訃報を受けて受話器を取る直前、頭の中で「この度はご愁傷様でございます」を何度さらってみても、いざ声に出すと硬くなる。早口になる。事務的に聞こえていないか不安になる。こうした硬さは、気持ちが足りないからではなく、電話をかける直前から声の出し方がすでに崩れていることがほとんどです。まずは、その崩れを自分の耳で確かめるところから始めてください。
かける前に一度だけ、スマホに録音して聞き比べてください
静かな場所で、先ほどの一文をいつも通りの言い方でスマホのボイスメモに録音します。続けてもう一度、今度は口を閉じたまま息を軽く吐き切り、自然に入ってくる息を受け取ってから、最初の「こ」を喉で押さずに息の上へ乗せるつもりで録音します。お悔やみの言葉を練習に使うことにためらいがあるなら、ささやくほどの音量で構いません。
二つを聞き比べると、二回目のほうが、同じ言葉でも角が取れて聞こえるはずです。声の良し悪しを磨いたわけではなく、話し始める前の息を変えただけです。この差が、これから整えていくことすべての土台になります。
声が硬くなるのは、緊張だけの問題ではありません
弔電の手配で葬儀社に連絡する時も、取引先の訃報を受けてご遺族へ直接お悔やみを伝える時も、多くの人がまず身構えるのは「言葉を間違えないこと」です。忌み言葉を避け、順序を間違えず、失礼のないように——そう考えるほど、体は身構えて喉のあたりに力が入り、声はこわばっていきます。
硬さの原因を性格や気遣いの深さのせいにしてしまう方が多いのですが、私が見ているのはもっと体の使い方の問題です。息を止めたまま話し始めていないか。言葉の出だしを喉で押していないか。大事な一言の手前で早口になっていないか。語尾で息が尽きて、言い切る前に声が萎んでいないか。硬く聞こえる電話は、たいていこのどこかで崩れています。
第一声は、喉でなく息で置きます
お悔やみの電話でいちばん緊張するのは、最初のひと言です。先ほどの一文を勢い任せに切り出すと、頭では丁寧に言っているつもりでも、相手の耳には焦って言葉を差し出しているように届いてしまいます。逆に、話し始める前にひと呼吸だけ息を通しておき、最初の音を喉で押し出さずに息の上に乗せて出すと、同じ言葉でも重みの伝わり方が変わります。録音の二回目で確かめた、あの入り方です。
大きな声で丁寧に言おうとする必要はありません。むしろ声量を上げようとするほど喉に力が入り、言葉が硬くなっていきます。第一声は、声の大きさではなく、息が流れている状態で静かに置くものだと考えてください。
大事な言葉ほど、早口で通り過ぎてしまいます
電話をかける前に文面を頭の中で組み立てていると、いざ声に出す時、伝えたい核心の部分ほど早口になりやすくなります。「心よりお悔やみ申し上げます」の「お悔やみ」のあたりを、緊張のあまり駆け抜けるように言ってしまう方は少なくありません。
息のスピードは自転車と同じだと考えると分かりやすいかもしれません。ゆっくりすぎるとふらつき、まっすぐな軌道を保てなくなります。反対に、一定の速さで息を流し続けていれば、言葉は倒れずに前へ進みます。早口になっているのは気持ちが急いているだけでなく、息の流れが一定を保てずに詰まっている状態でもあります。大事な言葉の手前で、いったん息の速さを保ち直すつもりで、わずかに間を置いてみてください。
震え・上ずり・声の詰まりは、メンタルの弱さではありません
親しかった方の訃報であるほど、電話口で声が震えたり、上ずったりすることがあります。これを気弱さのせいだと考えてしまう方が多いのですが、私は緊張で喉のあたりの筋肉が固まることで起きる、体の反応だと捉えています。
震えを抑えようと喉に力を込めるほど、声はかえって不安定になります。私が勧めているのは、お腹に軽く圧をかけたまま話すことです。話している間ずっと圧を抜かず、言葉を吐き出す時だけでなく、次の言葉を吸う時にもその圧を保っておく。これだけで、喉の締まりから来る震えや上ずりはかなり落ち着きます。
言葉の途中で涙がこみ上げて声が詰まることも、誰にでも起こり得ます。詰まった時は、いったん短く言葉を止めて構いません。お腹の圧だけは抜かずに保ったまま、次の言葉が出せるところまで息を整え直してください。流暢に話し切ることより、詰まりながらでも弔意が伝わることのほうが、この電話では大切だと私は感じています。なお、無理を重ねて喉に痛みや強い違和感が続くようなら、練習や電話対応を優先しすぎず、専門家に相談することも選択肢に入れておいてください。
手配の電話・ご遺族への電話・留守番電話で、声の役割は変わります
同じ「お悔やみ」を扱う電話でも、相手によって声に求められるものは違います。
葬儀社や花店に弔電の手配を伝える電話は、宛名や続柄、文面の希望を正確に伝える事務的なやり取りが中心です。ここで声を沈痛にしすぎる必要はなく、聞き取りやすい速さと語尾のはっきりした発音のほうが、相手にとっても確認しやすくなります。
ご遺族に直接かける電話では、正確さより先に、間の取り方がものを言います。「この度は」の後にわずかな間を置く。相手の反応を待つ。畳みかけるように言葉を続けない。事務連絡と同じ速さで喋ってしまうと、内容は正しくても素っ気なく響いてしまいます。同じ言葉を使っていても、相手が誰かによって、置くべき間の長さは変えたほうがいいと私は考えています。
そして、呼び出し音が続いた末に留守番電話へ切り替わった時が、実はいちばん崩れやすい瞬間です。相手が出ない安心感から拍子抜けして話す速度が急に上がり、用件を早口で詰め込み、最後の「ご連絡差し上げました」がぼそぼそと消えてしまう。留守番電話は録音として残るぶん、語尾の消え方が対面の電話よりはっきり相手に伝わります。名乗りと用件、そして結びの一言だけは、息を残したまま言い切る意識を保ってください。
受話器を取る前の20秒と、最後の録音確認
かける直前に長く発声練習をする必要はありません。20秒あれば十分です。
受話器を取る前に、口を閉じたまま一度息を吐き切ります。肩を上げずに、自然に入ってくる息を受け取ります。声には出さず、先ほどの一文を口の形だけでなぞります。最後に、ささやくくらいの音量で一度だけ実際に声に出してみます。
ここで確かめるのは、うまく言えたかどうかではなく、最初の音が喉で押されていないか、語尾まで息が保たれているか、この二点だけです。整っていれば、それ以上練習を重ねる必要はありません。
そして時間のある時に、実際に使う言葉を続けて一度だけ録音してみてください。
「この度はご愁傷様でございます。心よりお悔やみ申し上げます」
聞き返す時に見るのは三点だけです。出だしが喉から立ち上がっていないか。「お悔やみ」の手前で早口になっていないか。「申し上げます」の語尾まで息が残っているか。
自分の声を録音で聞くと、思っていた声と違って戸惑うことがあります。これは声が悪いからではなく、自分の耳に聞こえている声と、相手が実際に受け取っている声が、そもそも違う経路で届いているためです。誰にでも起きることなので、違和感だけで判断を止めず、この三点の確認に使ってください。
弔意は、流暢さではなく息の残り方で届きます
お悔やみの電話で声が硬くなるのは、気持ちが足りないからではなく、話し始める前の息、第一声の置き方、大事な言葉の手前の速さ、語尾の残り方のどこかが崩れているからです。第一声を喉でなく息で置く。大事な言葉の手前で息の速さを保ち直す。震えそうな時は腹圧を抜かない。この三点が整っていれば、途中で言葉が詰まったとしても、弔意は相手に届きます。
電話全般での声の震えを整えたい方は、謝罪の電話で声が震える原因。言い訳に聞こえない第一声の整え方も参考にしてください。第一声の印象づくりを基礎から見直したい方は、電話の第一声が暗く聞こえる原因。声色より先に整える入り方が入口になります。
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よくある質問
- Q. お悔やみの電話は、感情を込めて話した方がいいですか
- 気持ちを込めようとするより、第一声を息で置き、語尾まで息を残すことのほうが、結果として弔意は伝わりやすくなります。
- Q. 声が震えて話せなくなりそうな時はどうすればいいですか
- 無理に止めようとせず、腹圧をかけたまま短く区切って話してください。震え自体は自然な反応で、恥じる必要はありません。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →ビジネスボイトレとは。声で印象の主導権を握るために鍛えること
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声は、気持ちの深さだけで決まるものではありません。話し始める前の息の流れ、喉の力み、語尾に残る息の量。ここが整うだけで、同じ言葉でも届き方は変わります。