社労士の説明が届く声。制度説明で聞き返されない話し方
社労士の制度説明が聞き返されるのは、内容の複雑さより声の届け方に原因があることが多いです。就業規則や助成金の説明で聞き取りやすい声の作り方を解説します。
奥津ユキ
就業規則の説明会や社会保険の手続きの案内をしていると、同じ説明を二度、三度と聞き返される場面が出てきます。内容が難しいからだと思われがちですが、原因は説明の順序よりも先に、声そのものの届き方にあることが多いです。制度そのものを噛み砕く工夫は既に十分にしているのに、なぜか伝わらない。そう感じている社労士の方ほど、声の出し方をまだ見直していないだけかもしれません。
就業規則の説明会で、なぜ同じ質問が繰り返されるのか
顧問先の総務担当者や従業員に制度を説明していると、資料には書いてある内容なのに、口頭では伝わっていないという場面によく出会います。これは理解力の問題というより、声が耳に届く前に途切れているために起きています。制度の複雑さを疑う前に、まず声の出方を確認する価値があります。
聞き返される人がまず見るべきは、口の開きとトーンです
聞き返されやすい人を見るとき、私がまず確認するのは声質の良し悪しではなく、口がきちんと開いているかどうかと、声のトーンの二点です。社労士の説明は制度名や数字が連続するため、口の動きが小さいまま単調なトーンで話が進みがちになります。聞き返されるのは声が不明瞭だからという面は確かにありますが、不明瞭さの正体は多くの場合、口の開きの小ささと抑揚のなさに集約されます。滑舌そのものを鍛える前に、この二点をまず疑ってください。
「育児休業給付金の支給要件について、順にご説明します」で練習します
このひと言を録音してみます。「育児休業給付金の」がもごもごと聞こえる場合、舌の動きより口の開きが不足していることが多いです。滑舌は口を大きく動かすことよりも舌の動きで決まりますが、その舌を動かすための土台として、顎をわずかに開けておく必要があります。「順にご説明します」の語尾まで、音が丸まらずに残っているかも合わせて確認してください。
顎を固定して横に開くと、制度名の聞き取りやすさが変わります
制度名や手続き名には「育児休業」「算定基礎届」のように、似た音が連続する言葉が多くあります。ここで効くのは、顎を上下にぱかぱか動かす発声ではなく、顎を固定したまま横に「い」の形を保って話す発声です。縦に大きく開けようとするほど言葉はもごもごとまとまり、逆に顎を止めて横に開いておくほうが、一音ずつの輪郭がはっきりします。「就業規則の改定は、来月一日から適用されます」という一文で、顎を止めたまま試してみてください。
聞き返された瞬間、大きな声で言い直すだけでは足りません
聞き返された時、多くの人はとっさに声を大きくして同じ言葉を繰り返しますが、それだけでは伝わらないことがあります。大きな声も有効な一手ではありますが、それに加えて、少しゆっくり話す、言葉のニュアンスを変えて言い直す、大げさなくらい抑揚をつけ直す、といった手を組み合わせたほうが伝わりやすくなります。「36協定の届出は、毎年更新が必要です」を聞き返された場合、同じ速さで繰り返すのではなく、「毎年」の部分だけ間を置いて言い直してみてください。
オンラインの説明会では、口の動きが画面越しに縮みます
Zoomでの説明会は、対面よりも口の動きが小さくなりがちです。画面に映る自分の姿を気にするあまり、表情も口の開きも控えめになり、結果として声がこもって聞こえます。鼻にかけて響かせようと意識するより、口角をわずかに上げておくだけで、同じ発声でも前に抜けやすくなります。「算定基礎届の提出期限についてご案内します」という切り出しを、口角を上げた状態で試してみてください。
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声帯を締めすぎても、緩めすぎても説明は届きません
声を出すときの声帯の閉じ方には、締めすぎと緩めすぎの両方があり、人によってどちらに寄りやすいかは逆です。締めすぎている人はハキハキ話しているつもりでも硬く威圧的に聞こえ、緩めすぎている人は言葉が息に混じって輪郭を失います。どちらに寄っているかは自己判断がつきにくいところなので、まずは自分の説明を録音し、語尾が息漏れで消えていないか、逆に喉で押されて硬くなっていないかを聞き比べてみてください。
電話でのQ&A対応は、一問一答の間の置き方が要です
電話での制度相談は、資料を見せられないぶん、質問と回答のテンポが速くなりがちです。急いで答えようとするほど、要点となる数字や期限の手前で言葉が滑ります。「支給要件は三つございます」と切り出したら、ひとつ目を言い終えてから次に移るまで、ほんの半拍だけ間を置いてください。この間があるだけで、電話の向こうの相手は要点を数えながら聞ける状態になります。
助成金の要件説明ほど、早口になりやすい場面はありません
助成金の申請要件は、対象期間や提出書類、締切が一度に何項目も並びます。落とせない情報が多いほど、社労士自身が焦って早口になり、結果として一番大事な締切の数字だけが聞き手の耳を素通りしてしまいます。「キャリアアップ助成金の対象期間は、原則として六か月です」という一文があるなら、数字の手前でだけ、他より気持ち長めに間を取ってみてください。話す速度を全体的に落とす必要はなく、要となる数字の直前だけ間を伸ばせば、聞き手は自然とそこに意識を向けます。
給与計算の変更点は、結論を先に置いてから理由を話します
給与計算のルール変更を伝えるとき、多くの人は背景や理由から順に説明し、結論となる変更点は最後に置いてしまいます。聞き手は結論が来るまで身構えたまま説明を聞くことになり、途中の細かい理由はほとんど耳に残りません。「今月から、残業代の計算方法が変わります」と結論を先に言い切ってから、理由を続けるほうが、声のトーンも落ち着いた状態で話しやすくなります。結論を先に置くのは話の組み立てだけの話ではなく、声を安定させるためでもあります。
説明会に入る前の30秒でできる準備
大人数の前で制度を説明する直前は、資料の最終確認に気を取られ、声の準備を後回しにしがちです。やることはひとつで十分です。息を一度吐き切ってから、短く吸い直します。そのうえで、今日いちばん伝えたい一文だけを、声に出さず口の形でなぞっておきます。ここで確かめるのは、口がきちんと横に開く形を作れているか、その一点だけです。この30秒があるかどうかで、説明会の最初の数分の聞き取りやすさは変わってきます。
制度の正確さは、声の届け方があってはじめて伝わります
社労士の仕事は制度を正確に伝えることですが、正確な内容も声が途切れれば相手には届きません。口の開き、トーン、顎の固定、間の置き方。特別な発声練習を積み重ねるより、日々の説明の中でこの四点を意識するほうが、聞き返される回数は確実に減っていきます。私の実感では、説明が苦手だと感じている社労士の多くは、話し方の技術ではなく、この基本の声の出し方でつまずいています。
録音は、説明のうまさを採点する道具ではありません
自分の説明を録音して聞き直すと、間延びしているように感じたり、逆にせわしなく聞こえたりして、素直に受け止めにくいものです。ただ録音は、話がうまいかどうかを判定するための道具ではありません。確かめるのは、制度名の頭が欠けていないか、要となる数字の手前に間があるか、語尾が息漏れで消えていないか、この三点だけです。評価を始めると練習が止まってしまうので、聞くときは体の使い方だけを追ってください。
一つの制度説明を録音し直すたびに、口の開き、トーン、間の三点のうちどれか一つだけを直す。これを繰り返すほうが、一度にすべてを整えようとするより、実際の説明会や電話対応にそのまま持ち込みやすい声になっていきます。制度の理解度を上げる工夫と、声の届け方を整える工夫は、まったく別の作業として並行して進めるくらいでちょうどいいと私は考えています。
よくある質問
- Q. 制度の説明で毎回聞き返されてしまいます。何を直せばいいですか
- 内容の複雑さより、口の開きと声のトーンをまず確認してください。滑舌の細かい練習より、この二点を整えるほうが効果が出やすいです。
- Q. 早口を直せば聞き返されなくなりますか
- 早口だけが原因とは限りません。ゆっくり話す・言い方を変える・大げさに間を作るなど、複数の手を組み合わせたほうが伝わりやすくなります。
- Q. オンラインの説明会で声がこもります。どうすればいいですか
- 画面越しでは口の動きが小さくなりがちです。顎を固定したまま横に開く発声を意識すると、こもりが軽減されます。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →ビジネスボイトレとは。声で印象の主導権を握るために鍛えること
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