患者に伝わる医師の説明の声。早口と一方通行を避ける話し方

検査結果や病状の説明が患者に届かない、早口で一方通行になると感じる医師へ。抑揚とトーン、語尾から説明の声を整える方法を解説します。

奥津ユキ

「では、検査の結果からご説明します。」この一言を口にした瞬間から、自分でも早口になっている自覚がある。そう話す医師の方に、私はよくお会いします。声の相談というと接客業や営業職を思い浮かべる方が多いのですが、限られた診察時間の中で正確な情報を伝えなければならない医師の話し方には、他の職種にはない特有の難しさがあります。患者さんは診断名も治療方針もその場で初めて耳にするのに対し、説明する側はすでに全体像を理解し終えている。この理解の差が、声の速さと間の取り方に表れてしまうのです。

早口になるのは、性格のせいだけではありません

早口の原因を「せっかちな性格だから」と片づけてしまう方がいますが、私はそれだけとは思っていません。頭の中の情報処理が速い人ほど、話す速度もそれに引っ張られて上がりやすいというのが私の実感です。医師の方は検査値や治療方針についてすでに答えを持った状態で説明を始めるため、患者さんがまだ何も分かっていない前提を忘れたまま、結論に向かって一直線に話してしまいやすいのです。これは能力の高さゆえに起きることで、性格そのものを直す話ではありません。話す速度をむやみに落とそうとするより、要点と要点の間に一拍の間を置くことの方が、実際には効果があります。

待合室の圧を感じるほど、声は前のめりになります

外来では、次の患者さんが待っているという感覚が常につきまといます。この圧を感じるほど、声は前のめりになり、息を吐き切る前に次の言葉を重ねてしまいます。急いで話そうとするとかえって喉に力が入り、音がこもって聞き取りにくくなるという逆効果が起きます。私が提案しているのは、話し始める前に一度だけ息を吐き切る動作を挟むことです。深呼吸のように大きく吸う必要はなく、短く吐き切るだけで、声の出だしの硬さが抜けます。急いでいる自覚があるときほど、この一呼吸を省略しないでください。時間に追われているという事情は患者さんには見えませんが、声の速さと硬さには確実に表れます。逆に言えば、内容を削らなくても、この一呼吸だけで余裕のある印象に変わるということでもあります。

抑揚は声の大きさでなく、高さで作ります

病状の説明が一方通行に聞こえる原因の多くは、声の抑揚が乏しく単調に聞こえてしまうことにあります。抑揚というと大きな声で強弱をつけることだと思われがちですが、それは違います。抑揚は声の高さの上下で作るものです。数値を読み上げる部分は落ち着いたトーンのまま、次にどうするかを伝える部分だけ少しトーンを上げる。この高さの切り替えがあるだけで、患者さんは「ここが大事な部分だ」と自然に区別できるようになります。声を張らなくても、高さのレンジを少し広げるだけで説明全体に立体感が出てきます。

専門用語を噛み砕く前に、区切りの位置を見直します

専門用語を平易な言葉に置き換える工夫をされている医師の方は多いのですが、言葉を変えても一息に話してしまえば、患者さんの理解は追いつきません。一文の中に情報を詰め込みすぎると、聞いている側は最初の言葉の意味を考えている間に次の情報が流れ込んできてしまいます。私が勧めているのは、一つの情報を伝えたら必ず言葉を区切ることです。区切りは無言の間として使い、次の一言に移る前に相手の表情を確認する。専門用語の言い換え以上に、この区切りの位置が理解のしやすさを左右します。たとえば「炎症を抑える薬を出しますので、一週間ほど様子を見てください」という一文も、薬の話と経過観察の話の間に小さく間を挟むだけで、患者さんが受け取る情報量は同じでも消化にかかる時間の余裕が生まれます。

安心感は、高い声でなく落ち着いたトーンから生まれます

患者さんを不安にさせないためにと、優しく高めの声を意識している医師の方もいらっしゃいます。ですが私の見立てでは、安心感を与えるのは声の高さではなく、落ち着いたトーンです。ゆっくり話すことは確かに有効ですが、声を高くすることとゆっくり話すことは別の話で、むしろ落ち着いたトーンのまま間を取って話す方が、患者さんの緊張はほどけやすくなります。無理に明るく高い声を作ろうとすると、かえって不自然さが伝わってしまいます。

ただし、常にトーンを落とせばいいわけではありません

一方で、常に低く落ち着いたトーンだけを保てばよいという話でもありません。診察室は決して静かとは限りませんし、換気のための機器音や廊下の物音が混ざる環境もあります。高齢の患者さんも多くいらっしゃいます。聞こえなければ、どれだけ落ち着いた話し方をしても意味がありません。高齢の患者さんに声が届きにくいのは、声量だけの問題ではなく、トーンや話す速さも関係していると私は感じています。落ち着いたトーンを土台にしつつ、必要な場面では聞こえる高さとスピードに切り替える。この使い分けができるかどうかが、説明の伝わり方を大きく左右します。

マスク越しでも通る声は、口だけで作りません

マスクを着けたまま説明する機会がある方も多いはずです。口だけで音を作ろうとすると声がこもり、ただでさえ聞き取りにくいマスク越しの声がさらに沈みます。私が勧めているのは、口角を少し上げることです。意図して鼻にかけようとしなくても、口角が上がるだけで声が自然に鼻腔側に乗り、こもりにくくなります。マスクの下で口を大きく動かす必要はなく、この小さな調整だけで通り方は変わります。特に「痛みはありますか」「息苦しさはどうですか」といった、はい・いいえで終わる短い質問ほど、マスク越しでは尻すぼみになりやすいので注意してください。

語尾を投げ出すと「大丈夫」も不安に聞こえます

「経過を見ていきましょう」「心配はいりません」といった説明の締めくくりで、語尾を早く切り上げてしまう方をよく見かけます。忙しさの中で次の患者さんのことが頭をよぎり、最後の一音を急いで畳んでしまうのです。ですが語尾が尻すぼみになると、内容がどれだけ的確でも、患者さんには「本当に大丈夫なのか」という不安が残ってしまいます。言い切ったあとに半拍だけ間を置き、最後の音まで息を残す。これだけで同じ言葉でも受け取られ方は変わります。声の震えや異物感が長く続く場合は、発声そのものの問題として専門家に相談することも選択肢に入れてください。

家族が同席する場面では、二重に説明が必要になります

患者さん本人だけでなく、ご家族が同席して説明を聞く場面もあります。同じ内容を二度、三度と繰り返すうちに、声が惰性で流れてしまい、抑揚も語尾もどんどん平坦になっていくことがあります。私が気をつけていただきたいのは、繰り返しているという意識を声に出さないことです。何度目の説明であっても、その場にいる相手にとっては初めて聞く内容です。声が事務的に流れていないか、最初の一回と同じ密度で話せているかを、途中で一度だけ自分の中で確認する時間を作ってみてください。慣れによる平坦さは、聞いている側には案外はっきりと伝わってしまいます。

診察の合間にできる、スマホ1つの点検

練習として使っていただきたいのは、実際に使う説明の一文です。「では、検査の結果からご説明します。数値は落ち着いていますので、次回もこのまま様子を見ていきましょう。」この一文をスマホで録音してみてください。一回目は普段どおりのスピードで、二回目は数値の部分と方針の部分でトーンを変えて、三回目は語尾まで息を残す意識で読みます。三つを聞き比べると、声を張らなくても伝わり方が変わる箇所が見えてきます。診察と診察の合間、数十秒あればできる点検です。

まとめ

医師の説明が早口で一方通行になると感じるなら、それは性格の問題ではなく、間の置き方とトーンの使い方の問題であることがほとんどです。抑揚は声の高さで作る、安心感は落ち着いたトーンから生まれるが聞こえる大きさは手放さない、語尾まで息を残す。この三点を意識するだけで、同じ説明内容でも患者さんに届く感触は変わってきます。話す速さそのものを一気に変えようとするより、一つの区切りごとに小さな間を足していくほうが、日々の診療の中では続けやすいはずです。特別な発声訓練よりも、日々の診察で使う一文を録音して聞き比べることの方が、確実な一歩になります。

よくある質問

Q. 医師の説明が早口になるのはなぜですか
性格がせっかちだからというより、頭の中で理解している情報量が多いために、話す速度がその処理速度に引っ張られてしまうことが関係しています。
Q. 患者を安心させる声は、低くゆっくり話せばよいのですか
ゆっくり話すことは有効ですが、声を必要以上に低くする必要はありません。高すぎない落ち着いたトーンで、かつ聞こえる大きさを保つことの方が重要です。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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