単調で聞き手が眠くなる声。起伏で引きつける

新人研修や重要事項説明、長時間の講義で聞き手が眠くなる単調な声を、大きさではなく高さのレンジを広げることで引きつける方法を紹介します。

奥津ユキ

新人研修のスライドを50枚説明する。重要事項説明で契約条件を一字一句読み上げる。90分の講義を毎週続ける。どの場面でも「間違いなく話せているのに、後半になると聞き手のまぶたが落ちてくる」という悩みをよく聞きます。これは内容が悪いからでも、聞き手のやる気がないからでもありません。声の高さがほとんど動かないまま長時間続いていることが、大きな要因のひとつです。

単調な声で聞き手が眠くなるのは、本当にそれだけが原因でしょうか

「話が単調だから聞き手が眠くなる」という見方はよく耳にしますが、それだけと決めつけるのは早計です。私の実感では、単調さもたしかにありますが、内容の構成や伝え方も関わってきます。お経のように一定の調子で話され続けると、聞くだけでも体力を使うのは事実です。だからこそ、内容を練るのと同時に、声の高さの動かし方も見直す価値があります。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

抑揚は感情を作り込む技術ではありません。声の高さをどれだけ広く動かせるかで、同じ内容でも聞こえ方は変わります。

新人研修のスライド50枚、なぜ半分を過ぎたあたりで船を漕ぎ始めるのか

新人研修の講師は、スライドの文字を漏れなく説明しようとするあまり、一枚ごとの声がほぼ同じ高さで進みがちです。

「続いて、こちらの手順についてご説明します」

この一文を毎回同じ高さで繰り返すと、スライドが変わっても声の印象は変わらず、聞き手の耳は次第に情報を選別しなくなります。私が見るのは、スライドが切り替わる「続いて」の部分で、声の高さがわずかでも動いているかどうかです。ここが毎回同じ高さのままだと、50枚のうちどこが大事な転換点なのか、声だけでは伝わりません。

重要事項説明の「読み上げ義務」が、声を平らにする

不動産の重要事項説明は、法律で定められた文言を漏らさず読み上げる必要があります。正確さを最優先するあまり、契約条件をひとつの高さのまま淡々と読んでしまう人は少なくありません。

「本物件の設備は、給湯設備、ガス設備、給排水設備です」

正確に読むことと、単調に読むことは本来別の話です。項目が並ぶ「給湯設備、ガス設備、給排水設備」のような列挙部分こそ、ひとつずつわずかに高さを変えるだけで、聞き手には項目が区切られて届きます。読み間違えないようにと身構えるほど、声の高さは動かなくなりがちなので、間違えない範囲で高さを動かす練習を別に確保しておく価値があります。

90分の講義、後半になるほど単調になっていく理由

大学や専門学校の講義は、90分という長さそのものが単調さを助長します。序盤は身振りも交えて話せていても、後半に近づくにつれて省エネモードに入り、声の高さの動きが小さくなっていく人が多いです。

「では、次のポイントに移ります」

この移行の一言が、講義の前半と後半で同じ動かし方をしているかを、自分で振り返ってみてください。体力が落ちる後半こそ、大きな声で挽回しようとするのではなく、区切りの一言だけ高さを意識して動かす方が効率的です。

三つの現場を並べて、単調になりやすい理由を比べます

現場単調になりやすい理由高さを動かす場所
新人研修スライドの説明を漏らさず読もうとするスライドが切り替わる合図の言葉
重要事項説明読み間違えないよう慎重になる項目が並ぶ列挙部分
90分の講義後半に体力が落ち省エネになる話題が切り替わる合図の言葉

三つとも、単調になる理由そのものは違います。読み漏れを避けたい、間違えたくない、体力を温存したい。どれも真面目に取り組んだ結果として声が平らになっているだけで、手を抜いているわけではありません。だからこそ、感情の入れ方ではなく、区切りの一語という具体的な場所に絞って高さを動かす方が、無理なく続けられます。

抑揚は声の大きさでなく高さで作ります

単調さに気づいた人ほど、声を張って感情を込めようとしますが、これは喉に力が入りやすく、聞き手にはむしろ苦しそうな印象として届きます。抑揚をつけるために重要な言葉をすべて大げさに強調する必要もありません。本当に大事な一箇所だけ意識して、残りは自然に流す方が、聞き手には無理なく届きます。抑揚がないのは感情表現が苦手だからだと思われがちですが、私の実感では、単に高さを動かそうと意識していないだけということも多くあります。

それぞれの一文で、高さを動かす練習をします

抑揚のレンジを広げる練習には、内容も結末も知っている昔話が向いています。大きさは変えずに、声の高さだけを上下させて読んでみてください。この感覚がつかめたら、自分の現場の一言に置き換えます。

新人研修なら「続いて、こちらの手順についてご説明します」の「続いて」で高さを上げてから話し始める。重要事項説明なら「給湯設備、ガス設備、給排水設備」の項目ごとにわずかに高さを変える。講義なら「では、次のポイントに移ります」の「では」を、いつもより少しだけ高く置く。この程度の動きで十分です。

スマホ録音でレンジをチェックします

本番で使う一文をスマホで録音してください。一回目は普段どおりに読みます。二回目は区切りの言葉で高さをわずかに上げてから読みます。三回目は列挙部分や次の話題に移る言葉で高さを変えることだけを意識します。

聞き返すときに上手・下手の採点をする必要はありません。確かめたいことはひとつだけ、区切りの言葉のところで音の高さが実際に動いたかどうかです。動いていれば、その録音を今日の基準にして構いません。

一週間、区切りの一語だけを聞き比べます

毎回違う練習を試すと、何が効いたのか分からなくなります。最初の一週間は、自分の現場でいちばんよく使う区切りの一語だけに絞ってください。新人研修なら「続いて」、重要事項説明なら列挙の一項目、講義なら「では」。

一日目はその一語で高さが動いているかどうかだけを聞きます。二日目は、その一語の前にひと呼吸置けているかを見ます。三日目は、本番と同じ長さで通して話しても、その一語のところだけは高さが保たれているかを確認します。一週間続けると、自分がどの場面のどの一語を平らに流しやすいかが具体的に見えてきます。

聞き手の反応は、声だけの問題ではありません

単調さを直せば必ず聞き手の集中が続くとは限りません。内容の組み立て方、資料の見やすさ、話す速さも関わってきます。声の高さを動かす練習は、こうした他の要因を無視してよいという意味ではなく、内容や構成を整えたうえで、声の面からも聞き手を引きつける余地を持っておく、という位置づけで考えてください。

本番直前にできる準備

長い発声練習は要りません。口を閉じたまま一度息を吐き切り、肩を上げずに短く吸い直し、これから話す原稿の中でどこの高さを動かすかをあらかじめ決めておくだけです。新人研修ならスライドの切り替わり、重要事項説明なら項目の変わり目、講義なら話題の転換点。この程度の準備で、本番の声の動きはずいぶん変わります。

オンライン開催になると、単調さはさらに気づかれにくくなります

新人研修も重要事項説明も講義も、近年はオンラインで行う機会が増えています。画面越しでは聞き手の表情や姿勢の変化が見えにくく、船を漕ぎ始めても話し手の側では気づけません。対面以上に、声そのものの高さの動きだけが頼りになる場面だと考えてください。カメラの前で身振りを大きくする代わりに、区切りの一語で高さを動かすことに意識を向ける方が、画面越しでは効果を感じやすいです。

まとめ

新人研修のスライド、重要事項説明の読み上げ義務、90分の講義。場面は違っても、聞き手が眠くなる単調さの正体は、声の高さがほとんど動かないまま長時間続いていることです。感情を込めようとするより、区切りや項目の変わり目で高さをわずかに動かすことを、実際に使う一言で試してみてください。

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よくある質問

Q. 声が単調だと、聞き手が眠くなるのは本当ですか
単調さだけが原因とは言い切れません。内容や伝え方も関わりますが、お経のような一定の話し方が集中を切らせやすいのも実感としてあります。
Q. 抑揚をつけるには、重要な言葉を大げさに強調すべきですか
全部を大げさにする必要はありません。本当に大事な一箇所だけ強調すれば十分で、やりすぎるとかえって不自然に響きます。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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