鼻声を仕事用に直す。こもりと聞き取りにくさを抜く

生まれつき鼻にかかった声で、マスク越しの接客や窓口対応で聞き返される人へ。声の高さでなく口の奥の使い方から、こもりと聞き取りにくさを抜く方法を解説します。

奥津ユキ

受付窓口で「いらっしゃいませ」と声をかけたのに、目の前のお客様が一瞬止まって聞き返す。そんな経験がある人は、声質そのものより先に、口の奥で息がどこへ流れているかを見直してみてください。鼻声は性格でも接客態度の問題でもなく、体の使い方のクセであることがほとんどです。

「口を大きく開ければいい」と言われても直らない理由

窓口業務やフロント業務についている人が「鼻声を直したい」と相談に来るとき、たいてい一度は「もっと口を大きく開けて」と言われた経験を持っています。ですが、口の開け方だけを変えても、鼻にかかった響きそのものはあまり変わりません。

声がこもって聞こえる原因は、口の開け方の大小だけで説明しきれるものではないと私は考えています。縦にばかり口を開けている、顎を動かしすぎている、喉ぼとけの位置が下がりすぎている。こうした要素が重なって、こもりや鼻にかかった響きは生まれます。鼻声の人の多くは、話す前から口の奥の天井側、つまり軟口蓋がゆるんだまま下がっていて、息の大半が鼻のほうへ流れてしまっています。直したいのは口の開き方の大小ではなく、口の奥の天井をわずかに持ち上げておく感覚のほうです。

マスク越しの「いらっしゃいませ」で、抜けている息の量を確かめます

次の一言を、マスクをつけたまま声に出してみてください。

「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか」

このとき、鼻の付け根あたりに手のひらを軽く添えてみます。話している間、そこに振動をずっと感じ続けるようなら、息の大半が鼻へ流れ続けている状態です。マスクは口元の子音や息の音を吸収してやわらげてしまうため、もともと鼻に抜けやすい声質の人ほど、マスク越しではこもりが強調されて相手に届きます。

この一言を録音して聞き返すときは、感じがいいかどうかを採点しないでください。見るのは、語頭の「い」が鼻にこもって埋もれていないか、「ご用件」のあたりで息が鼻だけに流れていないか、語尾の「か」まで声が口から抜けているか。この三か所だけで十分です。

声のトーンを上げても下げても、鼻にかかった響きは消えません

鼻声を直そうとする人がまずやりがちなのは、声のトーンを変えることです。明るく聞こえるように高くしてみる、落ち着いた印象になるよう低くしてみる。どちらも一時的には気分が変わりますが、息の流れ道そのものが変わっていないので、緊張した瞬間にはすぐ元の響きに戻ります。

私が先に見るのは、トーンの高さではなく、口の奥の天井が上がっているかどうかです。上顎の奥を軽く持ち上げる意識を持つだけで、同じ高さの声でも鼻側に偏っていた響きが口の中へ戻ってきます。喉を締めて声を作ろうとすると、かえって鼻にかかった響きが強まることもあるので、締めるのではなく持ち上げる方向で整えてください。

受付に立つ直前の30秒で、口の奥をひらいておきます

窓口に立つ前や電話を取る前に、じっくり発声練習をする余裕はほとんどありません。私が現場でお願いしているのは、ここに挙げるだけの短い準備です。

最初に口を閉じたまま、あくびをする時のように口の奥をゆっくり広げます。次に、その広がりを保ったまま鼻からではなく口から静かに息を吐きます。続けて、声には出さず「いらっしゃいませ」と口の形だけを動かします。最後に、小さな声量で一度だけ実際に声に出してみます。

ここで確認したいのは、声の大きさではありません。口の奥の天井が上がったままになっているか、息が口からも抜けているか。この二点だけを見てください。

録音は、鼻声かどうかを判定する道具ではありません

自分の声を録音して聞くと、鼻にかかった響きが思っていたより強く感じられ、驚く人が多いです。これは声が急に悪くなったわけではなく、頭の中で聞こえている自分の声と、外に届いている声の経路が違うためです。

この違和感を「やっぱり鼻声だ」という判定だけに使ってしまうと、そこで見直しは止まってしまいます。録音を使う目的は、鼻にどれだけ息が流れているか、口の奥の天井が下がっている瞬間はどこか、語尾まで口から声が抜けているかを確かめることです。判定ではなく、体の使い方を分けて見る道具として使ってください。

鼻声には、たいてい三つの癖が重なっています

窓口や電話での鼻声を細かく見ていくと、原因が一つだけということはあまりなく、いくつかの癖が同時に起きています。

一つ目は、話し始める前から口の奥の天井が下がっていること。二つ目は、顎を必要以上に大きく上下させて話していること。これがあると口の中の空間が縦に偏り、息が鼻へ抜けやすくなります。三つ目は、語尾に向かうにつれて口を閉じるように話してしまうこと。文の終わりほど口が閉じていくと、最後の音がまるごと鼻に流れて消えてしまいます。

どれも性格の問題ではなく、体の使い方のクセです。口の奥、顎の動かし方、語尾の閉じ方、この順番で確認していくと、直す場所は絞られていきます。

鼻にかかった一言と、口から抜けた一言を比べてみます

鼻にかかった例はこちらです。

「本日はどのようなご用件でしょうか……」

この読み方では、語尾に向かうほど声が鼻の奥にこもり、内容は正しくても素っ気ない印象が残ります。

整えた例は、声を張り上げることとは別物です。

「本日はどのようなご用件でしょうか」

話し始める前に口の奥を軽く広げておく。語尾に向かうときも顎を閉じすぎない。この二つだけを意識すれば十分です。凝った発声のテクニックは必要ありません。

鼻づまりが続く時期は、練習より休ませることを優先します

花粉症や鼻炎の時期は、普段より鼻にかかった響きが強く出ることがあります。この場合は無理に練習量を増やさず、まず体調そのものを整えてください。2週間以上鼻づまりが続く、強い違和感が抜けないという場合は、練習で解決しようとせず、耳鼻科など医師・専門家に相談することをおすすめします。声の癖と、体調による一時的な症状は分けて考えてください。

電話に切り替わった瞬間、鼻声はさらに強く出ます

窓口では気づかれにくくても、内線や外線に出た瞬間だけ「鼻声ですね」と言われる人がいます。対面では口元の動きや表情が声を補ってくれますが、電話ではその補いがなくなり、口の奥の天井が下がったままの響きだけがそのまま相手に届きます。

対面での接客がまずまずできている人ほど、電話に切り替わった時に油断しがちです。受話器を取る前に、窓口で使っているのと同じ「口の奥を広げてから声を出す」準備を挟むだけで、電話越しの印象はかなり変わります。声を張って対応しようとするより、この準備を電話でも忘れないことのほうが効きます。

一週間ほど続けて、変化した場所を書き留めておきます

毎日長い練習を積み重ねる必要はありません。一週間、窓口や電話に出る前に「口の奥を広げてから声を出す」準備だけを続けてみてください。

一週間経ったら、最初の日の録音と最新の録音を並べて聞き比べます。うまくなったかどうかを競う必要はなく、変わった一点だけを探します。語頭の鼻にかかった響きが減っているか、語尾まで口から声が抜けているか。どちらか一つでも変化があれば、その練習は前に進んでいます。

窓口でよく使う三つの言い回しを、あらかじめ整えておきます

窓口で使う言葉を毎回その場で考えていると、話しながら口の奥がゆるみやすくなります。だからこそ、よく使う言い回しを三つだけ先に決めておくことをすすめています。最初にかける「いらっしゃいませ」。要件をたずねる「本日はどのようなご用件でしょうか」。案内のときの「少々お待ちくださいませ」。この三つを、口の奥を広げた状態で言えるように整えておくだけで、忙しい窓口でも崩れにくくなります。

鼻声を直すというのは、別人のような声を作ることではありません。マスク越しでも、電話越しでも、伝えたい言葉がそのまま相手に届く状態をつくることです。

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窓口や電話での聞き取りにくさを別の角度からも見ておきたい方は、こちらもどうぞ。

よくある質問

Q. 鼻声は生まれつきなので直らないのでしょうか
声帯の形そのものは変えられませんが、息が鼻へ抜ける量と口の奥の使い方は練習で調整できます。私の実感では、これだけで印象はかなり変わります。
Q. マスクをしていると余計に鼻声がひどく聞こえるのはなぜですか
マスクは口元の音をやわらかく吸収するため、もともと鼻に抜けやすい声質だと、こもりがより強調されて聞こえやすくなります。
Q. 鼻づまりが続いている時も練習してよいですか
2週間以上続く鼻づまりや強い違和感がある場合は、練習で無理をせず、耳鼻科など医師・専門家に相談することをおすすめします。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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