アナウンサーの声とビジネスの声の違い。真似すべき所とやり過ぎ

朝礼やナレーション収録でアナウンサー風に読もうとして浮いてしまう人へ。真似していい部分とやり過ぎになる部分を、職種別の場面で整理します。

奥津ユキ

アナウンサーの声は、言葉の輪郭がくっきりしていて魅力的です。ただ、会議、接客、電話といったビジネスの会話へ、そのまま移すと、丁寧なのに少し距離のある声になることがあります。

聞き取りやすさは、子音を強くすることだけで決まりません。相手との距離、話す速さ、語尾の置き方に合う明瞭さを選ぶことが大切です。

体感実験をしてください。「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」を、一度目は「ほ・ん・じ・つ・は」の子音を強く立てて、二度目は普段どおりに言ってみてください。変えるのは子音の立て方だけです。二度の声を比べ、相手へ近づく感じと、言葉がひとつずつ立つ感じのどちらが強いかを確かめます。差が出なかった場合は、子音ではなく息が言葉の途中で止まっている可能性を判定したいので、次の発声では母音だけを少し長く保てるか確認してください。

アナウンサーの明瞭さを会話にそのまま移さない

放送の声は、初めて聞く人にも、一度で情報が届くように設計されています。固有名詞、数字、時刻、地名のように聞き逃されると困る語を、一定の距離にいる不特定多数へ届ける役割があるからです。そのため子音の輪郭が比較的はっきりし、文の切れ目も整っています。明瞭に聞こえる理由は、声量だけではなく、どの音を立てて、どこを休ませるかが安定していることにあります。

一方で、ビジネスの会話には相手の表情や反応があります。こちらが一方的に情報を放つのではなく、相手がうなずく余地を残し、必要に応じて言い直し、関係をつくりながら進めます。ここで全ての子音を立てすぎると、言葉が細かく分かれ、相手には「説明されている」「急かされている」と聞こえることがあります。上品に整えようとして、かえって自然な親しみが薄くなるのです。

真似したいのは、言葉の入口を曖昧にしないこと、数字や固有名詞を埋もれさせないこと、語尾まで息を運ぶことです。真似しなくてよいのは、文章の全てを同じ濃さで発音することです。会話では、相手に渡したい語だけを少し明るくし、ほかの語は流れにつなげます。私はこの場面でまず確認したいのは、聞き取りやすさを上げようとして、全ての音へ同じ力を足していないかという点です。

子音の仕事は舌が担っている

滑舌を直そうとすると、口を大きく開けたり、唇を強く横へ引いたりしがちです。もちろん口の開きが必要な音もありますが、日本語の言葉の輪郭には、舌の動きが深く関わります。たとえば「た、だ、な、ら」は舌先が前歯の裏側付近へ近づくことで違いが生まれます。「か、が」は舌の奥が動きます。「さ、し、す」は舌と口の中にできる細い通り道を息が通ることで聞こえます。

口全体を大きく動かすことだけに意識が寄ると、舌が置き去りになりやすくなります。すると口は動いているのに、子音がぼやけます。逆に舌だけを速く動かそうとして力むと、舌の根元が固まり、喉まで一緒に詰まりやすくなります。舌は強く打ちつけるものではなく、次の母音へすばやく道をつくるものだと考えてください。

短い練習では、「たなかさん、ただいま確認します」と、音を大きくしようとせずに言います。「た」「な」「か」のたびに、舌が触れて離れ、次の母音へ戻ることを感じます。早く言う必要はありません。舌の移動が見えないほど速くなることより、触れたあとに残らないことのほうが重要です。舌が一音ごとに居座らなければ、言葉は必要なだけ立ち、会話の流れは止まりません。

子音を立てすぎると語尾が硬くなる理由

子音を目立たせようとすると、発音の直前に息や喉を止める動きが入りやすくなります。「ご確認ください」の「ご」「かく」「にん」を一つずつ押し出すと、音の始まりは明確でも、語尾までなめらかに息が続きにくくなります。相手に届くべき最後の「さい」が薄くなったり、反対に「さい」を締めて終えたりすると、お願いの文が命令のように硬く聞こえることがあります。

ここでPR-1の観点が役立ちます。声が硬いとき、喉をさらに締めて輪郭を作ろうとしないでください。悩みの大部分では喉を閉める動きが重なっています。直し方は「締める」ことではなく、声を前へ伸ばすことです。「ご確認ください」の最後の「い」を、遠くへ押し出すのではなく、口の前に細く置くように伸ばします。子音の勢いを増すのでなく、母音の行き先を前に作るのです。

会話での明瞭さは、鋭さと同義ではありません。聞き手は、子音だけでなく、その後ろに続く母音と息の流れから言葉を受け取ります。特に依頼、謝意、確認の場面では、終わりの母音が急に落ちないことが安心感につながります。「ありがとうございます」の「す」を強く閉じるより、「ます」の母音まで静かに運ぶほうが、丁寧さは保たれます。

母音を通すと話し言葉の温度が戻る

日本語は母音を含む音節で流れます。子音の形を整えたあと、声を実際に運んでいるのは母音です。アナウンサーのような明瞭さを目指す人ほど、母音を弱く短く扱い、子音の後で声がほどけることがあります。これでは単語は聞こえても、文章全体がつながりません。

「本日は資料をご用意しました」と言うときは、「ほんじつ」「しりょう」「ようい」の母音が、同じ細さで前へ続くかを確かめます。全てを長く引き延ばす必要はありません。子音の直後に母音がきちんと現れ、次の音へ渡っていくことが大切です。私は、明瞭にしようとしているのに冷たく聞こえる声では、母音に声が乗る時間が極端に短くなっていないかを確認したいです。

母音が通ると、語の間に小さな橋ができます。橋があるから、聞き手は先の言葉を予測しながら受け取れます。言葉の内容を正確にしたい場面ほど、全ての語を区切るのではなく、意味のひとまとまりを一息でつなげてください。「ご不明な点があれば、お知らせください」は、「ご不明な点があれば」と「お知らせください」の二つに分けるくらいで十分です。細かく切るより、意味で束ねるほうが自然に伝わります。

数字と固有名詞だけは輪郭を一段上げる

ビジネスの声で、子音を意識する価値が最も高いのは、聞き間違いが結果へ影響する語です。金額、日付、時間、商品名、部署名、人名などは、一度聞き流されると後の確認に時間がかかります。その語だけは、舌の準備を少し早くして、始まりをはっきり作ります。文章全体を放送のようにするのではなく、大事な語だけへ照明を当てるイメージです。

たとえば「会議は十五時から第二会議室です」なら、「十五時」と「第二会議室」を少しだけ明確にします。「じゅうごじ」と言い切ったあとに急いで次へ行かず、「じ」の母音を短く保って「か」に渡します。「だいにかいぎしつ」は、「だい」「に」「かい」の舌の位置が慌てず移るようにします。音を太くする必要はありません。聞き手が選び直さなくてよい輪郭を置くことが目的です。

強調する語が増えすぎると、何が重要かが分からなくなります。文の中で一つか二つに絞ると、話す側の息も乱れにくくなります。重要語の前に沈黙を入れすぎるより、前の語尾を落ち着かせてから続けるほうが会話らしく聞こえます。アナウンサーの技術から受け取るべきなのは、全音を均一に磨くことではなく、情報の重さに応じて輪郭を配分する感覚です。

聞き返される原因を子音だけにしない

「滑舌が悪い」と感じるとき、原因が舌とは限りません。声帯閉鎖が緩すぎると、舌が正しく動いても音の芯が薄くなり、子音と母音の差が聞き取りにくくなります。反対に締めすぎても、音の立ち上がりが硬く、言葉が続きません。PR-2でいう声帯閉鎖の加減は、強く閉じればよいという話ではなく、声を支えながら通すための調整です。

また、喉ぼとけを下げて「喉を開けよう」とすると、会話には必要のない重さが加わることがあります。PR-11では、下を無理に下げるのではなく、軟口蓋側の上を上げる考え方を大切にします。あくびの手前のように上あごの奥に少し空間をつくると、舌の動く場所が保たれ、音がこもりにくくなります。大きく開く必要はなく、首やあごが動かない程度で十分です。

聞き返されるたびに口だけを大きくするより、どの音で曖昧になるかを観察してください。語頭が消えるなら息の入り方、語中がつぶれるなら舌の移動、語尾が消えるなら閉鎖の加減や息の継続が関係していることがあります。痛み、強い違和感、声の枯れが続くときは、発声練習を続けず、医療機関などの専門家に相談してください。

会話の速さに合う明瞭さを選ぶ

聞き取りやすい声は、常にゆっくりで、常に整っている声ではありません。相手が急いでいるときに、一語ずつ区切りすぎれば、内容は明確でも会話のテンポは合わなくなります。反対に、親しい相手へ重要な条件を伝えるときに普段どおり流すと、必要な語が埋もれます。声を整える目的は、きれいに聞かせることではなく、相手が必要な情報を無理なく受け取れるようにすることです。

そのため、最初の一文で全てを完成させようとしなくて大丈夫です。「承知しました」「確認します」「少々お待ちください」のような短い文で、声を前に置き、相手の反応を受け取ります。そのうえで数字や条件を伝える場面だけ、舌の輪郭を一段上げます。会話の温度を保ちながら、必要な部分だけが聞こえる状態を作れます。

アナウンサーの声に学べるのは、誰にでも同じ話し方をすることではありません。言葉を相手に渡す責任を、音の細部まで持つ姿勢です。舌を使って子音の入口を整え、母音と息で文章をつなぎ、大切な情報だけを明るくする。その配分ができると、整った声はよそ行きの声ではなく、仕事で頼りにされる自然な声になります。

よくある質問

Q. アナウンサーのような声を目指したほうがいいですか
目指す必要はありません。仕事の場で必要なのは会議や商談で自然に届く声であって、放送用に整えられた読み方とは役割が違います。
Q. アナウンサーと普通の人の声の差は何ですか
声質そのものより、声の密度や張り、声色の変え方、滑舌の三点の差だと感じています。声質は変えにくくても、この三点は練習で埋まる部分です。
Q. 滑舌を良くする練習はアナウンサーの真似で問題ありませんか
子音をはっきり立てる練習自体は有効です。ただし普段の会話や電話対応でその立て方をやり過ぎると、かえって不自然で距離のある印象になります。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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