資料の数字を訂正する場面で、何度も言い直す羽目になった。この癖を舌の不器用さのせいにする前に、訂正の一文を口にする一瞬に何が起きているかを確かめてみてください。
まずスマホで、この一文を録ってみます
理屈の説明は後回しにして、体で違いを確かめます。ボイスメモを開き、次の一文をいつも通りの速さで声に出してください。
「資料の3ページ目、数字を一点訂正します」
続けて、口を軽く閉じて息をひとつ通してから同じ文をもう一度声にします。二本を並べて聞くと、たいていの人は最初の録音では「3ページ目」のあたりで音がつぶれ、二本目は同じ速さのままなのに数字がひとつずつ輪郭を持って届くことに気づきます。差を作っているのは発音の上手さではなく、声にする前に言葉の頭の母音へ息が乗っているかどうかです。
滑舌の乱れは、舌より先に息の止まりで起きます
会議で聞き返される人の多くは、発音の技術が足りないのではなく、訂正や補足を切り出す瞬間で損をしています。第一声の前で息が止まり、数字や固有名詞の前で急ぎ、語尾が落ちる。この三つが重なると、内容は正しくても場に軽く受け取られてしまいます。
聞きやすい声を作るには口を大きく開けて話すことが最も重要だ、と考えられがちですが、そこだけを強めようとすると顎と舌の付け根に力が入り、声の出だしだけが硬くなります。はっきりさせようとした結果、かえって言葉がこわばって聞こえることも珍しくありません。開け方の問題であって、大きさの問題ではないのです。
対面でもオンラインでも、崩れる位置は同じです
対面の会議室で数字を訂正するときは、資料をめくる音が止み、周囲の視線が手元の紙に集まる間に、桁や項目名を早口で押し込みたくなります。オンラインでは、画面越しに相手の反応が読み取りにくいぶん、間を置くこと自体を怖がりやすく、数字と数字の継ぎ目を詰めて話してしまいがちです。
場が違っても、直すべき場所は変わりません。出だしで息が入っているか、数字や固有名詞の手前に間があるか、語尾まで息が残っているか。この三点さえ押さえておけば、会場ごとに違う対策を覚え直す必要はありません。
三か所だけ、聞き分けます
さきほどの録音を、発音の正確さで採点せずに聞き直してください。見るべき場所は三つです。最初の音は、話し始めが小さく入ると聞き手が言葉を取りこぼします。「3ページ目」のような固有の情報は、その前にほんの少し間があるかどうかで輪郭が変わり、急ぐと子音と母音が重なって崩れます。語尾は、最後の「します」が消えると、訂正した事実そのものが曖昧に伝わります。強く叩く必要はなく、最後の一音まで息を残すだけで十分です。
急いで言葉の頭が流れてしまう場合は、舌の練習を増やすより、どの音で輪郭が崩れているのかを先に探してください。口の形だけを一音ずつ強く作り込む直し方は避けたいところです。体の準備そのものが変わっていないと、本番では元に戻ります。
数字は、読み方を変えるだけで聞き間違いが減ります
会議の訂正でいちばん事故が起きやすいのは、数字そのものの聞き間違いです。舌の練習を積む前に、読み方を三つだけ変えてみてください。
一つ目は、桁で区切ることです。「3400」をひと息で流さず、「三千、四百」と間を挟んで読むと、それだけで輪郭が立ちます。二つ目は、紛れやすい音を避けた読みを選ぶことです。「しち」は「いち」と聞き分けにくいため、「なな」と読み替えます。三つ目は、単位まで言い切ることです。「45です」ではなく「45件です」まで息を残すと、聞き手は確認し直さずに済みます。
どれも発音の技術ではなく、読み方の選択です。滑舌に自信がない人ほど、この三つの効果は大きく出ます。
発言の30秒前は、これだけ整えます
発言前に長く発声練習をすると、かえって喉と舌が力んでしまいます。直前にやることは少なくて構いません。まず口を閉じたまま一度息を吐き、次に肩を上げずに短く息を入れます。そのあと、声を出さずにさきほどの一文を口だけ動かしてなぞり、最後に小さな声で一度だけ実際に言ってみます。
ここで確かめたいのは発音の美しさではなく、出だしの音が欠けていないこと、喉のあたりに余計な力みが残っていないこと、最後まで息の支えが切れていないことの三つです。
体の面でも見ておきたい場所が三つあります。まず足元で、床に足裏がしっかりついているかどうかです。体が浮いた感覚だと息も落ち着きません。次は胸の向きで、資料や画面に意識を取られると胸元がすぼまり、その分だけ声が前に出にくくなります。最後に見るのは顎と首の周りで、顎が前へ突き出た姿勢が続くと、出だしの一音を喉の力だけで押し出す形になり、言葉の輪郭がつぶれてしまいます。
訂正の途中で崩れたら、この順で立て直します
発言の途中で声が崩れたら、いっぺんに全部を言い直そうとしないでください。優先順位は、一文を短く区切ること、次に語尾まで言い切ること。それでも乱れが続くようなら、次の項目に移る前にひと呼吸だけ挟みます。この間は黙り込むことではなく、聞き手が数字を受け取るための時間だと考えてください。急いで次の項目を重ねてしまうほど、輪郭はさらにぼやけます。
聞き返されてしまったときの言い直し方も、一つ決めておくと落ち着きます。全文を頭から繰り返すのではなく、確認された情報だけを短く置き直してください。「3ページ目です。数字は、45件です」のように、相手が取りこぼした部分だけを、間を挟んで渡し直します。全文を言い直すと速度が上がって同じ場所でまた崩れますが、部分だけなら息が足り、二度目は輪郭が残ります。言い直しは失点ではなく、数字を確実に届けるための手続きだと考えてください。
仕上げに、もう一度だけ録音してみてください。
「資料の3ページ目、数字を一点訂正します」
一回目との違いは、数字の手前の一拍だけです。それ以外は変えなくて構いません。崩れた瞬間の戻し方を一つ体に入れておくだけで、発言中の落ち着き方は別人のように変わります。
会議で使う訂正・補足の型を、あらかじめ決めておきます
発言している途中で発音が崩れていく人は、話しながらその場で次の言葉を探していることが少なくありません。言葉を探している間はどうしても呼吸が浅くなり、喉のあたりに力みがたまって発音そのものが崩れます。そこで、会議で使う言い方をあらかじめ決めておくことを勧めています。数字や項目を訂正する場面ではさきほどの一文、話の筋を戻す場面では「先に、結論の数字だけ申し上げます」のような短い型を使います。
型が手元にあれば、声を整えるより前に話の筋道が先に定まります。筋道が定まっていれば呼吸も乱れにくくなります。目指すべきは飾り立てた言い回しではなく、口にしやすく語尾まで届けやすい短い一文を選ぶことです。長く一息で言う言葉は緊張のもとで輪郭が崩れやすく、逆に短く切れる言葉は途中で崩れても立て直しやすい性質があります。
会議の本番では、練習どおりにすべてを再現できなくても構いません。出だしの音だけ入る、数字の手前で一拍置ける、語尾だけ消えずに残る。このうちどれか一つでも変われば、聞き取りやすさは確実に変わります。今日の会議で実際に使う訂正の一文から、まずひとつだけ試してみてください。
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よくある質問
- Q. 会議で滑舌が悪いのは舌の問題ですか
- 舌だけではありません。息、母音、区切り、語尾が崩れることで滑舌が悪く聞こえることがあります。
- Q. 口を大きく開ければ聞き取りやすくなりますか
- 口の大きさだけでは不十分です。言葉の頭の母音に息を乗せ、区切りを作ることが大切です。
- Q. 会議前にできる滑舌練習はありますか
- 訂正で実際に使う一文を録音し、言葉の頭と語尾が聞こえるかを確認してください。数字は桁で区切り、「しち」を「なな」に読み替えるだけでも聞き間違いは減ります。
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