飲食店の注文復唱の声。騒がしい店内で正確に通す
宴会シーズンの居酒屋で復唱が埋もれる飲食スタッフへ。騒がしい店内でも品目ごとに正確に届く復唱と、厨房への通し声の整え方を解説します。
奥津ユキ
宴会コースで六名分の注文を一気に受け、隣の卓の笑い声とBGMが重なる中で復唱する。この声が届かないというご相談を受けたとき、私は声量の話から入りません。休憩中のバックヤードでスマホ一つあれば、三十秒で確かめられることが先にあるからです。
シフトの合間に、復唱を三通り録音してみてください
ボイスメモに、実際に使っている復唱の一文を録音します。
「生ビール二つと、から揚げを一つですね」
一回目は、忙しい時間帯と同じ速さでそのまま。二回目は、品目を言い切るたびに半拍だけ間を置いて。三回目は、顎を動かさず固定したまま、口の形だけを横に「い」の形で開けて読みます。
聞き比べるのは接客の巧拙ではなく一点だけ、品目の頭の音がこもっていないかどうかです。三回目の録音で頭の音の輪郭がはっきり立っていれば、騒がしい店内で復唱が埋もれていた原因は、声量不足ではなかったことになります。
騒がしさを抜けるのは音量ではなく、子音のはっきりさです
団体の卓が入る時間帯は、店内のざわめきそのものが厚みを増します。この状態で復唱の声を大きくしようとすると、喉に力が集まった声になりやすく、近くの卓には届いても、少し離れた厨房や別のスタッフには輪郭がぼやけたまま届きません。
見るべきなのは言葉の粒立ちです。品目の頭の音が喉の奥からこもったまま出ていると、後に続く数量や名称も一緒にぼやけて相手に届きません。先ほどの三回目で試した口の使い方を整えるほうが、声を張ることより先に、聞き返される回数を減らしてくれます。
頭の音が同じ品目は、違いの出る音だけを立てます
居酒屋のドリンクには、頭の音がそっくりな品目が並びます。烏龍茶と烏龍ハイ、レモンサワーとライムサワー。頭の音だけをはっきりさせても、この組み合わせは区別がつきません。聞き間違いが起きやすい品目ほど、違いが生まれる部分、烏龍茶なら「茶」、烏龍ハイなら「ハイ」の側をほんの少しだけ立てて復唱します。全部の音を強くする必要はなく、分かれ目の一音だけで十分です。アルコールの有無が分かれる注文は、取り違えるとそのまま作り直しになるので、この分かれ目の置き方がいちばん効く場所でもあります。
余裕のある日に、紛らわしい二品を続けて言う録音を一つ足してみてください。再生して自分の耳で聞き分けられない復唱は、ざわめきの中のお客様にはまず届いていません。逆に、録音で分かれ目がはっきり聞こえるなら、店内でもそのまま通ります。
品目ごとの半拍の区切りは、遅くなることとは違います
一息で言い切ろうとすると、品目と品目の境目が消えてしまいます。一つの品目を言い切ってから次に移る、という順番さえ守れば、全体の速さはほとんど変わりません。むしろ区切りのある復唱のほうが、聞き返しによるやり直しが減り、結果として時間の節約になります。急いで処理しようとするほど区切りは消えやすいので、忙しい時間帯ほど、半拍の間を意識的に残してください。
この区切りがいちばん崩れやすいのは、ラストオーダー間際です。「お飲み物のラストオーダーですが、ご注文はよろしいでしょうか」と各卓を回る頃には、こちらの喉も一日分の疲れをためていて、駆け込みの注文が複数の卓から同時にかかります。急ぎたくなる場面ほど、品目の境目だけは手放さないでください。ここで区切りが消えると、閉店間際の作り直しという、いちばん痛いやり直しにつながります。
厨房への通し声は、喉ではなくお腹で支えます
復唱のあと、厨房の呼出口に向かって「オーダーどうぞ」と伝票を通す場面があります。調理音や換気扇の音に負けまいと喉で押し出す声を毎回繰り返していると、閉店の頃には確実に喉が重くなっています。長時間声を出し続けて枯れる人の多くは、実は喉の締めすぎが原因だと私は見ています。横隔膜のあたりを前にやわらかくつまみ出すような感覚を、声を出す前も出したあとも保っておくと、同じ回数の呼びかけでも喉に積み重なる負担が変わってきます。呼びかけの直前に、口を閉じたまま短く息を吐き切ってから声を出すのも効きます。換気扇の真下やフライヤーの近くなど、音の壁が厚い立ち位置なら、声を大きくする前に呼出口へ半歩寄る。距離を先に詰めてから声を出す順番のほうが、喉に払うコストはずっと小さくて済みます。
満席が続く時間帯は、一日のうちで復唱の回数がもっとも増えます。ここで頼りたいのが、お腹のあたりに軽く圧をかけ続ける感覚です。吐くときだけでなく、次の卓に向かうために息を吸うときにもこの圧を抜かずにおく。お腹を大きく膨らませたりへこませたりする動きではなく、常に軽く圧をかけ続けておくという感覚のほうが、忙しい時間帯には向いています。
伝票を書きながら復唱すると、声が下を向きます
団体の卓で品目を伝票に書き留めながら復唱すると、視線が手元に落ち、声もつられて下を向いたまま出てしまうことがあります。下を向いて話すと声が自分の胸元にこもり、テーブルを挟んだ相手や、少し離れた別のスタッフの耳まで届く前に音量が落ちます。
手元の作業と声を出すタイミングを無理に一致させる必要はありません。品目の語尾を言い切ってから伝票に視線を戻すくらい、ほんの少し声を先に出しておくだけで、下を向いたまま話す癖は減ります。一瞬だけ顔を上げて言い切る、という順番を意識してみてください。
ハンディ端末で注文を打ち込む店でも、起きることは同じです。画面を見つめたまま親指が先に動き、入力のリズムに引っ張られて復唱まで早口になっていきます。確定ボタンを押すのは、品目を言い切って相手の頷きを見てからで間に合います。書き留める道具が紙でも端末でも、順番は声が先。この順番にしておくと、下を向いている時間そのものが短くなります。
聞き返された時、大きな声で言い直す前にできること
復唱を聞き返された瞬間、多くの人はさっきより大きな声で言い直そうとします。大きな声も助けにはなりますが、それだけが正解だとは私は思っていません。先ほどの復唱の一文を、もう一度まったく同じ速さと大きさで繰り返しても、聞き取れなかった理由が解消されていなければ結果は変わりません。区切りをいつもより長めに取る、品目の頭の音を少しだけはっきりさせる。こうした変化のほうが、二回目でしっかり伝わることが多いです。
掘りごたつの奥やテーブルの端など、注文した本人との距離が遠い時は、声を張る前に立ち位置を半歩だけ変えてみてください。声の通り道から、話し込んでいる別のお客様の背中を外すだけで、同じ声量でも届き方が変わります。復唱の前に注文した方と一度目を合わせるのも、聞き取る準備をしてもらうという意味で、声より先に効く工夫です。
卓ごとに発声を作り変える必要はありません
宴会の団体客の卓と、静かに食事を楽しむ二人客の卓とでは、求められる声の雰囲気が違って感じられます。だからといって、卓ごとに発声そのものを一から作り変えようとすると、その切り替え作業自体が余計な負担になります。賑やかな卓でも静かな卓でも、口を開く前に息を先に流しておくという順番自体は変わりません。土台になる息の運び方は共通にしておき、声の高さや速さだけを卓の雰囲気に合わせてわずかに動かすほうが、卓を渡り歩くたびに喉を新しく組み直さずに済みます。
接客業は常に高めの明るいトーンで話すべきだと言われることがありますが、私はそこに固定する必要はないと考えています。品目を言い切ったあとに少しトーンを落とす瞬間も含めて、抑揚として使うほうが、確認している安心感は伝わりやすくなります。
開店前に大きな声を出す練習を毎日重ねている方もいますが、間違った出し方のまま繰り返すと、鍛えられるどころかダメージが蓄積していきます。大切なのは回数や大きさを増やすことではなく、一回一回の出し方を整えることです。
閉店まで声を残すための、シフト前のひと確認
喉に痛みや強い違和感が続く場合は、練習の量を増やす前に、専門家への相談も選択肢に入れてください。そのうえで、今日のシフトに入る前の確認はひとつだけです。「生ビール二つと、から揚げを一つですね」を、顎を固定して口の形だけ横に開けて一度だけ録音し、頭の音の輪郭を聞く。復唱、厨房への通し声、伝票への書き込み。開店から閉店まで声の役割はめまぐるしく入れ替わりますが、確かめる場所は品目の頭の音、半拍の区切り、お腹の圧の三つだけです。忙しさに押し流されて声だけが荒れていく前に、今夜の最初の一卓から試してみてください。
よくある質問
- Q. 騒がしい店内で復唱が届かないのは声量が足りないからですか
- 声量よりも子音のはっきりさが足りていないことが多いと感じています。大きさを足す前に、品目の頭の音をどう置いているかを見直してみてください。
- Q. 聞き返された時は、もっと大きな声で言い直すべきですか
- 大きな声も助けにはなりますが、私はそれだけが正解だとは思っていません。少しゆっくり話す、言い方や区切り方を変えるほうが伝わる場合もあります。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →ビジネスボイトレとは。声で印象の主導権を握るために鍛えること
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