滑舌トレーニングは毎日どれくらいやるか。仕事の声に効く続け方

滑舌トレーニングは毎日どれくらいやればいいのか。量を増やすより、短く分散させ舌の置き場所を保つ続け方を、店舗の朝礼を例に解説します。

奥津ユキ

「滑舌のトレーニングは毎日どれくらいやればいいですか」という質問をよくいただきます。開店前の朝礼で毎日声を出している店長の方からも、同じ相談をよく受けます。答えを急ぐ前に、今日の朝礼で話す一文を、スマホで一度録音してみてください。練習量を増やす前に、今の状態を知ることが先です。

「本日の目標は、来店50組、客単価3200円です」を録音します

朝礼でいつも話す速さのまま、この一文をそのまま一度録音してください。再生して、「本日」と「来店」の出だしがどれだけくっきり立ち上がっているかを聞きます。数字の「50組」「3200円」が、聞き手にとって聞き取りやすい速さで出ているかも確かめてください。

次に、声を出す直前に一度、口から息を強く吐き切ってから、同じ一文をもう一度録ってみてください。多くの人は二回目のほうが「本日」の頭の子音がはっきりし、「50組」「3200円」という数字も聞き取りやすくなります。舌の動かし方を変えたわけではないのに、息を先に吐き切っただけで言葉の輪郭が変わったことに気づくはずです。

この二回を録っておくと、毎日の練習で何を目指せばいいかがはっきりします。声を大きくすることでも、舌を速く動かすことでもなく、息を先に流してから話し始めることだけを、毎朝の一言に持ち込めば十分だと分かるはずです。

「毎日たくさんやるほど良くなる」わけではありません

滑舌トレーニングというと、五十音や早口言葉を毎日何十回も繰り返すイメージを持つ人が多いようです。ですが私の実感では、五十音の発音練習は毎日やってもかまいませんが、絶対にしなければならないものではありません。母音だけで練習する方法も、毎日続ければ必ず改善するとまでは言い切れません。

量を増やすことに意識が向くと、かえって一回ごとの練習が雑になります。数を追うより、今日録音した一文のどこが崩れていたかを一つだけ選び、そこだけを直す方が、毎日の練習は軽く続けやすくなります。

早口言葉の練習も、一番効果的な方法とまでは言い切れません。効果はあるので取り入れてもかまいませんが、「これさえ毎日やっていれば安心」という位置づけにはしないでください。毎日のノルマを増やすほど続かなくなる人を、私はこれまで何人も見てきました。続けやすさを優先するなら、まず量を減らし、見る場所を絞ることから始めるほうがうまくいきます。

それでも早口言葉や五十音を毎日の練習に取り入れるなら、本編ではなくウォームアップとして使うのがおすすめです。朝礼が始まる前の数十秒だけ軽く口を動かしておき、そのあとで実際にその日話す一文を確認する。この順番にすると、口全体がほぐれた状態から本番に近い練習に入れます。

五十音を毎日きっちり最後まで言い切らなければ、と義務のように感じている人もいますが、その必要はありません。気になる行だけ、たとえば数字を言うときにつまずきやすいなら「た行」「か行」だけを取り出して確認する。朝礼の一文で言えば、「単価」や「点数」でつまずくなら「た行」、「客」や「組」が引っかかるなら「か行」というように、その日話す言葉から逆算して選ぶと迷いません。全体をこなすことより、自分がよくつまずく場所だけを狙うほうが、短い時間で効果を感じやすくなります。

続ける土台は「練習量」より、舌の置き場所です

滑舌は、口を大きく動かすことよりも舌がどれだけ正確に動けているかで決まります。そして舌の動きは、練習の瞬間だけでなく、日常どこに舌を置いているかにも影響されます。

舌先を軽く上あごにつけ、口を自然に閉じ、姿勢を保つ。これは特別な練習時間を取らなくても、一日じゅう続けられることです。朝礼の前だけ気合を入れて口を大きく動かしても、日常のこの土台が崩れたままなら、翌朝にはまた同じ場所で言葉がほどけます。毎日のトレーニングというと運動量を思い浮かべがちですが、実際に効くのは特訓ではなく、この置き場所を保つ習慣のほうです。

レジに立っている時間、品出しをしている時間、休憩室で座っている時間。仕事中の姿勢が崩れて猫背になったり、顎が前に出たりすると、それだけで息の通り道が狭くなり、朝礼で急に良い声を出そうとしても間に合いません。立ち姿勢のときは足の裏全体で床を感じ、座っているときは背もたれに寄りかかりすぎない。この二点を意識するだけでも、話す直前の準備は変わります。

店舗の朝礼、3分に満たない分散ルーティン

一日のうちに何度も人前で話す仕事ほど、まとまった練習時間を確保するのは難しいものです。そこで、練習を一日の中に分けて置きます。

出勤して洗面所の鏡の前に立った30秒、口を閉じたまま息を吐き切り、吸い直してから「本日の目標は、来店50組、客単価3200円です」を小さな声で一度だけ言います。ここで見るのは「本日」の頭の子音が立っているかだけです。

休憩中の1分、椅子に座ったまま同じ一文を、今度は語尾の「です」まで息が残っているかだけを聞きながら言います。声量は上げなくてかまいません。むしろ小さい声のほうが、息が途中で切れているかどうかに気づきやすくなります。

閉店前の伝達事項を話す直前の30秒、足の裏が床についているかを確かめてから、その日最後の一言を口にします。一日の終わりは疲れから声が沈みやすいので、ここでは高さより、言葉の頭が消えていないかだけを見てください。

まとめて長く練習するより、この三か所に分けたほうが、実際に人前で話す直前の状態に近い形で確認できます。分散させることそのものが、量を追う練習より効果的な続け方になります。

録音は毎日ではなく、週に一度だけ聞き返します

録音して自分の声を聞き返すことは有効です。ただ、これも一番の方法だとは限りません。毎日録音して毎日聞き返すと、細かい違いに神経質になりすぎて、かえって続かなくなる人もいます。

おすすめは、録音自体は毎日の習慣にしつつ、じっくり聞き返す日を週に一度に絞ることです。月曜日に録った一文と、金曜日に録った一文を並べて聞き、毎日のルーティンで見てきた場所が一週間でどう変わったかを確認します。毎日の変化を追いかけるより、一週間単位で見るほうが、続けている実感を持ちやすくなります。

聞き返すときは、うまく言えたかどうかを採点しないでください。見るのは毎日のルーティンで確認してきた場所だけです。そこが週の初めより崩れていなければ、その週の練習は十分です。声の張りや高さは、この段階では気にしなくてかまいません。

忙しい日は、30秒の確認だけで十分です

繁忙期で朝礼の準備すらままならない日もあります。そういう日に無理に練習を増やそうとすると、続けること自体が負担になってしまいます。

最低限やることは一つだけです。朝礼の直前、口を閉じて一度息を吐き切り、吸い直してから話し始める。これだけを守れば、その日の練習としては十分です。

忙しい日ほど「今日はサボってしまった」と気にする人がいますが、量をこなせなかったこと自体は問題ではありません。翌日また同じ30秒に戻れれば、それで続いていることになります。途切れた日があっても、次の朝また息を吐き切ってから話し始めれば、そこから再開すればよいだけです。

声がかすれている、喉に強い違和感がある、といった状態が何日も続く場合は、無理に声を出す練習を増やさず、休息を優先するか、専門家に相談することも考えてください。忙しさを理由に体を追い込んでしまうと、続けたい習慣そのものが続かなくなります。

一週間たっても崩れが動かない場所は、一文を割ります

分散ルーティンを続けていると、朝は直るのに閉店前だけ言葉の頭が消える、というように、崩れの居場所が固定されてきます。週に一度の聞き比べで同じ場所が何週間も動かないなら、そこは確認の回数を増やすのではなく、一文の区切り方を変えてください。朝礼の一文なら「本日の目標は」でいったん区切って息を入れ直し、数字はそのあとで言う。区切った形で言葉の輪郭が保てるようになってから、もとの一息の形に戻せば十分です。

崩れない日が増えてきたら、今度は逆に一文を長くしてみてください。閉店前の伝達事項を二つつなげて話し、途中で息が切れないかを確かめる。毎日のメニュー自体は同じでも、文の長さを伸び縮みさせるだけで練習の負荷は自然に変わり、飽きずに続ける材料にもなります。

明日の朝礼、開店前の30秒に、今日録った一文をもう一度声に出してみてください。量を増やすより、その30秒を欠かさないことのほうが、遠くまで効いてきます。

よくある質問

Q. 滑舌トレーニングは毎日どれくらいの時間やればいいですか
長い時間を一度にまとめてやるより、出勤前・休憩中・終業前のように短く分けるほうが続けやすく、聞き取りやすさにもつながります。合計でも数分あれば十分です。
Q. 早口言葉や五十音は毎日練習すべきですか
効果はありますが、必須ではありません。やってもかまいませんが、それだけに頼らず、実際に仕事で話す一文を録音して確認することを優先してください。
Q. 毎日練習しても変化を感じない時はどうすればいいですか
練習量を増やすより、録音を聞き返す頻度を週に一度に絞り、言葉の頭と語尾のどちらが崩れているかを一つずつ確かめてください。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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