長い文を話すと息が続かない。区切りと息の配分を作る

重要事項説明や契約条項のように、区切りを勝手に変えられない長い一文で息が続かない人へ。腹式呼吸に頼らず、文中の隠れた継ぎ目で息を配分する方法を解説します。

奥津ユキ

不動産の重要事項説明では、専有面積や用途地域、契約期間までを一つの文にまとめて読み上げる場面があります。「本物件は、鉄骨造二階建て、専有面積四十二平米、用途地域は第一種住居地域に指定されており、契約期間は引き渡し日より二年間となります」。文を勝手に短く区切るわけにはいかない場面で、後半にかかるころには息が切れ、声が細くなっていく。そんなご相談をいただくことがあります。

まず一回、この一文を通しでスマホに録音してください

いま挙げた一文を、そのままボイスメモに録音してみてください。一度目は、いつも通りに最初から最後まで通して読みます。二度目は、読点のところどころで、意味を変えない程度に軽く息を足しながら読みます。

聞き比べる場所は一か所だけです。文末の「二年間となります」のあたりで、声の太さが一度目とどう違うか。一度目は後半で声が痩せ、二度目は最後まで太さが残っているはずです。読み方の技術を変えたのではなく、息を足す場所を作っただけです。この差を先に体感しておくと、ここから先の話はすべて、この一点の掘り下げだと分かります。

息が続かないのは、腹式呼吸ができていないからではありません

長い一文で息が切れると、多くの人は腹式呼吸ができていないからだと考えます。ですが私の実感は、それとは違います。腹式呼吸を意識しすぎて、話す前にお腹を大きく膨らませて吸おうとするほど、体がこわばり、かえって早く息を使い切ってしまうことがあるのです。

重要事項説明のような場面では、聞き手を待たせられないという緊張から、話す前に大きく吸い込みがちです。その分、体に余計な力が入り、後半に入るころには息の勢いが失われています。吸う量を増やすことより、息の配分を整えるほうが、この場面では効きます。

「区切れない長文」には、隠れた継ぎ目があります

重要事項説明や契約条項の読み上げは、一般的な報告や説明とは違い、意味のまとまりごとに文を短く分け直すことができません。決められた言い回しのまま、最後まで届ける必要があります。保険の約款説明や、案内文をそのまま読み上げる仕事でも同じで、言い回しを変えられないぶん、話し方の工夫だけではどうにもならないと感じている方も多いようです。

だからといって、文の途中に息を継ぐ場所が一切ないわけではありません。「鉄骨造二階建て、」の読点の直後、「指定されており、」の直後など、意味を変えずに息だけを足せる場所はいくつも隠れています。この隠れた継ぎ目を事前に決めておくことが、区切れない長文を乗り切る鍵になります。

継ぎ目は、目で見て決めるより、一度声に出して探すほうが確実です。黙読では気づかない息の苦しさが、声に出してみると、どの読点の手前で来るのかはっきり分かります。

重要事項説明で起きやすい、三つの崩れ方

区切れない長文を読むとき、崩れ方はたいてい三段階で進みます。

一つ目は、話し始める前に大きく吸い込みすぎることです。聞き手を待たせたくない緊張から、必要以上に息をためて始めてしまい、後半まで持たせる分をそこで使ってしまいます。

二つ目は、意味の切れ目を意識しすぎて、そこで完全に息を使い切ってしまうことです。用途地域まで言い切った時点で気が緩み、次の一言に入る前に息がほとんど残っていません。

三つ目は、最後の言い回しほど早口になることです。契約期間や金額のような重要な情報ほど、早く言い終えたい気持ちが先に立ち、語尾が痩せていきます。

三つとも、話す技術というより息の配分の問題です。継ぎ目をあらかじめ決めておけば、順番に直せます。

腹圧は膨らませ・へこませるのではなく、保ち続けます

腹式呼吸のようにお腹を膨らませたりへこませたりする動きは、重要事項説明のような長い一文には向きません。私が伝えているのは、常に一定の圧をかけ続けるという感覚です。吐くときだけでなく、文の合間でわずかに息を足すときも、その圧を抜かないようにします。

圧を抜いてしまうと、そこで喉に負担が集中し、次の一言を喉の力で押し出すことになります。「専有面積四十二平米、」のあたりで気が緩みやすいので、ここでも腹の圧を保ったまま次に続けることを意識してみてください。

後半を支えるのは、喉ではなく姿勢と足の裏です

一文の前半は問題なく話せても、後半に入ると声が細くなり、聞き取りにくくなる。これは、息が尽きた時点で、体ではなく喉が声を支え始めているサインです。喉で支えようとするほど、声帯は締まる方向に働き、震えたり掠れたりしやすくなります。直し方は、締めることではなく、伸ばした状態を保つことです。喉ぼとけを無理に下げようとせず、口の奥の上側をわずかに持ち上げる感覚を保ったまま、後半の言い回しに入っていきます。

姿勢も後半を左右します。長い一文を読む場面では、書類に目を落としたまま前かがみになりやすいものです。前かがみが続くと胸が閉じ、閉じた胸からは息が前へ出にくくなります。書類を読み上げるときも、目線だけを落として胸は開いたままにしておくと、後半まで息が通りやすくなります。

立って説明する場合は、足の裏の感覚も見ておいてください。片足に体重が寄っていたり、かかとが浮いていたりすると、息の支えも一緒に浮ついてしまいます。長文に入る前に、両足で床を踏めているかを一度確かめるだけでも、後半の安定感は変わってきます。

練習は、三つの継ぎ目を決めるところから始めます

練習する一文はこちらです。

「本物件は、鉄骨造二階建て、専有面積四十二平米、用途地域は第一種住居地域に指定されており、契約期間は引き渡し日より二年間となります」

読み方を変えるのではなく、息を足す場所を三つ決めます。一つ目は「鉄骨造二階建て、」の直後。二つ目は「指定されており、」の直後。三つ目は「引き渡し日より」の手前です。

最初は、この三か所で軽く息を吸い足しながら、ゆっくり通しで読んでみてください。文の意味や言い回しは変えず、息だけを足すという感覚をつかむことが目的です。慣れてきたら、吸い足す量を少しずつ減らし、圧を保ったまま息を通すだけで継げるようにしていきます。

目の前に相手が座っている本番では、読み上げの途中で相手が書類をめくったり、時計に目をやったりすることがあります。その気配に急かされて読点を飛ばすと、決めていた継ぎ目ごと素通りしてしまい、後半で一気に苦しくなります。相手の動きが目に入っても、継ぎ目の位置は変えない。先に決めてあるからこそ、急かされた時にも守れます。

録音して聞き返すときは、冒頭の実験と同じく、後半で声の太さが変わっていないかだけを見ます。前半と後半で明らかに声が細くなっているなら、決めた継ぎ目のどこかで圧が抜けています。三か所のうちどこで抜けやすいかが分かれば、次に練習する場所も絞れます。今日は二つ目の継ぎ目だけを意識する、次の機会には三つ目の手前だけを見る、というふうに一つずつ確認していくほうが、まとめて全部を直そうとするより、本番で再現しやすくなります。

言い回しを変えられない仕事にも、変えられる場所は残っています

区切れない長文は、重要事項説明に限った話ではありません。コールセンターで読み上げる利用規約、士業の方が説明する契約条項など、言い回しを変えられない長い一文はさまざまな仕事で登場します。

たとえば「本サービスは、初回のお申し込みから三十日間を無料期間とし、期間終了後は自動的に有料プランへ移行いたします」のような一文も、考え方は同じです。「無料期間とし、」の直後と、「有料プランへ」の手前に、意味を変えない継ぎ目を見つけておきます。文の中身は仕事によって変わっても、腹圧を保ったまま隠れた継ぎ目で息を足すという手順は共通して使えます。

言葉そのものを自分で選べない場面だからこそ、変えられるのは声を出す前の体の準備と、息を足す場所だけです。話し出す前に大きく吸い込もうとせず、決めた継ぎ目で圧を保ったまま息を足す。この準備があるだけで、同じ言い回しでも最後まで聞き取りやすい声で届けられます。次に長文を読む機会があれば、まずは継ぎ目を一つ決めるところから試してみてください。

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よくある質問

Q. 長い一文で息が続かないのは腹式呼吸ができていないからですか
私の実感では、そう言い切れません。むしろ腹式呼吸を意識しすぎて大きく吸おうとするほど、体がこわばって息が続かなくなることがあります。
Q. 重要事項説明のように区切れない長文は、どこで息を継げばいいですか
文を勝手に区切ってよい場所はありませんが、助詞や接続の直後など、意味を変えずに息だけ足せる場所はあります。そこを事前に決めておくと安定します。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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