図書館で働く人へ。小声でもきちんと伝わる声の出し方

図書館のカウンターや書架案内で、大きな声を出せないまま利用者に届けたい方へ。小声でも輪郭が残る声の出し方と、今日から試せる練習を一人称で解説します。

奥津ユキ

「恐れ入ります、館内では少しお声を抑えていただけますか」

これを、通路の奥から小走りで近づいて大きな声で言ってしまうと、注意している自分の声のほうが一番響いて、静かな空間をかき乱してしまいます。図書館で働く方から私がよく聞くのは、「大声を出せない場所で、どうやって声を届ければいいのか分からない」という悩みです。カウンター越しの受け答え、書架の奥への案内、勉強スペースのざわめきへの声かけ。どれも共通しているのは、音量を上げるという選択肢がそもそもない、という条件です。

カウンターの内側では、声の出し方の選択肢がひとつ減っています

貸出・返却カウンターに立っていると、コピー機の作動音、本を重ねる音、隣の利用者の会話が絶えず耳に入ります。それでも、こちらの声だけは大きくできません。「本日返却分は以上でよろしいでしょうか」「こちらの本は三階の郷土資料コーナーにございます」。日常のやり取りのほとんどは、この程度の音量に収めなければならない一言です。

声量という一番手軽な道具が使えない状態で聞き取ってもらう声を作るには、音を大きくする以外の場所に手を入れる必要があります。私が見るのは、息の出し方と、声を出す位置の二つです。この二つが整っていれば、小声でも輪郭がはっきりして、離れた場所の利用者にも届きます。

「口から声を出さない」感覚が、小声でも通る声を作ります

生徒さんに驚かれる指示のひとつに、「口から声を出さないでください」というものがあります。矛盾しているように聞こえますが、口と息を一緒に前へ押し出すと、音量を落としたとたんに声が濁ってこもります。かわりに、声を鼻の奥のほうに響かせるつもりで出すと、音量を絞っても輪郭が残ります。

試しに「郷土資料コーナーにございます」を、普段の声量でまず言ってみてください。次に、同じ音量のまま、鼻の奥に響きを集めるつもりで言い直してみます。息を口先から吐き出すのではなく、後ろのほうに置いたまま声にする感覚です。二回目のほうが、音量を変えていないのに輪郭がはっきりして聞こえるはずです。図書館の小声は、これと同じ原理で作れます。

ささやけば喉が休まる、というのは思い込みです

長時間カウンターに立っていると、大声を出していないのに喉が疲れてくることがあります。ここで「ならばもっと声をひそめよう」と考えると、実は逆効果になりがちです。ささやき声は、声帯がしっかり閉じない分だけ息の量が増え、思っている以上に喉を消耗させます。図書館の小声だから喉に優しいはずだ、というのは正しくありません。

喉を休めたい時に一番効くのは、声をひそめることではなく、必要のない時間は発声そのものをやめることです。カウンター業務の合間に、無意識のうちにひとりごとや相槌を小声で漏らしていないか、一度振り返ってみてください。小声での相槌の積み重ねが、閉架書庫を何往復もした後の喉の疲れにつながっていることがあります。

顎を固定したまま、横に開くだけで滑舌は保てます

利用者と向き合ったまま口を大きく開け閉めして話すと、視界に入る動きが目立ち、かえって周囲の視線を集めてしまいます。図書館という場では、口の動きも控えめにしたいものです。

そこで使えるのが、顎を上下にほとんど動かさず、口を横方向にだけ「い」の形で開いておく話し方です。顎をパカパカ動かして喋る癖がある人ほど、輪郭がぼやけて聞き取りにくくなります。顎を固定したまま横に開いておくと、音量を上げなくても子音がはっきりして、案内の場所や本のタイトルが伝わりやすくなります。

「三階の郷土資料コーナーです」を、顎を意識的に動かさないまま、口の両端だけを横に引く感覚で言ってみてください。声を大きくしなくても、聞き返される回数が減っていきます。

書架の奥にいる利用者に、大声を出さずに呼びかけます

書架の間に姿が見えなくなった利用者に声をかけたい時、距離があるからといって声を張り上げると、静かな階全体に響いてしまいます。距離があるときほど、声量ではなく息の勢いを使うことを意識してみてください。

「お呼びしてすみません、先ほどお探しの本、こちらにございました」

この一言を、喉から絞り出すように大きくするのではなく、最初の音に息をしっかり乗せて前へ運ぶ意識で出すと、声量を上げなくても書架の奥まで届きやすくなります。届かないからといって声だけを繰り返し大きくすると、そのたびに喉の負担が増えていきます。届かない時は、声を大きくする前に数歩近づき、同じ声量で呼びかけ直すほうが、喉にも周囲にも負担がかかりません。

返却カウンターの一言を、録音して確かめます

練習に使うのは、実際にカウンターで交わす一言で十分です。

「本日は以上の三冊、返却でお預かりしました」

これを、普段どおりの音量でまず録音します。次に、声を鼻の奥に響かせるつもりで、同じ音量のまま録音します。最後に、顎を動かさず横に開いたまま、同じ一言を録音します。

聞き比べるときに耳を向けたいのは、うまく言えているかどうかではありません。最初の一音が沈んでいないか、語尾の「した」まで音が残っているか、輪郭がぼやけずに聞こえるか。この三点です。自分の声の好き嫌いを判定し始めると、そこで練習が止まってしまいます。体の使い方だけを追ってください。

電話での延長受付も、周囲への配慮と聞き取りやすさを両立させます

貸出期間の延長を電話で受け付ける時、受話器越しの相手に聞こえる声と、カウンター周辺の利用者に響く声のバランスに気を使う場面があります。相手にしっかり伝えようと気持ち声を張ると、静かな閲覧室にまで届いてしまうことがあります。

このような時も、声量を上げるのではなく、受話器に向かって息をまっすぐ届ける意識に切り替えます。受話器はすぐそばにあるので、大きな声で押し込まなくても、息をしっかり乗せた声のほうがクリアに伝わります。周囲への配慮と、相手への聞き取りやすさは、両立できないものではありません。

自分の声が小さく頼りなく感じるのは、骨伝導のせいです

録音した自分の声を聞いて、「こんなに頼りない声だったのか」と落ち込む方がいます。ですが、これは声そのものが弱いからではありません。自分の頭の中では声が骨を伝って低く響いて聞こえるため、実際に外へ出ている声より小さく、頼りなく感じてしまうだけです。これは誰にでも起きることで、実際には自分が思っているより通る声が出ています。

図書館という静かな環境では、この感覚のずれがいっそう気になりやすくなります。まわりが静かな分、自分の声だけがやけに小さく響いて聞こえるからです。録音で確かめる習慣を持っておくと、思い込みで声量を上げすぎたり、逆に萎縮したりせずに済みます。

私語がやまない一角には、注意ではなく声の置き方で応じます

学習室や自習スペースの近くで私語が止まらない一角に気づいたとき、強い調子で「お静かに」と言うと、その場の空気が一段と張り詰めてしまいます。声を張らず、それでいて相手に届く置き方が必要な場面です。

私がすすめるのは、声を尖らせるのではなく、語尾まで丁寧に言い切ることです。「恐れ入りますが、もう少しお声を抑えていただけますか」を、早口で押し出すように言うと、注意している側の緊張がそのまま声に出て、角の立った印象になります。逆に、最初の一音を静かに置き、語尾までゆっくり息を残して言うと、同じ内容でも硬さが薄れて伝わります。声の大きさではなく、置き方ひとつで場の空気は変わります。

スマホひとつで、今日から試せる練習

長い練習時間は必要ありません。案内で実際に使う一言をひとつだけ選び、鼻の奥に響かせる感覚と、顎を固定して横に開く感覚を、それぞれ一回ずつ録音して聞き比べてください。一度に全部を変えようとせず、今日は響きの位置だけ、明日は口の開け方だけ、というように分けて確かめると、変化に気づきやすくなります。

慣れてきたら、案内以外の場面でも同じ一言で試してみます。返却の確認、書架案内、私語への声かけ。場面は違っても、確かめる場所は変わりません。

まとめ

図書館で働く方にとって、声の悩みは「もっと通る声が欲しい」ではなく「音量を上げずに届けたい」という、少し特殊な形をしています。声を鼻の奥に響かせる感覚、顎を固定して横に開く話し方、そしてささやけば喉が休まるわけではないという事実。この三つを押さえておくだけで、静かな空間の中でも、無理なく伝わる声を保てます。

案内の一言を録音して聞き比べる。この小さな積み重ねが、閉架書庫を何往復もする長い一日の終わりに、喉の疲れとして差になって表れてきます。

よくある質問

Q. 図書館のような静かな場所で声を張らずに伝えるにはどうすればいいですか
音量を上げる代わりに、声を鼻の奥に響かせる感覚と、顎を固定して横に開く話し方を使うと、小声のまま輪郭が残りやすくなります。
Q. ささやき声で話せば喉は休まりますか
休まりません。ささやき声は息の量が増えるため、思っている以上に喉を消耗させます。喉を休めたい時は発声そのものを減らすほうが有効です。
無料動画講座

声が変わると、人生が変わる。

通る声、落ち着いた声、人を惹きつける声は、生まれつきだけで決まるものではありません。第一声・息・喉・体の使い方を整えることで、人前で話すたびに「この人は違う」と伝わる声はつくれます。無料動画講座では、声量に頼らず、印象・説得力・存在感が変わる声の整え方をお送りします。

登録後、無料動画講座をメールでお送りします。配信停止はいつでも可能です。

奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

詳しいプロフィール →
関連記事