プレゼン当日の声の準備。冒頭でつまずかないチェックリスト

プレゼン当日に声が震える、早口になる、冒頭でつまずく人へ。開始前に確認したい声の準備を整理します。

奥津ユキ

立ったまま、配布資料を胸の前で両手に持ち、冒頭の一文を言ってみてください。次に、同じ場所、同じ一文、同じ声量で、資料を机に置いてから同じ一文を言ってみてください。一度目と二度目で、開始直後の肩の高さや首の向きが変わるかを、近くの人に見てもらうか、視界の端で自分の肩を見て確かめてみてください。差が出なければ、手元の条件ではなく、マイクの位置、水分、会場の騒音という別の原因を確認してみてください。

当日は声を作らず条件をそろえる

プレゼン当日の声は、短時間で別人のように作り替える対象ではありません。当日に扱えるのは、話す声が出やすい条件を一つずつそろえ、いつもの話し方から外れる要因を減らすことです。声が出るかどうかを何度も試すと、出だしの音量、息の量、言葉の速さを同時に変え始めます。すると、何がうまくいかなかったのかも分からなくなります。準備の中心を「声を良くする」ではなく、「開始時の条件を確認する」と置くと、直前の動作が整理されます。条件とは、体調という大きな言葉だけではありません。足元が安定しているか、資料を持つ手が決まっているか、マイクが口の前にあるか、水を置いた場所が見えているか、冒頭一文の順番が紙面で読めるか、といった目で確認できる事実です。どれも小さく見えますが、開始の瞬間に探すことになると、呼びかけられた時の動きが増えます。動きが増えるほど、言葉を出す前に息が止まりやすくなります。当日の確認は、良い感覚を探す作業ではありません。「机の右端に水がある」「資料の一枚目が開いている」「マイクの先端が口の横にある」と言葉にできる状態を作る作業です。確認できるものは、会場が違っても再現できます。反対に「今日は声が軽い」「話せそうだ」といった感覚だけを基準にすると、少しの乾きや騒音で不安が増えます。

会場に着いたら足元と立つ位置を確認する

会場へ着いたら、話す位置に実際に立ち、両足が床のどこに触れているかを見ます。片方の足がケーブルや段差の近くにあるなら、開始後に避けるのではなく、その場で半歩移します。演台の陰に足元が入る場合でも、足の幅が極端に狭くなっていないかを一度見ます。ここで必要なのは、美しく立つことではありません。冒頭の一文を言う時に、足を置き直す動作が必要ない状態にすることです。次に、聞き手の正面がどこかを目で決めます。会場の中央、最も遠い列、画面の横など、見る場所が複数あると、話し始めに視線が迷います。冒頭だけは、目線を置く一点を決めます。聞き手の顔を一人ずつ見渡す必要はありません。会場中央の少し後ろを見て、一文を終える。それだけでも、顔を下へ向けて資料を探しながら話す動作を減らせます。立つ位置では、資料、画面、マイクとの距離も目で測れます。画面を指すために上半身を大きくねじる位置なら、立ち位置を少し変えます。話してから腕を伸ばして届くかを試すより、話す前に指示棒や手が自然に届く位置へ立ちます。声が出にくいと感じる時、原因が喉にあるとは限りません。画面を見る、資料を持ち替える、マイクを避けるといった動作が、冒頭の呼吸を細かく分けていることがあります。

資料と手の置き場を目で見える形にする

資料は、話す内容を支えるためにありますが、当日は手の動きを増やす原因にもなります。一枚目を開く、ページを探す、紙を押さえる、ペンを持ち替えるという小さな操作が、冒頭の言葉と重なると、声は出だしで分かれます。資料を置く場所を決める時は、内容の見やすさだけでなく、両手がどこへ戻るかを見ます。右手でページをめくるなら、左手は机の端に置く。両手で資料を持つなら、話し始めの一文を言う間は持ち替えない。こうした形が見えているかを確認します。紙の資料なら、一枚目の右上に開始位置の印をつけ、話す直前にその印が見えるよう開いておきます。画面を操作する場合は、クリックに使う手を決め、反対の手をどこに置くかも決めます。「話しながら何となく操作する」状態では、画面の切り替えが予定より遅れた時に、声量まで変えようとしがちです。手の置き場が定まっていれば、画面が一拍遅れても、言葉だけを落ち着いて先へ進められます。持ち物を増やしすぎないことも、観察できる条件です。机の上に水、資料、予備のペン、配布物、機器が重なると、必要な物を取る度に視線が下へ落ちます。開始前に机を見て、冒頭三十秒に使う物だけが手前にあるかを確かめます。使わない物は端へ寄せます。

マイクの距離と高さを声を出す前に合わせる

マイクがある会場では、話し始めてから音量を合わせようとすると、声の出し方そのものを変えやすくなります。立ち位置が決まったら、マイクの先端が口の正面ではなく、口元の少し横にあるかを目で見ます。近すぎて息が直接当たりそうなら少し離し、遠すぎて首を伸ばさなければ届かないなら高さを合わせます。確認するのは、声が格好よく聞こえる位置ではなく、首を前へ出さずに一文を言える位置です。高さを変える時は、台や支柱を動かす前に、口元とマイクの先端の高さの差を見ます。自分が少しかがむのか、顎を上げるのかではなく、機器の方を調整できるかを先に見ます。体を機器へ合わせ続けると、資料を見る時や会場を見る時に首の向きがぶれます。マイクの位置が先に決まれば、声量を急に上げなくても、顔を聞き手へ向けて話せます。音響担当者がいる場合でも、依頼は観察できる言葉で伝えます。「もう少し聞きやすくしてください」より、「口元から指三本ほどの位置で話せる高さにしたいです」「首を伸ばさずに画面を見られる位置にしたいです」と言う方が、調整の目的が共有されます。音量の確認を求められたら、最初の一文だけを普段の会話量で言います。その場で何度も大きな声を試さない方が、当日の基準を保ちやすくなります。

水分と口の乾きは開始前に処理する

開始直前の口の乾きは、小さな違和感でも言葉を急がせる原因になります。水を飲むことそのものより、水がどこにあり、いつ手を伸ばせるかが決まっていることが重要です。会場に着いたら、水を机のどちら側に置くかを決め、資料や機器の下に隠れていないかを確認します。開けにくいふたなら、開始前に扱いやすい状態になっているかも見ます。話し始めてから探す必要がなければ、口の乾きに気づいても慌てて言葉をつなぐことを減らせます。水分を取るタイミングは、冒頭直前に限りません。受付後、機材確認後、開始数分前など、声を出す作業と重ならない時に少量ずつ取ります。直前に多く飲めばよいという話ではなく、自分の手元に水があることを確認し、必要になった時に一度止まれる環境を作ることが目的です。飲んだ後は、口の中の感覚を評価し続けず、資料の開始位置や立ち位置の確認へ移ります。乾きを感じた時に、唾を飲み込むのを隠そうとして一気に話し始める必要はありません。画面が切り替わる時や話題が変わる時に、一拍置いて水へ手を伸ばせるよう、資料の区切りを見ておきます。聞き手にとっては、短い間より、無理に早口で続く説明の方が追いにくいことがあります。水を取る場所が決まっていれば、沈黙を埋めるために声を出し続けずに済みます。喉の痛みや声枯れが続く場合は、当日の準備だけで解決しようとせず、耳鼻咽喉科へ相談してください。

冒頭一文の順番を紙面で一度だけ確かめる

プレゼンの冒頭は、内容を全部覚えているかより、最初に何を渡すかで進み方が変わります。紙面を開き、一文目が「今日は何の話か」を示しているかを見ます。次に二文目が「聞き手に何を持ち帰ってほしいか」または「どの順番で進むか」を示しているかを見ます。三文目以降の細部は、開始前に繰り返し口に出すより、ページ上の位置を確認する程度で十分です。冒頭だけを長く練習すると、その後の資料を確認する時間がなくなります。一文目が長い場合は、修飾語を増やす前に、文を二つに分けます。「本日は、先月から進めてきた改善施策について、背景と進捗、今後の対応をお話しします」なら、「今日は改善施策の進捗をお話しします。背景、現状、今後の対応の順です」とします。短い二文にすると、最初の息の出口が見えます。内容を簡単にするためではなく、話し始めに資料と会場の両方を意識しなくてよい形にするためです。紙面で確認する時は、文章の上手さを採点しません。一文目の末尾、二文目の末尾、次に視線を向ける先だけを見ます。末尾が「ご説明させていただきます」のような曖昧な言葉に終わるなら、主題の語を前へ出します。「改善施策の進捗です」と言い切ってから、説明へ入ります。

開始直前の確認を一項目ずつ通す

開始直前には、確認を一つの塊にせず、目で見える順番に通します。最初に足元を見て、両足が置ける場所にあるかを確認します。次に机を見て、水、資料、操作に使う物が手前にあるかを確認します。その次にマイクか会場の正面を見て、顔を向ける先が決まっているかを確認します。最後に一枚目の資料を見て、冒頭一文の主題が読めるかを確認します。各項目は数秒で終えられ、終えたら戻りません。この順番には理由があります。足元が定まらないまま資料を見ると、手元の不安だけを感じやすくなります。資料を探しながらマイクを直すと、開始の動作が重なります。下から上へ、体、手元、音の向き、言葉の順に確かめると、次にする動作が一つに絞られます。声を出して確認する項目は最後まで作りません。話す機会は開始の一文に残しておきます。同席者から直前に質問や変更を受けた場合も、全項目をやり直す必要はありません。変更が資料なら手元だけ、会場の席替えなら視線の先だけ、マイクの移動なら音の向きだけを見直します。関係のない条件まで再確認すると、時間が足りなくなり、声を急いで作ろうとします。どの項目が変わったかを分けて見れば、必要な場所だけを戻せます。チェックリストは、不安を消すための儀式ではありません。

よくある質問

Q. プレゼン当日の朝、声のために何を確認すればよいですか?
私は発声量より、起床後の口の開き方、首まわりのこわばり、呼吸が浅くなっていないかを順に見ます。いきなり強く声を出さず、短い母音で響きの位置を確かめてから話し始めます。
Q. 本番直前に声を出し過ぎると、かえってよくないですか?
直前に何度も通し練習をすると、喉だけで音量を作る癖が強まることがあります。私は要点となる冒頭と固有名詞だけを小さく確認し、余力を残したまま会場に入る準備を選びます。
Q. 冷房の効いた会場で声が乾くときは、どう備えますか?
乾いた環境では、口を開けたまま待つだけでも話し始めが不安定になりがちです。私は水分を一度に取り過ぎず、待機中は鼻呼吸を意識します。違和感や枯れが続く場合は専門家に相談してください。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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