税理士の説明が伝わる声。専門用語を噛み砕いて届ける話し方

顧問先への決算報告や制度説明が右から左へ流れてしまう税理士へ。数字を読む声の抑揚、語尾、高齢の経営者にも届く声の作り方を解説します。

奥津ユキ

紙に「今期の消費税は、課税売上と仕入控除税額を確認してから申告額を決めます」と書き、一度、そのまま言ってみてください。次に、言葉は置き換えず、紙に「今期の消費税は|課税売上と仕入控除税額を確認してから|申告額を決めます」と二本の縦線だけを引き、同じ文を二度目に言ってみてください。二度目で意味のまとまりが手元に見えたなら、専門用語は平易な語への置換より、処理する単位を切ることから整えられます。差が出なければ、区切り方ではなく、前提知識が不足しているという別の原因を確かめてみてください。

専門用語を減らすだけでは、説明は伝わらない

税理士が説明を分かりやすくしようとして、専門用語を日常語へ置き換えることはあります。しかし、置き換えた語が長くなったり、説明が一息に連なったりすると、聞き手が理解する前に次の情報が来ます。難しい言葉があることと、処理しにくい説明であることは同じではありません。「課税売上」「仕入控除税額」「申告額」という語は専門的ですが、それぞれがどの順番で関係するかが見えれば、聞き手は一つずつ扱えます。反対に「売上にかかる税金から仕事で払った税金を引いた残り」と言い換えても、何を確認し、どこで結論を出すのかが一続きなら負荷は残ります。私がこの場面でまず確認したいのは、説明の中に、聞き手が一度受け取って置ける単位があるかどうかです。噛み砕くとは、言葉を幼くすることではありません。聞き手が頭の中で処理できる大きさへ、情報の塊を切ることです。専門用語を使うときほど、その語の前後に何を置き、どこで一区切りにするかが、声の伝わり方を左右します。

聞き手にとっての難しさは、語の専門性だけでは測れません。一度に何を覚え、何と結びつけ、何を判断すればよいかが見えないと、平易な語でも負担になります。説明する側が情報の塊を決めることで、聞く側は一つずつ前へ進めます。

聞き手は、一文全体ではなく塊ごとに処理する

説明を聞く側は、話し手が一文を終えるまで何も理解しないわけではありません。聞きながら、「これは何の話か」「自分に関係する数字か」「次に何をすればよいか」と小さな単位で受け取ります。その途中で新しい名詞、数字、例外、期限が同時に入ると、前の情報を置く場所がなくなります。税務の説明では、制度名だけでなく、対象期間、金額、必要書類、判断の理由が出てくるため、情報を一つの長い文へ詰めるほど処理が重くなります。そこで、説明を「対象」「確認するもの」「判断」「次の行動」のような塊へ分けます。たとえば「今期の消費税についてです」で対象を置き、「売上と経費の税額を確認します」で確認事項を置き、「その差から申告額を決めます」で判断を置きます。用語を残すなら、「経費の税額」に続けて「仕入控除税額です」と名称を添えることもできます。重要なのは、名称を言った瞬間に次の論点を重ねないことです。一つの塊を渡してから、次の塊へ進む。これにより、聞き手は用語を知らなくても、説明の地図を失いにくくなります。

塊を切る位置は、話し手が息を継ぐ都合だけで決めないことが大切です。聞き手が「これは売上の話だ」と置ける地点で、次の論点へ移ります。この順番が崩れると、聞き手が前の情報を処理している間に結論だけが先へ進むということが起こります。

数字と用語を、一つの息継ぎに詰め込まない

税務説明で聞き手が混乱しやすいのは、数字そのものより、数字が何を示し、どの用語に結びつくかが同時に来る場面です。「売上が八百万円で経費が三百万円、簡易課税の区分は第二種で、納税額は」という形で連なると、聞き手は最初の数字を保持したまま制度区分を処理し、さらに結論を待つことになります。数字を削るのではなく、役目ごとに切ります。「今期の売上は八百万円です」と数字を置く。「この金額は、申告の区分を考えるために使います」と役目を置く。そのあとで制度の名称を出す。この順なら、数字と名称を別々に受け取れます。私がこの場面でまず確認したいのは、一文の中で新しい数字と新しい専門用語がいくつ重なっているかです。二つ以上が重なるなら、片方を次の文へ移します。聞き手にとって必要なのは、話し手が情報を持っていることの証明ではなく、今どの数字を扱っているかの見通しです。声で説明する以上、表のように目を戻すことはできません。だから、数字を置く文と意味を示す文を分けることで、聞き手が頭の中に仮の表を作れるようにします。

数字を話す前には、何の数字かを先に示しておくと、聞き手は受け皿を作れます。数字を置いた直後には、その数字をどう使うかを言います。数値、役目、次の判断を三つの塊に分けることで、聞き手は数を暗記せずに話の流れを追えます。

用語は、定義より先に役目を渡す

専門用語を出すとき、辞書のような定義から始めると、聞き手はその語を覚えることに集中し、話の目的を見失うことがあります。用語の正確さは重要ですが、説明の入り口では、その語がこの場面で何のために出てくるかを先に渡すほうが理解につながります。たとえば「仕入控除税額です」と名称だけを置くのではなく、「売上にかかる税額から差し引くために確認する額です。これを仕入控除税額といいます」と言えば、聞き手は役目を受け取ってから名称を結びつけられます。ここで長い定義を続ける必要はありません。役目、名称、今回の扱いという三つの単位に分ければよいのです。「この額を確認します」「名称は仕入控除税額です」「今回は請求書で確認します」と順に置きます。難しい言葉を避けることだけを目的にすると、正確さを失う恐れもあります。用語を残しながら、聞き手が処理する順番を整えるほうが、専門家としての説明の責任を果たせます。

役目を先に渡す方法は、用語を曖昧にするためのものではありません。今回の説明に必要な範囲で、名称が何を指すかを示す方法です。より詳しい定義が必要なら、役目を共有した後に追加します。順番を分けることで、正確さと理解を両立させやすくなります。

説明の区切りは、聞き手の質問を待つ場所になる

情報を塊に切ると、話し手にとっても利点があります。一つの塊を渡したあとに短い間を置けるため、聞き手がうなずく、表情を変える、質問を挟むといった反応を受け取れます。説明が長い一本線になっていると、聞き手は疑問があっても、どこで止めてよいか分からず、最後まで聞くしかありません。終わった時点では、質問すべき箇所を忘れていることもあります。「ここまでが売上の確認です」「次に、経費側の税額を見ます」といった短い標識を置くと、聞き手は話の位置を把握できます。これは相手を急かすための区切りではありません。理解が追いついているかを確認するための余白です。質問が出たときは、説明全体を最初から繰り返すより、その質問が属する塊へ戻ります。たとえば税率の質問なら、数字の塊ではなく制度の役目を説明した部分へ戻します。聞き手の質問は、説明が失敗した証拠ではなく、どの単位に追加の処理が必要かを示す信号です。声の説明では、質問を受け止められる区切りを最初から作っておくことが重要です。

区切りの後に聞き手がすぐ質問しなくても、理解したと決めつける必要はありません。次の塊へ移る前に、いま何を確認したかを短く示せば、聞き手は質問を言葉にしやすくなります。説明の余白は、反応を待つための構造として使えます。

文書と口頭説明で、同じ順番を共有する

税務の説明では、資料や申告書の画面を見ながら話す場面も多くあります。このとき、資料の並びと口頭で渡す塊の順番が異なると、聞き手は目と耳で別の情報を処理することになります。たとえば画面では売上、経費、税額の順なのに、口頭では結論から例外へ飛ぶと、どの欄を見ればよいかが分かりにくくなります。資料がある場合は、口頭でも資料と同じ単位で進みます。「上の欄が売上です」「次の欄が差し引く額です」「最後にこの欄で申告額を見ます」と、聞く順番と見る順番をそろえます。用語を平易に言い換えるかどうかより、聞き手が目で見ている一塊と、耳で受け取る一塊を一致させるほうが大切です。資料がない電話や面談でも、見出しに相当する言葉を声で置くことができます。「一つ目は対象期間です」「二つ目は必要な書類です」と示せば、聞き手は目に見えない資料の骨組みを持てます。説明の明快さは、用語の難易度だけでなく、情報が同じ順番で並ぶことから生まれます。

画面共有を使うときは、話す箇所だけを指し示し、画面全体を一度に説明しないほうが処理しやすくなります。目で見る範囲を一つに絞り、同じ範囲について声で一つの塊を渡します。視覚と聴覚の単位がそろうことで、専門用語の位置も明確になります。

噛み砕くとは、理解の単位を切り分けること

税理士の説明を伝わるものにするために、専門用語をすべて日常語へ変える必要はありません。必要なのは、聞き手が何を受け取り、何を確認し、何を判断すればよいかを、一度に一つの塊として渡すことです。対象を示す、役目を示す、名称を置く、次の行動を示す。この順番があれば、専門用語は話の障害ではなく、正確に指し示すための札になります。数字と用語を同じ一息へ積み上げず、資料があれば目で追う順番と声の順番をそろえ、質問が入る余白を残してください。聞き手が理解しやすいのは、言葉が簡単だからではなく、処理する大きさが整っているからです。説明の途中で喉の痛みや声枯れが続く場合は、話し方の調整だけで対処を続けず、耳鼻咽喉科を受診してください。身体の状態を確かめたうえで、情報を切り分けて届けることが、正確さと伝わりやすさの両方を支えます。

説明を終えるときには、聞き手が次にすることを一つの文で置きます。何を確認し、どの書類を用意し、いつ返答すればよいかを一塊にして渡せば、制度の説明と行動の説明が混ざりません。理解の単位を整えることは、次の判断を可能にすることでもあります。

話す順番を整えることが、専門性を伝えるための土台になります。

よくある質問

Q. 数字の説明を聞き流されないようにするにはどうすればいいですか
声の抑揚を大きさでなく高さで作ることが有効です。金額の部分は落ち着いたトーンのまま、次にすべきことを伝える部分だけ少し高さを変えると、区切りが伝わりやすくなります。
Q. 高齢の経営者にも声を届けるにはどうすればいいですか
声量だけを上げるのではなく、トーンや話す速さも合わせて調整することが大切です。大きな声だけに頼ると、かえって威圧的に聞こえてしまうこともあります。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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