第一声の練習法。話し始めの弱さを、体の使い方から直す

電話や窓口対応で第一声が弱い・こもる人へ。性格ではなく息の摩耗から直す練習法を、1日3回の練習タイミングと録音チェックで解説します。

奥津ユキ

一日に何十件も電話を受ける仕事では、朝はしっかり出ていた第一声が、午後にはこもって弱くなっていきます。性格が疲れて弱気になったのではありません。理屈の前に、いまの状態をそのまま録音して確かめてください。

いま出せる第一声と、息を通した第一声を録り比べます

スマホのボイスメモに、電話で毎日使っている応対の一言を、いつもの調子のまま一回録音します。

「はい、〇〇でございます」

続いて、口を閉じて一度息を吐き切り、肩を上げずに短く吸ってから、同じ一言をもう一度録音してください。並べて聞くと、二回目は最初の「は」の音が立ち、語尾の「ます」まで声が残っているはずです。変えたのは声ではなく、声を出す前の息だけです。第一声の強さは元気さで決まるのではなく、話す直前に息が動いているかどうかで決まっている。この差を先に耳で確かめておくと、ここから先の話はすべて自分の録音の話として読めます。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

声は生まれつきの元気さで決まるものではありません。話す直前に息が動いているか、その一瞬の習慣が、第一声の強さをつくっています。

午後にこもるのは、弱気ではなく一日の摩耗です

代表電話を一人で受け持つような仕事では、同じ第一声を一日に何十回も繰り返します。繰り返すほど声を出す動作は自動化され、それ自体は悪いことではないのですが、その過程で「話す直前に息を通す」という一手間がまっ先に省略されていきます。省略された分だけ第一声は喉の奥から始まり、こもって届きます。朝の数件はきちんと出ていたのに、夕方の折り返しで聞き返される。声が枯れたのではなく、一手間が削れただけです。

摩耗のサインとして分かりやすいのが、最初の音の欠け方です。朝の録音では「は」がきちんと立っていたのに、夕方の声を聞くと「は」がほとんど消えて、社名から始まっているように聞こえる。本人は同じように出しているつもりでも、録音にはこの欠けがはっきり残ります。聞き手が聞き返してくるのは、たいていこの欠けた一音のせいです。

もう一つ見落とされやすいのが、昼休み明けの一件目です。休憩中はほとんど話さない人が多く、午前中に温まっていた喉が一度冷えた状態に戻っています。午後いちばんの電話は、朝の一件目と同じ扱いで、話す直前の一手間を丁寧に戻してください。摩耗は気を張って防ぐものではありません。どの時間帯から削れ始めるのかを録音で特定し、その手前で一手間を戻す。練習の狙いはこれだけです。

大きな声で直そうとするほど、次の一件がこもります

第一声が弱いと感じた時に声量だけを上げると、喉で押した声になり、聞き手には元気さより硬さや余裕のなさとして届きます。私が先に見るのは、電話を取る前に息がどれだけ動いているかです。受話器を取る前に息が止まっていないか。最初の音を喉で押し出していないか。社名の手前で力んでいないか。語尾に入る前に息が切れていないか。このどこかが崩れていれば、いくら張っても弱く聞こえます。

声量の代わりに使うのは、息のスピードです。自転車はゆっくりこぐとふらつき、ある程度速度が出ると勝手に安定します。声も同じで、息をゆっくり出すと喉で支えたくなり、少し速く吐き切る意識を持つと、同じ音量でも声は喉に頼らず前へ出ます。口を閉じて一度吐き切る、短く吸う、声にせず口だけ動かす、最後に抑えた音量で一度だけ声にする。この順番で、息のスピードだけを意識して練習してください。

電話を切った直後と保留明けが、次の第一声を決めます

第一声の練習は、電話を取る前だけの話ではありません。一件話し終えた直後は、安堵で息が浅くなっています。そのまま次が鳴れば、整っていない息のまま第一声を出すことになります。切ったら、次が鳴るまでの数十秒で口を閉じて一度吐き切り、肩を落として短く吸っておく。この習慣だけで、二件目以降の弱まり方はゆるやかになります。

保留明けは、さらにこもりやすい場面です。保留中に資料を探し、画面をのぞき込み、体の向きも息も、声を出すための状態から離れているからです。解除ボタンに指をかけたその一瞬で、前かがみを戻し、口を閉じて短く吐いてから声にしてください。この一手間の有無で、保留明けの第一声の届き方は目に見えて変わります。

厳しい内容の電話を受けた直後も、同じ扱いが必要です。強い口調で言われた後は、息が浅くなるだけでなく、体が次の着信に身構えて喉から固まります。固まったまま次を取ると、身構えた硬さがそのまま第一声に乗り、何も知らない次の相手に緊張した声で応対することになります。切った後の数十秒は、メモの整理より先に、吐き切って肩を落とす時間にあててください。

こもった第一声は、喉を下げずに口の奥の上側で直します

こもりを直そうとして喉ぼとけを下げ、低く出そうとする人がいますが、これは逆効果です。声帯がたわみ、声はかえって奥にこもります。直すのは喉の下側ではなく、口の奥の上側です。あくびの手前のように軽く持ち上げておくと、同じ息の量でも第一声が前に抜けやすくなります。顎は動かさなくて構いません。顎を止めたまま口の奥だけを開ける感覚がつかめると、第一声はすっと前に出ます。

ヘッドセットで応対している人は、マイクが口元のすぐそばにある分、声を張る理由が一つもないことも思い出してください。張る必要がないのに午後になると声が硬くなるのは、音量が足りないからではなく、疲れで喉に頼る割合が増えているサインです。ヘッドセットの日ほど、音量ではなく口の奥の開きと息の一手間だけを見てください。

元気な性格かどうかは、第一声の強さと関係ありません

第一声が弱いと、内向的だから、元気がないからと自分を責める人がいます。けれど第一声の強さは性格の元気さとほとんど関係がなく、筋肉と息の使い方が整っていれば、緊張していてもほぼ同じ声が出ます。反対に、気持ちをどれだけ盛り上げても、話す直前に息が止まっていれば弱く届きます。

そもそも、電話の第一声が弱い人の多くは、隣の席との雑談では普通に聞こえる声で話しています。性格の問題なら、場面を問わず同じように弱いはずです。電話の時だけ弱くなるなら、それは電話を取る動作の中に息を止める瞬間が組み込まれているだけのこと。気持ちの問題として片づけると直す場所が消えてしまうので、息を通す、口の奥を開ける、切った直後に整え直すという手順の問題として扱ってください。

朝・昼・夕方の三回だけ録音し、崩れる時間帯を特定します

練習にまとまった時間は要りません。朝の業務前、昼の休憩明け、疲れの出る夕方。この三つのタイミングで、先ほどの一言を一回ずつ録音するだけです。聞き比べる場所は三つ。最初の音が立っているか。社名の部分で息が途切れていないか。語尾まで声が残っているか。

三回を比べると、自分がどの時間帯からこもり始めるかが具体的に見えてきます。見えたら、その時間帯の直前にだけ、息を通す一手間を意識的に増やせば十分で、一日中気を張り続ける必要はなくなります。録音の自分の声に最初は違和感があっても、聞くべきは声の好き嫌いではなく、時間帯による崩れ方の違いだけです。

職場で録音するのが気になる場合は、席を立つついでの廊下や空いている会議室で、小さめの声量で録れば足ります。比べたいのは声の大きさではなく最初の音の立ち方なので、三回とも同じ場所・同じ声量で録るという条件さえそろえば、小声でも摩耗の差はきちんと聞き取れます。

夕方の一件目が、朝と同じ声で出せたら合格です

第一声は、根性でも生まれつきでもなく、毎回同じ手順で作れます。今日の夕方、疲れがいちばん出る時間帯に、もう一度だけ録音してみてください。

「はい、〇〇でございます」

朝の録音と並べて、最初の音の立ち方がそろっていれば、その日の摩耗は手順で抑え込めています。そろっていなければ、崩れたのが息か、喉か、姿勢かを一つだけ特定して、明日はそこだけ直せば十分です。

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よくある質問

Q. 第一声の練習は一日一回で十分ですか
一回だけだと、疲れていない状態でしか確認できません。朝・午後・夕方など、体の摩耗具合が違うタイミングで同じ一文を録音すると、崩れやすい時間帯が見えてきます。
Q. 電話が鳴るたびに毎回大きな声を出す練習をすべきですか
大きさで直そうとすると喉で押した声になりやすいです。声量より先に、電話を取る前の一瞬に息が流れているかを確認する練習の方が効果があります。
Q. 第一声が弱いのは疲れているせいですか
疲労だけが原因ではありません。同じ言葉を繰り返すうちに息を止めたまま声を出す癖がつき、それが第一声の弱さとして積み重なっていくことがあります。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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