税理士の説明が伝わる声。専門用語を噛み砕いて届ける話し方
顧問先への決算報告や制度説明が右から左へ流れてしまう税理士へ。数字を読む声の抑揚、語尾、高齢の経営者にも届く声の作り方を解説します。
奥津ユキ
「今期の利益は、前期に比べて減っています。」決算報告の場でこの一言を伝えても、顧問先の表情がぴんとこないまま次の話題に移ってしまう。そう感じたことのある税理士の方は少なくないはずです。数字自体は正確に伝えているのに、声の届き方一つで、同じ内容が重く受け止められることもあれば、右から左へ流れてしまうこともあります。経営者にとって数字は自社の実感と結びつくものですが、こちらにとっては日々扱う淡々とした情報でもあります。この温度差が、声の抑揚にそのまま表れてしまうのです。
数字を読み上げる声が単調になる理由
決算書の数字を順番に読み上げていくうちに、声が一定のリズムのまま流れてしまうことがあります。抑揚をつけようとして声を大きくする方もいますが、私が勧めているのは声の高さを変えることです。金額そのものを伝える部分は落ち着いたトーンのまま読み、その数字が何を意味するのか、次に何をすべきかを伝える部分だけ、少しトーンを上げる。この高さの切り替えがあるだけで、顧問先は聞きながら「ここが重要な部分だ」と自然に区別できるようになります。声量を上げる必要はありません。毎月同じ形式で数字を読み上げる仕事だからこそ、慣れによって声のメリハリが失われやすいということも、意識しておいていただきたい点です。
専門用語を噛み砕く前に、区切りを作ります
減価償却や引当金といった専門用語を、日常の言葉に言い換える工夫をしている税理士の方は多いと思います。ですが言葉を平易にしても、一息に話してしまえば、顧問先の理解は追いつきません。一文に情報を詰め込みすぎると、聞いている側は最初の言葉の意味を考えている間に、次の情報がもう流れ込んできてしまいます。私が勧めているのは、一つの制度や数字について話したら、必ず言葉を区切ることです。「今年から制度が変わりました。」で一度区切り、相手の表情を確認してから「対応としては、こちらの書類をご用意ください。」と続ける。言い換え以上に、この区切りの位置が理解のしやすさを左右します。インボイス対応のように制度変更が続く分野ほど、言い換えの語彙を増やすより先に、この区切りの習慣を身につけておく方が、結果的に説明全体の負担が減ります。
経営者と経理担当者、両方に説明する場面もあります
決算報告や制度説明の場には、経営者だけでなく経理担当のスタッフが同席することもあります。同じ内容を、立場の違う二人に向けて説明しなければならないとき、声がどちらか一方だけを向いてしまい、もう一方には流し気味になってしまうことがあります。経営者は経営判断につながる部分を、経理担当は実務の手順を知りたがっているというように、同じ説明でも聞きたい部分が違うことも珍しくありません。私が意識していただきたいのは、話す相手を交互に見ながら、それぞれに向けて語尾まではっきり届ける意識を持つことです。片方に向けて話しているあいだ、もう片方の相手の反応にも耳を傾けられるよう、話す速さに少し余裕を持たせておくと、両者に同じ密度で伝わりやすくなります。
繁忙期に一日何件も説明すると、声より先に喉が疲れます
申告期の繁忙期になると、一日に何件もの相談や説明を続けることになります。長時間話し続けて夕方には声が枯れるという税理士の方は多いのですが、これはほとんどの場合、喉を締めすぎていることが原因です。声を張っているつもりがなくても、次から次へと数字の話をする緊張感の中で、無意識に喉に力が入ってしまいます。私が伝えているのは、横隔膜のあたりを軽くつまむように、話しているあいだも圧をかけ続ける感覚です。この支えがあると、繁忙期の終わりまで声が持ちやすくなります。声のかすれが数日たっても戻らない場合は、無理に話し続けず、耳鼻咽喉科への相談も選択肢として持っておいてください。
顧問先が高齢の経営者の場合、声量だけでは届きません
創業から長く続く会社ほど、顧問先の経営者が高齢であることも珍しくありません。高齢の方に声が届かないのは、声が小さいからだと考えられがちですが、それだけではないというのが私の見立てです。声の高さや話す速さも同じくらい関係しています。大きな声で押し切ろうとすると、耳には届いても威圧的に聞こえてしまい、内容そのものが頭に入りにくくなることもあります。声量を一段上げつつ、話す速さは普段よりゆっくりにする。この組み合わせの方が、大声だけに頼るよりも確実に伝わります。特に金額の桁や制度名など、聞き間違えると影響が大きい部分ほど、速さを落として一語ずつ区切って伝えることを意識してみてください。
「大丈夫です、問題ありません」の語尾が経営者を不安にさせます
税務調査や資金繰りの相談を受けたあと、安心させようとして「大丈夫です、問題ありません」と伝える場面は多いはずです。ですがこの言葉の語尾を早く切り上げてしまうと、内容が正確でも、経営者の側には「本当にそうなのか」という不安が残ってしまいます。次の予定が控えていて急いでいるときほど、最後の一音を投げ出しがちです。言い切ったあとに半拍だけ間を置き、語尾まで息を残す。これだけで、同じ言葉でも受け取られ方は変わります。訪問件数が多い日ほど、次の顧問先へ向かう気持ちが先走り、最後の挨拶や締めの言葉が急いだ響きになりがちなので、意識して確認してみてください。
電話相談と対面訪問で、声の切り替えが必要です
顧問先とのやり取りは、対面での訪問だけでなく、電話での相談も日常的に発生します。電話では画面越しよりもさらに声だけが頼りになるため、口だけで喋ろうとするとこもって聞き取りにくくなります。私が勧めているのは、意図して鼻にかけようとするのではなく、口角を少し上げることです。口角が上がるだけで声が自然に鼻腔側に乗り、電話越しでもこもりにくくなります。対面では通じている話し方が、電話に切り替えた途端に伝わりにくくなると感じるなら、この違いを疑ってみてください。オンラインでの打ち合わせが増えている顧問先には、画面越しだからこそ、いつもより口角を意識して話し始める習慣をつけておくと安定します。
説得力は、低い声でなくハキハキした声から生まれます
節税策や資金調達の提案をするとき、説得力を出そうと声を低く落ち着かせる方がいますが、それだけが正解ではありません。低くて落ち着いた声も一つの手法ですが、しっかり声を出し、明るい音でハキハキ話すことでも説得力は十分に上がるというのが私の実感です。特に前向きな提案を伝える場面では、声を低く抑え込むよりも、明るさと歯切れの良さを保つ方が、相手の背中を押しやすくなります。反対に、資金繰りが厳しいといった重い内容を伝える場面では、明るさを抑えて落ち着いたトーンに寄せる。場面によって、落ち着かせる声とハキハキした声を使い分けてみてください。
スマホ1つでできる、決算説明の点検
練習に使っていただきたいのは「今期の利益は、前期に比べて減っています。要因は仕入れ価格の上昇です。来月までに対応の書類をご準備ください。」という一文です。この一文をスマホで録音し、一回目は普段どおりのスピードで、二回目は数字の部分と対応の部分でトーンを変えて、三回目は語尾まで息を残す意識で読んでみてください。三つを聞き比べると、声を張らなくても伝わり方が変わる箇所が見えてきます。訪問の前の数十秒、移動中の車内でもできる点検です。同じ一文を繰り返し使うことで、声の変化だけを比較でき、言葉選びのせいなのか声の出し方のせいなのかを切り分けやすくなります。
まとめ
顧問先への説明が右から左へ流れてしまうと感じるなら、専門用語の言い換えよりも先に、抑揚とトーンと語尾を見直してみてください。抑揚は声の高さで作る、高齢の経営者には声量だけでなく速さも合わせる、語尾まで息を残す、提案の場面では明るさとハキハキさも武器になる。この四点を意識するだけで、同じ数字を伝える一言でも、顧問先に届く感触は変わってきます。繁忙期に声が枯れやすい方は、体の支え方も合わせて見直しておくと、一年を通じて安定した説明ができるようになります。特別な話し方の訓練よりも、実際に使う説明の一文を録音して聞き比べることの方が、確実な一歩になります。
よくある質問
- Q. 数字の説明を聞き流されないようにするにはどうすればいいですか
- 声の抑揚を大きさでなく高さで作ることが有効です。金額の部分は落ち着いたトーンのまま、次にすべきことを伝える部分だけ少し高さを変えると、区切りが伝わりやすくなります。
- Q. 高齢の経営者にも声を届けるにはどうすればいいですか
- 声量だけを上げるのではなく、トーンや話す速さも合わせて調整することが大切です。大きな声だけに頼ると、かえって威圧的に聞こえてしまうこともあります。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →ビジネスボイトレとは。声で印象の主導権を握るために鍛えること
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