研修講師が一日話しても通る声。後ろまで届かせて枯らさない

研修講師として朝の大会議室から午後の少人数ワークまで会場の形式が変わる一日を担当する人へ。後ろまで届かせながら喉を枯らさない声の配分を解説します。

奥津ユキ

一日の研修を、朝は百人規模の大会議室、午後は五、六人ずつの卓を回るグループワーク、夕方は質疑応答というように、会場の規模も形式も変わりながら担当する講師の方は少なくありません。私が見てきた限り、この一日で声が崩れる原因は話した量そのものより、会場が変わるたびに声の切り替えができていないことのほうが多いです。

朝の大会議室では、話し始める前に届かせる準備をしておきます

百人が入る会議室で話し始める瞬間、後方の反応が見えないまま声を出すと、届いているかどうか分からない不安から、つい力んで押し出す声になりがちです。この押し出しが、その日の喉の消耗の出発点になります。

私がすすめているのは、マイクを持つ前に一度だけ、後方の壁を見て軽く息を吐き、体の前側に息の通り道を作ってから第一声を置くことです。「皆さん、後ろの方まで聞こえていますでしょうか。それでは本題に入ります」という一文を、力で届かせるのではなく、息をその方向に流す感覚で出してみてください。ここで喉に頼らず届かせる感覚をつかめると、その日の残りの声の消耗量が変わります。

大会議室の声のまま、午後の少人数ワークに移ると疲れます

午前中に大会議室で通る声を作った講師ほど、午後に五、六人の卓を回るグループワークに移った瞬間も、同じ声量で話し続けてしまうことがあります。近い距離の相手に大会議室仕様の声で話しかけると、聞き手は圧を感じて構えてしまいますし、講師自身も声量を落とさない分、余計な力を使い続けることになります。

会場が変わったら、まず声の大きさより先に、話す速さと間を変えてください。少人数の卓では、大会議室で使っていた抑揚をそのまま小さくするのではなく、間を長めに取り、相手の反応を待つ余白を作ります。声量は自然と下がり、喉への負担もそこで一段減ります。

卓を回る時は、テーブルごとに声の仕切り直しが必要です

グループワークの巡回中、一つの卓で個別に話しかけた直後に、全体へ向けて説明を続けることがあります。この切り替えの瞬間、声の対象を変えたつもりでも体の向きが卓を向いたままだと、全体への声は届かず、逆に卓の一人に向けた声のまま全体へ話しかけると、その一人には威圧的に響きます。

卓の会話から全体への声に戻す時は、体をいったん教室の中央へ向け直してから話し始めてください。声を切り替えるのではなく、体の向きを切り替えることで、声は自然に対象に合った大きさへ戻ります。

立食形式の昼休憩ほど、声を休ませる工夫が要ります

研修の合間に、参加者と立食形式で昼食をとりながら会話する場面もあります。休憩時間なのだから声は休んでいるはずだと思われがちですが、雑談の場では声を張らないまま複数人と同時に話そうとして、かえって喉に負担がかかっていることがあります。

昼休憩では、話す内容を選ぶ余裕はなくても、声の届け方だけは意識してみてください。相手との距離を一歩詰めてから話す、周りの雑音に負けじと張り上げるのではなく相手の顔の高さに声を置く。この二つを守るだけで、午後の研修に入る前の消耗を抑えられます。

会場間を移動する数分も、声を戻す時間として使います

大会議室からグループワーク用の部屋へ、あるいは別のフロアの会議室へと移動する数分間は、多くの講師がただの休憩として流してしまいます。ただ、この移動時間こそ、次の会場に合わせて声を仕切り直す唯一のまとまった時間です。

エレベーターや廊下を歩く間、次の会場で最初に使う一言だけを頭の中で一度声に出さずになぞってみてください。「では、ここからは各テーブルで話し合ってみてください」であれば、声に出さず口だけ動かし、息の流れだけ思い出しておきます。到着してすぐ声を出すのと、移動中に一度準備してから声を出すのとでは、最初の一言の硬さがまったく違います。

機材トラブルで間が空いた時、声で埋めようとしないことが大切です

プロジェクターの接続がうまくいかない、音声が急に途切れるといった機材トラブルは、一日の研修で必ずと言っていいほど起こります。この空白の時間を気まずく感じて、講師がその場をつなぐために喋り続けてしまうことがありますが、実はこの喋りが声の消耗を無駄に増やしています。

機材が復旧するまでの間は、無理に声で場をつながず、「少々お待ちください」とだけ短く伝えて、あとは黙って待つことをおすすめします。沈黙を怖がって声を足すより、この数十秒を喉の休憩時間として使うほうが、その後の説明に声を残せます。

夕方の質疑応答は、その日いちばん喉が疲れている時間です

一日の終わりの質疑応答は、講師にとって声がいちばん枯れかけている時間帯であると同時に、参加者の質問に即興で答えなければならない場面でもあります。ここで丁寧に答えようとして一つの回答を長く続けると、語尾が持たずに掠れていきます。

夕方の質疑応答では、一つの回答を三文以内で区切ることを目安にしてください。話し足りないと感じても、いったん言い切って相手の反応を待つ方が、声にも負担が少なく、聞き手にも要点が伝わりやすくなります。声量を足して丁寧さを演出するより、短く言い切る回数を増やすほうが、枯れかけた声には向いています。

連続開催の研修では、初日と同じ声の配分を崩さないようにします

二日、三日と同じ内容を別の参加者に向けて話す連続開催の研修では、初日にうまくいった声の張り方をそのまま覚えておくことが大切です。二日目に入ると、内容に慣れている分、油断して大会議室でも間を詰めて話してしまい、初日より早く声が枯れることがあります。

私がすすめているのは、初日の朝いちばんに使った第一声を録音しておき、二日目、三日目もその録音と同じ速さ、同じ間で始めることです。内容が体に馴染むほど、声の配分は崩れやすくなるので、慣れた頃こそ初日の型に戻る習慣を持ってください。

参加者の顔ぶれが変わっても、講師の側が「もう何度も話した内容だから」と気を抜くと、間を詰めて早口になり、大会議室でも押し出す声に戻りがちです。回を重ねるほど、初日の録音に立ち返る手間を惜しまないようにします。

マイクの有無が変わる一日ほど、声の作り方は変えません

朝の大会議室ではハンドマイクを使い、午後の少人数ワークではマイクなしで話す。この切り替えがある一日は、マイクを外した瞬間に急に声を張り上げてしまう講師が多く見られます。マイクがあった時の力の抜けた話し方から、急に喉で押す話し方に戻ってしまうと、そこで一日の消耗量が一気に増えます。

マイクの有無にかかわらず、話す前に息を通し、語尾まで息を残すという手順そのものは変えないでください。マイクがない部屋では、声量を上げる前に、まず相手との距離に応じて話す速さを落とすことを優先します。速さを落とすだけで、同じ声量でも聞き取りやすさは変わり、無理に張り上げる回数を減らせます。

今日、会場の切り替えを想定してスマホで録っておきます

練習は難しく考えなくて大丈夫です。「皆さん、後ろの方まで聞こえていますでしょうか。それでは本題に入ります」という一文と、「では、ここからは各テーブルで話し合ってみてください」という一文を続けて録音してみてください。

聞く場所は三つです。一文目で、喉に力を入れずに息を届かせられているか。二文目に移る時、声の大きさより先に間の長さを変えられているか。そして二文目の語尾まで、息が残っているか。この三か所を比べるだけで、会場が変わる瞬間にどこで力んでいるかが具体的に見えてきます。

一日の研修で必要なのは、大きな声を最後まで保つことではなく、会場の距離と人数に合わせて声の配分を切り替え続けることです。この切り替えができるようになると、朝から夕方の質疑応答まで、無理に押し出す声を使う回数そのものが減っていきます。

会場の広さも参加人数もその日によって違いますが、切り替えの手順そのものは毎回同じで構いません。声を出す前に息を通す、間の長さで距離を測る、語尾まで息を残す。この三つを会場が変わるたびに思い出すだけで、担当する研修の形式が増えても喉の負担は積み重なりにくくなります。

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よくある質問

Q. 大会議室から少人数ワークに移る時、声はどう変えればいいですか
大きさより間合いを変えます。声量を無理に落とすより、話す速さと間を会場の距離に合わせてください。
Q. 一日の終わりの質疑応答で声が枯れそうな時はどうすればいいですか
答えを長く続けようとせず、要点だけを短く置いてください。声量を足すより、言い切る前の一拍を守ることが優先です。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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