大人数の前の自己紹介の声。順番待ちの緊張で崩さない

研修や式典で大人数の前を順番に回っていく自己紹介。待っている間に高まる緊張で、声が沈む・早口になる原因と整え方を解説します。

奥津ユキ

研修の会場に並んだ長机、あるいはホールの座席。前から順番に自己紹介が回ってきて、自分の番になるまで他の人の声を聞き続ける時間があります。この記事で扱うのは、話している最中の声だけではありません。順番を待つあいだに何が起きているかから見ていきます。

三人前あたりから、体はすでに反応し始めています

大人数の前での自己紹介は、話す瞬間よりも前に勝負が決まっていることが多いです。自分の番が近づくにつれて、多くの人は無意識に呼吸が浅くなり、肩がじわじわと上がっていきます。三人前、二人前と近づくごとに、次に言う言葉を頭の中で繰り返すことに気を取られ、体の緊張には気づかないまま声を出す瞬間を迎えます。

「本日から研修に参加します、奥津です。よろしくお願いいたします。」

この一文を、待っている間の浅い呼吸のまま声にすると、出だしの音が細く沈みます。反対に、自分の番の少し手前で一度だけ肩を下ろし、短く息を吐いておくと、同じ一文でも立ち上がりが変わります。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

大人数の前の声は、性格の強さだけで決まるものではありません。順番を待つ間の呼吸と、立ち上がる瞬間の準備が、声の届き方を左右します。

人前というだけで緊張する人もいて、それは弱さではありません

あがり症は自己肯定感の低さが原因だとよく言われますが、私はそう言い切れるものではないと感じています。実際には、自己肯定感とは関係なく、大勢の人に見られているというそれだけで緊張する人もいます。失敗を恐れているというより、大人数という状況そのものに体が反応しているだけのこともあります。

だからこそ、克服しようとして人前に出る場数だけを増やそうとしても、根本のところは変わりにくいです。場数を踏むことは無駄ではありませんが、それだけに頼らず、呼吸と喉の使い方を整えることの方が、実際には近道になります。

立ち上がる音とともに、声はすでに始まっています

大人数の場での自己紹介には、電話や少人数の場面にはない動作が入ります。椅子を引いて立ち上がる、あるいは指名されて振り返る。この動作の音自体が、会場の視線を自分に集める合図になります。

立ち上がりながら同時に話し始めようとすると、体がまだ動いている途中で声を出すことになり、出だしの音が揺れます。私が勧めているのは、立ち上がりきってから、あるいは向き直ってから一拍だけ息を通し、その流れに乗せて第一声を置くことです。慌てて言葉を出すより、この一拍を挟む方が、会場全体に対しては落ち着いて聞こえます。

前の人の声量に引っ張られると、自分の基準を見失います

大人数の場では、自分より前の人がどんな声で話したかが、次第に気になり始めます。声が大きく通っていた人の後だと、自分も同じくらい張らなければと焦り、逆に声が小さく聞き取りにくかった人の後だと、なんとなく気が抜けてしまいます。

ですが、比べるべきは前の人の声量ではありません。会場の一番後ろまで届かせるつもりで話すという意識の方が、実際には安定します。大きな声を張り上げるのではなく、息のスピードを保ったまま声を前に出す感覚です。張り上げようとするほど喉に力が入り、かえって通りにくくなることがあります。

前の人が緊張で声を詰まらせているのを聞くと、自分も同じようになるのではと不安が強まる人もいます。そこで意識したいのは、前の人の出来を評価することではなく、自分の一文だけに集中することです。他人の声の調子は、自分の声の準備状況とは切り離して考えてください。

会場の反響で、自分の声が遅れて返ってくることがあります

天井の高いホールや、壁が硬い素材でできた会議室では、自分が発した声がわずかに遅れて跳ね返ってくることがあります。この反響を初めて経験すると、自分の声がおかしいのではないかと感じて、途中で声の出し方を変えてしまう人がいます。

反響そのものは会場の作りによるもので、声の良し悪しとは関係ありません。跳ね返りが気になっても、話す速さや声の出し方を急に変えず、決めていた通りの一文を最後まで話し切ってください。反響に合わせて声を追いかけようとするほど、語尾がぶれやすくなります。

「本日から研修に参加します、奥津です。よろしくお願いいたします。」を、待ち時間ごと練習します

練習は本番と同じ流れで行うと効果的です。まず座った状態で、次の人が話しているのを聞いているつもりで数秒待ちます。次に、実際に立ち上がる、あるいは体の向きを変える動作を入れます。そのうえで、一拍だけ息を通してから、この一文をスマートフォンに向かって声に出します。

聞き返すときに見るのは、上手く話せているかではありません。立ち上がった直後の出だしの音がこもっていないか。「奥津です」の名前の部分が急ぎ足になっていないか。「よろしくお願いいたします」の語尾まで音が残っているか。この三点だけを確認してください。

広い会場ほど、自分の声の届き方は自分では判断しにくくなります

マイクのない広い会場では、自分の声がどこまで届いているか、話している本人にはなかなか分かりません。声が小さく聞こえて不安になり、無理に張り上げようとすると、喉で押した硬い音になり、かえって遠くまでは届きにくくなります。

私が勧めるのは、声量を無理に足すのではなく、話す前にひと呼吸だけ深めに整え、言葉の子音をいつもより少しだけはっきり出すことです。大きさよりも輪郭がはっきりしている声の方が、広い部屋では聞き取りやすくなります。届いているかどうかを気にしすぎるより、自分の出だしと語尾だけを毎回同じように整える方が、結果として安定します。

自分の番が終わったあとも、姿勢はすぐに崩さないでください

話し終えた直後、多くの人はほっとして肩の力を一気に抜き、早足で席に戻ろうとします。この切り替えが早すぎると、語尾の余韻が消え、内容が良くても急いで終わらせた印象が残ります。

「よろしくお願いいたします」を言い終えたら、半拍だけそのままの姿勢を保ってから座ってください。この半拍が、話し終えた印象を落ち着いたものに変えます。次の人へ視線と注目が移る、その一瞬前まで自分の声の余韻を保っておくという感覚です。

名前を呼ばれてから話し始めるまでの間も、印象のうちです

司会者に名前を呼ばれてから自分の番であることに気づき、慌てて立ち上がって話し始める人がいます。呼ばれた瞬間に反応を急ぐほど、体の準備が追いつかず、声は浅いまま出てしまいます。

名前を呼ばれたら、まず一度だけ小さくうなずくくらいの間を作ってから動き出してください。この一呼吸分の間があるだけで、立ち上がる動作と声を出すタイミングがそろい、出だしの音の質感が変わります。急いで反応することよりも、落ち着いて動き出すことの方が、大人数の場では信頼感につながります。

順番を待つ時間は、内容ではなく体の準備にあてます

待っている間、多くの人は次に何を話すかを頭の中で繰り返します。ただ、内容は事前に決めておけば十分で、順番が近づいてからは、内容ではなく体の状態を整えることに意識を向けてください。肩の力を抜く、足の裏を床につける、短く息を吐く。この三つだけで、自分の番が来たときの声の立ち上がりが変わります。

まとめ

大人数の前の自己紹介で声が沈む、あるいは早口になるのは、性格の弱さではありません。順番を待つ間に呼吸が浅くなっていること、立ち上がる動作と声を出すタイミングが重なっていること、前の人の声量に基準を引っ張られていること。この三つが多くの場合重なっています。

練習に使うのは、本番で実際に話す一文だけで十分です。座って待つ、立ち上がる、一拍置いて声にする。この流れごと録音して聞き返せば、どこで声が沈んでいるかが具体的に見えてきます。大きな声を出すことよりも、順番が回ってくるまでの数秒をどう過ごすかの方が、大人数の前での声には効いてきます。

入社式のような一度きりの式典でも、月に一度の研修のような繰り返しの場でも、見るべき場所は変わりません。待つ間の呼吸、立ち上がる瞬間の一拍、話し終えたあとの半拍。この三か所を毎回同じように整えておくと、会場の広さや人数が変わっても、自分の声の出し方に迷わずに済みます。回数を重ねるうちに、待ち時間そのものが緊張の材料ではなく、声を整えるための準備時間に変わっていきます。

よくある質問

Q. 大人数の前の自己紹介で声が小さくなるのはなぜですか
性格や自信のなさだけが原因ではありません。順番を待つ間に呼吸が浅くなり、自分の番が来た時にはすでに喉が締まっていることが多いです。
Q. 順番が近づくほど緊張が強くなります。どうすればいいですか
緊張そのものを消そうとするより、待っている間に肩の力を抜き、短く息を吐いておくことを優先してください。人前というだけで緊張する人もいて、性格の弱さではありません。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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