忘年会・宴会の幹事進行の声。ざわつく中で場を回す
忘年会や宴会の幹事を任され、開宴から中締めまで何度もマイクを持つうちに声が枯れる人へ。ざわつきに負けず終盤まで通す声の使い方を解説します。
奥津ユキ
椅子の横に立ち、両肘を手のひら一枚分だけ体から離して、「次のお料理をお持ちします」と声にしてみてください。次に、言葉、足の位置、顔の向きは変えず、両肘を脇腹に軽く触れる位置にし、同じ案内を声にしてみてください。一度目と二度目で、腕の揺れと首の出方が周囲からどう見えるか比べてみてください。差が出なければ、案内の回数や休止の設計を別の原因として確かめてみてください。
乾杯の一回勝負とは別
忘年会や宴会の幹事進行では、最初の挨拶だけが仕事ではありません。受付の案内、着席の促し、開始時刻の共有、料理や飲み物の知らせ、余興への切り替え、集合写真、会計、終わりの連絡まで、短い声かけを何度も行います。一つひとつは短くても、身体にとっては同じ種類の開始を繰り返すことになります。乾杯のように一度の集中で終える話とは、声の設計を分けて考える必要があります。
進行役が疲れやすいのは、長時間話すからだけではありません。人の会話を止める、別の場所へ注意を移す、用件を伝える、反応を待つという切り替えを何度も行うためです。そのたびに言葉を強く始めたり、会場の反応を待たずに説明を重ねたりすると、短文でも負担が積み上がります。各案内を独立した小さなスピーチとして扱うのではなく、一日の総量の一部として置くと、前半で使い切らない進め方が見えてきます。
幹事の役目は、すべての場面で注目を自分に集め続けることではありません。次に必要な人が、必要な動きを始められる状態を作ることです。料理の案内なら席に座ったまま聞ける情報に絞り、移動の案内なら人の流れが見える場所で一言にします。私がこの場面でまず確認したいのは、その声かけが聞かれた後、誰が何をすればよいのかが一つに定まっているかです。目的が一つなら、声に背負わせる仕事も一つになります。
総量は時間ではなく回数で増える
宴会の進行で負担を見積もるとき、話す合計時間だけを見ると見落としが出ます。十秒の案内でも、周囲の話を受けて立つ、身体を向ける、最初の語を出す、終えて次の作業へ移るという一連の切り替えがあります。同じ十秒でも、静かな会場で一度述べる場合と、会話の中へ六回差し込む場合では、使う注意が異なります。総量は文章の長さだけでなく、開始の回数で増えます。
予定表には、話す内容だけでなく、声を使わずに済む合図も書き込みます。食事開始の合図をテーブルの担当者へ先に伝える、余興の出演者を近くへ待機させる、時間変更を掲示へ反映するなど、声かけの前後にある仕事を分けます。案内を一人の口から何度も流す設計では、後半ほど文が長くなり、聞き手も聞き逃しやすくなります。伝達の経路を増やすことは、進行役の声を節約するだけでなく、参加者が自分の位置で情報を受け取れる利点があります。
「次は何を言うか」だけを考えていると、間が空くたびに話す必要を感じます。しかし、会場が食事や会話を進めている時間は、幹事が静かに状況を確認する時間です。次の案内の開始を早めて埋めるのではなく、次の切り替えに必要な一文だけを準備します。回数を減らすとは、沈黙を増やして放置する意味ではありません。発する一回ごとに役割を持たせ、同じ役割の案内を重複させないことです。
案内を短い単位に分ける
進行の言葉を短くする際、敬語を削ったり情報を曖昧にしたりする必要はありません。一回の案内に目的を一つだけ置きます。「お料理がまもなく到着しますので、お席へお戻りください。続いて余興の準備も始まります。お飲み物の追加はスタッフへ」と三つの用件を続けると、聞いた人は何を優先するか決めにくくなります。着席を促すなら着席だけを伝え、余興の案内は出演者が準備に入った後で別に置きます。
短い単位にすると、話し始める前の構えも短くできます。会場の中央へ向いて一文を言い、口を閉じ、参加者の動きを見ます。反応が起きたら次の作業へ移り、起きなければ同じ内容を別の言い方で重ねる前に、立つ場所や視線の方向を調整します。言葉を足すことが唯一の解決ではありません。移動が必要な案内なら、出口や通路が見える位置へ体を向けるだけで、意味が補われます。
案内文を作るときは、主語を自分に置かず、参加者の次の動作を先に置くと簡潔になります。「私からご案内します」より「お席へお戻りください」、「これから始めます」より「五分後に余興を始めます」とします。時刻、場所、行動のうち、必要な二つがあれば足ります。文章を短くした分、語尾だけを急いで切らず、最後の言葉の後に動作が始まる余地を残します。案内は説明の競技ではなく、次の場面へ人を渡すための橋です。
合図を声だけに任せない
ざわつく宴会で、すべての切り替えを言葉だけで行うと、幹事は同じ案内を繰り返しがちです。そこで、声を出す前に見える合図を一つ置きます。余興を始めるなら出演者を所定の場所へ立たせる、写真を撮るなら撮影者が中央へ移動する、締めへ入るなら飲み物を持つ人を近くへ集めるというように、次の出来事の形を先に見せます。参加者は言葉を全部聞かなくても、場の変化から次を予測できます。
手を高く振る、机をたたくといった刺激の強い合図は、繰り返す進行では疲労を増やしやすく、会場の品も損ないやすいものです。代わりに、立つ位置を変える、体を正面へ向ける、配布物を持つ、出演者の横へ寄るなど、目的とつながる動作を選びます。声と動作が同じ内容を指していれば、案内は一度で理解されやすくなります。聞き手に注意を強く求めるより、注意が向く理由を先に置くという考え方です。
合図を増やし過ぎると、今度は参加者が何を見ればよいか迷います。会の中で使う合図は、開始、移動、締めなど重要な切り替えに限ります。たとえば、移動の案内では通路側へ体を向ける、締めでは前方に立ってグラスを持つ、と決めておけば、後半ほど説明が短くなります。進行役の声を守るとは、話さないための工夫だけではありません。言葉の前に意味のある状況を作り、言葉を一回で役立てる準備です。
話さない時間に声を戻す
進行中の休止は、次の案内を頭の中で反復する時間ではありません。食事や歓談の間に、口を閉じたまま肩と顎の位置を戻し、飲み物を少量取り、次の場所へ移る時間として使います。幹事は会場の様子を見ているだけでも忙しくなりますが、口を開けたまま指示を探したり、近くの人へ細かく追加説明したりすると、正式な案内以外でも声を使い続けます。個別の確認は近づいて短く行い、会場全体への発話と分けます。
話さない時間に気をつけたいのは、無意識の咳払いです。乾いた感じがあるときに何度も喉を鳴らすと、休止のはずの時間に刺激を加えます。飲み物を少量ずつ取る、鼻から静かに息を入れる、肩を上げたまま立ち続けないといった小さな調整のほうが、次の案内へ入りやすくなります。声を休めるとは、完全に無音でいることを競う意味ではなく、不要な始動を減らすことです。
開始前に、誰へ何を確認するかを紙に短く書いておくと、休止中に同じ質問を何度も口に出さずに済みます。出演者の到着、料理の進行、時間のずれなどは、確認先を一人に定めます。情報が集まる場所を決めないと、幹事は会場の複数の人から断片的に聞き、都度説明することになります。休止を次の段取りへ使えるようにすると、声を出す場面は本当に参加者全体へ必要な案内に絞られます。
飲食と喉の乾きを分けて扱う
宴会では飲み物が近くにあるため、喉が乾いた感覚と、何かを飲みたい気分が混ざりやすくなります。進行役として次の案内があるときは、飲む量よりタイミングを決めます。長い案内の直前に急いで飲むと、口の中の感覚が変わったまま最初の語を出すことがあります。案内を終え、参加者が動き始めた後に少量を取り、口を閉じて次の動作へ移るほうが、切り替えが整います。
冷たい飲み物、香りの強い飲み物、炭酸を含む飲み物は、個人によって口や喉の感じ方が変わります。何が合うかをその場で試し続けるより、普段から違和感の少ないものを少量用意しておくほうが安全です。会の途中で喉を乾かし切らないために、歓談の前半、余興の前、締めの前という三つの区切りで水分を取ると決めれば、必要以上に飲食へ意識を奪われません。
喉の痛みや声枯れが続くときは、練習で押し切らず耳鼻咽喉科を受診してください。声の不調を飲み物だけで解決しようとすると、案内の回数や休止の不足を見落とします。幹事進行で重要なのは、一度の案内を完璧に響かせることではなく、終盤まで同じ精度で短い言葉を扱える配分です。飲食はその配分を支える要素の一つとして扱い、無理な調整を増やさないことが大切です。
終盤ほど文を減らす
宴会の終盤は、参加者ごとに集中の向きが違ってきます。会計や帰宅を気にする人、話を続けたい人、荷物を探す人が同時に動くため、前半と同じ密度で説明しても届き方はそろいません。この時間に案内を長くすると、聞き取れなかった人へ追加説明が発生し、幹事の声の回数がさらに増えます。終盤ほど、時刻、場所、必要な行動を一文ずつに分け、優先順位を明確にします。
たとえば締めの前には、参加者全体へ必要なことだけを述べ、個別の連絡は近くで渡します。忘れ物、精算、二次会、写真共有を一度に並べると、どれも後から聞き返されやすくなります。今すぐ動く必要があることを先に伝え、残りは掲示や担当者へ分けます。終わりの案内が簡潔であるほど、参加者は会の余韻を保ったまま自分の行動へ移れます。
進行役自身も、最後まで新しい言い回しを増やさないことが重要です。前半に使った短い案内の型を、締めの場面にも応用します。立つ、目的を一つ言う、口を閉じる、参加者の動きを見る。この順序が残っていれば、疲れても文章を足し過ぎずに済みます。繰り返し声をかける役目だからこそ、一回ごとの成功より一日の残量を基準にします。最後の一言まで声を使える進行は、早い段階で言葉を減らす設計から作られます。
よくある質問
- Q. 幹事の声が終盤になるほど枯れるのはなぜですか
- 会が進むほど会場のボリュームが上がり、それに負けまいと毎回声を張り続けることで喉を締め続けてしまうためです。声量よりも横隔膜を支える意識に切り替えると枯れにくくなります。
- Q. 参加者が盛り上がっている中で注意を引き戻すにはどうすればいいですか
- 急に大きな声を出すよりも、腹に圧をかけたまま一定の太さの声を出すほうが、かえって会場の耳に届きやすくなります。
- Q. 宴会が始まる前に短時間でできる準備はありますか
- 椅子に座ったまま口を軽く閉じて息を吐き切り、横隔膜のあたりを軽くつまむ感覚を作ってから開宴の一言を声に出すだけで十分です。長い発声練習は必要ありません。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →ビジネスボイトレとは。声で印象の主導権を握るために鍛えること
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