らす練習だと思われがちです。ですが実際に確かめているのは、口を閉じた状態でも息が止まらず流れているか、喉に余計な力が入っていないかという点です。コツは、音を口の方へ押し出そうとしないことです。音は鼻の奥に軽く置いたままにして、息だけが静かに流れ続けている状態を探してください。力まないほうが音が前に抜けていく感覚が、そこでつかめます。

朝、声を出す前に喉が締まっているかどうかは、本人にはなかなか分かりません。ハミングは、その締まりを声にする前に見つけておくための、小さなセンサーのような役目を持っています。放送設備の点検と同じで、鳴らす前に配線を確かめておく作業だと考えると、駅の朝の流れにもなじみやすいはずです。

毎回の義務にしなくていい、と私は考えています

ウォームアップは必ずやらなければ喉を痛める、と思われがちです。ですが私は、前日にきちんと声が出せていれば、毎回のウォームアップが必須だとは考えていません。大切なのは、腹圧をかけて体を使って話せているかどうかで、儀式のように毎回こなすことそのものではないからです。

とはいえ、始発当番は誰とも話さないまま本番を迎える点が特殊です。声を出す準備がまったくない状態でいきなり最初のお客様と向き合うくらいなら、休憩室での30秒は投資に見合います。義務としてではなく、声が重い朝だけ使う手段として持っておくくらいがちょうどいいです。

かすれが強い、痛みがある、休んでも戻らない。そんな朝は話が別で、ウォームアップで乗り切ろうとせず、練習量を減らして専門家に相談することを優先してください。声が重い程度なら通り道の点検で整いますが、痛みは点検で消えるものではありません。

窓口の前傾姿勢は、顎から締まります

ハミングだけを整えても、顎や姿勢が固まったままだと響きは元に戻ってしまいます。窓口に座って前傾姿勢が続く仕事は、気づかないうちに顎が前に出て、首の前側が固まりやすくなります。この状態では、ハミングの音も喉の手前で止まってしまい、鼻の奥まで抜けていきません。

手で軽く顎の下を押さえ、顎が持ち上がらないようにしてからハミングしてみてください。喉の締まりが抜けやすくなります。窓口に座る前に、肩を一度後ろに引いて胸を開き直すだけでも、始発当番特有の前かがみはリセットできます。舌の先を上の歯の裏に軽く置いておくことも、日常の姿勢を整える土台になります。

ハミングから窓口の音量へは、半歩ずつ戻します

ハミングのあと、一気に窓口対応の音量まで上げようとする人がいます。ですが、小さな音量で喉が締まっていた状態のまま音量だけ上げても、こもりが目立つだけです。まずささやくくらいの音量で一文を出し、そこから半歩ずつ上げていきます。出だしの「お」が、音量を上げても喉で押されずに出せているかを確認しながら進めてください。小さな音量で通らなかった声は、大きくしても同じ場所で詰まります。改札の少し離れた場所からお客様に呼ばれて、とっさに距離を声量で埋めようとする場面でも、この半歩ずつの感覚が身についていれば、喉で押さずに届く声を選べるようになります。

窓口越しにお客様の声が聞き取りにくい時も、こちらの声を喉で押して返さないことです。長時間声を使って枯れる人は、ほとんどが喉の締めすぎによるものです。横隔膜のあたりを、前に細くつまみ出すような感覚で、吸うときも吐くときも保っておくと、声を大きくしても喉に負担が集まりにくくなります。

始発の一回で終わらせず、休憩ごとに整え直します

始発対応がうまくいっても、午前中の対応が続くうちに声が痩せてくることがあります。特に朝のラッシュで案内を立て続けに出した後は、自覚がないまま喉が締まった状態に戻っていることが多いです。休憩のたびに、朝と同じ30秒を短く繰り返してください。窓口対応と改札の巡回が交互に続く日は、場面が変わるたびに喉の状態も変わりやすいので、巡回から戻ってきた直後にも同じ確認を挟むと、午後にまとめて疲れが出るのを防ぎやすくなります。

構内放送を担当する日も、放送の直前に同じ点検が使えます。マイクの前で急に声を張るより、ハミングで通り道を確かめてから第一声を出すほうが、スピーカー越しの聞き取りやすさは安定します。マイクがあるからこそ、声を張る必要はなく、通り道さえ開いていれば小さな声のままきれいに乗ります。

当番のたびに、同じ一文から始めてください

録音を聞くと、自分の声が思っていたより低く、間抜けに感じることがあります。これは声が悪いからではなく、自分の中では骨伝導で聞こえていた声と、外に届く声とがもともと違うために起きる、誰にでもある現象です。確かめたいのは好き嫌いではなく、出だしが軽く入ったか、語尾まで息が保てたかという再現性です。

当番のたびにやることを変えると、何が効いたのか判別できなくなります。録り比べに使う一文は固定し、ある日は出だしの軽さ、ある日は喉の力み、ある日は語尾の息の残り方というように、一回につきテーマをひとつだけ決めて聞いてください。当番が不規則で毎回できなくても構いません。続けていれば、自分がどこで崩れやすいかの傾向が数週間で見えてきます。

「おはようございます。改札にご用件でしょうか」

始発の駅に、この一文より先に出す声はありません。ホームに一番列車が入ってくる前の30秒が、その日の最初のお客様への一声を決めます。

関連して読む記事

朝の声の重さや、鼻から響かせる感覚をもう少し掘り下げたい人は、こちらもどうぞ。

よくある質問

Q. ハミングは始発当番の日に毎回やらないといけませんか
必須ではありません。前日にきちんと声が出せていれば無理にやらなくても大きな支障はありませんが、誰とも話さずに勤務入りする日ほど効果を感じやすいです。
Q. 休憩室や放送室でハミングすると周りの目が気になります
大きく鳴らす練習ではないので、口を閉じたまま息が流れているかを確かめる程度の小さな音量で十分です。
Q. 始発当番の日は何時間も窓口対応が続きます。途中で声が落ちてきたらどうすればいいですか
最初の一件だけでなく、休憩の合間にも短く同じ確認をすると、午後まで同じ調子を保ちやすくなります。
無料動画講座

声が変わると、人生が変わる。

通る声、落ち着いた声、人を惹きつける声は、生まれつきだけで決まるものではありません。第一声・息・喉・体の使い方を整えることで、人前で話すたびに「この人は違う」と伝わる声はつくれます。無料動画講座では、声量に頼らず、印象・説得力・存在感が変わる声の整え方をお送りします。

登録後、無料動画講座をメールでお送りします。配信停止はいつでも可能です。

奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

詳しいプロフィール →
関連記事