·プレゼンの声

乾杯・懇親会スピーチの声。ざわつきの中で届ける

忘年会や歓迎会で急に乾杯の音頭を任され、ざわつきとBGMに声が埋もれる人へ。グラスを掲げた場で届く第一声と短いスピーチの作り方を解説します。

奥津ユキ

忘年会や歓迎会の会場で、すでに飲み物が全員に注がれ、あちこちで会話とBGMが重なっている中、「乾杯の音頭をお願いします」と急に振られる瞬間があります。立ち上がってグラスを掲げても、最初の一声がざわつきに埋もれてしまい、乾杯の合図がうまく揃わないまま気まずい空気で終わることもあります。ここでは、その場のざわつきを声量だけで越えようとせず、届く声と短いスピーチの組み立て方を整理します。

なぜ乾杯の一声はざわつきに消されるのか

懇親会場の空気は、静かな会議室とはまったく違います。BGMが流れ、隣同士の会話が続き、グラスが触れ合う音も混ざっています。この中で声を届けようとして大きく張り上げると、喉で押した声になり、かえって通りにくくなります。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

声が埋もれるのは声量が足りないからではなく、息のスピードが足りないまま声を出しているからです。喉で押すほど、ざわつきの中では逆に沈んでいきます。

必要なのは声の大きさを競うことではなく、息を勢いよく流して声を前に運ぶことです。会場の広さや人数によって届かせるべき距離は変わりますが、意識するポイントは同じです。

奥津理論での見立て。息のスピードで声を運びます

声が通らない人に「もっと大きい声で」と伝えると、たいてい喉でがなった声になってしまいます。実際に効くのは、息のスピードを上げて吐き切ることです。息のスピードは自転車と同じで、ゆっくり漕ぐと倒れそうになりますが、スピードが乗れば自走できます。声も同じで、勢いのある息に乗せれば、張り上げなくても自然と前に届きます。

懇親会のようにBGMと話し声が重なる場では特に、この息のスピードの違いがそのまま届き方の差になります。声量を上げようと喉に力を入れる前に、まず息のスピードが足りているかを疑ってみてください。

急に「乾杯お願いします」と振られた時の第一声

指名された瞬間、多くの人はまず言葉の内容を考え始めます。ですが先に整えるべきは、立ち上がって最初に発する一音です。

「本日は皆様、お忙しい中お集まりいただき」

この出だしを、息を止めたまま喉から絞り出すと、最初の数文字が聞き手に届かないまま終わってしまいます。立ち上がる前に一度だけ息を吐き切り、吸い直してから話し始めると、最初の音がしっかり立ち上がり、ざわついた会場でも視線を集めやすくなります。椅子から立ち上がる動作とグラスを持ち上げる動作を同時に行うと呼吸が浅くなりがちなので、立ち上がってからグラスを持つまでの一拍で息を整えるつもりで臨んでください。

スピーチ本文を丸暗記する必要はありません

急にスピーチを頼まれると、正確な言葉を一字一句覚えなければと焦る人がいます。ですが、乾杯のスピーチは台本を完全に暗記しなくても十分に成立します。

覚えておくべきは、話す順番だけです。お礼の一言、場にふさわしい一言、乾杯の合図。この三つの順番さえ決めておけば、言葉が多少変わっても聞き手には自然な挨拶として伝わります。完璧な言い回しを探すことに気を取られるより、順番を決めて声の出し方に意識を向けたほうが、本番では落ち着いて話せます。手元にメモを持ち込んでも構いませんが、目を落とす回数が増えるほど声も沈みやすくなるので、見るのは順番の見出し程度にとどめておくと声が保ちやすくなります。

短い挨拶ほど、語尾まで届かせます

乾杯のスピーチは長く話す場ではありません。むしろ短いからこそ、一言一言の語尾が印象を決めます。

「至らぬ点も多いかと存じますが、これからよろしくお願いいたします」

この語尾が息切れで消えてしまうと、内容は丁寧でも自信のない印象に響いてしまいます。言い切る必要はなく、最後の一音まで息を保つだけで十分です。短いスピーチほど、語尾が残っているかどうかが会場全体の空気を決めます。特に乾杯の合図の直前の一言は、語尾がしっかり残っていることで、周囲がグラスを構えるタイミングを揃えやすくなります。

グラスを掲げて待つ間の緊張への対処

乾杯の合図を出す直前、グラスを掲げたまま会場が静まるのを待つ数秒間に、声が震えそうになる人がいます。この震えは緊張だけが原因ではなく、人前でこの動作を重ねる場に慣れていないことも関わっています。

対処は気持ちを強く持つことではなく、体側で支えることです。お腹に軽く圧をかけたまま待つと、声を出す瞬間に喉だけで支えようとする力みが減り、震えにくくなります。腹に力を入れたまま話すという感覚を、待っている間から途切れさせないでおくと、いざ声を出す瞬間も安定します。会場がなかなか静まらないときほど焦って早口になりがちですが、圧を保ったまま一拍待つ余裕を持つと、かえって注目が集まりやすくなります。

「乾杯」の号令そのものにも整え方があります

スピーチの本文以上に、最後の「乾杯」の号令部分は短い分だけごまかしがききません。ここで喉から絞り出すように叫んでしまうと、声が割れて聞き取りにくくなり、会場の唱和もバラバラになりがちです。

号令の直前にもう一度だけ短く息を吸い、その勢いのまま「乾杯」の一言に息を乗せて出すと、割れずに通る声になります。合図の後、間髪入れずに次の会話へ流れていくのが懇親会の常なので、この一瞬のためだけに息を整えておく価値があります。号令の直後にグラス同士を合わせる音や拍手が重なるので、そこまで声を保っておけば、多少後の言葉が小さくなっても場の空気としては十分に成立します。

二次会や小規模な集まりでの一言にも同じ考え方が使えます

大きな宴会場だけでなく、数人で集まる二次会や、部署内の小さな飲み会でも、乾杯の一言を任されることがあります。人数が少ない分、声を張らなくても届きそうに思えますが、逆に距離が近いからこそ、こもった声や早口な喋り方がそのまま伝わってしまいます。

規模が小さい場では、声量を絞ってもかまいません。ただし、最初の一音と語尾を意識するという基本は変わりません。人数の多さに関係なく、届かせる原則は同じだと考えておくと、急に振られたときにも迷わずに対応できます。

今日スマホ1つでできる練習

長い練習は要りません。まず、口を軽く閉じて息を吐き切ります。次に、肩を上げずに素早く息を吸い、そのまま強制的に速く吐き出します。この息のスピードの感覚を数回つかんだら、実際にスピーチの出だしの一言を、普段と同じ声量のまま録音してみます。

「本日は皆様、お忙しい中お集まりいただき」

聞き返すときは、声の大きさではなく、最初の音がすぐに立ち上がっているか、語尾まで息が保たれているかの二点だけを確認します。この二点が整えば、会場のざわつきの中でも声が通りやすくなります。最後に「乾杯」の号令部分だけを切り出して、割れずに出せているかも合わせて確認しておくと安心です。

自宅の部屋で練習する分には、実際の会場のざわつきを再現できません。それでも、この一言を落ち着いて言えるかどうかの土台を作っておくだけで、本番でざわつきに気を取られても声そのものは崩れにくくなります。何度も繰り返す必要はなく、二、三回録音して聞き比べるだけで十分です。

ざわつく場でも、乾杯の一声は変えられます

懇親会場のざわつきは、静かな会議室とは違う難しさがあります。ですが必要なのは声を張り上げることではなく、息のスピードを上げて前に運ぶこと、そして短いスピーチの語尾まで息を切らさないことです。

台本を完璧に覚える必要はありません。話す順番を決め、最初の一音を整え、語尾まで届かせる。この三点があれば、急に指名された乾杯の場でも落ち着いて声を届けられます。

急な指名は誰にとっても身構えるものですが、慌てて言葉を用意しようとするより、まず息を整えることを優先してください。言葉のつたなさよりも、声が沈んでいるかどうかのほうが、聞き手の記憶にはよほど強く残ります。回数を重ねるうちに、指名された瞬間の身構え方そのものも変わっていきます。

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よくある質問

Q. 乾杯のスピーチは台本を丸暗記したほうがいいですか
完全に暗記する必要はありません。話す順番だけ決めておけば、多少言葉が変わっても短いスピーチは十分に成立します。
Q. 乾杯の前に声が震えるのは緊張しているからですか
緊張も関わりますが、それだけではなく人前で声を出す場に慣れていないことも大きな要因です。回数を重ねる前提の練習で変わる部分です。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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