子音を立てる話し方。ヘッドセット越しでも聞き取られる声に

コールセンターなどヘッドセット越しの応対で子音が甘くなり聞き返される人へ。舌や口の大きさではなく、顎の固定と息の使い方から子音を立てる練習を解説します。

奥津ユキ

コールセンターで一日100件近く応対していると、午前中はすんなり伝わっていた説明が、午後になると「もう一度お願いします」と聞き返される回数が増えてきます。声が枯れたわけでも内容を変えたわけでもないのに伝わらなくなるとき、削れているのはたいてい子音です。休憩前の数十秒でできる聞き比べから始めてください。

次の着信までの数十秒で、二本だけ録音してみてください

スマホのボイスメモを手元に置き、実際の応対で毎日使っている一文を録ります。

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一本目は、午後のペースのまま、普段通りに言います。二本目は、「ほ」「ご」「か」「し」の四か所だけ、音を出す直前に舌と唇をほんの一瞬構えてから言います。速さは変えません。二本を続けて再生してください。

一本目では「ほ」が息だけになったり、「かくにん」が「あくにん」に近い輪郭で流れたりしているはずです。二本目は同じ速さなのに、言葉の角が立って聞こえます。変えたのは声量でも滑舌の努力でもなく、子音を作る一瞬の構えだけです。聞き返される応対と伝わる応対の差は、この一瞬に集約されています。

ヘッドセット越しでは、子音から先に削れます

電話の声は、対面と違って必ずマイクと回線を通ります。母音は音が長くマイクに乗りやすいのに対し、子音は短く弱いため、機材や回線の状態によっては母音より先に削れて相手に届きます。つまり対面でぎりぎり伝わる甘さの子音は、ヘッドセット越しでは足りません。

そこに応対件数が重なります。何十件と話し続けるうちに口の動きは省エネになり、子音を作る一瞬の動作から先に省略されていきます。午後に聞き返しが増えるのは、喉が弱ったからというより、舌と唇の動きが朝より小さくなっているからです。

コールセンターの応対では、子音の甘さがそのまま業務のやり直しになります。商品番号の「いち」と「しち」、日付の「よっか」と「ようか」。この聞き分けは、ほぼ子音だけが担っています。母音は同じか近いので、子音が潰れた瞬間に相手の中で別の数字に化け、復唱と訂正が一往復増えます。一件あたり数十秒の増加でも、100件積めば無視できない時間です。子音を立てる練習は、発声の話であると同時に、後処理を減らす業務改善でもあります。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

聞き取りやすさは声量では決まりません。子音を作る一瞬の動きが残っているかどうかで、同じ声量でも伝わり方が変わります。

聞き返されると、多くの人はもっとはっきり、もっと大きくと考えます。ですが声量だけを上げると喉で押した声になり、強調されるのは母音ばかりで、肝心の子音の輪郭はむしろぼやけます。私が先に確認するのは声の大きさではなく、口がきちんと開いているかと、声のトーンがどのあたりにあるかの二点です。子音が甘い人の多くは舌の動きが小さくなっており、あわせてトーンが低いまま固定されています。気持ち悪くならない範囲で少しだけ明るいトーンに寄せると、子音の練習も乗りやすくなります。

口を大きく開けるより、顎を固定して舌だけを動かします

子音をはっきりさせようとして、口を大きく開けて話そうとする方が多くいます。ですが口の開閉を大きくするほど一音ごとの動きは雑になり、子音の輪郭はかえってぼやけます。

私が生徒さんに試してもらうのは逆の練習です。顎を手で軽く押さえて動かないように固定し、口を横に「い」の形で保ったまま、舌と唇だけで五十音を発音します。顎が使えない分、子音を作る仕事が舌と唇に集中し、輪郭が自然と立ってきます。先ほど録音した注文確認の一文も、この顎固定の状態で読んでみてください。口の大きさに頼らずに子音を立てる感覚が、いちばん短時間でつかめます。

保留や離席から戻った直後は、画面を見ていた姿勢のまま話し始めるため、顎の位置が定まらず最初の一言から子音が甘くなりがちです。応対を再開する前に、顎を押さえて舌の位置を一度だけ確かめる。この癖をつけるだけで、戻り際の崩れは目に見えて減ります。

丁寧さは母音を伸ばさず、子音の手前の一瞬で作ります

聞き取りやすく話そうとするとき、母音を長めに伸ばして丁寧に話そうとする方がいます。ですが電話越しでは、母音を伸ばすほど間延びした印象になり、子音はむしろ母音に埋もれます。丁寧さを出したいなら、伸ばすのではなく、子音に入る直前でほんのわずかに止めるほうが効きます。「か」に入る手前で一瞬だけ舌を構えてから発音する。冒頭の録音実験の二本目でやったことが、そのまま丁寧さの作り方になります。

相手が早口だったり急いでいたりして、つられてこちらの速度が上がる場面でも考え方は同じです。速度が上がると真っ先に犠牲になるのが子音で、母音だけが残って言葉がにじみます。相手に速度を合わせること自体は構いません。ただ、どれだけ急いでも子音を作る一瞬の構えだけは省略しないと決めておく。守るのはその一点だけで、早口のまま輪郭は保てます。

喉の締めすぎが、後半の子音を潰します

長時間話し続けると喉が枯れて子音が甘くなる、と考えがちですが、実際には喉を締めすぎていることのほうが多いです。締めた声のまま応対を重ねると息の通り道が窮屈になり、子音を作る瞬発的な動きに回す息が足りなくなります。

横隔膜のあたりを、前にスライムのようにつまみ出す感覚を、吸うときも吐くときも保ってみてください。この感覚があると喉の締めすぎが防がれ、100件目に近い時間帯でも子音用の息の余裕が残ります。

応対の合間の数十秒も使えます。一件終えたら、口を閉じて息を一度吐き切り、肩を上げずに短く吸う。声には出さず、口の中だけで注文確認の一文をなぞる。最後に抑えた音量で一度だけ声にして、四か所の輪郭が残っているかだけを聞く。この数十秒を挟むだけで、次の応対の子音の甘さがゆるやかになります。

一週間、朝と50件後の録音で崩れる順番を突き止めます

日によって違う練習をすると、何が効いたのか分からなくなります。一週間、同じ一文で定点観測をしてください。

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朝の応対開始前に一本、応対件数が50件を超えた頃にもう一本録音し、聞き比べます。見るのは「ほ」「ご」「か」「し」のどれが最初に崩れるかだけです。人によって最初に落ちる子音は違います。息の音だけになりやすい人は「ほ」から、舌先の動きが小さくなる人は「し」から崩れます。

録音と合わせて、実際の応対で聞き返された言葉を、応対ログの端に一語だけメモしておくのも役に立ちます。録音は練習用の一文しか映しませんが、メモには本番で実際に潰れた子音が残ります。二つを突き合わせると、練習では保てるのに本番の言い回しでだけ崩れる子音、たとえば早口になりがちな定型句の中の一音が特定できます。

一週間分がたまると、自分の崩れる順番がはっきり見えてきます。順番が分かれば、応対の合間に確認するのはその一音だけでよくなり、全部を漠然と直そうとする必要がなくなります。疲れてきた時間帯に最初の一音だけ構え直す。それが、限られた休憩時間でいちばん割のいい使い方です。

力を込めた子音は、余裕のなさとして届きます

子音を立てようとして力むほど声は硬くなり、聞き手には切迫した印象で届いてしまいます。必要なのは力ではなく、舌と唇が子音を作る一瞬を、午後になっても省略しないことです。

滑舌の練習というと、早口言葉を繰り返すような負荷の高い訓練を思い浮かべるかもしれません。ですが応対業務に必要なのは、速く難しい言葉を言い切る筋力ではなく、毎日使う定型文の子音を、疲れた時間帯でも省略しない再現性のほうです。だからこそ練習台は早口言葉ではなく、明日も何十回と口にする実際の一文がいちばん向いています。

今日の午後、聞き返されたらそれを合図にしてください。次の一件の前に顎を押さえ、舌の位置を確かめ、最初の子音だけ構えて出る。100件目の「確認いたします」の輪郭は、声を張ることではなく、その小さな構え直しの積み重ねで残ります。

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よくある質問

Q. 子音が甘くなるのはヘッドセットのせいですか
マイクの特性だけが原因とは限りません。ただ、母音より子音は音が短く弱いため、機材や回線の状態によって先に削れて聞こえることはあります。あわせて口や舌の使い方も見直すと変化を感じやすくなります。
Q. 子音を立てるには口を大きく開けるべきですか
口の大きさより舌の動きの方が効きます。顎を固定したまま舌だけで音を作る練習の方が、聞き取りやすさにつながりやすいです。
Q. 一日100件近く応対する日でも練習は続けられますか
長時間の練習は不要です。応対の合間の数十秒で、顎を固定した状態を短く確認するだけでも、後半の子音の甘さを減らせます。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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