不動産営業の内見案内で信頼される声。屋外と室内で通し方を変える
内見の道案内は屋外の車の音に負け、空室では声が反響して疲れる不動産営業の方へ。一日に何件も回っても枯れない声の使い分けを解説します。
奥津ユキ
駅から物件までの道は車の走行音に、玄関を開けた先の空室は物のない部屋の反響に、声の届き方がまったく変わります。一日に3件、4件と内見を回る不動産営業の方から、屋外で声を張ると午後には枯れてしまう、鍵をがちゃがちゃ開ける間もお客様に不安を与えたくないという相談をよく受けます。
屋外で通らないのは、声量ではなく息の使い方の問題です
「駅から徒歩9分になります」と交通量の多い道端で説明すると、車の音に負けまいと喉で声を張り上げてしまいがちです。ただ、喉で押した声は数メートル先までは届いても、それ以上は伸びません。私が案内するのは、喉を締めて大きくするのではなく、息のスピードを上げて声を前に飛ばす感覚です。同じ声量でも、息の勢いが乗っているかどうかで、車道の反対側にいるお客様への届き方は変わります。
空室の反響は、声が通っている錯覚を生みます
家具のない空室に入ると、自分の声がよく響いて聞こえます。これは部屋が良く響いているだけで、実際に声が前へ届いているかどうかとは別の話です。反響に助けられて楽に話せたと感じたまま、次の物件の屋外に出た瞬間、同じ発声では声が届かず慌てるケースをよく見ます。室内で気持ちよく響いている感覚を基準にせず、息の圧そのものを一定に保つ意識を持ってください。
声の低さと、お客様からの信頼に相関はありません
不動産営業の方の中には、低く落ち着いた声のほうが専門家らしく信頼されると考えて、無理に声を沈めている方がいます。ですが声の高さそのものと、相手から得られる信頼の間に強い相関があるわけではありません。無理に低く作った声は喉に負担がかかるだけでなく、聞き手には作り物めいて響くこともあります。信頼を左右するのは声の高さより、丁寧に一つひとつを説明しているという伝わり方のほうです。
家賃や初期費用は、あえて少し声を落として届けます
契約条件の説明では、はっきり大きな声で言い切るべきだと考えている方が多いのですが、金額のように相手が聞き逃したくない情報ほど、あえて少し声を落として伝えたほうが耳を引きつけられる場面があります。「月々のお家賃は9万8千円、共益費が5千円になります」という一文を、他の説明より少しだけトーンを落として区切って話すと、お客様は聞き逃すまいと自然に耳を寄せてきます。声を張って押し切るより、この静かな一拍のほうが誠実さも伝わります。
標準語できれいに話すことより、人柄が伝わる話し方を優先します
内見案内でアナウンサーのようなよどみない話し方を目指す必要はありません。人柄が伝わる話し方のほうが、結果として信頼につながりやすいです。多少言葉に詰まっても、鍵を開けながら「こちら、少し建て付けが硬いので失礼します」と自分の言葉で伝えるほうが、暗記した説明を流暢に読み上げるより印象に残ります。作り込んだ声より、その場で感じたことを載せた声のほうが、部屋の情報以上のものを伝えます。
一日に何件も回っても枯れないのは、喉の締めすぎを防いだ人です
朝から夕方まで内見を回り続けて声が枯れる方のほとんどは、屋外で張り、室内で気を抜き、また屋外で張るという締めすぎを一日中繰り返しています。私がよく伝えるのは、横隔膜のあたりを前にそっとつまむような感覚を、話している間ずっと保つことです。これができていると、屋外で息のスピードを上げても喉そのものに負担がかかりにくく、何件回っても最後の一件まで同じ声で説明できます。息を吸うときも、この圧を抜かないことがポイントです。
重要事項説明は、一気に読み上げると声から先に疲れます
契約前の重要事項説明は長い書面を一気に読み上げるため、声が先にへばってしまう場面です。早く終わらせたい気持ちから一息で読み進めようとすると、後半の条項ほど早口になり、語尾が抜けて聞き取りにくくなります。一項目ごとに区切り、区切りの間で短く息を入れ直すだけで、最後の一文まで同じ調子を保ちやすくなります。声を張って読み切ろうとするより、区切りの位置を決めておくほうが、聞き手にとっても内容が頭に入りやすくなります。
だめな案内の声と、伝わる案内の声を同じ場面で比べます
だめな例は、玄関先から共有部の案内までを、屋外も室内も同じ声の張り方で押し通す話し方です。「こちらが駐輪場、こちらがゴミ置き場になります」と一本調子で述べると、屋外の車の音に負けて声が埋もれ、室内に入っても張ったままの声で疲れが目立ってきます。
伝わる例は、屋外では息のスピードを上げて言葉の輪郭を立て、室内に入ったら喉の力を抜いて圧だけを保ちます。「こちらが駐輪場になります」で一度息を吐き切り、ドアを開けて「こちらがゴミ置き場になります」と続けるときは、室内の反響に合わせて声量を落とします。同じ内容でも、場面ごとに息の使い方を変えるだけで、最後まで聞き取りやすい声が保てます。
体の向きも、屋外と室内で崩れやすい場所が違います
屋外では、日差しや資料を見るためにうつむきがちになり、胸のあたりが縮こまって声が前へ抜けにくくなります。話す前に一度胸を開き直すだけで、息の通り道が変わります。室内では、狭い玄関や廊下で体をひねって鍵を操作しながら話すことが多く、その姿勢のまま声を出すと喉に余計な力みが入ります。鍵を開ける動作と説明を始めるタイミングを、ほんの一呼吸分ずらすだけでも、声の出だしは安定します。
玄関先の一言で、その日の声の調子を確かめます
案内の前に長い発声練習をする時間はないと思います。それでも、最初の物件の玄関を開ける前に、次の一言だけ試してみてください。
「こちらのお部屋になります。どうぞお入りください」
声に出さず口の形だけ動かしてから、実際に小さめの声で一度言ってみます。確かめるのは、顎に力が入っていないか、語尾まで息が残っているかの二点です。ここで喉に違和感があれば、その日は屋外での声量に頼らず、息のスピードだけで届かせる意識に切り替えてください。移動の車中でこれを毎回行うだけでも、その日の声の調子を客観的に把握しやすくなります。
何件も回る日ほど、最初の一件で無理をしないことです
3件、4件と内見が続く日は、最初の物件で気合いを入れすぎて声を張ってしまうと、午後の案内まで喉が保ちません。1件目の屋外説明から、すでに息のスピードで届かせる意識に切り替えておくと、後半になっても同じ調子で話せます。反対に、1件目を勢いで乗り切ろうとすると、2件目の空室に入った時点でもう声がかすれ始めていることに気づきます。案内の順番を自分で選べるなら、屋外説明が長い物件を先に、室内中心の物件を後半に回すだけでも、声の負担は変わってきます。当日の道順を決める段階から、声の使い方まで含めて組み立てておくと、夕方の最後の一件でも落ち着いた声で説明できます。
案内の合間の録音チェックで見る場所
移動中の車内や、内見の合間にスマホで自分の説明を録音して聞き返してみてください。声がこもって聞こえるかどうかより、屋外の説明と室内の説明で声の出し方に差がありすぎないか、金額を伝える一文で声を落とせているか、この二点を聞き分けます。元気に聞こえるかどうかを基準にすると、屋外用に無理をした発声を続けてしまいます。一件目と最後の一件で聞き比べ、声の出し方があまり変わっていなければ、その日の使い分けはうまくいっている証拠です。
屋外と室内を同じ声で通す必要はありません
内見案内で目指すのは、屋外でも室内でも同じ声量で押し通すことではありません。屋外では息のスピードで届かせ、室内では反響に頼らず圧を保ち、金額を伝える場面ではあえて声を落とす。この使い分けができれば、一日に何件回っても喉は保ち、お客様が受け取る印象も安定します。次に案内が続く一日を迎えるときは、声を大きくする前に、この三つの場面をひとつずつ思い出してみてください。
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よくある質問
- Q. 内見中に道路の車の音に負けないよう声を張ると喉が痛くなります。どうすればいいですか
- 喉で押して張るのではなく、息のスピードを上げて前に届かせる意識に変えてください。喉への負担が減り、一日何件回っても保ちやすくなります。
- Q. 家賃や初期費用を伝えるときは、はっきり大きな声のほうが信頼されますか
- そうとは限りません。金額のような重要な情報は、あえて少し声を落として届けるほうが相手の耳を引きつけ、丁寧な印象につながることがあります。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
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