秘書の声。取次ぎで信頼される第一声と電話対応

秘書として取次ぎの声が頼りなく聞こえる、電話口で焦って早口になる人へ。来客と上司、両方に向ける声を整えて信頼を積む方法を解説します。

奥津ユキ

役員フロアの電話は、一本しか鳴っていなくても大きく響きます。周りの物音が少ない場所ほど、こちらの第一声がそのまま相手の印象になり、次に控える上司への取次ぎの質まで決めてしまいます。多くの秘書の方は言葉づかいを整えることに気を配りますが、私がまず伺うのは、受話器を取る前にどれだけ息を止めてしまっているかです。

電話が鳴った瞬間、フロアの静けさがそのまま声に出ます

来客の少ない時間帯、書類に向かっている最中に電話が鳴ると、体はまだ仕事の姿勢のまま声だけを切り替えようとします。この時に多いのが、鳴った瞬間に一度大きく身構えて息を止め、そのまま「お電話ありがとうございます」と出てしまう形です。息が止まった状態で出す第一声は、どうしても喉の奥から立ち上がり、電話の向こうには硬く事務的な音として届きます。

受話器を取る前に、椅子に座ったまま一度だけ短く息を吐き、肩を落としてから受話器を持ち上げる。この一手間があるだけで、同じ「お電話ありがとうございます」でも耳に入る印象が変わります。静かなフロアだからこそ、身構えではなく息を通してから声を出す準備が生きてきます。

取次ぎの「間」は、無言の失礼ではありません

取次ぎで確認したい一文はこちらです。

「恐れ入ります、ただいま担当の者におつなぎいたします」

この一文を焦って一息で言い切ると、相手には「早く終わらせたい」気持ちがそのまま伝わります。反対に、社名や案件を聞き取った直後にほんの半拍だけ間を置き、その間に上司の予定を頭の中で確認してから続けると、同じ言葉でも落ち着いた対応に聞こえます。

秘書の仕事では、無言の時間を悪いものだと思いがちです。ただ、取次ぎの一拍は相手を待たせているのではなく、正確に次へ渡すための時間です。ここで急いで言葉を詰め込むほど、社名や用件を聞き違えるリスクも増えます。

「少々お待ちくださいませ」を、明るく作ろうとしなくていい理由

電話は表情が見えない分、声だけで印象を良くしようと、トーンを一段高くしてしまう方がいます。ただ私の実感では、無理に高く明るくした声は、聞き手によっては馴れ馴れしく、あるいは落ち着きがないように響くことがあります。電話が途中で切られてしまうのは声が暗いからだと言われがちですが、明るさそのものより、用件がきちんと伝わる話し方になっているかのほうが影響していると私は見ています。

「少々お待ちくださいませ」も同じです。語尾の「ませ」まで息を残して置ければ十分で、そこにわざとらしい明るさを足す必要はありません。無理をして声を作ると、保留の間ずっとその高さを維持できず、電話を切り替えた瞬間にトーンが元へ戻り、かえって不自然な差が生まれます。

立ち上がる動作と第一声がずれると、名刺交換前から印象が崩れます

来客が受付を通ってフロアに入ってきた瞬間、秘書は座ったまま気づき、それから立ち上がり、歩み寄って名刺交換に入ります。この一連の動きの中で、声を出すタイミングと体の動きがずれると、来客には落ち着かない印象が先に伝わってしまいます。

多くの場合、立ち上がる前に「いらっしゃいませ」を言い始めてしまい、声だけが先に出て体が追いつかないという形で崩れます。座った姿勢のまま声を出すと、それだけで息の通り道が狭くなり、音がこもります。私がすすめているのは、来客に気づいたら、まず体を起こしてから声を出すという順番を固定することです。立ち上がる、体を来客の方へ向ける、それから「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」と続ける。声を先に出そうとしないだけで、名刺交換に入る前の数秒がまったく違う印象になります。

上司の予定を確認しながら話す「ながら」の場面で、息が浅くなります

取次ぎの最中、手元でスケジュール表を確認しながら電話の相手に返事をする、という場面は秘書の仕事に日常的にあります。目と手を予定確認に使いながら声だけを別の作業に割り当てると、体は自然と息を止めがちになります。画面や紙に視線を落とすと胸が閉じ、そのままの姿勢で「少々お待ちください、確認いたします」と言おうとすると、声はその場に留まったまま前に出にくくなります。

対処は難しくありません。予定を確認する数秒の間だけ、電話口に向けて短く「確認いたしますので、少々お待ちください」と先に置いてから視線を落とします。声を出してから確認作業に移る、という順番に変えるだけで、ながら作業の間も声が痩せずに済みます。

急いでいる、あるいは苛立った電話ほど、取次ぐ前に一呼吸置きます

先方が急いでいる、あるいは苛立っている電話は、その空気に引っ張られてこちらの声も早口になりがちです。相手のペースに合わせて畳みかけるように取次ぎを進めると、社名や用件を聞き違えたまま上司に伝えてしまうこともあります。

こういう時ほど、受話器を保留にした直後の一瞬だけ、意識して息を吐き切ってから内線を鳴らします。急いでいる相手に対して、こちらまで急いだ声で応じる必要はありません。落ち着いた速さのまま用件を伝えることが、結果的にいちばん早く正確に取次ぎを終える道です。

二つの電話回線を抱えても、声を作り分けなくていい理由

内線と外線が同時に鳴る場面では、片方を保留にしたまま、もう片方に応対することがあります。ここで「外線用の声」「内線用の声」と切り替えようとすると、頭の中の負荷が増え、どちらの対応も浅くなりがちです。

見るべきは声色の使い分けではなく、保留にする前の一言と、保留を解いて戻る時の一言を同じ手順で置けているかです。「恐れ入ります、少々お待ちいただけますでしょうか」と伝えてから保留にし、戻った時は「大変お待たせいたしました」から始める。この二つの言葉さえ、息を通してから置く習慣にしておけば、回線が増えても声そのものを組み立て直す必要はありません。

来客と上司、二方向に向ける声を一度に整えます

応接室にお通しした来客に「ただいま参ります」と伝えながら、内線で上司に一言つなぐ。この二つは近い時間の中で起こるのに、向ける相手も距離感もまったく違います。来客には落ち着いた温度で、上司には手短に要点だけを伝える。声色を大きく変える必要はなく、来客に向ける時は語尾までゆっくり置き、上司への一言は短く区切って渡す。この「間」の使い分けだけで、二方向の声は無理なく整います。

断りの一言を、暗く沈ませないために

「あいにく、ただいま席を外しております」という一言は、秘書の仕事で何度も口にする言葉です。断りの内容そのものが気まずいため、声のトーンまで一緒に沈んでしまう方は少なくありません。ただ、内容が申し訳ないものであっても、声まで小さく畳んでしまうと、頼りない印象や、何かを隠しているような響きになりやすくなります。

ここで整えるのは明るさではなく、語尾です。「おります」の「す」まで息を残し、次の一言「かしこまりました、戻り次第お伝えいたします」につなげる。断る内容と、声の置き方は別のものだと分けて考えると、無理に取り繕わなくても落ち着いた印象を保てます。

一日中の保留と復唱で、喉を消耗させないために

秘書の一日は、来客対応、電話の取次ぎ、復唱、内線連絡が絶え間なく続きます。声量そのものは大きくなくても、短い発話を何十回も繰り返す負担は積み重なります。私がすすめているのは、体の前あたりで横隔膜を軽くつまみ出すような感覚を、話す間ずっと保つことです。吐く時だけでなく、次の一言を吸う時もこの感覚を緩めないでいると、喉で締めて声を作る回数そのものが減り、午後になっても声が硬くならずに済みます。

今日、取次ぎの一文をスマホで録っておきます

練習は難しく考えなくて大丈夫です。「恐れ入ります、ただいま担当の者におつなぎいたします」という一文を、スマホの録音アプリで一度録ってみてください。聞く場所は三つだけです。受話器を取る前に息を止めていなかったか。社名を聞き取った後、間を詰めずに置けているか。「いたします」の最後の一音まで息が残っているか。

うまく話せているかを採点する必要はありません。この三か所のどれか一つでも整えば、次に電話が鳴った時の第一声は変わります。取次ぎの声は特別な発声法で作るものではなく、目の前の相手と、その先の上司の両方に、いつもの自分の言葉を落ち着いて渡せるようにすることです。

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よくある質問

Q. 秘書の取次ぎで、声のトーンはどれくらい上げるべきですか
無理に高くする必要はありません。鬱陶しくならない範囲で自然に整った声のほうが、外部にも社内にも信頼されやすいです。
Q. 複数の電話が重なった時、声を作り分けるべきですか
作り分けなくて構いません。誰に対しても同じ息の入れ方と語尾の置き方を保つほうが、結果として丁寧に聞こえます。
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奥津ユキ
書いた人
奥津ユキ

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。

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