面接や交流会、プロジェクトの顔合わせで名前を言う瞬間だけ、声が震える。
名乗る間だけ上腕を体側に沿わせる
自己紹介の冒頭で、「開発部の森田彩です」と言ってみてください。一度目は、名乗る間、両上腕を体側から少し離したまま言います。二度目は、両上腕を体側に沿わせたまま、同じ文を言ってください。変えるのは、名前を口にしている間の上腕と体側の接し方だけです。足の位置、手の形、肩の高さ、視線、声量、速さ、高さ、名前の言い方、名乗る前後の文はそろえます。
私がこの場面でまず確認したいのは、名前を言っている最中に、上着の胸元や肩の布地が上下する回数です。上腕が体側に沿うと、腕が揺れたときの動きが外へ広がらず、胸元の上下が小さく見えるということが起こります。一度目と二度目で、名乗りの最中に肩の線が動く幅を鏡ではなく同席者の目で見てもらい、紙に印を付けます。これは腕を強く固定する練習ではありません。二度目も、脇を締めたり、手を握ったりせず、上腕の外側が衣服に沿う位置で止まります。名を告げる前後で腕の位置を変えないため、名前の瞬間にだけ胸元の布地が細かく動くか、同席者が肩の上下を数えられるかを比較できます。発話が途中で止まることなく続くかも、同時に確認します。差が出なければ、腕の位置ではなく、名前の直前に並べた言葉の数や発話の速さが別の原因です。
震えの正体は、気持ちではなく筋肉の固まりです
自己紹介の震えは、緊張という言葉だけで片づけられがちです。ただ、私が見てきた限り、震えはメンタルだけの問題ではありません。筋肉の使い方が合っていれば、緊張していても落ち着いた時とほぼ同じ声が出ます。緊張が声を震わせる経路は、気持ちが直接声を揺らすのではなく、緊張で筋肉が固まり、固まった筋肉が息と声帯の動きを乱すという順番です。だから対策も、気持ちの側ではなく筋肉の側で打ちます。
いちばん効くのは、お腹の圧です。お腹に軽く力を入れたまま話すと、喉だけで支えていた分の負担が減り、上ずりや震えが起きにくくなります。膨らませたりへこませたりの大きな動きは要りません。名乗っている間、圧を抜かないことだけを守ってください。
もう一つ知っておきたいのは、震えを自覚した瞬間の反応です。声が揺れたと気づくと、多くの人はその場で震えを止めようとして喉を締めます。ところが締めるほど声帯の動きは不自由になり、揺れはかえって大きくなります。震えに気づいたら、喉で止めにいくのではなく、お腹の圧を確かめ直す。向かう先を喉からお腹へ変えるだけで、悪循環は断ち切れます。
場数を踏んでも震えが抜けないのは、原因が場慣れの外にあるからです
自己紹介は回数をこなせば慣れる、とよく言われます。けれど震えの根本が筋肉と息のコントロールにある人は、場数だけではなかなか抜けません。回数を重ねるたびに震えた記憶のほうが積み上がり、かえって身構えが強くなることさえあります。
順番が近づくにつれて心拍が上がる、顔合わせの席を思い浮かべてください。三人前から自分の言う言葉を頭の中で繰り返し、息はどんどん浅くなり、立ち上がった時にはもう胸まで固まっている。この状態は場慣れでは解けません。解けるのは、浅くなった息と固まった体を、順番を待つ間に戻す手順を持っている人です。
立食の交流会なら、固まり方はまた別の形をとります。名刺入れを持つ手に力が入り、グラスを持ったまま肘が体に張りつき、胸の前が塞がった姿勢で名乗ることになります。座っていても立っていても、震えの手前には必ず体の固まりがある。そこに気づけると、場数を数える練習から、固まりをほどく練習へと切り替えられます。
息、喉、体のどこで震えが始まるかを分けて見ます
まず息です。声を出す前の一瞬に息が止まっていると、その反動で一音目が硬くなります。大きく吸うより、短く吐く動きを先に作ってください。吸い込みを優先すると胸と肩が持ち上がり、体全体が構えてしまいます。
次に喉です。震えを隠そうと喉で強く押すと、瞬間的には安定して聞こえても長くは続きません。小さな声で名前だけを出してみて、その段階で詰まりを感じるなら、音量を上げても負担が増えるだけです。
最後に体です。首、肩、顎、舌の付け根がこわばっていると、息が流れていても声は前に出ません。足の裏を床につけ、首の後ろにゆとりを持たせてから声にすると、喉だけで持ちこたえようとする癖に気づきやすくなります。
ウィスパーの小ささから、震えない範囲を広げます
震えが強く出る人にすすめているのは、ささやきに近い小さな声のまま、名乗りの一文を長めに繰り返す練習です。張り上げなくて済む分、喉が身構える前に、息の流れだけで声を運ぶ感覚がつかめます。小さな声で震えずに言える状態をまず作り、そこから少しずつ声量を戻していくほうが、いきなり本番の声量で繰り返すより早く安定します。
録音で聞き返す時は、上手さを採点しないでください。見るのは三点だけです。一音目が揺れずに出たか。途中で息が切れなかったか。語尾がすぼまなかったか。声量を戻す途中で震えが顔を出したら、一段階だけ小さい声量に戻して数回重ね、それからもう一度上げます。
練習時間は長く取る必要がありません。ささやきで数回、少し戻して数回、合わせて数分で一日分としては十分です。調子の良い日にまとめて長く練習するより、同じ条件の数分を毎日そろえるほうが、本番で呼び出せる声になります。震えの練習で積み上げたいのは声量ではなく、震えずに出せたという録音の本数だからです。
順番が回ってくるまでの数分で、体を戻します
顔合わせや交流会では、自分の番が来るまでの待ち時間がいちばん体を固めます。この時間にできる準備は、目立たない動きだけで足ります。椅子の下で足の裏を床に押し当て直す。机の下でお腹に軽く圧を入れ、そのまま鼻から細く息を吐く。肩を一度だけすとんと落とす。言葉のリハーサルを頭の中で回し続けるより、この三つのほうが一音目に効きます。
待ち時間の意識の向け先も変えてみてください。前の人の自己紹介を、うまいかどうかで聞き始めると、比べた分だけ自分への採点が始まり、息はさらに浅くなります。かわりに、前の人の話の中身に素直に耳を傾けてください。意識が自分の内側から相手へ移ると、止まっていた息は自然に動き出します。オンラインの顔合わせなら、ミュートを解除する指の動きと同時に息を吐き始めると、解除の待ち時間がそのまま息の準備になります。
名前を言う直前にやることは、たった一つです。口を開く前に、息をほんの少しだけ先に流すこと。最初の録音実験で二番目にやったあの読み方を、体に思い出させるだけで十分です。
震えた日の録音は、責める材料ではなく地図です
練習しても変わらない気がする日は、才能ではなく条件のずれを疑ってください。急いで口を開いている。吸いすぎて胸が固い。明るく作ろうとして喉が上がっている。語尾を言い切る前に切り上げている。この小さなずれのどれかが、震えの出やすさを左右しています。
録音した自分の声への違和感も、声が悪い証拠ではありません。骨を伝って自分に聞こえている声と、外へ届いている声は、もともと別の音です。それに、震えの聞こえ方は本人と聞き手で大きく違います。本人には全部揺れていたように感じられた名乗りが、録音で聞くと一音目がわずかに揺れただけだった、ということは珍しくありません。震えた日の録音こそ、実際にはどの音で揺れたか、その手前で息がどうなっていたかを教えてくれる地図になります。喉に痛みや強い違和感がある日は練習量を増やさず、水分と休息を優先してください。
名前の一音目が揺れなかった日から、自己紹介は変わり始めます
もう一度、同じ一文を録音してみてください。
「奥津ユキです。本日はよろしくお願いいたします。」
お腹の圧を抜かない。息を先に流す。語尾の一音まで残す。この三つがそろった録音が一本でも録れたら、それがあなたの基準になります。本番で目指すのは、震えない完璧な自己紹介ではなく、この基準の声を同じ手順で呼び出すことだけです。手順は場所を選びません。面接室でも、立食の会場でも、画面越しでも同じです。名前の一音目が揺れずに出た日から、順番を待つ時間の意味も変わっていきます。
よくある質問
- Q. 自己紹介で名前を言う最初の一声だけ震えるのは、なぜですか?
- 声を出す瞬間に息を止め、喉を閉めてから押し出そうとすると、振動が不安定になりやすいです。私は名前の前に息を吸い込みすぎず、口を開ける前から腹部の圧を静かに保つことを意識します。
- Q. 名乗るときの声の震えを抑えるために、低い声を作るのは有効ですか?
- 無理に低くすると喉を重くしてしまい、かえって声帯の動きが固まりやすくなります。私は普段の話し声の高さで、最初の母音を前方へまっすぐ出すほうが安定につながると考えます。
- Q. 自己紹介の直前、震えやすい声にできる短い準備はありますか?
- 肩を上げて深く吸うより、唇を軽く閉じて細い息を一定に流す準備が向いています。そのまま息の流れを止めずに一音目へ移ると、声だけを急に立ち上げずに済みます。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →ビジネスボイトレとは。声で印象の主導権を握るために鍛えること
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