動画撮影・収録で声が震える。カメラ前の緊張を抜く
会社紹介動画や研修動画の収録でカメラの前に立つと声が震える人へ。人前とは違うカメラならではの緊張の正体と、撮り直し前にできる整え方を解説します。
奥津ユキ
会社紹介や研修動画の収録で、テイクを重ねるほど声の震えがひどくなる。人前のスピーチなら平気なのに、カメラが回った途端に崩れる。この悩みには、カメラ収録ならではの仕組みが働いています。まず、スマホ一台でその仕組みを体感してください。
インカメラで十五秒、二本だけ撮り比べます
スマホのインカメラを自分に向けて、動画で次の一文を撮ります。
「初めまして、営業部で企画を担当しております」
一本目は、レンズをまっすぐ見つめたまま。二本目は、レンズの少し下に、話しかけたい同僚を一人だけ思い浮かべて、その人に伝えるつもりで同じ一文を話します。実在の相手でも架空の相手でも構いません。
撮り比べに使う一文は、実際の収録で使う自己紹介に置き換えても構いません。大事なのは、同じ文のまま、視線の先だけを変えて比べることです。
二本を再生して比べると、二本目のほうが息が流れ、声の揺れが小さくなっている人が多いはずです。両方とも震えていたとしても、語尾の伸び方や間の落ち着きに差が出ます。反応のないレンズに向かって話すことと、誰かに向かって話すこと。この違いこそが、カメラ前の震えの核心です。
レンズからは、うなずきが返ってきません
プレゼンや面接での震えは、その場にいる相手の反応によって、途中でふっとほどける瞬間があります。カメラ収録にはそれがありません。うなずきも相槌も返ってこない相手に向かって話し続けると、声を支える体の緊張がほどける機会のないまま、収録だけが進んでいきます。
声の震えは気持ちの弱さの表れだと思われがちですが、息の出し方や声帯まわりの筋肉の使い方が影響している部分が大きく、メンタルだけで説明がつくものではないと私は感じています。反応のない環境では、この筋肉の緊張が固定されやすい。だからこそ、人前では平気な人がカメラの前でだけ震える、ということが起こります。
撮影現場にカメラマンや同席者がいる場合も、頼る先はレンズの下の一人です。現場の人は機材やモニターを見ていることが多く、目が合うとは限りません。うなずきを探して視線が泳ぐくらいなら、最初から思い浮かべた一人に話しかけるほうが、声は安定します。
もう一つ、カメラ収録では自分の声が部屋に響いて自分の耳へ返ってきます。静かな会議室で一人だけ話し続ける、あの独特の心細さです。響きが気になる時は、声を張って部屋を満たそうとせず、レンズ下の一人へ届く声量で構わないと決めてしまってください。動画の声はマイクが拾ってくれます。部屋の隅まで届かせる必要はありません。
撮り直せる安心が、緊張を次のテイクへ持ち越させます
動画には、うまくいかなければ撮り直せるという安心感があります。ところが、この安心感が逆に働くことがあります。一発勝負ではないぶん、NGを出した瞬間に気持ちを切り替えないまま、直前の緊張を抱えて次のテイクに入ってしまうのです。
NGの直後にゆっくり落ち着いて話し直そうとする人が多いのですが、私の見立てでは逆効果になりやすい方法です。ゆっくり丁寧に話すほど一音ずつが長く伸びて、震えが際立って聞こえます。次のテイクは、いつもよりわずかに速いテンポで入ってください。速さが増すと一音が短くなり、震えの乗る余地が減って、そのテイクを通過しやすくなります。
テイク間の切り替えには、声に出す合図も使えます。録画を止めたら、ひと言「切ります」と声にしてから体を動かす。無言のまま次へ進むより、区切りが体に入り、直前のテイクの緊張を持ち越しにくくなります。
元気よく・ゆっくり・完璧暗記は、どれも遠回りです
震えを隠すために試されがちな方法が三つあります。無理に元気よく振る舞う。あえてゆっくり話す。原稿を完璧に覚えて感情を消して読む。どれも私はすすめていません。
元気に振る舞うほど自分へのプレッシャーが強まり、虚勢の分だけ震えが戻ってきます。ゆっくり話すのは、先に述べたとおり震えを目立たせます。完璧な暗記は、一か所つかえた瞬間に頭が白くなる危険と引き換えです。必要なのは震えを消す演技ではなく、伝えたい言葉を順番どおりに置いていく話し方です。出だしを短く区切る。肩書きの手前でひと呼吸だけ置く。語尾まで息を残す。この三つで、震えが多少残っても内容はきちんと届きます。
三つの方法に共通するのは、震えという結果だけを消そうとしている点です。息が止まりやすい環境そのものは変わっていないので、うまくいっても一時しのぎで終わります。順番を逆にして、息が流れる状況を先に作る。冒頭で試した、話しかける一人を決めておくのは、そのための手当てです。
テイクの合間は、喉ではなく肩を見ます
撮り直しを重ねると、多くの人は声の出し方ばかり直そうとします。ですが後半のテイクで実際に起きているのは、肩が上がり、呼吸が浅くなっていることのほうです。
次のテイクに入る前に、肩を一度大きく持ち上げてから、ゆっくり下ろしてください。続けて、口を閉じたまま息を吐き切り、肩を上げないよう気をつけながら短く吸い直します。そのまま、声には出さずに一文の口の形だけをなぞり、最後に小さな声量で一度だけ声にします。ここで確かめるのは、最初の音が抜け落ちていないか、語尾まで息がもっているか、の二点だけです。震えが消えたかどうかは見なくて構いません。
長い原稿は、一文ずつ区切って撮る手もあります
編集でつなぐ前提の動画なら、原稿を通しで撮り切る必要はありません。一文か二文ごとに区切って撮ると、緊張が積み上がる前にテイクが終わるため、震えが固定される時間そのものを短くできます。区切るたびに、先ほどの肩の上げ下ろしを挟めるのも利点です。
通しで撮ることが決まっている研修動画などでは、段落の切れ目で一度だけ視線をレンズから外し、また戻す、という動きを事前に決めておきます。ずっとレンズを見続けるより、決めた場所で視線が動くほうが、緊張の固定がゆるみ、映像としても不自然になりません。
見返しは、残っている音を探す時間です
撮った動画をその場で確認すると、声の震えと表情のこわばりが一度に目へ飛び込んできて、落ち込みだけが増えることがあります。見返しはダメ出しの時間ではありません。聞く場所を先に三つへ絞ります。最初の音が取りこぼされていないか。肩書きの手前の間が潰れていないか。語尾の一音まで声が残っているか。
震えの有無を採点し始めると、確認はそこで止まってしまいます。むしろ、震えながらでも最後まで声が残っているテイクを探してください。そのテイクの体の使い方が、次に撮る一本の土台になります。
また、見返しは撮影の合間に毎回やる必要はありません。二、三テイクごとに一度で十分です。毎回見ると、確認ではなく粗探しになっていき、次のテイクへ緊張だけが積まれていきます。
撮影当日は、一文と一人を決めて入ります
収録の日にやることを増やす必要はありません。決めておくのは二つ。今日の最初の一文と、レンズの下に思い浮かべる一人です。
移動中にできる準備もあります。撮影場所へ向かいながら、今日の一文を口の中で小さくなぞっておく。声を出せる場所なら、ささやきで語尾まで言い切っておく。体がその一文を覚えた状態で現場に入ると、一本目のテイクの硬さがずいぶん違います。
本番の前に、インカメラでもう一度だけ撮ってください。
「初めまして、営業部で企画を担当しております」
その一人に届いた手応えがあれば、レンズの向こうに誰もいなくても、あなたの息は流れ続けます。それでも震えが残る日はあります。その日は、震えの残ったテイクの中から、語尾まで声が届いている一本を選べば大丈夫です。画面の向こうの視聴者が受け取るのは、震えの有無より、話しかけられている感覚のほうだからです。震えを消してから撮るのではなく、誰かに話しかけながら撮る。カメラ前の声は、その順番で変わっていきます。
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カメラ収録の声を、別の切り口からも整えたい人はこちらをどうぞ。
よくある質問
- Q. 人前で話すのは平気でもカメラの前だと声が震えるのはなぜですか
- 反応が返ってこない相手に向かって話し続けることと、撮り直せるという安心感が逆に緊張を長引かせることが関係していると私は感じています。
- Q. NGを出すたびに緊張が強くなるのですが、どうすればいいですか
- ゆっくり話し直そうとするより、次のテイクではあえて少し速いテンポで話し始めるほうが、震えを目立たせずに通過しやすくなります。
- Q. 撮影本番の直前にできる練習はありますか
- 収録で使う最初の一文だけをスマホで一度録音し、出だしの音と語尾だけを確認してください。長い発声練習は本番直前には向きません。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →プレゼンで声が震える原因と対策。メンタルではなく筋肉から整える方法
プレゼンで声が震える原因は、メンタルではなく筋肉です。本番3分前にできる対策2つから、前日・1週間かけてやる本格対策まで、ボイストレーナーが時間軸別に整理しました。
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