話し方教室とボイトレの違い。声の悩みはどちらで解決するか

話し方教室に通ったのに声が小さいまま、ボイトレを検討しているが構成の悩みは直るのか。症状別にどちらを選ぶべきかを整理します。

奥津ユキ

新人営業の研修で話し方教室に通い、結論から話す型も、間の取り方も教わりました。それでも商談の場では「もう一度お願いします」と聞き返される。教わったことは間違っていないはずなのに、なぜ変わらないのか。この相談を受けたとき、私が最初に見るのはその人の声そのものです。話し方教室で学んだ型が悪いのではなく、その型を運んでいる声の出し方が別の問題として残っていることが多いからです。

話し方教室とボイトレは、似ているようで扱う範囲がはっきり分かれています。どちらに通うべきか迷う前に、まず自分の悩みがどちら側にあるのかを見分ける必要があります。

話し方教室が扱うのは、言葉の組み立てと届け方です

話し方教室で教わることの中心は、結論から話す、要点を三つに絞る、間を取る、資料の見せ方といった、話の設計図にあたる部分です。就活生が面接対策として通う場合も、管理職が部下への伝え方を学ぶ場合も、多くはこの設計図を整えることが目的になっています。

これ自体はとても役に立ちます。ただし、設計図がどれだけ整っていても、それを声に乗せて届ける段階でつまずいていると、聞き手には設計図の良さまで届きません。話し方教室の講師が声そのものの指導まで行うことは少なく、そこは範囲の外だと割り切って教えているケースがほとんどです。教室の内容が悪いのではなく、そもそも扱う対象が違うと考えたほうが整理しやすくなります。まずはどちらの範囲に自分の悩みがあるのかを分けて考えることが、遠回りをしない一番の近道です。

ボイトレが扱うのは、言葉を運ぶ息・喉・体です

ボイトレが見るのは、話の中身ではなく、その中身を運んでいる声そのものです。声が小さい、震える、長時間話すと枯れる、聞き返される。こうした悩みの多くは、性格や話し方のセンスではなく、息の流し方や喉の力み方、体の支え方に原因があります。

聞き返される人にまず見るべきなのは、声質そのものより、口がきちんと開いているかと、声のトーンです。この二点が整っていないまま話し方の型だけを覚えても、届き方は大きく変わりません。声が震えるのも、メンタルの弱さだけの問題ではなく、筋肉の使い方が整えば緊張の度合いに関わらずある程度同じ声が出せるようになります。

新人営業が研修を受けても声が小さいままなのは、教室のせいではありません

冒頭の新人営業のように、話し方教室で結論から話す型を学んでも、声が小さいままでは効果が半減します。「結論から申し上げます」という一言を、喉の奥から絞り出すように話していると、型が正しくても最初の一音が聞き手に届きません。この場合、直すべきは話す順番ではなく、声を出す前に息を流せているかどうかです。

コールセンターの「感情を込めて」指導が棒読みを直せない理由

コールセンターの新人研修では、マニュアルを棒読みにならないよう「感情を込めて読んで」と指導されることがあります。ですが、感情を込めようと意識しすぎると、かえってわざとらしい読み方になり、聞いている側はかえって身構えてしまいます。私の実感では、アナウンサーのように整えすぎた読み方より、自然な会話に近い温度のほうが相手には伝わりやすいです。棒読みが直らないのは感情の込め方の問題ではなく、語尾まで息が保てているか、抑揚が高さの変化として出せているかという声の使い方の問題であることが多いです。

朝礼の間の取り方を習っても、早口が抜けない理由

朝礼当番になった若手社員が、話し方教室で間の取り方を教わることがあります。台本には「ここで一拍置く」と書き込んであっても、本番になると緊張でその通りにできず、結局早口になってしまう。これは覚えた型を忘れたのではなく、緊張で息が浅くなり、間を置く余裕そのものが体からなくなっているためです。間の取り方という知識より先に、話す前に一度短く息を吐いておく準備のほうが、本番では効きます。

就活生が面接対策の話し方教室で聞き返される理由

就活生向けの話し方教室では、自己紹介の構成、志望動機のまとめ方、逆質問の作り方といった内容を丁寧に教わります。面接練習を重ねてきたはずなのに、本番の面接官に「もう一度お願いできますか」と聞き返される人がいます。緊張した場では呼吸が浅くなり、話し始めの一音が小さいまま消えてしまうことがよくあります。構成の練習をどれだけ重ねても、この最初の一音が届かなければ、面接官はその先の内容を聞き取る態勢に入れません。話す内容を見直す前に、まず面接室に入って着席する前の数秒で、一度短く息を吐いておくだけでも、出だしの印象は変わります。

管理職が部下向け研修を受けても、会議で声が通らない理由

管理職向けの研修では、部下への伝え方や傾聴の姿勢といったコミュニケーションの型を学ぶ機会が多くあります。ただ、いざ自分が会議で発言する番になると、声が奥のほうにこもって、参加者の反応が薄いと感じることがあります。伝え方の型を意識するあまり、言葉の内容に気を取られて、声を出す前の息の準備がおろそかになっているケースをよく見ます。部下への接し方を整えるのと同じくらい、自分が話すときの第一声の立ち上がりにも意識を向けてみてください。

症状で選ぶなら、まずこの二つに分けてください

話が長くなる、要点がぼやける、結論が最後まで出てこない、資料の見せ方に迷う。こうした悩みは話し方教室の範囲です。

声が小さい、聞き返される、震える、長時間話すと枯れる、電話やオンラインでこもって聞こえる。こうした悩みはボイトレの範囲です。

両方に心当たりがある人も少なくありません。その場合は、声が届いていないと構成の良さすら伝わらないため、先に声の届き方を整えることをすすめています。順番を逆にして構成の練習ばかり重ねると、覚えた型を本番で使おうとするたびに、声のほうが足を引っ張ってうまく出せない、という状態が続きやすくなります。

もう一つの見分け方として、独学でどうにかしようとしているかどうかも参考になります。構成やスライドの作り方は本や動画からでもある程度身につけられますが、声の出し方は自分の耳だけで正誤を判断するのが難しく、間違った力の入れ方のまま練習を重ねてしまうことが少なくありません。誰かに聞いてもらいながら直したほうが早いのは、話の構成よりも声の出し方のほうだと感じています。

今日できる1分チェックで、自分の悩みがどちら側かを見分けます

実際に仕事で使う一文を一つ選び、スマホで録音してください。「本日はご相談したい点が一つございます。」のような短い一文で構いません。

聞き返すときは二つの視点で分けて聞きます。一つは、話す順番や間の置き方に違和感がないか。ここに違和感があれば話し方教室で扱う範囲です。もう一つは、最初の音がきちんと聞こえるか、語尾まで声が残っているか。ここに違和感があれば、ボイトレで扱う範囲です。

同じ一文を、話す前に一度短く息を吐いてから読み直してみてください。それだけで届き方が変わるなら、悩みの多くは構成ではなく声の出し方にあります。逆に、息を整えても言葉の順番自体が分かりにくいと感じるなら、話の設計図を見直す話し方教室のほうが合っています。

このチェックは一度で決めきる必要はありません。仕事の場面ごとに一文を変えて何度か試してみると、電話では声の出し方が崩れやすく、資料の説明では話の順番が崩れやすいというように、場面によって崩れる場所が違うことに気づく人もいます。自分の悩みを一括りにせず、場面ごとにどちらの範囲かを分けて考えるほうが、次に何を練習すればいいかが具体的に見えてきます。

まとめ

話し方教室とボイトレは、どちらが優れているかという話ではありません。話の設計図を扱うのが話し方教室で、その設計図を運ぶ声そのものを扱うのがボイトレです。声が小さい、聞き返される、震える、枯れるという悩みを話し方教室だけで解決しようとしても、届き方は大きくは変わりません。

新人営業もコールセンターの新人も、朝礼当番も就活生も管理職も、教わった型そのものが間違っているわけではありませんでした。型を運ぶ声のほうに手をつけていなかっただけです。まずは今日使う一文を録音して、崩れているのが話の順番なのか、声の出方なのかを切り分けてみてください。どちらに手を入れるべきかが分かれば、遠回りせずに次の一歩を選べます。

よくある質問

Q. 話し方教室に通ったのに声が小さいままなのはなぜですか
話し方教室の多くは構成や伝え方の型を扱い、声そのものの出し方までは踏み込みません。声が小さい・震える・枯れるといった悩みは、息や喉、体の使い方から見直す必要があります。
Q. ボイトレだけで話し方の悩みは解決しますか
声の出方は変わりますが、話の組み立てや結論の置き方といった構成面はボイトレの範囲外です。話が長くなる、要点がぼやけるという悩みには話し方教室のほうが向いています。
Q. 両方の悩みがある場合はどちらから始めればよいですか
声が届いていないと、どれだけ構成を整えても最後まで聞いてもらえません。まず声の届き方を整え、そのうえで話の組み立てに取り組む順番のほうが変化を実感しやすいです。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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