エレベーターピッチで声が埋もれる人へ。30秒で印象を残す届け方
交流会や名刺交換会の30秒自己紹介で声が周りのざわつきに負けて印象が薄い人へ。作り込んだ声に頼らない届け方を解説します。
奥津ユキ
交流会や名刺交換会で、自分の仕事を30秒で伝える。内容は毎回同じなのに、なぜか相手の記憶に残らない。原因は話す中身より先に、声が会場のざわつきに埋もれていることがほとんどです。会場で起きていることは家で再現できます。スマホと、テレビか音楽を用意してください。
テレビを流したまま、名乗りを録音してみます
まず静かな部屋で、次の一文を録音します。
「はじめまして、〇〇を作っている〇〇です。」
次に、テレビか音楽を小さく流したまま、声量を変えずに同じ一文をもう一本。二本を聞き比べると、雑音の中で最初に失われるのは声の大きさではなく、輪郭だと分かります。出だしの一音がにじみ、語尾が周りの音に飲み込まれる。立食の会場であなたのピッチに起きているのは、まさにこの現象です。
仕上げに三本目を録ります。名前と仕事内容の部分だけ、ほんの少し高さの幅を広げて言ってみてください。声を張っていないのに、雑音の中でそこだけ耳に留まります。この三本の差が、この記事でやることのすべてです。
テレビの音量は、会話がぎりぎり聞き取れる程度で十分です。大きくしすぎると声を張る練習になってしまい、確かめたい輪郭の変化が聞き分けられなくなります。聞き返すときは自分の声だけを追いかけ、どの言葉から輪郭が崩れ始めるかを探してください。名前なのか、仕事内容なのか、語尾なのか。崩れ始める場所は人によってほぼ決まっていて、そこがあなたの30秒の直しどころです。
埋もれる原因は、声量で対抗しようとすることです
声が届かないと感じると、多くの人はまず音量を上げます。ですが、ざわついた会場で大きな声を出そうとすると喉で押した声になり、音自体は大きくても輪郭がぼやけ、かえって聞き取りにくくなります。
第一印象が薄いのは声が低いからだ、という説明もよく聞きますが、高さだけで決まるものではありません。低い声のままでも届け方で印象は変わります。そして、いつもより高く明るいよそ行きの声を作り込む方向も勧めません。作り込んだ声は不自然に響き、聞き手に距離を感じさせます。普段の声のまま、届け方の順番だけを変えるのが、いちばん自然で残ります。
作り込んだ声にはもう一つ弱点があります。続かないことです。最初の一人には出せても、十人目には保てません。保てない声で作った第一印象は、二度目に会ったとき別人の声で裏切られます。普段の声で覚えてもらう方が、その後の商談にもそのままつながります。
会場で楽そうに話している人は、特別に強い喉を持っているわけではありません。雑音と張り合わない届け方を知っているだけです。対抗ではなく設計。30秒の声は、その場のがんばりではなく、事前の一本の録音で決まります。
会場に着いてから直そうとしても、周りの音の中では自分の声の変化を聞き取れません。だからこそ家での雑音実験に意味があります。静かな場所で崩れ方を先に知っておけば、会場でやることは確認ではなく、再現だけになります。
短く速い息が、ざわつきの中で輪郭を保ちます
大きさで対抗する代わりに使うのが、息のスピードです。私がよく使うたとえですが、息は自転車の感覚に近く、ゆっくり漕ぐとふらつき、少し速めに漕ぐとかえって安定します。ゆっくり大きく出そうとするより、短く速く息を通す方が、雑音の中でも一音ずつの輪郭が立ちます。
短く速くといっても、息を強く当ててがなるのとは違います。吐き始めの一瞬に速さがあれば、あとは軽くて構いません。名乗りの頭の一音が、ふっと前に出る感覚があれば十分です。
もう一つが抑揚です。抑揚は声の大きさではなく、高さで作ります。一定の高さで単調に話すと、周りの会話と混ざって溶けてしまいます。名前や仕事内容の言葉だけ、高さの幅をわずかに広げる。録音実験の三本目で確かめたあの変化を、会場でもそのまま使ってください。
30秒を、一息で話し切ろうとしないでください
ピッチが後半に向かって尻すぼみになる人の多くは、30秒分の言葉を一回の息で押し切ろうとしています。息が減るほど声は浅くなり、いちばん覚えてほしい締めの一言が、いちばん弱い息で語られることになります。
30秒は、名乗り、何をしているか、相手への一言、という三つのかたまりに分かれます。かたまりの継ぎ目で、口を閉じて短く吸ってください。この息継ぎは沈黙ではなく、聞き手が前のかたまりを飲み込むための間としても働きます。詰め込んだ30秒より、二回の息継ぎがある30秒の方が、内容は確実に残ります。締めの一言の直前はとくに意識して吸い、最後の言葉にいちばん新しい息を乗せて終えてください。
名刺を差し出す手と、名乗りの声をずらします
交流会の自己紹介は、名刺を渡す、受け取る、資料を見せるといった手の動きと同時に声を出すことが多く、これも埋もれる原因になります。名刺を差し出しながら話し始めると、体の向きが定まらないまま声が出て、相手の顔ではなく手元に向かって話すような音になります。
名刺を渡す動きを先に始め、相手が受け取る手前で「はじめまして」と声を出す。ほんの一瞬ずらすだけで、声が相手の顔へまっすぐ向きやすくなります。飲み物やお皿を片手に持って話す場面では、体がふらつくと声も一緒に揺れるので、まず足の裏を安定させてから口を開いてください。
展示ブースで資料を広げながら話すときも同じで、指し示す動作と説明の声が重なると、声は紙の上に落ちます。指し示してから、顔を上げて話す。この順番さえ守れば、資料は声の邪魔ではなく味方に戻ります。
囲まれたときは、最初の一言を一人に向けます
立食パーティーや展示ブースでは、数人に囲まれた状態で30秒を話す場面もよくあります。全員に均等に届けようとすると、視線も声も分散して、結局誰にも強く届きません。
そういうときは、名乗りの最初の一言だけ、輪の中の一人に向けて話すつもりで出してください。一人に向けた声の方が輪郭がはっきりし、結果として周りの人にも届きます。声を分散させず、まず一点に置く。そのあとで視線を動かせば、話の続きは自然と輪全体に広がります。向ける相手を選ぶなら、いちばん反応を返してくれている人です。うなずきが返ってくる相手に置いた声は、次の一言も置きやすくなります。
会場に入る前は、声を出さない30秒で足ります
入場前に長い発声練習をする時間はありません。必要なのは短い確認だけです。口を閉じたまま一度息を吐き切る。肩を上げないように短く吸う。最後に、声には出さず、名乗りの一文を口の動きだけでなぞる。
このとき見るのは声の大きさではありません。出だしの一音が喉で詰まりそうにないか、名前と仕事内容のあいだに短い間が取れているか、語尾まで息が続きそうか。この三点が確かめられれば、会場に入ってからの第一声は変わります。喉の乾きを感じたら、飲み物をひと口だけ先に取っておいてください。乾いたまま出した第一声の引っかかりは、そのまま余計な緊張として体に残ります。
何十件も続く夜は、合間のひと呼吸で保ちます
交流会では、一晩に何十人とも名刺を交わすことがあります。毎回同じ調子で押し切ろうとすると、後半になるほど喉が疲れ、声が沈みます。
名刺交換を終えて次の相手に移るまでのわずかな時間に、口を閉じて短く息を吐く癖をつけてください。この一呼吸の有無で、会の終わり際の声はまるで違います。喉に痛みや強い違和感を覚えた夜は、無理に張らず声量を落とした自己紹介に切り替え、会の前に水分を取っておくことも忘れないでください。
後半に自分の声が沈んできたと感じたら、次の一人への名乗りだけ、高さの幅を意識して戻してみてください。疲れてくると、声はまず単調になります。その単調さに自分で気づけることが、長丁場で声を保つ技術の半分です。
次の会場では、張らない声の方が残ります
出かける前に、もう一度だけ試してください。テレビを流したまま、
「はじめまして、〇〇を作っている〇〇です。」
を一本録音し、輪郭が保てているかだけを聞きます。30秒のピッチで相手の記憶に残るのは、会場でいちばん大きかった声ではありません。ざわつきの中で、出だしから語尾まで輪郭を崩さなかった声です。
名刺の束を切らさないのと同じ真剣さで、声の輪郭も一本の録音で確かめておく。声を張る準備ではなく、息を速く通す準備をして、会場のドアを開けてください。
よくある質問
- Q. 交流会の30秒自己紹介で声が埋もれるのはなぜですか
- 内容が悪いのではなく、周りのBGMや話し声に声量で対抗しようとして喉で押した声になり、かえって届きにくくなっていることが多いです。
- Q. 印象を残すために声を作り込んだほうがいいですか
- 作り込みすぎたよそ行きの声は不自然に聞こえ、逆に印象が薄くなることがあります。普段の声のまま、届け方だけを変えるほうが自然です。
- Q. 何件も名刺交換が続く日はどうすればいいですか
- 毎回同じ声量で押し切ろうとせず、合間に口を閉じて短く息を吐く時間を作ると、後半まで声を保ちやすくなります。
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ボイストレーナー。Snow Man、NiziUなど多くの楽曲を手がける作曲家・前迫潤哉氏が主宰するLEVETCH VOCAL SCHOOLにて、ボーカル指導の代表を務める。 何千レッスンもの現場で、歌手・社会人・表現者の声と向き合ってきました。
詳しいプロフィール →ビジネスボイトレとは。声で印象の主導権を握るために鍛えること
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