大人になってから声は変わるか。年齢のせいにしていた声の見立て方

大人になってから声を変えられるか知りたい人へ。年齢のせいだと思っていた声が実は筋肉の使い方の癖である理由と、今日試せる確認方法を説明します。

奥津ユキ

「大人になってから声は変わりますか」という質問を、私はこれまで何度も受けてきました。結論から言えば、変わります。年齢そのものが変化の壁になっているケースより、これまでの使い方の癖が壁になっているケースの方が、私の実感ではずっと多いです。何十年も同じ話し方で過ごしてきたからこそ、変える余地もまた大きく残っている、というのが正直なところの感覚です。

「もう年だから」で片づけると、見えなくなるもの

同窓会で「昔と声変わったね」と言われたり、久しぶりに会った人に「なんか声、こもってない?」と聞かれたり。そういうとき、多くの人はまず年齢のせいにします。

もちろん、加齢によって声帯や体の状態が変わる部分はあります。ですが声がかすれる、ハリがなくなる、通らなくなるといった変化のすべてが老化現象というわけではありません。長年の話し方の癖や、喉の使いすぎが重なっている場合も多く、年齢だけを理由にしてしまうと、直せるはずの部分まで諦めてしまうことになります。

私自身、5年間「ここから先は出ない」と信じていました

大人になってからの変化を疑う気持ちは、私自身にも覚えがあります。21歳から26歳まで、当時師事していた声楽系の先生に「ここから先の声域は、一度出なくなる時期がある。それを超えれば出るようになる」と言われ、5年間そのまま信じて練習を続けていました。

転機になったのは、その数年後、喉や体の使い方を解剖学から見直したことでした。腹横筋や横隔膜、声帯まわりの筋肉の使い方を一つずつ学び直すと、5年間出なかった声域が、年齢を重ねてから普通に出るようになったのです。声が出ない理由は年齢の壁ではなく、筋肉の使い方を知らなかっただけでした。この経験があるので、「大人になってからは変わらない」という前提そのものを、私はあまり信じていません。

大人の方が、変化は大きく出やすいことがあります

大人になってからボイトレを始めても大きな変化は期待できない、と考える人は少なくありません。ですが私の見立てはむしろ逆です。大人はそれまでの年数のぶん、声の出し方にいろいろな癖がすでについています。だからこそ、その癖の一つを外すだけで、変化がはっきり出やすくなります。

子どものうちから声がきれいに整っている人よりも、癖がたくさんついた大人の方が、直したときの伸びしろは大きいというのが実感です。「若い頃はできていたのに」と過去と比べて落ち込む前に、今ついている癖を一つずつ見直す方が、変化への近道になります。

管理職になって朝礼で名前を呼ばれたとき、声の小ささに気づく

40代で管理職になり、朝礼で「それでは〇〇さん、お願いします」と急に名前を呼ばれた瞬間、自分でも驚くほど小さい声しか出なかった、という話をよく聞きます。

若い頃は特に意識せず出せていた声が、年齢を重ねるうちに小さくなったように感じるとき、多くの人は「若さがなくなったから」だと考えます。ですが実際には、長年の座り仕事で姿勢が崩れたり、人前で話す機会が減って喉まわりの筋肉を使わなくなったりしたことの方が影響しています。加齢そのものより、使わなくなったことによる衰えです。

オンライン会議の録画で、自分の声を初めて聞いて驚く

もう一つよくあるきっかけが、オンライン会議の録画です。自分の話している場面を見返して、「思っていたよりこもって聞こえる」「語尾が消えている」と気づき、そこで初めて声を見直そうと思う人がたくさんいます。

自分の中で聞こえている声には、骨を伝って届く低い響きが混ざっています。録画やマイクが拾うのは口から外に出た音だけなので、実際の自分の声は、自分が思っているより高く、そして年齢とは関係のない癖がそのまま映し出されています。「年を取って声が変わった」と感じた録画の多くは、実は昔から同じ癖がずっとそこにあった、というだけのこともあります。

声の小ささや震えは、性格でも年齢でもなく筋肉の使い方です

大人になってからの声の悩みは、性格や年齢のせいにされがちですが、私の見立てでは筋肉の使い方の問題であることがほとんどです。緊張しても、体の使い方さえ合っていれば、ほぼ同じ声を出すことができます。

声を出す力の目盛りが仮に10段階まであるとして、多くの大人は普段そのうちの2程度しか動かさずに一日を過ごしている、というのが私の感覚です。長年そこで止まっているのは、性格が消極的だからでも老化したからでもなく、単純に声を支える筋肉をあまり動かしてこなかったからです。目盛りをいきなり10まで振り切る必要はなく、2を3へ、3を4へと、日々の生活の中で少しずつ動かす回数を増やしていくだけで、声の印象は着実に変わっていきます。

変えられるのは声質ではなく、筋肉の使い方と量です

「声質は生まれつきだから、大人になってからではもう遅い」と考えている人にも、一つだけ伝えたいことがあります。声帯そのものの形や長さといった声質は、たしかに大人になってから変えることはできません。ただ、声の印象を決めているのは声質だけではありません。

声の密度や張り、声色の変え方、滑舌の三つは、知っているかどうかと、その部分の筋肉をどれだけ使えているかで大きく変わります。地声を支える筋肉と、高い声側で使う筋肉のバランスの取り方も同じで、コツというより、単純にその筋肉をどれだけ動かしてきたかの差です。声質という生まれつきの部分と、鍛えれば変わる部分を分けて考えると、「もう遅い」と諦める理由がずいぶん減ります。

独学のアプリやYouTubeだけでは変わりにくい理由

大人になってから自分で声を変えようと、練習アプリや動画を試した経験がある人も多いはずです。ある程度までは、独学でも変わります。ただし独学には、正誤を見てくれる人がいないという弱点があります。

自分では直しているつもりでも、実は違う方向に力を入れていた、ということに気づかないまま続けてしまうと、新しい癖がそのまま固定されてしまいます。年齢のせいで変わらなかったのではなく、途中で軌道修正できる相手がいなかったから変わらなかった、という場合も少なくありません。

とくに大人になってから始める場合は、これまでの年数分、体に染みついた話し方の型があります。その型のどこがずれているかは、自分一人で録音を聞くだけではなかなか気づけません。半年、一年と練習を続けても変化を感じられない人ほど、練習量を増やす前に、一度だけでも第三者に今の使い方を見てもらう機会を作ると、遠回りを避けやすくなります。

部署異動をきっかけに、声を意識し始める人もいます

内勤からお客様対応の部署に異動になり、急に電話や対面で話す機会が増えたことで、初めて自分の声を意識するようになった、という相談もよくあります。それまで何十年も特に困っていなかったのに、環境が変わった途端に「聞き返される」「声が小さいと言われる」と指摘され、戸惑う人は多いです。

これも年齢のせいではなく、単純にこれまで声を張る場面が少なかっただけです。使う機会がなかった筋肉は、何歳になっても急には強くなりません。異動から数週間で結果を求めず、まずは今の話し方の癖がどこにあるかを知ることから始めれば、焦らずに整えていけます。

今日、スマホだけで確かめられること

今日の仕事や生活の中で実際に使う一文を、一つだけ選んでスマホに録音してみてください。長い文章である必要はありません。「それでは、よろしくお願いいたします」くらいで十分です。

録音を聞き返すときは、上手い下手を判断しないでください。見るのは二つだけです。出だしの一音がはっきり立っているか、そして文末の「ます」まで息が残っているか。この二点が崩れているなら、それは年齢のせいではなく、日々の使い方の癖がそこに表れているだけです。

まとめ

大人になってから声は変わるかという問いへの答えは、変わる、です。年齢が壁になっているように見える場面のほとんどは、実際にはこれまでの使い方の癖が壁になっています。癖は年齢に関係なく見直せます。

何年も同じ声で困ってきた人ほど、「これは自分の生まれつきの声だから」と決めつけたくなる気持ちも分かります。ですが、その決めつけを一度脇に置いて、今日の一文を録音してみてください。出だしと語尾の二点だけ、自分の耳で確かめるところから、案外あっさり変化は始まります。

よくある質問

Q. 何歳からでも声は変えられますか
年齢そのものが壁になるというより、これまでの使い方の癖が壁になります。癖は年齢に関係なく見直せます。
Q. 独学の練習アプリだけでも変わりますか
ある程度は変わります。ただし正誤を見てくれる人がいないと、気づかないまま自己流の癖が固定されることがあります。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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