取次ぎの前に「ただいま、担当者へおつなぎいたします」と、一度目は空いている手を自分の胸に当てて言ってみてください。二度目は同じ手を取次先がいる方向へまっすぐ伸ばして、同じ文を言ってみてください。二度目のほうが文の終わりを急がずに置けるなら、取次ぎの声は自分の用件として出すより、誰につなぐ言葉かを身体で分けると整います。差が出なければ、名乗りか依頼内容の情報不足を別の原因として確認してみてください。
取次ぎは二人分の関係を扱う
秘書の電話対応では、受話器の向こうの相手と、取り次がれる社内の相手の二人を同時に扱います。自分の用件を伝える電話なら、目的と責任は自分の言葉の中にあります。しかし取次ぎでは、依頼主の名前、用件、緊急度、取次先の状況を預かり、相手に不安を残さず橋渡しします。この違いを意識だけで処理すると、声は自分が全部を決めるように硬くなるか、逆に責任を避けるように曖昧になります。
取次ぎの声は、相手の言葉をそのまま運ぶ声でも、代理人として判断を下す声でもありません。誰からの、何についての電話かを明確にし、今できる対応を約束の範囲で伝える声です。たとえば担当者が在席か確認する前に「すぐおつなぎします」と言えば、確認できない事情が出たときに、声の信頼が崩れます。反対に「確認します」とだけ言えば、相手はどこへつながるのか分かりません。取次ぎは、情報と約束の幅をそろえる作業です。
私がこの場面でまず確認したいのは、電話の相手と取次先のどちらに向けた言葉かが、文ごとに分かれているかです。相手に聞く情報と、社内へ伝える情報を同じ言い方で扱うと、聞き漏らしや確認不足が起こります。受話器の向こうには要点を短く確認し、取次先には判断に必要な背景を付けます。声の置き方は、丁寧さの量ではなく、誰が次の行動を取るのかによって変わります。
第一声は名乗りより前に整える
電話を取った瞬間の第一声は、名前を言う前から始まっています。受話器を上げながら息を吸い、すぐ「はい」と強く出すと、その後にどれだけ丁寧に名乗っても、相手には急いでいる印象が残ります。受話器を耳に当て、口を開く前に一度だけ鼻から息を入れます。次に「お電話ありがとうございます」と言い、会社名と氏名を続けます。最初のあいさつを、受話器を持ち上げる動作と重ねないことが、声の硬さを減らします。
第一声を明るくしようとして、高い音に寄せすぎる必要はありません。声の高さは相手や時間帯によって変わりますが、言葉の頭を急がせず、会社名を一つのまとまりとして置くことは共通します。会社名の途中で息を継いだり、氏名だけを早く言ったりすると、相手は確認したい情報を取り損ねます。名乗りの後には「担当の□□が承ります」のように、誰が受けたかを一文で続けると、相手は話す相手を把握できます。
第一声の後に相手がすぐ名乗らない場合も、急いで用件を聞き出さないことです。「恐れ入りますが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」と一つだけ尋ねます。相手が社名、氏名、部署を順に言うなら、途中で先回りして復唱せず、言い終わる位置を待ちます。取次ぎは最初の数秒から情報を預かる仕事です。明るい声より、相手が自分の情報を置ける速さを優先してください。
依頼主の言葉を自分の言葉に変えすぎない
取次ぎでは、電話の相手が使った目的の言葉を、自分に分かりやすい表現へ変えすぎないことが大切です。「確認したい」という依頼を「苦情です」と決めたり、「お打ち合わせの件」を「契約の件」と狭めたりすると、取次先は最初から違う前提で電話を受けます。依頼主が言った用件の中心語を一つ残し、必要な状況だけを補います。「納期について確認したいとのことです」のように、言葉の出所が分かる形で渡します。
相手の発言をそのまま全部伝える必要はありません。取次先に必要なのは、誰から、何について、いつまでに、どの程度急ぐ話かです。長い経緯を聞いたときは、「ご状況を要約して担当へ伝えます」と伝え、要点を確認します。要約するときも、こちらの解釈を結論として置かず、「○月のご依頼について、進捗の確認をご希望ですね」と返します。相手が訂正できる形にしてから、社内へ渡します。
声の面では、伝言を読むように平らにしすぎると、緊急度や確認事項が取次先に届きません。一方で、相手の感情をそのまま強い声に乗せると、取次先を不必要に構えさせます。事実は明瞭に、感情の評価は足さずに伝えます。私がこの場面でまず確認したいのは、相手の言葉を要約する際に、こちらが知っている過去の事情を勝手に混ぜていないかです。取次ぎの声は、情報を整えるためのものであり、意味を増やすためのものではありません。
保留に入る前に置く情報
保留へ入る前に必要なのは、待ってもらうお願いだけではありません。何を確認するために、どの程度待つ可能性があるのかを、短く伝えます。「担当者の在席を確認いたしますので、少々お待ちいただけますでしょうか」と言えば、相手は保留の理由を理解できます。ここで「少々」を言った直後にすぐ保留へ入れず、相手の返事を待ちます。一方的に音楽へ切り替わると、相手は聞き取れたか、待つ必要があるかを判断できません。
確認に時間がかかる見込みなら、保留を長く続けるより、一度戻って状況を伝えます。「ただいま確認しております。もう少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか」と、現在地を知らせます。これは謝罪を繰り返すためではなく、相手が待ち続けるか、折り返しを選ぶかを判断できるようにするためです。保留の間に取次先へ急いで伝えようとして、名前や用件を省くと、電話をつないだ後に同じ確認がやり直しになります。
保留に入る声は、語尾を消すように小さくしないでください。相手に届く大きさで理由を言い、了承を受けてから操作します。保留ボタンを押す手と発話が重なると、最後の言葉が切れやすくなります。文を終え、相手の返事を受け、指を動かす。この順番を守るだけで、保留が唐突に感じられにくくなります。取次ぎの細部では、操作の正確さと声の区切りが同じ信頼を支えます。
取次先へ伝えるときの声量と速度
取次先に電話の内容を伝えるときは、受話器の向こうの相手に話す声と同じ速さで、全てを読み上げる必要はありません。社内の相手には、判断に必要な順番で、氏名、所属、用件、折り返しの希望、緊急度を置きます。声量を必要以上に上げると、周囲に情報が漏れやすく、内容も急ぎの案件のように聞こえます。席が近いからこそ、短く、明瞭に、必要な範囲だけ伝えます。
取次先がすぐ電話に出られないときは、理由を推測して相手に戻らないことです。「会議中のようです」などと曖昧に言うより、「ただいまおつなぎできない状況です」と事実だけを伝えます。そのうえで、折り返し、別の担当、伝言のどれが可能かを確認します。取次先の事情と、電話の相手に伝えてよい情報は同じではありません。声の確かさは、情報を多く出すことではなく、出せることだけをはっきり言うところにあります。
取次先へ声をかける前に、受話器の保留状態や周囲の音を確認します。電話の相手が聞こえる状態で、用件を大きな声で繰り返すと、意図せず情報を広げることになります。手元のメモを見ながら、必要な要点だけを渡し、取次先が質問したら電話の相手へ戻って確認します。社内で結論を作ってから戻るより、誰の発言が必要かを分けるほうが、取次ぎは正確になります。
戻るときに相手を待たせた印象を残さない
保留から戻るときは、いきなり結果だけを言わず、「お待たせいたしました」と一言置きます。この一言は形式ではなく、相手が待っていた時間をこちらが認識していることを示します。その後に「担当者へおつなぎします」または「ただいま席を外しております」と結果を伝えます。待たせたことへの謝罪を長く重ねるより、次に何が起きるかを早く明確にするほうが、相手の負担を減らします。
つなげる場合は、相手が話し始める前に「〇〇部の□□へおつなぎいたします」と取次先を伝えます。誰が出るのか分かれば、相手は同じ名乗りをどこまで繰り返すか判断できます。担当者へ渡す直前に、電話の相手の氏名と用件を短く再確認しておくと、つながった後の沈黙を減らせます。自分が話す区間を終えるときは、声を急に落とさず、最初から保っていた速さで文を閉じます。
戻ったときに声がせわしなくなるなら、保留中に取次先の返答を待ちきれず、次の対応を決め切れていない可能性があります。「確認できました」だけで終わらせず、相手に選べる対応を一つずつ示します。「折り返しは本日中に可能です。ご都合のよい時間帯はありますか」のように、事実と質問を分けます。待たせた時間を取り返そうとして情報を早く渡すほど、相手は次の判断を急がされます。
不在と折り返しを曖昧にしない
取次先が不在の場合は、「戻り次第ご連絡します」と安易に約束しないことが重要です。戻る時刻、折り返しの可否、連絡先の確かさを確認しないまま約束すると、相手は待つことしかできません。「本日は外出しており、戻り時刻は未定です。折り返しをご希望でしたら、連絡先とご都合を承ります」と伝えれば、分かっている事実と選べる対応が分かれます。声は申し訳なさでぼかすより、見通しを明瞭に置くほうが信頼につながります。
伝言を預かるときは、相手の氏名、会社名、連絡先、用件、希望時刻を、相手が言った順ではなく確認しやすい順に復唱します。一度に全てを早く言わず、氏名と会社名、連絡先、用件の三つに分けます。聞き取れなかった数字や固有名詞は、推測で埋めず、その部分だけをもう一度尋ねます。折り返し先の番号は特に、区切って確認すると誤りを減らせます。
喉の痛みがある、または声枯れが続く場合は、電話を通すために喉で声量を足さず、耳鼻咽喉科を受診してください。取次ぎの声に必要なのは、強い押し出しではなく、誰の言葉か、何が確定しているか、次に誰が動くかを分けて置くことです。第一声から保留、取次ぎ、不在対応まで、文ごとに相手と取次先を取り違えなければ、声は自分のものだけでなく、組織への信頼を支えるものになります。
よくある質問
- Q. 秘書の取次ぎで、声のトーンはどれくらい上げるべきですか
- 無理に高くする必要はありません。鬱陶しくならない範囲で自然に整った声のほうが、外部にも社内にも信頼されやすいです。
- Q. 複数の電話が重なった時、声を作り分けるべきですか
- 作り分けなくて構いません。誰に対しても同じ息の入れ方と語尾の置き方を保つほうが、結果として丁寧に聞こえます。
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