タ行の滑舌トレーニング。舌だけでなく息で言葉を立てる

タ行がつぶれる、強く叩きすぎる、早口で聞き取りにくい人へ。舌先だけに頼らず、息と母音で整えます。

奥津ユキ

チームの進捗を報告する時、タ行が続く言葉ほど舌先だけで処理しようとして、つぶれたり、逆に強く叩きすぎて硬く聞こえたりすることがあります。舌を速く動かす練習を始める前に、スマホの録音で「た」をひとつだけ、録り比べてみてください。

最初に、「た」を叩く言い方と置く言い方で録り比べます

録音を回して、まず「た」を、舌先で上の歯茎を強く弾くつもりで三回言います。続けて、息を先に細く流しながら、舌先が軽く触れて離れるだけのつもりで、同じ「た」を三回言います。

再生して聞き比べると、前半の三回は音が硬く詰まり、後半の三回は同じ「た」でも、あとに続く母音の「あ」が長く残って聞こえるはずです。タ行の聞き取りやすさを決めているのは、舌の速さでも弾く強さでもなく、この母音の残り方です。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

タ行は、舌先だけで作る音ではありません。息の上に母音が乗って初めて、言葉として立ち上がります。

実際の報告なら、たとえば次の一文です。

「担当チームと調整して、次回の打ち合わせで提案します。」

頭の入りが小さいと、聞き手は話の入口を取りこぼします。真ん中を急ぐと、いちばん残したい意味が流れます。締めの語尾が消えると、内容は合っていても最後に弱さが残ります。

進捗報告は、実はタ行の密度が高い場面です。担当、調整、提案、対応、遅延、達成と、報告に欠かせない言葉の多くがタ行を含みます。だから報告の場でタ行がつぶれると、飾りの言葉ではなく、判断に直結する言葉から先に聞き取れなくなります。滑舌の練習をわざわざ別の題材で行うより、報告の言い回しそのものを練習台にする方が、この場面では効率的です。

タ行を連打で鍛えようとすると、声はさらに硬くなります

タ、チ、ツ、テ、トを速く連打する練習は、舌の動きを覚えるうえでは役に立ちます。けれどそこだけを繰り返すと、舌先に力が集まり、息が止まったまま音を叩く癖がついてしまいます。大きくする、はっきりさせる、強く叩く。そのどれも場面によっては必要ですが、土台になる息が止まり、語尾が消えている状態では、舌先の速さを鍛えても安定しません。

先に見るべきは、話す直前に息が動いているかです。息が止まると最初の音を舌と喉で押しやすくなります。短く吐く息が前に流れていれば、タ行の立ち上がりも自然と変わります。

タ行を強くしようと、口を縦横に大きく動かして話そうとする人もいますが、私の実感では縦をそこまで大きく開ける必要はありません。横の動きは必要でも、動かせば動かすほど滑舌が良くなるわけではなく、むしろ滑舌が良い人ほど口をあまり動かしていないことが多いです。舌の動きを整える練習としては、顎を固定したまま五十音を一通り言ってみる方法が効果的です。顎を止めたまま、舌と息だけで音を作る感覚をつかめます。

直す順番は、息、言葉の頭、重要語、語尾です

ひとつめは息の流れです。息をたくさん吸い込んでから話し出すのではなく、まず短く吐き切ってから言葉に入ります。吐く流れの上に声を乗せる方が、タ行を舌先で叩きすぎずに済みます。

ふたつめは言葉の出だしです。最初の音は、強く打ち込む必要はありません。相手が耳を向け始められる高さに、そっと差し出すつもりで出します。

みっつめは重要語の手前です。ほんのわずかな間を取ります。長く黙り込むのではなく、聞き手が言葉を受け止めるための一呼吸です。

よっつめは語尾です。強く押し切る必要はなく、最後の一音まで息が保たれていれば十分です。

録音で聞くのは、上手さではなく三点だけです

先ほどの報告の一文を、通しで録音してみてください。聞き返す時は、声そのものの好き嫌いを判定するのではなく、確認する箇所を次の三つに限定します。

確認する場所聞くポイント
文の頭最初の音が小さく消えていないか
重要語の手前前のめりに急いでいないか
語尾母音まで息が残っているか

一回目は普段の癖のまま読みます。二回目は文の前に短く息を吐いてから、タ行を叩かずに読みます。三回目は語尾の母音を置く意識だけで読みます。三回を聞き比べると、声の印象ではなく、舌と息のどちらで音を作っていたかが分かります。聞いて気になる部分があっても、自分の発音そのものを責めないでください。直す場所を見つけるための材料です。

判定の基準は、自分がうまく発音できたかではなく、聞き手がすんなり受け取れるかです。タ行の入りがつぶれれば話の入口を見失わせ、重要語が急げば判断材料が抜け落ち、語尾の母音が消えれば話の終わりが曖昧になります。滑舌を変えることは、聞き手が受け取る情報量を変えることです。リモートで報告する日は、この録音がそのまま予行になります。マイク越しでは子音のつぶれが対面より目立ちやすいので、母音が残っているかどうかの差が、聞き返される回数の差として表れます。

タ行がつぶれる時、体は先に固まっています

タ行を強く叩く、早口でつぶれる、語尾まで息が残らないという時、舌だけでなく体も見てください。肩が上がっていないか。胸だけで息を吸っていないか。あごの根元を固めていないか。体が固まると息は細くなり、細くなった分を舌と喉で補おうとします。補うと、最初は出ているようでも途中で苦しくなったり、母音が抜けて子音だけが目立ったりします。

声が安定して聞こえる人は、必ずしも子音を強く出しているわけではありません。母音が最後まで残っています。反対にタ行がつぶれる人は、子音を叩くことに気を取られて母音が短くなっていることがあります。大きく吸えば足りるわけではなく、吸いすぎると体が固まり喉で押しやすくなります。短く吐いてから話す。意味のまとまりで区切る。母音のために息を少し残す。この方が本番では安定します。

チームの進捗報告という場面では、とりわけ焦りが出やすいものです。焦っているときほど最初の音を急ぎ、重要語を詰め込み、語尾を投げ出してしまいます。だからこそ求められるのは、速く話すための練習ではなく、一つずつ置いていく練習です。

順番待ちの時間も、体を固める要因になります。前の人が話している間、自分の番が近づくにつれて呼吸が浅くなり、手元の資料に目を落としたまま首が前に出て、顎の根元が固まっていきます。その姿勢のまま名前を呼ばれて話し出すと、最初のタ行はほぼ確実に舌先頼みになります。自分の番の直前に、資料から一度目を上げて息を短く吐いておく。それだけで、出だしの一音の条件は大きく変わります。

つぶれた一音は、次の言葉で立て直せます

報告の途中でタ行がつぶれても、話をすべて言い直す必要はありません。立て直す場所を一つだけ選びます。冒頭のタ行が弱く消えたなら、次に出てくる言葉の頭を意識して置き直します。重要語のタ行を急いで叩いてしまったなら、その次の重要語の前でひと呼吸だけ待ちます。語尾のタ行で母音が抜けたなら、次の文末で母音を最後まで残す一点に絞ります。一度つぶれたからといって、報告全体が台無しになるわけではありません。タ行は一音ごとに立て直せます。

練習も、あらゆる場面で一気に試そうとすると長続きしません。まずはチームの進捗を報告する場面の言い回しだけに絞り、同じ一文を数回録音して、翌日も同じ場所を確認します。数日続けると、自分がどのタ行で崩れやすいかが見えてきます。崩れやすい位置は人によって違い、言葉の頭の一音でつまずく人もいれば、文の後半に出てくるタ行だけが毎回痩せる人もいます。位置が分かれば、直す練習はその一点に絞れます。滑舌を変えることは、口の動きを速くすることではありません。本番で使う言葉を、聞き手に届く形で出せるようにすることです。

語尾のタ行が届けば、他の行にも広がります

最後に確認したいのは、全体の滑舌の巧拙ではありません。語尾のタ行が聞き手に届いているかどうかです。ここが消えると、途中まで整っていても報告全体が弱く感じられます。次の報告の前に、一度だけ録音してください。

「担当チームと調整して、次回の打ち合わせで提案します。」

最初に録り比べた、叩く「た」と置く「た」の差が、この一文の語尾でも聞き取れるようになっていれば、タ行は舌の器用さと関係なく変わり始めています。カ行やサ行がつぶれる時も、原因は舌や歯の動きよりも、息が止まっていることや喉で音を作ろうとしていることが多いものです。息、言葉の頭、重要語、語尾という同じ順番で見ていくと、行ごとに練習メニューを増やさなくても、滑舌全体が安定していきます。

よくある質問

Q. タ行を含む報告で声が弱く聞こえる原因は何ですか
タ行を強く叩く、早口でつぶれる、語尾まで息が残らないなどで、息・喉・体・語尾・間のどこかが崩れていることが多いです。
Q. 声量を上げれば解決しますか
声量だけでは安定しません。最初の音、重要語の前の間、語尾まで息を残すことを先に整えます。
Q. 本番前に何を練習すればいいですか
本番で使う一文を録音し、入り、間、語尾の三点だけを確認してください。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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