弁護士の説得力ある声。面談で信頼される話し方

弁護士の声が早口の説明に寄ると、正確な内容でも依頼者の信頼は薄れます。相談・示談・法廷での声の整え方を、原理から具体的な練習まで解説します。

奥津ユキ

初回の法律相談は30分や60分で区切られていることが多く、その短い時間の中で、依頼者は「この先生に任せて大丈夫か」を声だけでかなり判断しています。話の内容が的確でも、説明の声が早口で滑っていくと、依頼者の耳には「急いでいる」「面倒に思われている」という印象として残ってしまいます。同じ説明でも、息の運び方と語尾の置き方が整っているだけで、聞いている側の安心感はまったく違ってきます。

相談室の30分は、声で信頼を判定される時間です

依頼者は法律の知識で先生を評価しているわけではありません。説明を聞きながら、この人に任せて本当に大丈夫か、態度と声の落ち着き方から無意識に判定しています。書類を読み上げるような一本調子の説明でも、逆に勢いだけで押し切るような説明でも、聞いている側の不安は消えません。信頼は、正確さと同じくらい、声の届き方によって作られます。

なぜ弁護士の声は早口の説明に寄りやすいのか

法律の説明は情報量が多く、しかも間違えられない正確さが求められます。除斥期間や心裡留保のような専門用語を依頼者に伝わる言葉へ置き換えながら話そうとすると、頭の中で言葉を選ぶ作業に気を取られ、声そのものは後回しになりがちです。結果として話す速度だけが先に上がり、声は喉の浅いところで押し出されたままになります。これは滑舌の問題というより、息を吐き切る前に次の言葉を追いかけてしまう癖です。

説得力は声の低さでなく、届け方で決まります

私が仕事の声を見るとき、まず確認するのは声の高さや太さではなく、話し始める前に息が止まっていないかという点です。相談の説明は考えながら話す時間が長く、その間に無意識に呼吸を止めてしまう人が少なくありません。息が止まった状態で言葉を出すと最初の音が遅れて出て、聞いている依頼者には歯切れの悪さとして伝わります。説得力のある声というと、アナウンサーのように整った標準語を思い浮かべる方が多いのですが、実際に依頼者が安心するのは型どおりの発声ではなく、人柄がにじむ話し方のほうです。声を作り込むより、素の話し方の呼吸を整えるほうが近道です。

「相続放棄の期限は、原則として三ヶ月以内です」で練習します

このひと言を録音してみてください。最初の「相続放棄の」が小さく入ると、依頼者は聞き逃したまま次の話についていこうとします。「原則として」の手前でわずかに間を置けているか。「三ヶ月以内です」の語尾まで息が保たれているか。この三点だけを聞き分けます。専門用語を含む一文ほど、語尾を強く言い切るのではなく、最後まで息を切らさないことのほうが、正確さと信頼感の両方につながります。

示談交渉では、抑揚を大きさでなく高さで作ります

相手方との示談交渉では、感情的にならず淡々と伝えることが求められますが、淡々としすぎると今度は事務的で冷たい印象に振れてしまいます。

「示談の条件について、こちらの考えをお伝えします」

この一文は、抑揚を声の大きさで作ろうとすると威圧的に響き、逆に抑えすぎると熱意のない読み上げに聞こえます。抑揚は声量ではなく、伝えたい語だけをほんの少し高くする程度で十分で、声を張り上げる必要はありません。熱意を込めれば説得力が上がるわけでもなく、条件と根拠をしっかり話しているという伝わり方のほうが、交渉の場では効きます。

法廷や連続する相談で、声が枯れないようにします

法廷での意見陳述や、立て続けに入る法律相談は声を使う時間が長くなります。長時間話して声が枯れる人のほとんどは、声量の問題ではなく喉を締めすぎていることが原因です。横隔膜のあたりを前へそっとつまむような感覚を、吸うときも吐くときも保っておくと、長く話しても声の芯を保ちやすくなります。お腹を大きく動かす呼吸法よりも、この軽い張りを途切れさせないことのほうが、面談を何件もこなす一日には効いてきます。

電話相談は、口角の位置だけで聞き取りやすさが変わります

電話での法律相談は、表情も資料も見せられないぶん、声だけで信頼を作る必要があります。口だけで喋ろうとするとこもった声になりやすいのですが、鼻の奥に響かせようと意識するより、口角を少し上げるだけで自然に声が前へ抜けやすくなります。「本件については、まず事実関係を整理させてください」という切り出しも、口角を上げた状態で言ってみると、同じ言葉でも聞き取りやすさが変わってくるはずです。今日の電話相談の一件目で、この切り出しだけ試してみてください。

契約書の条項を読み上げるとき、間の置き方で理解度が変わります

契約書のレビュー面談では、条項をそのまま読み上げる場面が何度もあります。

「契約書の第三条について、補足いたします」

条文は文章が長く、区切りがどこにあるかを声で示さないと、依頼者は途中で意味を見失います。読点で必ず間を置く必要はありませんが、条項の主語が変わる箇所、義務の主体が入れ替わる箇所の手前でだけ、わずかに間を作ってみてください。声の強弱をつけるより、この間の置き方ひとつで、条文の構造そのものが耳から入りやすくなります。読み上げを速くしないことよりも、区切るべき場所を外さないことのほうが、理解度への影響は大きいと感じています。

顧問先への月次報告は、テンションでなく順序で信頼を積み重ねます

顧問先への定例報告では、毎回同じような内容を淡々と伝える回が多く、声の張りを保つのが難しくなりがちです。かといって毎回熱意を込めて話そうとすると、かえって不自然な力みが混じり、担当者には「今回は何か大きな問題があるのか」と身構えられてしまいます。

「今月のご報告は、三点ございます」

この切り出しを、内容の重さに関係なく毎回同じトーンで置くようにします。声の温度を内容ごとに上げ下げするのではなく、報告の型そのものを一定に保つことで、担当者は安心して話を聞く体勢に入れます。声を変えて印象づけようとするより、いつも通りの声で淡々と積み重ねることのほうが、顧問契約における信頼にはつながります。

録音は好き嫌いでなく、三点だけを確認する道具です

自分の声を録音で聞くと、たいてい違和感を覚えます。これは声そのものが悪いからではなく、自分の耳には骨を伝って低く響き、外に届く声はそれより高く聞こえているだけです。実際は自分が思っているより高い声で話せていることが多いので、録音の声に落ち込む必要はありません。チェックするのは好き嫌いではなく、最初の音、専門用語の手前の間、語尾の三点だけに絞ってください。この三点だけを毎回同じ基準で見ることが、遠回りに見えて一番早い直し方だと私は感じています。

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面談室に入る前の30秒でできる準備

次の依頼者を通す前、長々と発声練習をする時間はありません。やることはひとつだけです。椅子に座ったまま肩を上げずに息を吐き切り、短く吸い直します。そのうえで「相続放棄の期限は」まで、声には出さず口の形だけで一度なぞります。ここで確かめたいのは滑舌の良し悪しではなく、最初の音を喉で押し込んでいないか、その一点だけです。この30秒を挟むかどうかで、面談の第一声の出方はかなり変わってきます。前の面談の空気を持ち越したまま次の依頼者と向き合わないための、区切りの動作でもあります。

威厳は、声を低くすることでは作れません

声が高いと軽く見られると感じて無理に声を低くする方もいますが、とても低くする必要はありません。落ち着いた息の運びと、最後まで気を抜かない語尾の残し方があれば、それだけで十分に威厳は伝わります。依頼者が安心して任せられると感じるのは、正確な説明を、正確に届けようとする声そのものです。声を演じることより、面談の一文一文を丁寧に置いていくことのほうが、結果として説得力につながっていきます。

一朝一夕で声が変わるわけではありませんが、相談・示談・法廷・電話・顧問報告と場面ごとに一文だけ選んで整えていけば、半年後には依頼者からの見え方は着実に変わっているはずです。私の実感では、声を変えることに近道はなくても、遠回りもありません。

よくある質問

Q. 弁護士の声は低く落ち着かせたほうがいいですか
とても低くする必要はありません。落ち着いた息の運びと語尾の残し方があれば、無理に声を低くしなくても威厳は伝わります。
Q. 専門用語を話すとき早口になってしまいます。どう直せばいいですか
言葉選びに気を取られて呼吸が止まっていることが原因のことが多いです。話し始める前に一度息を吐き切ってから声を出す練習が効きます。
Q. 示談交渉で熱意を込めて話しても相手に響きません。なぜですか
熱意だけでは説得力は上がりません。条件と根拠をしっかり話しているという伝わり方のほうが、交渉の場では効きます。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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