ジム・スタジオのインストラクターの号令の声。音楽に負けず枯らさない

ジムやスタジオでBGMに負けない号令を出したいのに、レッスンを重ねるたびに喉が枯れるインストラクターへ。声量でなく響きと息の使い方から、長時間の号令でも枯れない声の作り方を解説します。

奥津ユキ

BGMが鳴り続けるスタジオで号令をかけ、1本45分のレッスンを1日に何本もこなす。そんなインストラクターの方から、私はよく喉が枯れる相談を受けます。声量が足りない、喉が弱い、と思い込んでいる方がほとんどですが、原因は別のところにあります。それを本人の耳で確かめてもらうために、私が最初にお願いするのが次の録り比べです。

同じ号令を、出し方を変えて二回録音してみてください

スマホのボイスメモを用意して、レッスンで実際に使っている号令の一言を録音します。

「せーの、もう一丁!」

場所はスタジオでなくて構いません。自宅でもBGMなしで十分に差が分かります。一回目は、スタジオでBGMに負けまいとしている時の出し方そのままで、思い切り張って出してください。二回目は、音量を上げようとせず、口の奥の上側にある天井(軟口蓋)を軽く持ち上げるイメージだけを持って、同じ号令を出します。あくびをこらえる時に口の奥が広がる、あの感覚です。

二つを聞き比べると、多くの方が驚きます。張った一回目より、天井を上げただけの二回目のほうが、音が明るく前に抜けて聞こえるのです。喉の疲れ方もまるで違ったはずです。BGMに勝つために必要なのは音量ではなく、響きの方向なのだということが、この2本の録音だけで体感できます。

枯れる原因は声量ではなく、喉の締めすぎとトーンです

長時間の号令で枯れる方のほとんどは、声が弱いのではなく、BGMに負けまいと喉を締めて音量を作ろうとしています。締めた声はその場では通った気がしても、閉じた声帯同士がこすれ続けるため、1本目より2本目、2本目より3本目で確実に消耗します。

もう一つ、見落とされがちな要因がトーンです。号令を低いトーンのまま張ろうとすると喉に負担がかかりやすく、少し高めの明るいトーンに変えるだけで、同じ音量でも喉の負担が軽くなることがあります。声が枯れるのは声帯が弱いからだけでなく、声量・トーン・使い方が絡み合った結果だというのが、私の実感です。

「お腹から声を張り上げないと生徒に指示が届かない」。多くのインストラクターの方が信じている前提ですが、私はそう思いません。張り上げるほど喉は締まり、締まった声はかえって遠くまで抜けません。録り比べで試したとおり、声を前に押し出す代わりに軟口蓋を持ち上げる。喉仏を下げようとして喉を締めるのではなく、上側を上げる。この違いだけで、同じ音量でも届き方が変わります。BGMに声で対抗するのではなく、響きの方向を変えて音楽の隙間を抜けさせる感覚です。

奥津ユキ
奥津ユキのミニコメント

号令の声は、生まれつきの声質だけで決まるものではありません。息の流し方、喉の締め方、トーンの高さ、語尾の残し方。この扱い方次第で、同じ音量でも届き方と喉への負担は大きく変わります。

カウントの最後の数字を、強く言い切らないでください

「1、2、3、4!」というカウントは、号令の中でもっとも回数が多い部分です。ここで喉を締めるくせがついていると、1本のレッスンの中で何十回、何百回と負担を重ねることになります。

私が見るのは、数字を強く言い切ろうとしていないかどうかです。最後の数字を気合いで強く出そうとすると、その瞬間に喉が締まります。強く言い切るのではなく、最後の数字まで息を流し切る。それだけで、同じテンポでもカウントの消耗は変わります。

自分もスクワットやランジの動きを見せながらカウントする種目では、さらに条件が厳しくなります。動きで息が上がっているところに号令を重ねるため、息の支えがないと数字が全部喉から出てしまうのです。動きながらの号令こそ、フォームを見せる余裕と同じくらい、息を流す余裕を残しておいてください。先ほどの録り比べの号令も同じで、語尾が喉で切れて終わると、次のカウントに移る前に喉がリセットされないまま負担が重なっていきます。出だしを喉で押さないこと、語尾まで息を乗せること。号令で見る場所はこの二つです。

「笑顔でいきましょう!」の明るさは、高さでなく深さで作ります

カウントとは別に、「笑顔でいきましょう!」「呼吸忘れずに!」のような、場を明るく保つ声かけがあります。ここでやりがちなのが、テンションを上げようと声を張り上げることです。張り上げると、明るさより先に硬さが伝わり、生徒側も身構えてしまいます。

明るさは、高さだけでなく深さのバランスでも作られます。別人になるほどトーンを上げる必要はなく、いつもより少しだけ明るい方向に寄せるだけで、生徒に伝わる印象は十分に変わります。無理に高く作った声は、後半のクラスで真っ先に喉に負担として返ってきます。

スタジオによっては、ヘッドセットマイクを使える日と、生声で通す日が混在します。マイクがある日でも、癖でつい喉に力を入れてしまう方が多いので、まず自分の声量を落としても届くかどうかを確かめてください。落としても十分届くなら、その日は喉を休ませる日にできます。マイクがない日は、声量を上げる前に響きの方向を確認してから号令に入る。その日の環境で力の入れどころを変えることが、1日を通して喉を守ることにつながります。

開始前と合間の30秒で、喉をリセットします

BGMが鳴り出す前に長く発声練習をすると、かえって力みが残ります。開始直前は、口を閉じて息をゆっくり吐き切り、肩に力を入れずに吸い直し、小さな声で号令の出だしだけを一度発してみる。確かめるのは、出だしの音が喉で押されていないか、それだけです。

朝から夜まで複数のクラスを担当する日は、レッスンの合間も使えます。1本目が終わったら、口を閉じて短くハミングをしてみてください。喉の奥が締まったままだと、響きがこもって感じられます。こもっていたら、軟口蓋を軽く持ち上げるイメージでもう一度短くハミングする。それだけで、次のクラスの号令の抜け方が変わります。長時間話して枯れる方の多くは、この締めすぎを合間でリセットできないまま、次のクラスへ突入しています。

合間にもう一つ気をつけたいのが、スタジオの外での声です。ロッカー前で会員さんに挨拶をしたり、フロントでスタッフと打ち合わせたりする時まで、レッスン中の張った声を引きずっている方が意外と多くいます。BGMのない場所では、普段の会話の声量に戻す。この切り替えも、喉の休憩時間を確保する立派な手段です。

低く作る、高く演じる、大声で押し切るは、後半に返ってきます

低く作って貫禄を出す。無理に高く作って元気さを演じる。ひたすら大声で押し切る。どれも一時的には効果を感じますが、体の使い方が変わっていなければ、本数を重ねるうちに元の締めた声へ戻ります。とくに、低く作った声と大声で押し切る声は、後半のクラスで真っ先に枯れていきます。

必要なのは新しい声を作ることではなく、同じ号令を、締めずに届く形で出し続けることです。出だしを喉で押さない。語尾まで息を残す。カウントの最後を強く言い切らない。この三点だけで、枯れ方はかなり変わってきます。

録音で見る場所は、音量の大小ではありません

自分の号令を録音で聞くと、思ったより高く軽く聞こえて違和感を持つ方が多いです。これは骨伝導で自分に聞こえている声と、実際に相手やマイクに届いている声が違うからで、誰にでも起こることです。

録音は、声の好き嫌いを判定するためのものではありません。出だしの音と語尾、カウントの言い切り方を確認するために使ってください。音量が足りているかどうかを気にし始めると、また喉で押す方向に戻ってしまいます。なお、本番中に声が急に出にくくなった、2週間以上かすれが取れない、といった場合は、使い方の問題を超えている可能性があります。無理に発声を続けず、医師や専門家に相談してください。

明日の1本目、スタジオのドアを開ける前に

BGMに負けない号令を大声で作ろうとするかぎり、喉は消耗し続けます。明日の最初のクラスに入る前、更衣室でもう一度だけ録音してみてください。

「せーの、もう一丁!」

張らずに、口の奥の天井を持ち上げて。その一本が明るく抜けていれば、その日の号令は最後のクラスまで保ちます。声を使う仕事を長く続けるほど、正しい使い方を知っているかどうかの差は積み重なります。年齢を重ねても変わらない号令を出し続けられるかどうかは、体質ではなく、日々のこの小さな確認の積み重ねで決まる部分が大きいと私は感じています。

よくある質問

Q. ジムのインストラクターの声が枯れるのは体質ですか
体質だけで決まるものではありません。BGMに負けまいと喉で押していないか、カウントの語尾まで息が保っているかを見ると、変えられる部分が見えてきます。
Q. 号令はお腹から声を張り上げるべきですか
張り上げなくても届きます。お腹から声を張り上げないと指示が届かないというのは思い込みで、響かせ方を変えるほうが長時間の号令には向いています。
Q. レッスンとレッスンの合間に何をすればいいですか
長く発声練習をする必要はありません。口を閉じて息を吐き切り、短くハミングをして喉の締まりを確認するだけで十分です。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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