通訳の声がかすれる・聞き取りにくいと言われる人へ。長時間保つ話し方
逐次通訳で午後になると声がかすれる、聞き返される方へ。声帯の弱さのせいにせず、息と喉の使い方から長時間保てる声を作る方法を一人称で解説します。
奥津ユキ
朝一番の逐次通訳では問題なく声が出ていたのに、午後の質疑応答に入るころには語尾がかすれ、聞き手から「すみません、もう一度お願いします」と言われる回数が増えていく。通訳を仕事にしている方からよく聞くのは、この午後型の声の崩れです。原稿を読み上げるのではなく、相手の発言をその場で聞き、頭の中で組み立て直しながら声にする仕事だからこそ、声の負担のかかり方も独特です。
逐次通訳で午後になると声がかすれる、本当の理由
逐次通訳は、話者の発言をメモに取り、区切りごとに声に出して伝え直す作業の連続です。一文が終わるたびに新しい情報を頭で組み立て直しながら声を出すため、次の発言までの間隔が短く、息を整える余白がほとんどありません。
多くの通訳者は、午後に声がかすれてくると「自分の声帯が弱いのだろう」と考えがちです。ですが、長時間の発話で枯れる原因の大半は、声帯そのものの弱さではなく、声の出し方に無理がかかっていることにあります。特に、聞き手に正確に伝えようと力むほど、喉を締めて声を押し出す癖がつきやすく、これが積み重なって午後には響きが濁ってしまいます。
「喉が弱いから枯れる」は思い込みです
長時間話して声が枯れる原因を、声帯の強さのせいにしてしまう方は多いのですが、実際には声の大きさや息の使い方、話し方の癖のほうが大きく関わっています。声量を出しすぎている、息を必要以上に流しすぎている。こうした使い方の積み重ねが、枯れやすさとして表れます。
通訳の現場では、話者の熱量に引っ張られて声を張ってしまう場面が少なくありません。相手が声を大きくして力説している内容を訳すとき、つられて自分も声を張り上げると、その瞬間だけは勢いが伝わっても、何時間も続けるうちに喉への負担として積み上がっていきます。声帯を鍛え直すという発想より先に、声の使い方そのものを見直す余地があります。
横隔膜を軽くつまむ感覚が、何時間話しても保てる声を作ります
長時間話しても喉が疲れにくい人に共通しているのは、お腹をただ膨らませたりへこませたりする呼吸ではなく、横隔膜のあたりを前方へ細くつまみ出すような感覚を、話している間じゅう保っていることです。吐くときだけでなく、次の発言のために息を吸い込む一瞬にも、この圧を抜きません。
逐次通訳では、話者の発言を聞いている間も気を抜けません。この「聞いている間」にお腹の圧を抜いてしまうと、話し始める瞬間にあらためて喉で支えることになり、そこから声が締まっていきます。メモを取りながらでも、腹部の圧を保ったまま息を吸う練習をしておくと、訳出に入る瞬間の喉の負担が変わってきます。
固有名詞や専門用語は、短く切ってはっきり伝えます
通訳の現場では、聞き慣れない固有名詞や専門用語、数字の羅列が続く場面があります。ここで滑舌が甘くなると、内容そのものは正しくても聞き手に誤解を与えてしまいます。
声がよく通る人ほど、実は一音一音が短いという特徴があります。長く伸ばしすぎると音同士がくっついて不明瞭になり、区切りたい場所でブレスも入れにくくなります。音が伸びてしまう人の多くは、喉だけで声を張ろうとして、お腹側の支えを使えていません。
たとえば、次のような一文を練習してみてください。
「先方の稼働開始は、来期の第三四半期を予定しております」
数字や固有名詞のところで音を伸ばさず、ひとつずつ短く区切って発音してみます。すると、早口で聞き取りにくかった部分の輪郭がはっきりしてきます。急いで伝えようとするあまり早口になりがちな通訳の現場でこそ、音の長さを意識する価値があります。
二つの言語を切り替えるたびに、顎と舌の構えも変わります
日本語と外国語では、そもそも口の開け方や舌の位置が違います。切り替える瞬間に、前の言語を話していた時の口の構えのまま声を出そうとすると、滑舌が乱れたり、喉で無理に音を押し出したりしやすくなります。
言語を切り替える直前に、ほんの一瞬だけ顎の力を抜いて口の中をリセットする間を作ってみてください。慌ただしい現場では省略しがちな一瞬ですが、この間があるかないかで、切り替え直後の最初の一音の明瞭さが変わります。同時通訳のブースのように声量を絞って話す環境でも、この切り替えの一瞬は同じように効いてきます。
息を止めずに、発言と発言のあいだをつなぎます
逐次通訳のもうひとつの特徴は、話者の発言を聞く時間と、自分が訳す時間が交互に来ることです。この切り替えの瞬間に息を止めてしまう人が多く、訳し始めの一音が遅れて出たり、喉で押し出したような音になったりします。
聞いている間も完全に息を止めず、細く流し続けたまま次の発言に備えると、訳出に入る最初の一音がスムーズに出ます。息を止めてから話し始めるのと、息をわずかに流したまま話し始めるのとでは、同じ内容でも聞き手に届く印象が変わります。
聞き手が非母語話者の時ほど、母音の輪郭をはっきりさせます
聞き手の中に、通訳する言語を母語としない方が混じっている現場もあります。こうした場面では、話す速さを落とすことよりも、母音の輪郭をはっきりさせることのほうが聞き取りやすさに直結します。
早口で母音があいまいになると、聞き慣れない言語の話者ほど聞き取りに苦労します。一音ずつを短く区切りながらも、母音の形を最後まで保つ意識を持つと、速度を落とさなくても聞き取りやすい声になります。
一日に複数セッションをこなす日は、休憩の使い方も声の一部です
一日に午前と午後で担当が分かれるような日程では、休憩時間の過ごし方も声の持ちを左右します。休憩中に大声で世間話を続けたり、休憩の終わり際に慌てて発声を確認したりすると、次のセッションに入る前に喉の状態がさらに乱れることがあります。
休憩の合間は、声を出す量そのものを減らし、横隔膜のあたりの圧を一度緩めてから、次のセッションの直前にもう一度圧をかけ直す、という切り替えを意識してみてください。かすれが強く、休憩を挟んでも戻らない状態が続くようであれば、無理に量をこなそうとせず、医師や専門家に相談することも選択肢に入れてください。
午前と午後、同じ一文を録音して聞き比べます
自分の声がどれくらい変化しているかは、感覚だけでは分かりにくいものです。仕事の合間に、同じ一文を録音して比べてみてください。
「先方の稼働開始は、来期の第三四半期を予定しております」
午前中に一度録音し、午後、声がかすれてきたと感じたタイミングでもう一度録音します。聞き比べる時は、うまく言えているかどうかではなく、語尾の音が消えていないか、固有名詞の輪郭がぼやけていないか、息が続かず途中で切れていないか、この三点だけを追ってください。
差が大きいようであれば、休憩の合間に横隔膜をつまむ感覚を思い出しながら深く息を吸い直すだけでも、次のセッションでの持ちが変わってきます。
メモを取る姿勢も、声の出やすさに関わります
逐次通訳では、話を聞きながらメモを取る姿勢が長く続きます。うつむいたまま首を前に落として書き続けると、話者の発言が終わって顔を上げた瞬間、喉が詰まったような状態から声を出すことになります。
メモを取る間も、首の後ろを詰まらせず、視線だけを手元に落とすようにすると、訳し始める瞬間の喉の締まりが減ります。姿勢のわずかな違いが、一日の終わりまでの声の持ちに積み重なっていきます。
スマホひとつでできる、通訳前の準備
本番の直前に長い発声練習をする時間は、現場ではほとんどありません。必要なのはごく短い確認だけです。
口を閉じたまま一度息を吐き切り、肩を上げずに短く吸い直します。声には出さず、その日担当する分野でよく出てくる固有名詞をひとつ、口の形だけでなぞってみます。それから、小さな声でその固有名詞を一度だけ実際に声にしてみます。ここで確かめたいのは、音を短く切って発音できているか、喉で押していないか、この二点です。
まとめ
通訳の仕事で声が枯れていくのは、声帯が弱いからではなく、息の使い方と喉の力み方の積み重ねによるものです。横隔膜を軽くつまむ感覚を話している間じゅう保つこと、固有名詞や数字を短く区切ってはっきり発音すること、発言の切り替えで息を止めないこと。この三つを意識するだけで、午前と午後の声の差は小さくなっていきます。
同じ一文を時間を空けて録音し、聞き比べる習慣を持っておくと、自分の声がどこで崩れ始めるのかが具体的に見えてきます。
よくある質問
- Q. 通訳の仕事で午後になると声がかすれるのはなぜですか
- 声帯の弱さよりも、声を張りすぎることや息を流しすぎること、喉を締めて押し出す話し方の積み重ねが主な原因です。
- Q. 長時間話しても声を保つにはどうすればいいですか
- 横隔膜のあたりを軽くつまみ出す感覚を、話している間も聞いている間も保つことです。息を吸う瞬間にも圧を抜かないようにします。
声が変わると、人生が変わる。
通る声、落ち着いた声、人を惹きつける声は、生まれつきだけで決まるものではありません。第一声・息・喉・体の使い方を整えることで、人前で話すたびに「この人は違う」と伝わる声はつくれます。無料動画講座では、声量に頼らず、印象・説得力・存在感が変わる声の整え方をお送りします。
登録後、無料動画講座をメールでお送りします。配信停止はいつでも可能です。

ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →ビジネスボイトレとは。声で印象の主導権を握るために鍛えること
ビジネスボイトレで変えるべきものは、話し方の型だけではありません。会議・プレゼン・商談で選ばれる声を、息・喉・体の使い方から整える考え方を解説します。
話すと息が続かない人へ。長く話す前に整える息と語尾
話している途中で息が足りない、語尾が消える、苦しくなる人へ。長く吸うより、息の配分と言葉の区切りを整えます。
滑舌を良くする方法。仕事で聞き返されない話し方の整え方
滑舌を良くする方法を、早口言葉や舌トレだけでなく、母音・言葉の頭・息・区切り・録音チェックから解説します。会議や商談で聞き返されない話し方を整えたい人へ。