資料を開いて説明を始める瞬間、聞き取りやすさを左右しているのは声の大きさではなく、その一文をどう始めてどう終えるかです。声が通る通らないを気にする前に、話し始める直前と言い終わった直後に何が起きているかを見直してみてください。
舌を上あごから離して話すと、納期はどう区切れて聞こえるか
打ち合わせで期限を伝えるつもりで、短い一文を二度言ってみてください。言う文は「納期は来週水曜日です」です。一度目は普段どおりの口の中の位置から話し、二度目は話す直前に舌の広い面を上あごから離してから話します。声量、話す速さ、声の高さ、姿勢、視線、言う文はそろえます。変えるのは話し始める直前の舌の位置だけで、強く動かす必要はありません。
二度目に「納期」と「来週水曜日」がつながって一塊にならず、それぞれの情報が分かれて届く感じがあれば成功です。聞き取りやすさは、声量を増やす前に、聞き手が情報をどこで分けて受け取るかを整えることで変わります。「来週水曜日」が一続きの音にならず、相手が紙に書き留める単位で受け取れそうかを見てください。ここでの成功は、相手に復唱を求めずに予定を共有できる状態です。差が出なければ、舌の位置ではなく、聞き手が複数の日付を同時に処理していることが別の原因かもしれません。伝える日付の前提をそろえてください。候補が三つ並んだ状態では、どれだけ区切って話しても、相手はどれが確定なのかを判断できません。その場合に必要なのは発音の練習ではなく、確定した一つだけを先に言い切ることです。声を整える前に、渡す情報の数を減らせないかを見てください。
聞き取りにくさは、三つの崩れが重なって起きています
会議での説明を注意して聞いていくと、伝わりにくさは一つの原因ではなく、たいてい三つが同時に起きています。
ひとつは、話し始める前に息を止めてしまうこと。出だしが遅れて出るため、相手には話の途中から聞かされているように届きます。もうひとつは、伝えたい語にたどり着く前に息継ぎを飛ばして駆け込んでしまうこと。急ぐほど、伝えたい中身自体が薄まります。最後は、言い切った安堵で語尾の力が抜けてしまうこと。「です」「ます」の末尾が消えると、内容が合っていても頼りない印象になります。
これは性格の弱さではなく、体の使い方の習慣です。出だしの音、母音の形、息の通り道、語尾の残り。この順番に一つずつ点検すれば、直すべき箇所は見つかります。焦って一気に全部を直そうとすると、かえってどこも整わないまま本番を迎えることになります。
口の開け方より先に、通り道を三つ確かめます
聞き取りやすさを求めるとき、多くの人がまず試すのは口を大きく開けることです。しかし口の開け方だけを直そうとすると、喉に余計な力が入り、かえって硬い声になりがちです。
先に確認したいのは、次の三つの通り道です。話す前に、すでに息は動いているか。伝えたい語の手前で、息を吸い直さずに待てているか。文の終わりまで息が途切れず続いているか。このどれか一つが詰まると、言葉は輪郭を失って伝わります。お腹に軽くかけた圧を抜かずに話し続けると、この三つが崩れにくくなります。
もう一つ見落とされがちなのが、息を吐くスピードです。ゆっくり吐こうとするほど声は弱く、輪郭がぼやけます。逆に、少し速いくらいの息で言葉に乗せると、同じ声量でも一音一音が短く立ち、聞き手の耳に引っかかりやすくなります。自転車と同じで、遅く漕ぐほどふらつき、ある程度の速さがあるほうがまっすぐ進みます。資料の説明でも、ゆっくり丁寧に話そうとするより、短い息をこまめに使うほうが輪郭は残ります。
低く、大きく、ゆっくり。とっさの直し方ほど本番で崩れます
説明が聞き取られないと感じたとき、人はまず声そのものをいじろうとします。低く沈めて重厚さを装う、明るくして親しみを足す、張り上げて存在感を作る、単語をひとつずつ区切ってゆっくり読む。
どのやり方も、直後だけは手応えがあります。ただし体の準備を変えていないので、資料のページ数が増えて焦った瞬間に元の癖へ戻ります。なかでも張り上げる方法は、語尾に届くころには力を使い果たしているという落とし穴があります。
声だけでなく、体の向きも点検してください。足の裏が床についているか、資料に視線が吸い寄せられて胸がすぼまっていないか、顎が前に出て首の前側がこわばっていないか。この三か所が崩れていると、声色をいくら直しても出だしの音は喉で押さえ込まれたままになります。
もう一つの手がかりは、一音の長さです。聞き取りやすい話し方をする人ほど、実は一音一音が短く、次の音へ淀みなく移っています。逆に、丁寧に伝えようとして一音を長く伸ばすほど、言葉同士がくっついて輪郭がぼやけます。ゆっくり話すことと、一音を長く伸ばすことは別物だと分けて考えてください。
会議室に入る前、準備はたった三手順です
まとまった練習時間を確保できる日はほとんどありません。私が案内しているのは次の三手順で、資料を開く直前の数十秒でも実行できます。
一手順目、唇を閉じたまま息をゆっくり吐き切ります。二手順目、肩を持ち上げずに短く吸い直します。三手順目、声を出さずに先ほどの一文の口の形だけを動かし、最後にひとことだけ、ごく小さな声で実際に発音してみます。
見るべきは声量ではなく、最初の音が消えていないかと、語尾まで息が続いているかの二か所だけです。
説明の途中で崩れても、直すのはその一文だけです
会議の途中で声が崩れても、最初からやり直す必要はありません。話していた一文をその場で短く切り、語尾まではっきり言い切ってしまいます。それでも気持ちが落ち着かなければ、次の一文に移る前に半拍だけ止まってください。
この半拍は失敗の沈黙ではなく、聞き手が受け取るための間です。会議での説明では、崩れた瞬間に戻れる手順をひとつ知っているだけで、本番に臨む気持ちは大きく変わります。
質問に切り返す一言も、同じ整え方で届きます
説明が終わったあとに質問が飛んでくると、答える一文の声が急に小さくなる人がいます。「では、その点についてお答えします」のように答え始める場面でも、直すところは同じです。答え始める前にひと息置き、伝えたい語の手前でわずかに間を作り、語尾まで息を残す。用意していなかった質問に慌てているときほど、この三か所だけを思い出せば声の輪郭は保てます。長く答えようとして息が足りなくなるより、一文を短く区切って、区切るたびに息を入れ直すほうが、聞き手には落ち着いて聞こえます。
説明が単調に聞こえて聞き手の集中が続かないと感じるときは、声の大きさではなく高さの振れ幅を疑ってみてください。物語を声に出して読み、抑揚をつけて高さを大きく動かす練習をしておくと、資料の説明でも同じ感覚を借りて単調さをやわらげられます。張り上げるのではなく、レンジを広げる意識です。
ページ数が多い日ほど、最初の一文にかけてください
配布する資料が分厚い日ほど、内容を頭に入れることに気を取られ、声の準備は後回しにされがちです。ですが資料が多いときほど、聞き手は途中で集中を切らしやすくなります。出だしと語尾さえそろっていれば、聞き手は途中で見失っても要点に戻ってきやすくなります。
今日の会議で使う一文を、もう一度だけ録音してください。
「まず、全体の流れをご説明します」
出だしを心もち早く立ち上げ、語尾を息の上に残したまま置く。この二点だけを意識して聞き比べれば、資料の量を削るより先に、何を整えればいいかがはっきりします。会議が長引くほど、最初の一文にかけた準備は後半まで効いてきます。
毎回すべてを整えようとしなくても構いません。今日は出だし、明日は語尾というように、一度に一か所だけ意識する日を作るほうが、忙しい仕事の合間でも続けやすくなります。ページをめくる手を止めず、声の入り口だけ整えておく。それだけで、資料を開いた瞬間の空気は変わります。
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よくある質問
- Q. 聞き取りやすい話し方では、最初に声量を上げますか?
- 声量を先に上げると、相手に届かせようとして喉を締めることがあります。私は一文の要点にだけ少し高低差をつけ、言葉の輪郭を高さで示すことを優先します。
- Q. 早口ではないのに聞き返される原因は何ですか?
- 速度が普通でも、語尾まで同じ高さ・同じ息のまま話すと情報の境目が曖昧になります。私は内容の切れ目で息を整え、次の言葉を新しく立ち上げるように話します。
- Q. 会議で専門用語が伝わりにくいとき、どう話しますか?
- 用語を大きく言い直すより、その前後に短い間を置く方が意味を受け取りやすくなります。私は大事な語の直前で高さを少し変え、説明の入口を明確にします。
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詳しいプロフィール →滑舌を良くする方法。仕事で聞き返されない話し方の整え方
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