薬剤師の服薬指導が伝わる声。窓口の短時間で正確に届ける
混み合う窓口の数分で服薬指導が伝わりにくい薬剤師へ。アクリル板越しでも通る声と、薬剤名を正確に届ける区切り方を解説します。
奥津ユキ
処方箋を受け取ってから薬を渡すまでの数分の中で、正確な服薬指導を届けなければならない。この短時間勝負という特有の難しさは、他の説明の仕事とは少し違うと感じています。医師の診察のような時間の余裕もなく、かといって接客のように雑談で間を持たせることもできない。しかもアクリル板やマスク越しに、薬剤名と用法用量という間違えられない情報を、待っている次の患者さんの気配を感じながら伝える。この独特の圧の中で、声はどうしても本来の力を発揮しにくくなります。薬剤師さんからの声のご相談を受けると、内容の正確さそのものに悩んでいる方はほとんどいません。困っているのはいつも、その正しい内容がどう相手の耳に届くか、という部分です。
窓口で薬の説明をする数分に、正確さと安心の両方を込めます
服薬指導の相談を受けていて感じるのは、内容の正確さには自信を持っている薬剤師さんほど、声の届き方にまで意識が回っていないということです。用法用量を間違えずに伝えることに気を取られるあまり、声そのものが早口で平板になり、患者さんの耳には情報の羅列としてしか残らないことがあります。
処方箋の枚数に気持ちが急くほど、声は前のめりになります
待合の混み具合や処方箋の枚数を意識するほど、声は前のめりになり、息を吐き切る前に次の言葉を重ねてしまいます。忙しさそのものが原因というより、急いでいるという意識が声を前へ前へと押し出してしまう、という方が近いです。急いで話そうとするとかえって喉に力が入り、こもって聞き取りにくくなるという逆効果も起きます。
私が勧めているのは、患者さんの前に立つ直前に、一度だけ短く息を吐き切ることです。大きく吸い込む必要はありません。この一呼吸を挟むだけで、最初の一言の硬さが抜け、結果として早口の印象もやわらぎます。昼休み前後の処方箋がまとまって出る時間帯ほど、この一呼吸を飛ばして次の患者さんへ意識が先回りしがちですが、飛ばした分だけ声は前のめりのまま積み重なっていきます。
薬歴入力の画面を見ながら話すと、声は下に落ちていきます
薬剤師さんの仕事に特有なのが、パソコンの薬歴入力画面を見ながら話すという姿勢です。画面に視線を落としたまま話すと、あごが下がり、声も一緒に下へ落ちていきます。内容は正しくても、患者さんには小さくこもった声にしか聞こえません。
打ち込みながらでも構いませんので、用法用量を伝える一言だけは、一度顔を上げて話してみてください。あごが上がりすぎない程度に視線を戻すだけで、声の通り道が変わります。全部の説明で視線を上げる必要はなく、いちばん間違えてはいけない一文だけで十分です。
抑揚は声の大きさでなく高さでつくります
窓口の対応は明るく高いトーンを保つべきだと思われがちですが、私はそうは考えていません。ずっと高いトーンを保ち続けると、聞いている側も話している側も疲れます。大切なのは、常に高い声を出し続けることではなく、声の高さの上下、つまり抑揚があることです。
数値や薬剤名を読み上げる部分は落ち着いたトーンのまま、注意してほしい部分だけ少しトーンを上げる。この上げ下げがあるだけで、患者さんは「ここが大事な部分だ」と自然に区別できます。声量を張らなくても、高さのレンジを少し動かすだけで説明全体に立体感が出ます。
アクリル板・マスク越しでも通る声を、口角の上げ方でつくります
アクリル板越し、マスク越しという条件が重なると、口だけで音を作ろうとするほど声はこもります。私が提案しているのは、口角を少し上げることです。意図して鼻にかけようとしなくても、口角が上がるだけで声は自然に鼻腔側へ乗り、こもりにくくなります。
板やマスクの下で口を大きく動かす必要はありません。「お薬手帳はお持ちですか」「本日は三種類お渡しします」といった、はい・いいえや数字で終わる短い一言ほど、こもった声では尻すぼみになりやすいので、この一言だけでも口角を意識してみてください。
薬剤名と用法用量は、区切りの位置で正確さが変わります
薬剤名を言い間違えないようにと、ゆっくり話す薬剤師さんは多いのですが、ゆっくり話しても一息に詰め込んでしまえば、患者さんの理解は追いつきません。「この薬は一日三回、食後に服用してください」という一文も、薬の名前と回数の間、回数とタイミングの間に小さく区切りを入れるだけで、聞き手が受け取る情報の消化のされ方が変わります。
区切りは無言の間として使い、次の一言に移る前に患者さんの表情を確認する。ゆっくり話すことよりも、この区切りの位置のほうが正確さを左右すると私は見ています。
副作用の説明は、トーンを落とさず落ち着かせます
副作用や飲み合わせの注意を伝える場面では、声を沈ませて重々しくしてしまう薬剤師さんもいます。ですが声を低く落とすことと落ち着いて伝えることは別の話です。トーンを大きく落とさなくても、話す速さをわずかに緩め、語尾まで息を残すだけで、必要な警戒感は十分に伝わります。声を沈ませすぎると、かえって患者さんの不安をあおってしまうことがあります。
ジェネリックへの変更確認は、押し付けにならないトーンで伝えます
「ジェネリック医薬品にご変更されますか」という一言も、窓口では毎回のように口にする定型文です。この一言を早口で流すと、患者さんには選択の余地を示されたというより、事務的に決められたことを告げられたように聞こえてしまいます。かといって、丁寧さを意識しすぎて語尾を伸ばすと、今度はへりくだった印象になり、判断材料としての説明が薄まります。
私が見ているのは、質問の部分のトーンをわずかに上げ、そのあとの一呼吸を置くことです。声を張らなくても、この間があるだけで、患者さんには「考えてよい質問」として受け取ってもらいやすくなります。急いでいる時間帯ほど、この一呼吸を省略しがちですが、ここを丁寧にするだけで同意確認そのものの印象が変わります。
一日に何十回と繰り返すうちに、説明が平板になっていませんか
同じ薬の説明を一日に何十回も繰り返していると、声が惰性で流れ、抑揚も語尾もだんだん平坦になっていくことがあります。話している本人にとっては何度目かの説明でも、目の前の患者さんにとっては初めて聞く内容です。声が事務的に流れていないか、最初の一回と同じ密度で話せているか、途中で一度だけ自分の中で確認してみてください。
高齢の患者さんに届く声は、高さと聞こえる大きさの両方です
耳が遠くなっている高齢の患者さんに対して、多くの薬剤師さんはただ声を大きくしようとします。ですが声量を上げるだけでは、こもった声のまま音量が増すだけで、かえって聞き取りにくくなることもあります。私が見ているのは、声の高さがその方に合っているかどうかと、言葉と言葉の間に少し余裕を持たせているかどうかです。同じ落ち着いたトーンでも、ひとつの文をやや短く区切り、間を広めに取るだけで、耳が遠い方にも情報がひとつずつ届きやすくなります。
レジ横でできる、スマホ一つの点検
練習として使ってほしいのは、実際に使う説明の一文です。「この薬は一日三回、食後に服用してください。眠くなることがありますので、車の運転にはご注意ください。」この一文をスマホで録音してみてください。
聞き返すときに見るのは三か所だけです。薬の回数と食後という言葉の間に、無言の区切りが入っているか。眠くなることがありますのでのあたりでトーンを落としすぎて重苦しくなっていないか。運転にはご注意くださいの語尾で息が切れていないか。一回目は普段どおりに、二回目は区切りだけを意識して、三回目は語尾だけを意識して録り直すと、どこで印象が変わるかがはっきり分かります。次の会計を待つ患者さんがいる状況でも、この点検なら数十秒あれば済みます。
まとめ
薬剤師の服薬指導が窓口で伝わりにくいと感じるなら、それは早口であることよりも、区切りの位置と姿勢、抑揚の作り方に原因があることがほとんどです。声を上げるより高さで抑揚をつくる、口角を上げてアクリル板越しでも通す、薬剤名の前後に小さな間を置く。この三点を意識するだけで、同じ説明内容でも患者さんに届く感触は変わってきます。特別な発声訓練よりも、日々の窓口で使う一文を録音して聞き比べることのほうが、確実な一歩になります。
よくある質問
- Q. 薬剤師の説明が早口になるのは忙しいからですか
- 待っている患者さんの数を感じるほど声が前のめりになりやすいのは確かですが、それだけでなく、薬歴入力の画面を見ながら話す姿勢も声を沈ませる一因になっています。
- Q. アクリル板越しでも通る声はどう作りますか
- 声量を上げるより、口角を少し上げることを試してください。意図的に鼻にかけようとしなくても、声が自然に前へ抜けやすくなります。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →ビジネスボイトレとは。声で印象の主導権を握るために鍛えること
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