アナウンサーの声とビジネスの声の違い。真似すべき所とやり過ぎ

朝礼やナレーション収録でアナウンサー風に読もうとして浮いてしまう人へ。真似していい部分とやり過ぎになる部分を、職種別の場面で整理します。

奥津ユキ

朝礼当番になった若手社員が、前日の夜にアナウンサーの読み方を動画で研究し、本番でその通りに読んでみたところ、かえって浮いてしまった。母音も子音もはっきりしていて滑舌自体は悪くないのに、聞いている側はどこかよそよそしさを感じてしまう。こうした相談を受けたとき、私はアナウンサーの声とビジネスの場で必要な声を、同じ「良い声」として一緒くたにしないでください、とまずお伝えします。

歌う声と話す声も、腹圧の使い方や息のスピードといった土台の部分はほとんど同じです。唯一大きく違うのは、アナウンサーに特有の子音の立て方で、これを普段の会話にそのまま持ち込むとやり過ぎになりやすい、という一点です。

「アナウンサーのような声」という言葉は、聞き取りやすさの代名詞として使われがちです。ですが、聞き取りやすさは明瞭な発音だけで決まるものではなく、声のトーンや大きさとの組み合わせで決まります。発音だけをめちゃめちゃ明瞭にしようとすると、それこそアナウンサーの読み上げのように聞こえてしまい、仕事の場ではかえって浮いてしまいます。

アナウンサーの声とビジネスの声、違うのはこの一点だけです

アナウンサーの読み方は、不特定多数に一度で正確に情報を届けるために作られています。子音を強く立てて輪郭をはっきりさせるのは、そのための工夫です。ビジネスの場面は、目の前に相手がいて、聞き返せば済む会話です。この前提の違いを忘れて子音の立て方だけを真似ると、内容は聞き取りやすくなっても、距離のある読み上げのように聞こえてしまいます。

朝礼当番がアナウンサー風に読むほど浮いてしまう理由

冒頭の朝礼当番のように、原稿を丁寧に読もうとするほどアナウンサー的な子音の立て方が強くなり、聞いている社員には「読まされている」印象として伝わることがあります。朝礼で求められているのは正確な読み上げではなく、その場にいる人に向けた一言です。「おはようございます。本日の予定を共有します。」という一文なら、子音を強く立てることより、語尾まで息を残して自然に言い切ることのほうが、聞いている側には届きやすくなります。

コールセンターで「感情豊かに読め」がわざとらしくなる理由

コールセンターの新人研修では、マニュアルを棒読みにしないよう「感情を込めて」「明るく読んで」と指導されることがあります。ただ、感情を込めようと意識しすぎると、抑揚を作り込みすぎてわざとらしい読み方になりがちです。私の実感では、アナウンサーのように整った読み方より、自然な会話に近い温度のほうがコミュニケーションは取りやすくなります。一日に何十件と同じ案内を繰り返す仕事だからこそ、毎回作り込むより、抑揚は声の大きさではなく高さの上下で軽くつける程度にとどめたほうが、聞いている相手には自然に響きます。

営業が標準語で丁寧に話すほどよそよそしくなる理由

営業職の中には、信頼を得るためにアナウンサーのような綺麗な標準語を意識して話す人がいます。ですが、私の見立てでは、信頼を得るのに必要なのは整った発音そのものより、人柄が伝わる話し方のほうです。「本日はお時間をいただきありがとうございます。」という第一声を、教科書的に整えようとするほど声が硬くなり、かえって距離を感じさせてしまうことがあります。多少なまりや癖が残っていても、語尾まで息を保ち、相手のほうへ声を向けて話せていれば、信頼は損なわれません。

ナレーション収録で声が固くなる人が見落としていること

社内向けの動画講座やPR動画のナレーションを任された社員が、いつもより声が固くなってしまうことがあります。多くの場合、原稿を正確に読み上げようとするあまり、アナウンサーのような発音の正しさばかりに意識が向き、語尾まで息を保つという基本が抜けてしまっています。良い声は生まれつきの声質だけで決まるわけではありません。声の密度や張り、声色の使い分け、滑舌の三点は、知っているかどうかで変えられる部分です。逆に言えば、発音を完璧にすることだけに気を取られても、この三点が整っていなければ聞き手には届きにくいままです。

収録前に台本を何度も黙読して発音の正確さだけを確認する人がいますが、実際に効くのは声に出して語尾まで息が残っているかを一文ごとに聞き返すことです。発音の正しさは録音の後半になるほど確認しやすくなりますが、語尾の残り方は録音の最初から意識しておかないと、聞き返したときにはもう手遅れになっていることが多いです。

受付・秘書のアナウンサー風挨拶が機械的に聞こえる理由

受付や秘書の仕事では、来客への第一声がその会社の印象を決めます。研修で「はっきり、丁寧に」と教わった人ほど、「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか。」という一言を、アナウンサーの原稿読みのように均一なトーンで発音しがちです。発音そのものは正確でも、抑揚が一定のまま続くと、来客には歓迎されているというより、決まった台詞をこなされているという印象として伝わってしまいます。

ここで直すべきは発音の正確さではなく、語尾の扱いです。「ご用件でしょうか」の「か」まで均一な高さで押し切るのではなく、最後の一音だけわずかに息を残して置くようにすると、同じ言葉でも受け取られ方が変わります。丁寧さは発音の正確さで作るものではなく、語尾に相手への意識が残っているかどうかで伝わるものです。研修で覚えた通りの言い回しでも、語尾の扱いだけ変えれば、機械的な印象はかなり消えていきます。

真似していいところと、やり過ぎになるところ

滑舌の練習として子音をはっきり立てる練習そのものは有効です。舌の動きを意識して五十音を一つずつ丁寧に言う練習は、普段の会話にも良い影響があります。

やり過ぎになりやすいのは、その立て方を普段の会話や電話対応にそのまま持ち込むことです。子音を立てすぎると発言全体が硬くなり、相手との距離を感じさせてしまいます。練習では強く、本番では力を抜く。この使い分けが必要です。

もう一つ、アナウンサーになれない理由を声質のせいにしてしまう人がいますが、聞き取りにくいほど極端な声質でない限り、差を分けているのは声質より話し方や間の取り方のほうだと私は感じています。仕事の場で必要なのは、放送のプロのような発音ではなく、自分の声のまま、語尾と間を整えることです。特定の誰かの読み方を完コピーする必要もなく、自分の話し方の癖に合わせて子音の立て方を少し足すくらいで十分です。

今日の1分チェックで、自分の読み方を確かめます

仕事でよく使う一文を一つ選び、二つの読み方で録音して聞き比べてください。一回目は、子音をはっきり立てることを意識して読みます。二回目は、子音を意識せず、相手に向けて話しかけるつもりで読みます。

聞き返すときに見るのは、聞き取りやすさだけではありません。二回目のほうが親しみやすく感じられるなら、普段の仕事の場ではその声のほうが向いています。反対に、朝礼や案内のように多くの人へ一度で伝える場面では、一回目の立て方が役立つこともあります。場面によって使い分けられることに気づくことが、このチェックの目的です。

このチェックは一度きりで終わらせず、電話対応の一文、会議での発言、来客対応の一言というように、場面を変えて何度か試してみてください。同じ人でも、場面によってアナウンサー寄りの読み方が向くこともあれば、力を抜いた話し方のほうが向くこともあります。どちらか一方に決め切る必要はなく、場面ごとに声の置き方を選べるようになることが目標です。

まとめ

アナウンサーの声とビジネスの声は、優劣ではなく役割の違いです。子音をはっきり立てて不特定多数に届けるのがアナウンサーの読み方で、目の前の相手に向けて自然に届けるのがビジネスの声です。朝礼、コールセンター、営業、ナレーション収録、受付や秘書の来客対応、それぞれの場面で必要なのは正確に読み上げることではなく、語尾まで息を残し、相手に向けて声を置くことです。

真似るなら子音の立て方の練習だけにとどめ、本番ではその力を抜いて話してみてください。声質そのものを変えようとするより、練習の場と本番の場で力の入れ方を切り替えられるようになるほうが、仕事の声としては早く安定します。

よくある質問

Q. アナウンサーのような声を目指したほうがいいですか
目指す必要はありません。仕事の場で必要なのは会議や商談で自然に届く声であって、放送用に整えられた読み方とは役割が違います。
Q. アナウンサーと普通の人の声の差は何ですか
声質そのものより、声の密度や張り、声色の変え方、滑舌の三点の差だと感じています。声質は変えにくくても、この三点は練習で埋まる部分です。
Q. 滑舌を良くする練習はアナウンサーの真似で問題ありませんか
子音をはっきり立てる練習自体は有効です。ただし普段の会話や電話対応でその立て方をやり過ぎると、かえって不自然で距離のある印象になります。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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