教師の授業で後ろまで通る声。一日話しても枯れない使い方

1時間目から6時間目まで話し続け、教室の後ろの席まで届かせようとして声が枯れる教師の方へ。喉を張らずに通す声の使い方を解説します。

奥津ユキ

1時間目の号令から6時間目の号令まで、チャイムが鳴るたびに声を出し続け、休み時間は生徒への個別対応でまた声を使う。黒板の粉が舞う教室で一日中立ち続けるそんな日々を送る教師の方から、3時間目あたりから声がかすれ始め、放課後には掠れきってしまうという相談をよく受けます。

喉が痛くなるのは、職業病だからではありません

「教師は話す量が多いから声が枯れるのは仕方ない」と考えている方は多いのですが、話す量そのものよりも、喉の使い方に問題があることがほとんどです。同じくらい話している教師の中でも、放課後まで声が保つ人と、3時間目で枯れ始める人がいます。この差は体質ではなく、喉を締めて声を出しているかどうかの違いです。仕方のないこととして諦める前に、話し方そのものを見直す余地があります。

教室の後ろまで届かせようと、喉で声を張っていませんか

板書をしながら体をひねった姿勢のまま、教室の後ろの席に向けて声を張り上げる。この体勢と出し方の組み合わせが、喉への負担をいちばん大きくします。黒板に向いたまま声を出すと、声が壁にぶつかって思うように前へ抜けず、余計に喉で押してしまいがちです。板書の手を止めて体をいったん教室側へ向けてから話し始めるだけで、同じ声量でも届き方は変わります。

常に大きな声を出し続ける必要はありません

「授業中は教室の後ろまで届く大きな声を出し続けるべきだ」と思われがちですが、喉への負担を考えると、そこまでする必要はありません。声を出す量を保つには、大きさで押すのではなく、声の高さを少し動かして抑揚をつけるほうが、聞き手の集中も保ちやすくなります。「では、教科書の32ページを開いてください」という指示文を、平坦に大きな声で言うより、「では」を少し高めに置いて指示部分で落ち着かせるほうが、後ろの席まで自然と耳に入ります。

私語を静めるのに、大声しか手段がないわけではありません

私語がやまない教室を静かにさせようとして、大きな声で注意する場面はもちろんあります。ただ、大声だけが手段というわけではありません。あえて声を落とし、諭すように話すことで、生徒のほうが耳を澄ませて静かになる場合もあります。「静かにしてください」を怒鳴るのではなく、少し声を落として一語ずつ区切って言ってみてください。教室の空気が張りつめて、かえって静まることがあります。

喉を守るために授業以外で声を出さないのではなく、授業中の出し方を変えます

声を守るために、休み時間や職員室では極力声を出さないようにしている方もいますが、それでは根本の解決になりません。見直すべきは、授業中にどう声を出しているかのほうです。私が教師の方に伝えているのは、横隔膜のあたりを前にそっとつまむような感覚を、話している間じゅう保つことです。これができていると、1時間目から6時間目まで同じ調子で話しても、喉そのものへの負担が増えにくくなります。息を吸う瞬間にこの圧を抜いてしまう人が多いので、吸うときも保ち続ける点を特に意識してください。

教室と体育館では、通し方をそのまま流用できません

朝礼や全校集会で体育館に立つと、教室と同じ声の出し方では届きません。体育館は天井が高く音が拡散しやすいため、教室の感覚のまま声を張ると喉への負担が一気に増えます。マイクを使える場面では、声を大きくするより先に、マイクとの距離と口の向きを一定に保つことを優先してください。マイクがない場面では、声量を上げる前に、まず息のスピードを上げて言葉の輪郭を立てることを意識すると、喉だけで戦わずにすみます。

休み時間の個別対応も、喉の負担として積み重なります

授業中の声だけでなく、休み時間に生徒へ声をかける場面も、一日の喉の負担として積み重なっていきます。廊下ですれ違いざまに大きな声で呼び止めたり、教室の反対側にいる生徒に向けて声を張ったりする回数は、思っている以上に多いものです。近くまで歩み寄ってから声をかける、距離があるときは手を挙げて先に注意を引いてから話しかけるなど、喉に頼らない工夫を挟むだけでも、放課後まで残る疲労は変わってきます。

単調な話し方だけが、生徒の集中を切らす原因ではありません

「お経のような単調な話し方だと生徒が集中できない」というのは、私の実感でもある程度当たっていると感じます。ただ、抑揚だけがすべてではなく、説明の組み立てや伝え方も同じくらい関わっています。抑揚をつけようと声を張り上げるのではなく、まず一文の中で高さを動かすところから試してみてください。声量を変えずに高さだけ動かすほうが、喉への負担も少なく続けやすい方法です。

板書中の姿勢と、話し出すタイミングをずらします

黒板に文字を書きながら同時に説明を続けると、体がねじれたまま声を出すことになり、喉への力みが増します。板書を一区切り終えてから、体を教室側に向け直し、そこから説明を始めるだけで、声の出だしが安定します。ほんの一呼吸分のタイミングをずらすだけですが、一日を通すと喉への負担の総量はかなり変わってきます。

「では、教科書の32ページを開いてください」で練習します

長い授業をまるごと練習し直す必要はありません。授業の冒頭でよく使う一文だけを使います。

「では、教科書の32ページを開いてください」

普段どおりに一度録音します。次に、「では」の高さを少しだけ上げ、「教科書の32ページ」でいったん落ち着かせ、「開いてください」の語尾まで息を残して録音します。聞き比べると、二回目のほうが声量を変えていないのに、後ろの席まで届きそうな印象になっていることが分かります。

一日立ちっぱなしの姿勢も、声の出方に関わっています

教師の一日は、教壇に立ちっぱなし、机間巡視で屈んだり、黒板前で腕を伸ばしたりと、姿勢が目まぐるしく変わります。屈んで生徒のノートをのぞき込んだ姿勢のまま次の説明を始めると、胸が縮こまり声が前へ抜けにくくなります。立ち上がってから一拍置いて説明を再開するだけでも、声の出だしは変わってきます。長時間同じ姿勢で立ち続けることで足裏の重心が偏っている場合も、息の入り方が浅くなりやすいので、話し始める前に軽く重心を整え直す習慣をつけてみてください。

放課後の録音チェックで見るのは、かすれの有無だけではありません

一日の授業を終えた後、その日の最後の一文を録音して聞いてみてください。声がかすれているかどうかだけでなく、板書の後の話し出しで喉に力みが入っていないか、私語を注意した場面で声を張りすぎていなかったか、この二点も振り返ってください。翌日以降、喉に負担がかかりやすい場面がどこかを知っておくと、同じ崩れを繰り返さずにすみます。曜日によって授業の組み方や集会の有無が違う場合は、負担が大きい曜日だけ意識して聞き返すのも一つの方法です。

声帯結節は、教師だけがなるものではありません

声を頻繁に酷使する職業だから声帯結節になりやすい、と思われがちですが、少し声を酷使しただけでも誰にでも起こり得るものです。声がかすれたまま2週間以上戻らない、本番中に急に枯れる、といった症状が続く場合は、教師だから仕方ないと片付けず、医師や専門家に相談することをおすすめします。日々の声の出し方を見直すことと、体調として受診が必要な場合を分けて考えてください。

一日話しても枯れない声は、話す量を減らすことでは作れません

授業を減らせない以上、声を守る方法は話す量を減らすことではなく、話し方そのものを変えることです。板書の後に体を向け直す。声を張るのではなく高さで抑揚をつける。私語を注意する場面では、あえて声を落とす選択肢も持っておく。この積み重ねが、放課後まで枯れない声につながります。明日の1時間目から、まずひとつだけでも試してみてください。

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よくある質問

Q. 授業の後半になると声がかすれてきます。職業病としてあきらめるしかないですか
職業病として仕方ないわけではありません。話す量そのものより、喉の締め方や声の出し方の癖が枯れの主な原因になっていることが多いです。
Q. 私語がうるさい教室を静かにさせるには、大きな声を出すしかないですか
大きな声しか手段がないわけではありません。あえて声を落として諭すように話すほうが、教室全体が耳を澄ませて静かになる場面もあります。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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