声が低すぎて聞き取りにくい。こもりと暗さを抜く
オンライン会議や電話で「聞こえません」「もう一度お願いします」と言われる。地声を作り替えず、こもりの正体と口の開け方から聞き取りやすさを整える方法を紹介します。
奥津ユキ
オンライン会議で「すみません、もう一度お願いします」と何度も言われる。電話で「もしもし、聞こえてますか」と聞き返される。声が小さいわけではないのに、なぜか聞き取りにくいと言われる人へ。原因を地声の低さだけに求める前に、マイクの前でどんな口の開け方をしているかを一度確かめてみてください。
マイク越しだと、地声の低さがそのままこもりに変わります
リモートワークが中心になり、一日の大半をオンライン会議と電話で過ごしている人ほど、この悩みにぶつかりやすくなります。対面で近くにいる相手には普通に届いている声が、マイクを通した瞬間にくぐもって、何を言っているか聞き取りにくくなる。画面越しの相手から「今のところ、もう一度いいですか」と言われるたびに、声そのものを作り替えなければと感じてしまいます。
ここで多くの人がやってしまうのが、無理にワントーン高い声を作ろうとすることです。ただ、無理をしてまで高い声を作る必要はありません。低い声そのものが悪いわけではなく、こもって聞こえる原因は別のところにあることがほとんどだからです。
電話とオンライン会議とでは、こもり方の出方が少し違います。電話は音域が狭く切り取られるぶん、低い帯域はさらに沈みやすくなります。オンライン会議はマイクとの距離や部屋の反響も加わるため、同じ声でも会議室によって聞こえ方が変わることがあります。どちらの場面でも、対策として真っ先に音量を上げようとする人が多いのですが、こもったまま音量だけを上げても、輪郭がぼやけた音が大きくなるだけで聞き取りやすさにはつながりません。
地声の低さは変えられないと諦める前に
声が低くて聞き取りにくいと言われると、生まれつきの声帯の形だから仕方がないと思ってしまいがちです。声の低さそのものは生まれつきの部分もありますが、少し高めに音を取るようにするだけで、実は変えられる部分でもあります。生まれつきだからと固定して考えず、音の置き所を調整できると知っておくだけで、選択肢が増えます。
もう一つ見直したいのが、声がこもる原因を口の開け方の小ささだけに求めることです。口を大きく開ければこもりが直るとは限りません。開け方が縦に大きすぎたり、必要以上に口を動かしすぎたりすること、そして喉ぼとけの位置が下がりすぎていることも、こもりに関わっています。開け方の量ではなく、向きと喉ぼとけの位置をあわせて見る必要があります。
こもりを喉の奥のせいにする前に、口角と鼻腔を見ます
声がこもって聞き取りにくい時、舌の根元を上げて気道を確保しようとする人がいますが、根元にはあまり力を入れない方がいいです。むしろ見るべきは、口角と鼻腔の使い方です。
オンライン会議の画面越しだと、口だけで喋ってしまいがちになります。口だけで音を出すとモゴモゴした響きになりやすく、そこに低い地声が重なると、こもりはさらに強くなります。口角を少し上げるだけで、意図しなくても声が自然と鼻腔のほうに乗るようになり、こもりが和らぎます。鼻にかけようと意識しすぎるより、口角を上げることのほうが自然に効果が出ます。
「本日の議題は三点あります」の一文でこもりを聞く
長い原稿は要りません。オンライン会議の冒頭でよく使う、次の一言を録音してみてください。
「本日の議題は三点あります」
対面で話した時の音と、パソコンのマイクを通して録音した音を聞き比べます。見るのは、「本日」の出だしが鼻の奥に響いているか、それとも口の中だけでこもっているか。「三点」の子音がぼやけずに立っているか。語尾の「あります」まで音がやせずに残っているか。この三点を確認してください。
聞き取りにくさ対策でやってしまいがちなNG
聞き取りにくいと指摘されるたびに、喉の奥から低い声を押し出すように意識する人がいますが、これは喉ぼとけをさらに下げてしまい、かえってこもりを強めます。同じように、マイクに口を近づけて音量だけを上げようとするのも、音の輪郭がぼやけたまま大きくなるだけで、聞き取りやすさにはつながりません。
顎を大きく縦に開けて発声しようとするのも要注意です。縦に開けすぎると口の中の空間が変わり、こもった響きになりやすくなります。顎は固定気味にして、横に「い」の形で開けておくほうが、声の輪郭がはっきりします。
説得力を出すために低くて落ち着いた声にしなければと考える人もいますが、それは一つの手法であって唯一の正解ではありません。声をしっかり出して明るくハキハキ話すことでも、説得力は十分に上がります。低さにこだわりすぎるより、聞き取りやすい輪郭を優先したほうが、結果として説得力にもつながります。
会議に入る前、30秒でできる整え
オンライン会議が始まる直前に、これだけをやってください。口角を軽く上げた状態を作り、顎を固定したまま「本日の議題は三点あります」を小さな声で一度だけ言ってみます。声量を上げようとせず、口角の位置と、鼻の奥に音が抜けているかどうかだけを確認します。
このひと手間だけで、画面の向こうに届く音の輪郭がはっきりし、聞き返される回数が減っていきます。
話しているうちに疲れが出て、口の開け方が小さくなり、こもりが強くなってくることもあります。気づいたら、まず今話している一文を短く区切ってください。区切ったところで、口角を軽く上げ直します。それでも輪郭がぼやけたままなら、次の一言に入る前にひと呼吸だけ間を置き、鼻の奥に音を通す感覚を思い出してから話し始めます。
区切る、口角を上げ直す、間を置く。この三つを手順にしておくと、長い会議の後半でも聞き取りにくさが積み重なるのを防げます。
録音でチェックするのは、声の低さではなく音の抜け方
自分の低い声を録音で聞くと、こもりばかりが気になって落ち込みがちですが、判定を「低いか高いか」にしてしまうと、直す場所が見えなくなります。見る場所を三つに絞ってください。
出だしの音が鼻の奥に抜けているか。子音がぼやけずに立っているか。語尾まで音の輪郭が保たれているか。声の高さそのものを評価するのではなく、音がどこで濁っているかを聞き分けることに集中してください。
対面でもオンラインでも、見る場所は変わりません
対面での1on1では聞き取れているのに、オンラインになると急にこもると感じる人もいますが、実際に見るべき場所は同じです。口角の高さ、顎の固定、鼻腔への抜け方。マイクという条件が変わっても、体の使い方そのものは共通しています。対面だと相手の表情から「伝わっていない」というサインを目で拾えるぶん、無意識に口の開け方を調整できています。オンラインではその手がかりが減るので、こもりに気づきにくいだけとも言えます。
条件が変わるたびに違う対策を探すより、この三点をどんな場面でも同じように確認する習慣をつけておくと、聞き取りにくさへの不安は減っていきます。低い声を高く作り替える必要はなく、いつもの声の輪郭をはっきりさせるだけで、聞こえ方は少しずつ変わっていきます。
一週間ためこむより、今日の一件で確かめます
聞き取りにくさは、積み重なるほど「自分の声のせいだ」という思い込みに変わっていきます。ですが実際に変えられるのは、口角の高さと顎の固定、それだけです。今日これから入るオンライン会議か電話のどちらかひとつを選び、冒頭の一言だけこの三点を意識して話してみてください。一週間分の練習を計画する前に、まず一件で確かめるほうが、変化を実感しやすくなります。聞き返された回数を数えるより、口角と顎の状態を先に整えられたかどうかを基準にしてください。声を丸ごと作り替えるのではなく、こもりの原因になっている一点だけを直す。この積み重ねが、聞き取りやすさとして少しずつ返ってきます。
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よくある質問
- Q. 地声が低いのは生まれつきなので変えられませんか
- 声帯の形自体は変えられませんが、少し高めに音を取るだけで聞き取りやすさは変わります。生まれつきだからと諦める必要はありません。
- Q. 口を大きく開ければこもりは直りますか
- 開け方が縦に大きすぎたり動かしすぎたりすると、かえってこもって聞こえることがあります。開け方の向きと喉ぼとけの位置もあわせて見る必要があります。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
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