美容師の施術中の会話の声。鏡越し・ドライヤー音で届ける

美容師として施術中に話す声がドライヤー音や水音に負ける、鏡越しで距離を感じるという悩みへ。喉を張らずに届ける声の使い方を解説します。

奥津ユキ

ドライヤーの音、シャンプー台の水音、隣の席の話し声。美容室の施術中は、常に何かしらの音と競い合いながらお客様に話しかけることになります。声を張って対抗しようとするほど喉は疲れ、一日の終わりにはかすれてしまう。この悩みは声質の問題ではなく、音に負けたときの声の作り方に原因があります。

ドライヤーの音に、声で張り合おうとしていませんか

「もう少し温かくしていきますね。」

ブローの最中にこの一言を伝えようとすると、多くの美容師はドライヤーの音量に負けまいと声を張り上げます。ですが音に音でぶつかろうとするほど、喉の奥で押した硬い声になり、かえって音に埋もれてしまいます。届きやすいのは大きな声ではなく、息のスピードを保ったまま前に流す声です。ドライヤーを持つ手と反対の意識を、声を大きくすることではなく息を前へ通し続けることに向けてみてください。

鏡越しでお客様に話しかける独特の距離感

カットの間、正面ではなく鏡越しにお客様と会話をする時間が長く続きます。この距離感に慣れていないと、声の向く先が定まらず、話し始めの一音が硬くなりがちです。

「浮かせるようにブローしていきますね。」

この一文を、鏡に映るお客様の位置に向けてほんの少し息を通してから声にすると、同じ言葉でも届き方が変わります。声を出す前に一瞬だけ息を先に送る、この順番があるかどうかが鏡越しの会話では大きく効いてきます。

シャンプー台では、仰向けの姿勢が声を変えます

「かゆいところはございませんか。」

仰向けの状態で話しかける場面では、姿勢が変わることで息の流れる向きも変わります。普段と同じ感覚で声を出そうとすると、胸のあたりが詰まったような窮屈な響きになりやすく、お客様にも聞き取りづらい印象を与えます。仰向けで話すときほど、話し始める前に短くひと呼吸整える習慣を持っておくと、姿勢の変化に声が引っ張られにくくなります。

施術の合間の雑談ほど、単調に流れやすくなります

カットやカラーの待ち時間、天気や近況の雑談を交わす場面では、手元の作業に意識が向いているぶん、声の高さがほとんど動かないまま話が進んでしまいます。単調な声は聞いている側を退屈させるだけでなく、会話が弾んでいないような誤解にもつながります。

声量を変える必要はありません。話題の切り替わりごとに、ほんの少しだけ声の高さを上下させてみてください。手元の作業に集中していても、この高さの動きさえあれば、雑談は生き生きとした印象になります。

一日に何人ものお客様と話し続けて枯れる喉

朝から夕方まで、席が変わるたびに新しい会話を始める美容師の一日は、話す量そのものが多い仕事です。話す量が多いから枯れるのは仕方ないと思われがちですが、実際に喉を消耗させているのは、お客様が変わるたびに声のトーンをその都度作り直そうとする力みのほうです。

長い時間話しても喉が疲れにくい人ほど、声の支えを喉の外側、お腹の奥のあたりに置いています。息を吐くときにお腹の奥をぎゅっと絞るように保ち、次の言葉を吸うときにもその締めを緩めない。この感覚を席が替わるたびに毎回作り直すのではなく、出勤してから退勤までずっと保ち続けるつもりで施術に入ると、喉だけで声量をまかなう時間が減っていきます。

カウンセリングで初めてのお客様に説明する時、早口になっていませんか

「今日はどのくらいの長さで、どんな雰囲気にされたいですか。」

初めて担当するお客様とのカウンセリングでは、限られた時間で要望を聞き出し提案までしなければという焦りから、早口になりやすくなります。早口になるのは急ぐ気持ちだけでなく、次に何を尋ねるかを頭の中で組み立てながら話しているために起きることも多く、性格のせいだと決めつける必要はありません。

質問のひとつ目を言い終えたあと、次の質問に移る前に短く息を吐いてから話し始める習慣をつけてください。お腹に力を入れたまま話すと、早口になる手前の力みが減り、初対面のお客様にも落ち着いた印象で伝わります。

「似合いますね」の一言が薄っぺらく聞こえてしまう理由

仕上がりを伝える「とてもお似合いです。」という一言は、一日に何度も口にするうちに、決まり文句のように軽く流れてしまうことがあります。言葉の内容は変わらなくても、語尾を最後まで言い切らずに次の作業へ移ると、お客様には形式的な褒め言葉として届いてしまいます。

語尾の一音まで息を残して言い切るだけで、同じ一言でも印象は大きく変わります。仕上がりを見せる瞬間だからこそ、次の作業に移る前にこの語尾を意識してみてください。

マスクをつけたままの接客で、こもりがちな声

施術中にマスクをつけたまま話すと、口の動きが見えないぶん聞き取りにくさが増し、それを補おうとしてさらに声を張ってしまう人がいます。マスク越しでは、声を大きくするより、鼻の方から響かせる感覚に変える方が通りやすくなります。口角を意識して上げるだけで、意図的に鼻にかけようとしなくても自然に鼻腔へ声が乗り、こもりを感じにくくなります。

施術道具を持つ手が塞がっていても、声の準備はできます

ハサミやコームを持つ手が塞がっている状態でも、話し始める前のひと呼吸は妨げられません。手元の作業に集中するあまり、この一呼吸を省略してしまうと、声だけが置き去りになったまま話し出すことになります。次の一言を発する前に、ほんの一瞬だけ息を先に通す習慣を、道具を持つ手とは別に体に覚えさせておくと、施術中の声の抜け落ちが減っていきます。

クロージング前、会計案内の声が事務的に流れていませんか

「本日は縮毛矯正とカットで、お会計は◯◯円になります。」

一日の施術の終わりに近づくと疲れが溜まり、会計や次回予約の案内が流れ作業のように早口で事務的な響きになりがちです。ここまで丁寧に接客していても、最後の案内がそっけなく聞こえると、お客様に残る印象が変わってしまいます。

金額や日程を伝える一言だけは、他の会話よりもわずかに間をとり、語尾まで息を残して言い切るようにしてください。施術の内容ではなく、最後のひとことの届け方が、また来たいと思ってもらえるかどうかに関わってきます。

今日の営業中に、ひとつの一言で試してみます

長い練習は必要ありません。今日、ドライヤーをかけながら話す一言をひとつ選び、営業後にスマホで思い出しながら声に出して録音してみてください。一回目はいつも通りに、二回目は話す前に息を先に通してから、三回目は横隔膜のあたりをつまむ感覚を意識してから読みます。

聞き比べるときは、声を大きくしなくても前に届いているか、語尾まで息が残っているかの二点だけを確かめてください。この二点が整えば、ドライヤーや水音に負けない声を、喉を痛めずに作っていけます。うまく声が出せた回があれば、その時の口の開き方や息の量を覚えておき、翌日以降の施術でも同じ状態を再現できるようにしてください。

予約の電話が鳴る瞬間、接客の声と切り替えられていますか

施術中にお店の電話が鳴ると、目の前のお客様との会話から電話応対の声へ、一瞬で切り替えなければなりません。この切り替えを急ぐあまり、電話口の声が上ずったり、逆に戻ってきたときにお客様への声が投げやりになったりすることがあります。

電話を取る前に、ほんの一呼吸だけ整えてから声を出すようにしてください。この一拍があるだけで、忙しい合間でも両方の相手に落ち着いた声を届けられます。切り替えの瞬間こそ焦りが声に出やすいので、意識して間を作る価値があります。

まとめ

美容師の施術中の会話で声が届きにくいのは、ドライヤーや水音といった環境音のせいだけではありません。鏡越しの距離感、仰向けでの姿勢の変化、マスク越しのこもり、そしてお客様が変わるたびに声を作り直そうとする力み。この施術ならではの崩れ方に気づけば、直す場所は限られています。

今日使う一言を録音し、息を先に通しているか、語尾まで残っているかを確かめてみてください。声を張ることより、この二点を整えることのほうが、一日を通して枯れない、届く声への近道になります。声を消耗させない働き方を身につけておくことは、長く現場に立ち続けるための投資にもなります。

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よくある質問

Q. ドライヤーをかけながら話すと声が届かないのはなぜですか
声量を上げて張ると喉に負担がかかるだけでなく、音の高さが動かず届きにくいままになります。息のスピードと高さの動きを見直すと、張らなくても届きます。
Q. 一日中お客様と話し続けて喉が枯れるのを防げますか
喉で押して話し続けるのが枯れの主な原因です。横隔膜のあたりで支える感覚を保つと、施術のたびに声を作り直さなくても喉の負担が減ります。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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