結婚式スピーチの声。大勢の前の緊張で震わせない
結婚式のスピーチで声が震える人へ。自宅の練習と本番の差、涙で声がぶれる瞬間の整え方、乾杯前後の第一声のつくり方をボイストレーナーが解説します。
奥津ユキ
名前を呼ばれ、係の方からマイクを渡された瞬間、手元の原稿がわずかに揺れる。自宅では何度も声に出して練習してきたはずなのに、披露宴会場に立った途端、最初の一音から震えが乗ってしまう。結婚式のスピーチを控えた方から、私のところにもよくこの相談が届きます。
震えるのは緊張だけでなく、その場所に慣れていないからです
「結婚式のスピーチで声が震える=あがり症だから」と片づけてしまう人が多いのですが、私はそれだけだとは思いません。緊張はもちろんありますが、同じくらい大きいのは、その場そのものに体が慣れていないことです。
自宅の練習は、静かな部屋で、原稿を見ながら、座ったままの声です。本番は、シャンパングラスが触れ合う音、余興のBGMの残響、二百人近い視線、スピーカーから返ってくる自分の声。体にとってはほぼ初めて経験する条件が一気に重なります。震えは気持ちの弱さの表れというより、未知の環境に対して体が身構えている反応に近いものです。だからこそ、練習の段階でマイクを持つ、立ったまま話す、声を張らずに話すという条件を一つでも本番に近づけておくと、震え方はかなり変わってきます。
マイクを受け取った瞬間の第一声を、先に決めておきます
友人代表としてマイクを受け取った直後、多くの人が焦って声を出そうとします。ここで一番崩れやすいのが最初の一音です。
練習に使う一文はこちらです。
「ただいまご紹介にあずかりました、新郎の友人でございます」
これを、マイクを受け取ってすぐ声にしようとすると、息が止まったまま出だしを喉で押すことになり、最初の一音から震えが乗ります。そうではなく、マイクを受け取ってから一度だけ短く息を吐き、それから声を出します。語尾の「ございます」まで息が残っているかどうかも、あわせて確認してください。第一声さえ落ち着いて出せると、その後の流れ全体が安定しやすくなります。
手紙を読む場面で声がぶれるのは、涙より息の止まりが原因です
新婦が読む両親への手紙のように、感情が高ぶる場面ほど声は大きくぶれます。多くの方は「泣きそうになるのを我慢しなければ」と考えますが、私が見ているのはそこではありません。感情がこみ上げた瞬間、多くの人は無意識に呼吸を止めてしまいます。息が止まると喉まわりが締まり、声が裏返ったり、細く震えたりします。
涙をこらえること自体を目標にする必要はありません。「ここまで育てていただき、本当にありがとうございました」のような一文の途中で込み上げてきたら、言葉を止める前に、お腹にかけている圧だけは抜かないようにします。息を止めて我慢するより、お腹の支えを保ったまま少し間を置くほうが、声はかえって崩れにくくなります。
堂々と話そうとする力みが、震えを大きくすることがあります
友人代表のスピーチでは「堂々と振る舞わなければ」と考える人が多いのですが、これが逆効果になる場合があります。無理に大きな声で押し切ろうとすると、それ自体が自分へのプレッシャーになり、喉に力が入って余計に震えやすくなります。
私の見立てでは、堂々と見せることよりも、力を抜いて話すことのほうが結果的に落ち着いて聞こえます。声量を無理に張らなくても、第一声と語尾さえ整っていれば、聞き手には十分に誠実な印象として伝わります。
ゆっくり話すことが、必ずしも震え対策にならない場合があります
緊張したら「ゆっくり話せば落ち着く」とよく言われます。深呼吸をしてから話し始めること自体は悪くありません。ただ、震えている状態のまま一音一音を無理に引き延ばすと、震えている音そのものが長く聞こえてしまい、かえって目立つことがあります。
私の実感では、少しテンポよく言葉を運んだほうが、聞き手には震えが気にならないことが多いです。すべての語をゆっくり話そうとするのではなく、乾杯の発声や名前を呼ぶ場面などここぞという一言だけ間を置き、それ以外は自然なテンポで進めるくらいがちょうどいいバランスです。
拍手の後に話を再開すると、声が上ずりやすくなります
エピソードの途中で場内から拍手や笑いが起きることがあります。ここで多くの人がやってしまうのが、拍手が鳴りやんだ瞬間を逃すまいと、慌てて次の言葉を出してしまうことです。拍手の音に負けまいと声を張ろうとして、そのまま喉の高い位置から声を出してしまい、続く一文が上ずったまま進んでしまいます。
拍手が起きたら、いったん言葉を止めて、拍手が収まるのを待ってから、あらためて短く息を吐いてから話し出してください。拍手の余韻の中で焦って声を出さないことが、その後の落ち着きにつながります。会場の反応を待つ間は、沈黙ではなく、次の一言を整えるための時間だと考えてください。
乾杯の発声を任された場合は、スピーチとは別に第一声を用意します
友人代表のスピーチとは別に、乾杯の音頭を任される場合もあります。この場面は、スピーチよりも短く、一言で場の空気を変える必要があるぶん、第一声の出来がそのまま印象を決めます。
「それでは、僭越ながら乾杯の発声をさせていただきます」
この一文を、グラスを持ちながら焦って言おうとすると、息が浅いまま声を出すことになり、声が上ずったり小さくなったりします。グラスを持ち上げる前に、一度だけ息を吐き切ってから話し始めてください。「乾杯」の一言は、大きく張り上げるより、語尾までしっかり息を残すことのほうが、会場全体に落ち着いて届きます。
グラスの音やBGMに負けまいと声を張ると、かえって割れます
披露宴会場は静かではありません。グラスの触れ合う音、着席の物音、BGMの余韻が残っている中でスピーチが始まることも多いです。ここで「聞こえていないかもしれない」と焦って喉で声量を上げようとすると、声が割れたり、うわずったりします。
私がすすめているのは、顎を固定し、口を横に「い」の形で軽く開けたまま話すことです。縦に大きく口を開けてがなるより、この形のほうがマイクに声がのりやすく、会場のざわめきに負けずに通ります。声量そのものを上げるより先に、マイクとの距離を一定に保つことを意識してください。
新郎新婦のご両親に向き直る瞬間に、声が途切れることがあります
スピーチの終盤、新郎新婦だけでなく両家のご両親に向かって体を向け直す場面があります。この向き直る動作の途中で声が途切れる、あるいは体の向きが変わった拍子に声量が急に落ちる、という相談もよく受けます。
原因の多くは、体を動かすことに気を取られて、息を吐きながら話す流れが止まってしまうことです。向きを変える前に、いったん息を吐き切ってから体を動かし、向き直ってから新しい息で話し始めるようにすると、声の途切れは起きにくくなります。動きと発声を同時に処理しようとしないことが、この場面のこつです。
3分のスピーチは、句点ごとに短く区切って練習します
長い一文を一息で言い切ろうとすると、後半で息が足りなくなり、声が細く震えて聞こえます。披露宴のスピーチは3分前後にまとまっていることが多いので、原稿を句点ごとに短く区切り、句点のたびに息を足す練習をしてください。
一文を長く続けようとするほど、聞き手には早口で余裕のない印象として伝わります。短く区切って、語尾まで息を残しながら進めるほうが、内容は変わらなくても落ち着いた印象になります。
前日、スマホ1つでできる録音チェック
前日には、実際にマイクを持つ想定で、冒頭の一文と乾杯の発声をスマホで録音してみてください。聞き返す場所は三つだけです。
最初の音が喉で押されていないか。手紙を読む場面を想定した箇所で、息が止まっていないか。語尾の「ございます」「おめでとうございます」まで音が残っているか。
震えを完全にゼロにする必要はありません。この三点さえ整えられれば、多少の震えが残っていても、聞き手には十分に温かい言葉として届きます。前日に一度録音して終わりにせず、当日の朝、会場に着く前にもう一度同じ一文だけ小さな声で確かめておくと、体の状態を当日の緊張度に合わせて微調整できます。
まとめ
結婚式のスピーチで声が震えるのは、気持ちの弱さではなく、慣れない環境と息の止まりが重なって起きています。第一声を決めておくこと、感情が高ぶる場面でも呼吸を止めないこと、堂々と見せようとして力まないこと、句点ごとに息を足すこと。この積み重ねが、大切な一日にふさわしい声をつくります。
よくある質問
- Q. 結婚式のスピーチで声が震えるのは緊張のせいですか
- 緊張だけとは限りません。披露宴という場に慣れていないことも重なって震えとして出てきます。
- Q. 堂々と話そうとすると震えは止まりますか
- 無理に堂々と振る舞おうとすると、かえって自分にプレッシャーがかかり震えが強く出ることがあります。力を抜いて話すほうが安定します。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →プレゼンで声が震える原因と対策。メンタルではなく筋肉から整える方法
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